No.113258

真・恋姫†無双 臥竜麟子鳳雛√ 4

未來さん

投稿が遅れて、申し訳ありません。
戦闘描写が皆無で、申し訳ありません。
武将の出身とか一切無視してしまい、申し訳ありません。
真性の□リ√(←四角を使用)じゃなくて、申し訳ありません。

続きを表示

2009-12-20 10:16:16 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:29693   閲覧ユーザー数:20534

 

「軍資金と兵站の件か……これは雛里に相談だな…。……はぁ。いつになったら終わるんだ、これ?」

 

 

このところ一刀は政務に追われている。

県長に着任してから2ヶ月。以前からこの町で実施されていた政策などに一通り目を通し終え、今は自分たちなりの町づくりをしているところ。

政策1つ1つの細かな所は軍師勢や文官に任せてしまうが、大筋の方針は一刀が決めなくてはならない。そんな重大な案件が、目の前に堆く積まれているのである。気が滅入るのも無理はない。

 

 

「そういや、アレはどうしようかな……朱里に相談かな?」

 

 

それと同時に一刀は、自分がいた世界での制度などをこちらで活かせないかと思い、ふと思い出しては書簡に書き留めている。これは3人への報告用である。

 

 

例えば

  『俺のいた世界の税制で直接税と間接税ってのがあって……』

  『町の治安以外にもいろいろ手助けしてくれる交番っていう……』

  『そう言えば農業に関して何だけど……』

など、うんぬんかんぬん。

 

 

制度1つ1つの細かな仕組みは、正直一刀には分からない。しかしそこは三国志で名を轟かせた名軍師。一刀の案がこの時代に合わないと思えば却下するが、適応できると考えれば更なるアレンジを施し、法制化しようとする。

 

例えるなら、一刀は『食材提供者』

様々な食材を提供し、あとは優秀な『シェフ』がおいしく料理してくれるかどうかを待っていればいいのだ。

 

また、名軍師といえど約1800年先の制度には自身が思いつかないものもあるらしく

  『何か思い出されましたら、些細なことでも私たちにお伝えください』

ということになったのである。

 

 

そういうこともあり、町は順調に豊かになっている。麒里が『天の御遣い』の存在と『数に勝る賊を完膚無きまで打ちのめした』という旨を周囲に伝播したため、最近では安寧を求める民がこの町に流入してきている。

………まぁこのことが、治安面での仕事を増やす要因となっているのだが……

 

 

「ヤバイ…腹減った……。何か食わないとこの書簡片付か……腹拵えしたところで片付くか、この量?」

 

 

一刀の視線が遠くなる。

 

 

「ま、そんなことより飯だよ飯」

 

 

そして現実逃避。

 

 

「今日は何食おうかな~」

 

 

一刀はご機嫌に扉を開け……

 

 

「むぎゅっ!」

 

 

誰かにぶつかった。

 

 

「ご、ごめん!大丈夫!?」

「もー!痛いよ兄ちゃん!」

 

 

足下には軍部に所属することになった季衣が尻餅をついていた。

ちなみにこの呼び方は『好きなように呼んでいいぞ?』とのお達しからだ。

 

 

「大丈夫か、季衣?」

「気をつけてよー兄ちゃん」

「ごめんってば。2人とも調練は終わり?」

「はいっ。今終わってこれからお昼ですよ、兄様」

 

 

そして流琉が呼びたかったのは『兄様』とのことなので、2人ともこの呼び方に落ち着いている。

いまやこの町の軍を支える2大将軍である。

 

 

「あ、そうだ!兄ちゃん、一緒にお昼行かない?」

「町に食いに行くのか?」

「うん!そのつもりー」

「あ、何なら私が作りますか?」

 

 

語らずとも想像出来るだろうが、この町の上層部は料理を得意とする者が多い。流琉・麒里・朱里・雛里のおかげで、一刀はかなり充実した食生活を過ごせている。料理1つにかかる時間や手間を差し引いても、寮でしていた食生活が霞んでしまうほどだ。

そんな流琉からのおいしいお誘い。正直甘えたい所だが……

 

