No.114012

Beginning of the story 第二章ー宮廷跡2

まめごさん

ティエンランシリーズ第三巻。
現代っ子三人が古代にタイムスリップ!
輪廻転生、二人のリウヒの物語。

突然、リウヒは奇妙な感覚に捕らわれた。足が空をかいたと思ったら落下したのである。

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2009-12-24 08:13:04 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:490   閲覧ユーザー数:482

「シギもリウヒもどうしたのさ。さっきからおかしいよ、君たち」

「別に」

「なんでもねえよ」

本殿跡地の芝生に、レジャーシートを広げて三人は弁当を食べていた。しかし、シギとリウヒはお互いそっぽを向いて、顔を合わせないように座っている。

カスガは怪訝そうにしていたものの、ティエンラン講釈を語りだし、リウヒが相手をしていた。

あれは何だったんだろう。シギは握り飯を口に運びながら、半ば呆然と考える。

先程リウヒを見た瞬間、懐かしいような、悲しいような、嬉しいような感情が広がった。並んで立った時、それをより強く感じた。

 

ねえ、何か変な感じがしない?

ああ、おれもだ。

わたしたち、ここで会ったことない?

ある。いつかは分からないくらい、遠い昔に。

 

そしてリウヒと見つめあっている内に、不思議な感情はどんどん膨れ上がってきた。

この娘と離れたくない。でもこいつはここから動けない。おれはここでは生きていけない。

自分の中で声がした。それは悲しく、痛いほどの葛藤を抱えていた。

なあ、おれと一緒に来てくれ。おれだけのものになってくれ。お前を愛しているんだ。

けれども、言えない。言えばお前は困るだろう。

体験したことのない愛おしさが溢れ出て、身を引き裂かれそうだった。

気が付けば、リウヒを抱きよせてキスをしていた。

あの時の自分と、リウヒはきっと普通の状態じゃなかった。まるで誰かが二人の体の中に入り込んで、感情を支配しているような感じだった。

思わず寒気がする。シギは腕をさすった。かすかに鳥肌が立っている。

二人の前世に関係あるのか。

それにしても、腹ただしいのはその後のリウヒの態度だ。まるでゴキブリに対するような態度で自分に怯え、しかもスケベ男と叫んだ。最終的には「ご飯にしよう」。

飯に負けたのかよ、おれは!

シギのプライドは痛く傷ついた。今まで声をかけてきた女は結構いたし、不自由はしなかった。そのおれがゴキブリ扱い。本当に可愛くない、色気のない女だ。

シギは腹立たしい気持ちのまま、握り飯をたいらげ、手についた米を舐めた。

****

 

 

「お握りも、唐揚げも、卵焼きも、お浸しも、お漬物も、全部おいしかった。ごちそうさま」

リウヒが手を合わせると、カスガも手を合わせた。

「はい、どーも」

「ごちそうさまでした」

シギが頭を下げる。

「これ、捨ててくるね」

リウヒがゴミを回収して、立ち上がる。

「ねえ、さっき、なにかあったの?」

遠ざかる後ろ姿を見て、カスガがシギを見た。

「なんで?」

「君もリウヒも様子がおかしかったから」

二人とも、心あらずという感じで、顔が赤くて、そのくせ険悪な雰囲気だった。

シギがためらいつつも、つっかえながら説明した。全部。

「何か、自分が自分じゃない感じだった。誰かが入り込んだような、変な感じがした。多分、向こうもそうじゃないかな」

「不思議なこともあるもんだね。君たち、遠い昔は恋人同士だったんじゃないの」

「何かしらの理由があって、離れ離れになったとか。まあ、前世は前世で、おれはおれだけどな。だったら初めてリウヒを見たとき、どこかで会ったような気がしたのも納得できる…」

「え?なにそれ?」

なんでもねえよ、とシギが首を振った。

「どちらにしても、リウヒにとっては初キスだったんだよ」

「えええ!」

あの子は我儘で色気も可愛げもないが、夢見る乙女な部分も一応は持ち合わせていたらしく、その昔カスガに言ったことがある。

「初めてのキスは、夕日の見える公園で、大好きでたまらない人としたいな」

それが可哀そうに、こんな所で、こんな男と。

「あいつは天然記念物か」

「そんな人、いっぱいいるよ。むしろ君の女性関係を知りたいね」

「特定の女はいねえよ」

「不特定多数の女はいるわけだ」

あのね、シギ。

「君の女性関係に文句を言うつもりはさらさらないけど、リウヒには遊びで手を出さないでね。傷つけたら承知しないよ」

「頼まれなくても出さねえよ。あんなガリガリで、色気も可愛げもない女」

へっ、とシギが吐き捨てるように言った。

そうかな。結構気に入っているように見えるんだけどな。そう思ったが、口には出さずペットボトルのお茶を飲んだ。

蝉や小鳥の鳴き声がする。古代の宮廷でも、夏になると蝉は大声で鳴いていたのだろうか。

「カスガ、シギ」

リウヒが戻ってきた。

「あっちに下に降りる小道があったの。もしかしたら、駐車場にいく近道かもしれない」

「あの長い階段はおりたくねえなあ」

まだ足が痛い、とシギが長い足を上げる。

「じゃあ、時間はあるし、散策がてらその道を行ってみようか」

****

 

