No.1139050

メモリーズ

Jさん

ソレント×瞬です。そういった事はしてますが、描写はありません。

2024-02-20 22:33:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:110   閲覧ユーザー数:110

 

 

ソレントはソロ邸の自室で読書をしていた。それは日本の小説で、ある動物が主人公である物語だ。古い時代に発行されたそれは読み始めると面白いものでその世界観に引き込まれた。しかし、今日は待ち合わせをしている。

小説にしおりを挟み閉じる。

待ち合わせの約束をしているその人は、平和となった世界で文通をし時折慰問の旅から一旦帰国すると必ず会っていた。次第に思いを寄せるようになり、それを伝え先日恋人同士となったばかりの歳下の美少年――瞬である。今その少年は街のホテルに泊まっていて、ソロ邸から遠くはあるが会えぬ距離ではない。ソレントは瞬に会いたいと思っているしそれは瞬も同じだった。

心清らかな少年で、港で待ち合わせをした時には必ず笛を奏で聴かせてやっている。すると美しいと泣いて喜んでくれるのだ。満面の笑みを思い出すと愛しいと感じ今でも口元が緩んでしまう程で、惚れている。

徐にチェアから腰を上げると、いつものジャボ付きシャツではなくシンプルな白いシャツに着替える。ネクタイなどもしない。自分でも珍しく少しばかり緩い格好だと思っているが、瞬がカジュアルファッションである事に少し影響を受けている気がしてきている。

 

「行くか。」

 

そう呟いて、自室の扉を開いた。

 

 

 

 

「ソレント、こっちだよ!」

 

少年と待ち合わせた場所は伝統スイーツ、ルクマデスが有名なカフェだ。もっと分かりやすい場所で待ち合わせるべきだったとソレントは後悔したが、手紙でのやり取りの中で互いの居場所の中間地点で待ち合わせをしようと約束した結果、このカフェになった。先に到着していた瞬はオープンテラス席で手を振っている。その向かいの席へ座ると、ソレントはテーブルで自分の両手の手指を組んで置く。

 

「着いていたのか。待たせたかね?」

「ううん、僕も着いたばかりだから。でも早く食べたい!有名なル、ク…」

「ルクマデスだ。ドーナツのようなものなのだよ。」

「そうなんだ。食べたいなぁ。」

 

調べただけで食べた事もないスイーツの名を忘れ、首を傾げて困っている瞬に微笑みその名を教えてやると、花笑んだ。それを見てソレントはドキリとする。だが表情には出なかった筈だ。ポーカーフェイスは得意な方だと思っている。

自分の中でのこの少年の存在の大きさを知っている。陽射しを浴びて喜ぶ植物のような――それはあどけない笑顔を浮かべている。三歳しか違わないが、まだ幼い。

 

「君の口に合えば良いが、沢山食べたまえ。ちなみにギリシャのスイーツは甘いなんてものではない。君がどこまで食べられるか、見物だ。」

 

ソレントは軽く手を挙げてウェイトレスを呼び、コーヒーとオレンジジュース、ルクマデスにグリコクタリウーを注文した。それらが運ばれてくるまで待つ。

 

「ソレント、普段は何をしてるの?」

「ジュリアン様の散歩のお供や、笛の練習、そして最近は読書だ。」

「読書って、どんな本を読むの?」

「日本の小説を読み始めたのだよ。動物が主人公なのだが…」

 

そこまで話すと、ウェイトレスがトレイに注文したものを乗せてやって来た。

 

「うわあ!美味しそう!」

 

テーブルにはスイーツとドリンクが置かれた。それに目を輝かせた瞬はまずルクマデスを食べようとするが、ソレントはそのスイーツの上からハチミツとシナモンをたっぷりかける。

 

「そんなにかけるの?」

「君は甘党だろう?さあ、食べてみたまえ。」

 

瞬はドロリとしたルクマデスを齧ってみる。しかし次にはそれを一個口の中へ入れて、咀嚼している。すると、嬉しそうな笑みを見せた。ソレントは頬杖を着いていて、その表情に見入りつつ終始微笑したままだ。

 

「美味しい!モチモチしてるよ。ソレントも食べて。」

「フッ、私は甘いのが苦手でね。…君の頬のように柔らかそうだ。」

「触った事無いのに?」

 

小さく笑った瞬は、ルクマデスを味わいながらもあっという間に胃の中に収めた。次はグリコクタリウーだ。

 

「それは、果物をシロップで煮たものなのだよ。」

「そうなの?何だか甘そうだね。」

 

瞬はオレンジジュースを飲みフォークでそれを一欠片食べてみるが、途端にその甘さで表情が苦しそうなものになる。

 

「フッ、甘過ぎたか?」

「うん、これは甘いよ。勿体ないけど食べ切れないかもしれないなぁ。」

「仕方があるまい。どれ、私も味見をしてみようか。」

 

ソレントはテーブル端にあるカフェのメニューを手に取る。それは例えるならノートB5サイズ程の大きさだ。それを頬に当て自分の顔を隠すようにしながら少し身を乗り出し瞬の顔へ近付けると軽く唇を吸って離した。

 

「……えっ、え!?」

「ふむ、甘いな。」

 

客などにキスを見られぬ為に、メニューを使って遮ったのだ。どうやら客にも通行人にも気付かれていないようである。瞬は顔を真っ赤にして自分の口元を手で覆った。

 