 

「んー今回はいいよ。流琉だって調練やってきて疲れてるだろ?」

「いえ、そんなに疲れては……」

「でも手間かけちゃうだろ?たまにはみんなで外に食いに行こうぜ、な?」

「うーん……でも…」

「そんなに言うなら、今日の夜作ってくれないか?政務がかなり溜まってるんだけど、流琉のご飯食べられると思えば、頑張れると思うんだよなー」

「……ふふっ。もー仕方ない兄様ですねっ。それじゃ夕飯は私が用意しますね!」

「あっ、兄ちゃんいいなー。流琉!ボクにも作って!」

「はいはい。分かったわよ」

 

 

これまで過ごしてきて、本当に息の合った2人だな、と一刀は思う。

弾ける程の元気を見せる季衣と、礼儀正しい流琉。一見気の合わなそうな2人だが、互いを補い合っていていいコンビになっている。

 

 

「(でも一旦喧嘩しだすとやめないんだよなー。季衣はまだしも流琉まで冷静じゃなくなるし……)」

 

 

一刀はもちろん、朱里や雛里でも止められない。麒里にしても、止められる確率は半々くらいだ。おかげ城の庭には所々補修しきれていない穴が空いている。

 

 

「それじゃ行こうよっ、兄ちゃん!」

「ちょ、分かったから腕引っ張るなって!つーか痛っ!腕痛っ!」

「季衣、腕っ!兄様腕痛めちゃうから!」

 

 

こんな慌ただしいやり取りが一刀は心底好きだった。穏やかな気持ちになれる軍師3人の雰囲気も好きだが、底抜けに元気になれそうな2人との触れ合いも好きだ。

今ではどちらの時間も、一刀にとって掛け替えのない時間となっていた。

 

 

 

 

そうしてそろそろ門に着く……というところで、見慣れた3人を発見。

 

 

「あ、麒里たちだ。おーい!麒里ー!雛里ー!」

「あ、やっぱり朱里ちゃんも。朱里ちゃんたちもこれからお昼?」

「うん、そうなんだけど……」

「??」

 

 

視線を逸らす朱里を見て、頭に?を浮かべる。

 

 

「ふぇ………」

「雛里ちゃんがこんな感じなの」

 

 

麒里が『しょうがないなー』といった具合に雛里を見る。

 

 

「あぁーもしかして……」

「お察しの通りです…」

 

 

麒里は我が主に向き直り、親友の『プチパニック状態』を説明する。

 

 

「ここ最近はなかったよな?」

「これまで訪れた町はここまで人は多くなかったですから……。ここの人口も急に増えて……」

「うーーん……それじゃ一緒に行こう。どうせ見かけたら誘うつもりだったし。季衣も流琉もいいか?」

「はいっ、もちろんですっ」

「さんせー!」

 

 

 

 

「さらわれっ、閉じ込め、ふええぇぇぇ……」

「ほら雛里。いつまでビビってるんだ?」

「はっ……………! え?あ、ご主人様……」

 

一刀は少し屈んで雛里に笑いかける。

 

「一緒にお昼。食べに行こう、な?」

「は、はいっ!」

 

 

 

 

 

2人のやり取りを見て、麒里が小さく話し出す。

 

 

「……ちょっとだけ悔しいなー」

「何がー?」

「私と朱里ちゃんが言っても怖がってたのに、一刀様と一緒ならって思うと……」

「あんな風に元気になるんだね」

「私たちの方が雛里ちゃんとずっと一緒にいたのにね」

 

 

そう言って麒里は苦笑いする。

 

 

「……怖い気持ちより、一刀様と一緒にいたいっていう気持ちの方が、ずっと強いんだと思う」

 

 

朱里の言葉は的を射ているようで、麒里と流琉も思わず頷く。

 

 

「ボクも兄ちゃんと一緒にいたいって思うよ?」

 

 

季衣はイマイチ分かっていないようだが。

 

 

「それはみんな同じだと思うな」

「季衣だけじゃなくてね」

「……だから、私たちも雛里ちゃんには負けられないと思うのっ」

 

 

そう言うと、麒里は一刀に駆け寄り、左手を握る。

 

 

「一刀様っ、いつまでも立ち話ではなんですから、早く行きましょう!」

「お、おうっ、分かった。って、だから引っ張るなってっ!」

 

 

一刀の意識が自分から離れてしまったことに、雛里は少し寂しそうな表情をする。

 

雛里がそんな表情をすることは分かっていた。だからこそ麒里は雛里と視線を合わせ、訴える。

 

『一刀様の右手、空いてるよ?』

 

他の子に取られちゃうよ?