 

そして、三人は見事に道に迷ってしまった。

「誰だよ、駐車場にいく近道なんていったのは」

「わたしだけど、二人とも同意したでしょう」

シギとリウヒが睨みあう。

本殿後から、歩きだしたリウヒたちは山の中の小道へと入った。が、いくら歩いても麓にはたどり着かなかった。来た道を引き返したはいいが、今度は本殿後にも出ない。延々と山道は続いている。

「ケータイは圏外だし…」

「もしかして、これは遭難したんじゃ」

「そうなんですよ」

「ダジャレかましてる場合か!」

シギがイライラと舌打ちする。

ああもう限界。リウヒは足をさすった。大階段で疲れ果てた足は、長時間歩いてジンジン痺れてきている。

「ごめん、ちょっとだけでいいから休憩していい?足が痛い」

情けない声をだして、適当な場所に座り込んだ。ふくらはぎを見るとパンパンにむくんでいる。

「五分だけだぞ」

シギも疲れていたのか、隣に身を投げ出すようにへたり込む。ポケットをまさぐって煙草を取り出した。カスガは一点を見つめている。

「どうしたの」

「なんだろう、ここ…」

二人が座っているすぐ横に、洞窟があった。高さは二メートルぐらいで、横幅は大人四人が並んで通れるくらいの大きなものだった。

「やめてよ、カスガ。まさか中に入る気じゃ…」

洞窟を覗き込む幼馴染の目が好奇心に光っていて、リウヒはうろたえた。先ほどの誰かに体を乗っ取られた恐怖がせり上がってくる。シギが立ちあがって、同じく覗きこんだ。

「あんまり深くなさそうだな」

煙草をふかしながら言う。

「いってみようか」

「おう」

「ちょっと待って、今、そんな状況じゃないでしょ。どうして、そんな所に入ろうとするの」

「楽しそうだから」

「面白そうだから」

リウヒは泣きそうになった。どうして男子はいくつになっても、こんなしょうもない所に行きたがるのだ。

「お前、怖いならそこで待ってろよ。すぐ戻るからさ」

馬鹿にしたようなシギの言い草にムッとする。だからこいつは嫌いだ。

「嫌だ、わたしも行く」

腰を上げると、カスガのパーカーに掴まっておそるおそる中を覗いた。

「いくぞ」

三人で歩き出すと、ひんやりとした空気が体を包む。湿気とカビ臭い匂いがした。

「暗いね」

「以外と深いな」

「カスガぁ、なんか踏んだ…」

「ぼくの足だよ」

先は真っ暗闇で見えない。洞窟の外の明かりも奥へ進むごとに、どんどん小さくなっていった。それでも三人は取りつかれたように、暗闇へと向かって行った。

入口の明かりがテニスボールほどの大きさになった時。

突然、リウヒは奇妙な感覚に捕らわれた。足が空をかいたと思ったら落下したのである。何かに引っ張られるように。

「えっ…。ああっ!」

「どうし…うわあ!」

「うおっ!」

それぞれ悲鳴を上げて、闇間へと落ちて行った。

 

「痛ぁ…」

倒れた状態のまま、リウヒは頭を押さえた。したたか打ちつけたが、怪我をしている様子はなくて、ホッとした。

わたしは、どうしたんだろう。洞窟に三人で入って、穴かどこかに落ちたような気がする。ゆっくり目をあげると、意外と近くに丸い光が見えた。

あれ、落ちてないのかな。じゃあ、どうして倒れているんだ。そうだ、カスガとシギは。

「どけよ」

シギの低い声が下から聞こえる。ああ、無事だったんだ。

「お前の乳がおれの顔に当たってんだよ。早くどけ、この貧乳!」

「ひっ、人が気にしている事を!変態!」

慌てて上半身を反らす。

「おれの上におっかぶさっといて、変態よばわりかよ。お前が押しつけてきたんだろう!」

「いいからさ、二人とも早くどいてくれないかな」

苦しそうにくぐもった声が、さらに下から聞こえた。

「ぼく、死にそう…」

 


 
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