「ちょっと、こんなところで…!」

「味見だ。悪く思うな。」

「そ、ソレントって時々、よく分からないよ!」

「付き合ってから、まだ日が浅い。当然だ。」

 

瞬は顔の赤らみが未だに引かず混乱していた。ソレントは涼しい顔でコーヒーを飲み、満足気にしている。

瞬は何か、必死にグリコクタリウーを食べ完食してしまうとやっと緊張が落ち着いたようである。同時に、コーヒーを飲み終えたソレントはそれを見て頷く。

 

「食べられたではないか。君も立派なギリシャ民になったという訳だ。」

「だって、あなたがあんな事するなんてって恥ずかしくて。味の記憶も無いくらいです。」

 

 

 

ソレントは奏者であるがゆえか綺麗な手をしている。テーブルの上で、ゆっくりとその手で瞬の手を包み優しく握る。

 

「君は愛しい。」

 

葡萄色の瞳が真剣な眼差しだ。本気で想われている事が分かる。また顔を赤くさせながらも綺麗な手を同様に握り返す。

 

「ずるい。あなたには余裕があるんですね。僕なんてもう…。」

「そう見えるだけだ。私とて、会う度、こうして話をしているだけで君に惹かれてばかりいる。お相子だと思うが。」

「ふふ。それなら嬉しいな。」

 

瞬が空いている手でお手拭きを使い口を拭うのを見ると、ソレントは手をそっと離した。

 

近くに公園がある事を思い出した。ソレントはまたウェイトレスを呼び会計を済ませるが、それに気付いた瞬が慌てて金を返そうとする。断固としてそれを受け取らぬ事に諦めると礼を言った。立ち上がり次の場所へ向かおうとソレントは瞬に背を向ける。

 

「行こうか。」

「どこに行こう?うーん。僕、この辺を調べたつもりだったんだけどあんまりよく分からなくて。」

「フッ、無理もない。近くに公園がある。君とそこで話がしたい。」

「うん!」

 

そうするとソレントは人目も気にせず手指を絡ませてきた。そして握られる。恋人繋ぎである。

 

「そ、ソレント!手を繋ぐの?」

「嫌か。ならば…」

「嫌じゃないよ。嫌じゃないんだけど、僕達って男同士だから…。」

「いつまた旅に出るか、分からぬ。少しでもこうしていたい。」

「は、はい…。」

 

されるがままになってしまう。拒むなどそういった考えにもならない。不思議だが、惚れているという事を自覚してしまうのだった。

 

歩いて十数分、公園には意外と人はおらずいても子どもが遊んでいるくらいだ。

ベンチに座るとソレントは、瞬が隣に座った事でその横顔を見つめる。

 

「実は明日からまた旅に出る。君には寂しい思いをさせてしまうが、許せ。」

「えっ…。そっか。うん、大丈夫。それより、沢山の人達にあなたの綺麗な笛の旋律を聴かせてあげてほしいよ。」

「そうだな。旅先での子ども達の無垢な笑顔は…君のように心清らかなものからくるのだ。」

 

噴水を眺める。止めどなく溢れてくるそれは、まるで隣の人への愛のようだ。

 

「僕の心は清らかじゃないよ。だってあなたを独り占めしたいって思ってるくらいなんだもの。」

「その正直で素直なところも清らかという。」

「うーん。」

「瞬。こちらを。」

「え?」

 

ふと、その人と目を合わせる寸前にシャツから覗く鎖骨が目に入る。しかし、唇に柔らかいものが触れていた。

キスだ。

 

「だから、ソレント…僕の心臓がもたないよ!」

「クク、君の反応は初なものだ。」

 

繋いだままの手を握り締めると、握り返される。それだけでも満たされる。

互いの額を合わせて、ソレントはその手を自分の左胸へ導いた。

 

「君の事が知りたい。私に君の時間をくれないかね?会えない間、互いに寂しさを感じないように。」

「それって…。」

 

ソレントはただ双眸を閉じる。そして小さく頷いて見せた。

 

「君が欲しい。」

「それって…、あの。」

「安心したまえ。」

 

瞬は今日何度目か、顔を赤らめた。

 

「……あげる。あなたになら。」

「良かった。」

 

それから二人は立ち上がり、街のホテルへ向かう。互いの心臓はずっとうるさいままだ。

 

「好きだ。」

「僕もです。」

 

歩いている間の目も合わせぬ告白。繋いだ手の力は強い。囁くようなそれで気持ちを確認し合い、やがて着いたホテルに入る。

 

 

二人はそこで想いを交わし合い、瞬は深く愛された。

 

 

 

瞬が目を覚ますと朝だった。隣にいるはずの人がいない事に寂しさを感じたが、上体を起こしベッドサイドのテーブルに愛する人からの手紙が置かれてあった事に気付くと読むなりそれを抱き締めた。

 

《おはよう。

昨夜は無理をさせてしまったか。よく眠れているようだから、先に発たせてもらう。また手紙を送る。愛しているよ。》

 

 

昨夜、愛された。あの上品で、優美な青年に。大きく深い愛だ。守られている、包み安心させてくれるような優しい交合だった。決して本能のままのものではなかった。

 

「――ソレント。愛してるよ。」

 

 

腰の痛みが愛しい。瞬は暫くその交合でのその人の表情や、言葉を思い出していた。


 
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