そう言いたげな麒里の視線に、雛里は一瞬迷いながら、耳まで顔を真っ赤にしながらも、一刀の右手をぎゅっと握る。

 

 

「いいいい行きましょう!」

「うぉ。ひ、雛里まで気合い入ってんなー。そんなに腹減ってるのか?」

「…そうかもしれませんねっ」

 

 

あんなに奥手で、恥ずかしがり屋で、臆病だった親友がどんどん変わっていくのが、自分のことのように嬉しい。

 

 

「(やっぱりこの方が主で良かった…)」

 

 

我が主は人を変えてしまえる程の優しさがある。

底知れない、深い深い優しさ。

その優しさは自分たちの力となり、また主を支える糧となっていく。

 

『この人を大陸の王にしたい』

 

本気でそう思える。この方が治める国ならば、きっとみんな……と。

だから今は、この町を精一杯幸せにしていこう。

 

 

「あんまり遅いと、混んでしまいますよっ」

「分かったから、そんなに引っ張るなって麒里。だいたいドコにするか決めたのか?」

「あ、ボク久しぶりに行きたいところがあるんだけど」

 

 

ここで他の3人も会話に参加してくる。

 

 

「季衣ちゃんの行く店はどこもおいしいから、そこでいいと思うよ」

「季衣。今日はどこに行くつもりなの?」

「ほら、路地裏入って少し行った所にある……」

 

 

取り留めのない話をしながら、昼食へ向かう。

そんな会話が出来ていることこそ、平和の顕れであると感じながら。

 

 

 

 

ここで視点は、一刀たちが治める町のちょうど中心辺りで彷徨っている1人の少女に移る。

 

 

「うー。愛紗ちゃんも鈴々ちゃんもどこ行ったんだろー?」

 

 

彷徨い歩くは劉玄徳その人。匂いに釣られて走っていった『鈴々』を『愛紗』と共に追いかけてるうちに、1人になってしまった。

 

 

「これだけ人がいるんだもんねー。はぐれちゃうのも無理ないかも……」

 

 

通りは多くの人で賑わっている。老若男女、分け隔て無く……。

 

 

「……いい町だなー」

 

 

町の規模や店の品揃えを言っているのではない。劉備が求めて止まない『笑顔』があちこちにある。少なからず、自分が今まで見てきた町の中では1番雰囲気が明るい。

 

 

「天の御遣いってどんな人なんだろ?」

 

 

劉備は少し頬を緩ませながら、思いを馳せる。旅人である劉備たちでも、ここを治めているのが誰なのかを知っている。これも一重に、『情報』という武器を扱う麒里の活躍あってこそである。

 

 

 

そんな劉備の元へ1匹の猫が歩み寄り、足下でじゃれる。

 

 

「あ、可愛いー。あなたも元気そうだね。猫が元気ってことは……それだけ町の人に余裕があるって事だよね?みんな優しくしてくれる?」

 

 

視線を合わせるように屈んで軽く首を掻いてやると、猫は気持ちよさそうに鳴いてくれる。

 

 

「……本当に、いい町だなー」

 

 

そんなことを呟いていると、猫が次第に劉備から遠ざかっていく。時々振り返りながら、まるで誘うように………

 

 

「ついて来いってことかな??……あ!もしかして愛紗ちゃんと鈴々ちゃんのところに案内してくれるのかな?!……ってそんなわけないかっ。

…でも、おもしろそうだから行ってみよっ♪」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

先程の猫に少しソワソワしながらついていくと……

 

 

「うわー!猫がいっぱーい!みんな可愛いー!!」

 

 

黒に白、茶色に三毛、ぶちに至るまで様々な毛色の猫が劉備を迎える。

 

 

「はぁぁあぁ。持って帰りたいなー。可愛いなー」

 

 

そんなことをすれば『愛紗』に怒鳴られてしまうのは分かっているのだが、分かっていても声にしてしまう。

 

 

 

 

と、その時。猫ばかりに気を取られていて気づかなかったが、どこかから声が聞こえた。

 

 

「………ぅ……………ぁ」

「え、え?だ、誰かいるの?」

 

 

劉備は腰を引きながら、恐る恐る歩いて行き……

 

 

「可愛いですぅ……お猫様……はぁ」

 

 

1人の少女と出会った。

 

 

 

 

「へぇー。周泰ちゃんは籠売りしてるんだー」

「はいっ!ここから少し離れた私の故郷で作った物なのです!」

 

 

すっかり意気投合した2人は、世間話をしながら町中を歩く。

 

 

「この町って昔からこんなに賑やかだったの?」

「いえ、そんなことないですよ。ここまで賑やかなのも、御遣い様がこの町を治めるようになってからです」

 

ここでも『天の御遣い』の名が出てくる。劉備はますますその名に惹かれていく。

 

 

「周泰ちゃんは会ったことある?」

「いえ、まだないです。御遣い様が治めるようになってから、この町に来たのはまだ2回目なのですっ」

「そっかー…ちょっと残念かも」

 

 

言葉とは裏腹に、本当に残念そうに呟く劉備。と同時に、自身の『御遣い様』への関心の高さに、思わず苦笑いしてしまう。

 

 

「劉備さんは旅をしてるんですよね?」

「うん、そうなんだー。愛紗ちゃんと鈴々ちゃんと3人で……」

 

 

………アレ?

 

 

「そうだっ!2人を探さないとっ!周泰ちゃん、手伝ってくれる?」

「はいっ!籠の方も全部捌けましたし、お手伝いしますっ!」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

こうして協力することになった2人だったが、吉報は思わぬ所からもたらされた。

 

 

「向こうで早食い大会やってるんだよ。見に行こうぜ」

「へー…そんなのやってたんだ。

で?有力なヤツは出てんのか?」

 

 

男はどこか諦めにも似た表情で呟く。

 

 

「……許緒のヤツだよ」

 

 

季衣や流琉はいまだに町民から役職ではなく、姓名や真名で呼ばれている。例え将軍という位に就いたとて、昔から顔馴染みだった人たちから畏まった呼ばれ方をされたくないというのが、彼女たちの本音だ。

 

 

「マジかよ?! つーか勝てるヤツいないだろ。どうして参加させちまったんだ?」

「たまたま通りかかったんだとよ。でもな……」

 

 

男は思わず声を潜める。

 

 

「でも?」

「許緒に匹敵するほどのヤツがいるかもしれないんだよ……」

「はぁ?ありえないだろ、アイツと同等の食欲って……」

「いや、マジなんだって。それもな……許緒とほぼ同じ体格なんだよ。赤毛で小柄なヤツなんて見たこと無いから、この町の人間じゃないとは思うんだが……。

いったいどんだけの胃袋がなんだろうな、あのチンマ…っ!」

 

 

男は急に脂汗をかきながら黙りこくる。

 

 

「ど、どうしたんだよ?」

「い、いや、何でもない。と、とにかく行こうぜ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

近くでこのやり取りを聞いていた劉備は思わず呟く。

 

 

「赤毛で、小柄で、食欲旺盛……うーん……何かイ~ヤな予感が…」

「どうしたんですか、劉備さん?」

「んとね、もしかしたらさっき話してた赤毛の子、私の友達かもーなんて」

「そうなんですか?では行ってみましょう!」

「うん、そうだねっ。……って、向こうから来るのって……」

 

 

劉備は目を細めて、人混みからこちらに走ってくる人影をじっと見る。

 

 

「桃香様ー!!」

「あ、やっぱり愛紗ちゃんだ。愛紗ちゃ~~ん!!」

 

 

『愛紗』と呼ばれる少女は息を荒くしながら、劉備の前にやって来る。その顔には安堵の表情が浮かぶ。

 

 

「あぁ桃香様…よくぞご無事で…。申し訳ありません。桃香様のお傍を離れてしまうなどっ」

「いいよーそんなに気にしなくてもー。あ、この娘は周泰ちゃん。さっきからずっとお話ししてたの」

「あ、えと、周泰って言いますっ!初めましてっ!」

「私は関羽。桃香様を守ってくださったこと、心から感謝する」

「い、いえ!そんな、私はただ劉備さんと話してただけなのですっ!」

 

 

感謝されることなどしていない、と周泰は眼前で手を振り、恐縮する。

 

 

「そうなのか?私には周泰殿がかなりの手合いに感じられたものだから、てっきり桃香様を守ってくれたのかと……」

「……そういう関羽さんもかなりの実力者に見えます」

「私にはこれしかないからな。だが、周泰殿にそう思われるのは嬉しく思う」

 

 

この会話に、武の心得がほとんどない劉備は意外そうな顔をする。

 

 

「えー?!周泰ちゃんって強いの?私全然分からなかったよー」

「桃香様では分からないと思いますよ。周泰殿は鈴々同様、かなり小柄ですし」

 

 

その言葉を聞き、周泰の目が鋭く変わり劉備と関羽(のある一部分)に向けられたことを、2人は知らない。

 

 

「そうだよねー。……って、そうだ!愛紗ちゃん、鈴々ちゃんは?」

「あぁ、そうでした。鈴々なら……はぁ」

 

 

関羽は妹分のあまりに真っ直ぐな欲求を思い、ため息を漏らした。

 

 

 

 

視点はさらに移って、ある食事処。店内は2人の少女を中心とした半円が出来、大いに盛り上がっている。

 

 

「さぁいよいよ決勝となりました、この『早食い王座決定戦』!!正直ここまで盛り上がるとは思いませんでした!」

 

 

司会の声に会場は大いに盛り上がる。

 

 

「それでは選手紹介!まずは許緒選手!我が町出身の小さな大食漢は軍に入ってからも相変わらずだった!ってか、前より食う量増えてないか?」

「そんなことないよー。これでもまだ全然足りないんだから」

「いったいどれだけ食べれば気が済むのでしょうか?!一方は張飛選手!許緒にも劣らぬその食欲!旅の方らしいですが、こんな娘までいたらこの町の食堂はすべて潰れてしまいますっ!」

「にゃははー。そんなに褒められると照れちゃうのだ」

「……どうやらこの娘、天然のようです!」

 

 

 

 

この早食い大会。実は町の上層部には知られぬよう、秘密裏に計画されていた。季衣の大食漢ぶりは町の皆が知るところであるからだ。

それでも町の有志は

 

○最近の安寧とした生活への祝い

○参加費の徴収

○「大食い」ではなく「早食い」によるコスト軽減

○後に得られる店の評判

○『優勝者へは1ヶ月、準優勝者へは半月分の参加店舗食べ放題の権利』という、大きなコストにならないこと

 

などを考慮して、上には内密にしながら開催を決意した。

が、それも季衣に見つかってしまい。そのうえ季衣と同レベルの大食漢まで参加してしまい万事休す。もはや参加店舗の人間は、涙を流しながら食事を作っている。

心なしか、今日の味はいつもよりしょっぱいとのこと。

 

 

 

 

「それでは始めっ!」

 

 

最後はラーメン。30杯先に食した方が勝利だというが……。

 

 

「……見てるだけで胸やけが……」

 

 

近くで見ていた一刀がぽつりと零す。

昼食を食べた後夕食の材料を買うことになり、朱里・雛里・麒里の3人も手伝うということで一刀は期待でウキウキだった。そんな調子で休憩時間を過ぎてまでいろいろ店を回っていたところでこの催しを見つけてしまい、季衣は喜び勇んで参加しにいってしまった。

 

 

「(こりゃ後でみんなにお詫びしなきゃなんないかもなー。季衣の勤務時間見計らって開催してたんだろうし……)」

 

 

思わず反省の弁が浮かんでしまう。

 

 

「ほ、本当にすごいね……」

「季衣ちゃんと互角だなんて……」

 

 

あっという間に空になっていく器を目にし、雛里と朱里は惚けたように呟く。

 

 

「…もう少し農業に力を入れた方がよさそう…」

「もし張飛ちゃんみたいな娘まで私たちの所に来たら……すごく忙しくなるんだろうなー…料理は楽しいけど」

 

 

一方麒里と流琉は目の前で起こっている現実を受け止め、今後を思う。

 

 

「(それにしても……こんな所に張飛か……)」

 

 

張飛と言えば劉備・関羽と共に『桃園の誓い』を交わした武将。目の前の張飛は旅をしているらしいが、わざわざここ雍州扶風郡まで来たのだろうか?

 

 

「(いろいろと俺の記憶と違ってるなー。……まぁ、北郷何て人間が水鏡塾出身の3軍師を従えるって時点で、史実とは様変わりしてるわけだけど…)」

 

 

一刀がそんな思考を巡らせてるうちに……

 

 

「完食ーーー!!!」

 

 

司会の声と銅鑼の音が響き渡った。

 

 

「えーどうでしょう。私の目にはほぼ同時に完食したように見えましたが…」

「嘘っ!?ボクの方がどう見ても早かったでしょ?!」

「そんなわけないのだ!鈴々の方が早かったのだ!!」

「何寝ぼけたこと言ってんのさ、このちびっこ!」

「にゃにおー!お前なんてぺたんこで春巻き頭のくせに!」

 

 

案の定というか何というか。優勝の座を巡って、2人は激しい口論を開戦した。

 

 

「「ガルルルッ…!」」

 

 

互いに威嚇し合う様は、まさに獣のそれである。

 

 

「……じゃー兄ちゃんに決めてもらおうよ」

 

 

突然話を振られた一刀は数度瞬きをし、あまりの展開に動揺する。

 

 

「ちょっ!俺かよ?!」

「『兄ちゃん』ってそこにいる御遣いのお兄ちゃんのことか?」

「そう!この町で1番偉い兄ちゃんに決めてもらえば、文句ないでしょ?!」

「……分かったのだ。お兄ちゃん!鈴々の方が早かったよね?!」

「お前が兄ちゃんって言うなーーー!!」

 

 

このやり取りを見ながら心底焦っているのは、当の本人一刀である。

 

 

「(……ヤバイ……俺、考え事しててどっちが早かったなんて見てないぞ…)」

 

 

意識もしてないのに、勝手に目が泳ぐ。

 

 

「ねぇ兄ちゃん!ボクの方が早かったよね?!」

「鈴々に決まってるのだっ!」

「あぁぁー……いや…えーとだなー……」

 

 

歯切れの良さなどまるでない。頬を掻きながら2人の少女に迫られていると……

 

 

「大変だーーー!!!」

 

 

町で喧嘩か何かがあったのだろうか。決して喜ばしいことではないのだが、この窮地を救う救世主には違いない。

 

 

「ちょ、ちょっとごめんな季衣、張飛!」

「うにゃっ!」

「あ、兄ちゃんっ!」

 

 

2人の声はスルーして、一刀はまだ息の荒い兵士に話し掛ける。

 

 

「大丈夫?何があった?」

「はぁ、はぁ。た、大量の賊がっ、こちらにっ、侵攻してきていますっ!」

「……それは確かなんですか?」

 

 

兵士の報告に麒里の目つきが変わる。周囲の人々にも動揺が広がる。

 

 

「は、はいっ!遠目ではっきりとは分かりませんが、全身に黄色の衣服を纏った、今までにない賊とのことですっ!」

「……もしかして黄巾党か?もうそんな時期に……」

「こうきんとう、ですか?」

 

 

一刀の呟きに聞き覚えのない言葉があり、雛里は思わず聞き返す。

 

 

「あぁ。多分これから……本格的な乱世になっていく」

「……分かりました。一刀様、準備にかかりましょう!」

 

 

朱里の目つきも鋭くなる。

本当に自分は仲間に恵まれている、と一刀は実感する。だから一刀は仲間たちに軽く笑いかけ、指示を飛ばす。

 

 

「麒里は敵の偵察!朱里と季衣は兵のみんなに準備させて!俺と流琉は、雛里と一緒に町の方で準備をする!麒里と朱里が戻り次第、具体的な策を練ろう!」

 

 

一通り指示を出した一刀は、最後に食堂にいる民へ振り返り、誓う。

 

 

「みんなはただ、兵たちみんなの無事を祈っていてほしい。この町は……絶対に守るから」

 

 

歓声が上がる。

全幅の信頼を寄せる天の御遣いの言葉に。

信ずるを力とする我らが主の言葉を、自分たちも信じようと。

 

 

 

 

食堂でのやり取りを、劉備は少し離れた場所から半ば呆然と眺める。

 

 

『天の御遣い』である少年は、統治者であるにも関わらず、決して偉ぶらず高圧的な態度を取らない。町民とはまるで友人のように話し、自然と輪の中に溶け込む。そして民を守るという確かな意志と、人を導いていく天賦の才を有していた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

朝廷を始めとする統治者は民の生活を頭の片隅にも置かず、贅沢な生活や己の保身にばかり明け暮れる。そんな現状が我慢できずに始めた『人助けの旅』

 

 

『真に民を想う者はいないのだろうか?』

 

 

そう思い旅をしても、出会うことはなく。

 

 

『いないのであれば自分がなってみせよう』

 

 

そんな気持ちさえ芽生え始めた矢先に出会った『天の御遣い』

 

いてほしいとずっと願っていた。心から民を思い、人々に笑顔をもたらす人が。

 

 

だから劉備は、一瞬にして惹かれてしまった。

世に泰平をもたらすと謂われる『天の御遣い』が、正に理想の人であったから。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……ぅか…ま……桃香様!」

「ふぇ?!な、何、愛紗ちゃん?」

「どうなさったのですか、ぼーっとなさって?」

「う、ううんっ!何でもないよ?!それより御遣い様たちはっ?」

「えっと、あちらにいます」

 

 

周泰の指し示す方向には、作戦会議中の一刀たちが。

 

 

「っ……!」

 

 

そして劉備はいきなり走り出した。

 

 

「え?ちょ、ちょっと桃香様?!」

「はぅわ!?劉備さん?!」

 

 

 

 

 

「黄巾党の規模はどうだった、麒里?」

「我が軍を上回る規模で進軍しています。少なくとも、前回よりは苦戦するかと」

「……どうしよっか、朱里?」

「今回は町の前方に全軍を展開。後衛の弓兵さんに先制射撃と中軍への対処をお願いして、前衛は深追いに注意しながら攻めてもらおうかと思いますっ」

「分かった。雛里っ、兵のみんなの様子はどうだった?」

「みなさん士気が高いですっ。何としても町を守るっていう気持ちに加えて、日頃の調練で自信をつけているからだと思いますっ」

「そりゃそうだよー。みっちり鍛えてるからねー」

「最近、みんな動きが良くなってきてましたから。陣形の切り替えも速くなりましたっ」

 

 

みんなの意見に、一刀は頷く。

 

 

「そっか。……よしっ、それじゃ「待ってくださいっ!」え??」

「私に出来ること何かありませんかっ?!」

 

 

一刀は見知らぬ少女の申し出に、困惑してしまう。

 

 

「いや、準備は整ったから、君は安全な所で待っていてほしいんだけど……」

「でもっ!「おー、お姉ちゃんなのだっ」…え?り、鈴々ちゃん?」

 

 

一刀を一直線に目指していたから劉備は気付かなかったが、町の上層部に混じってなぜか張飛の姿が。

 

 

「と、桃香様っ、急に……って鈴々!いったい何をしている?」

「愛紗も来たのだ!何ーって、悪いヤツらが来たから、鈴々も助太刀しよーって」

「……全く。1人で突っ走るな。まずは私たちと合流するのが先だ。桃香様や私が、助力を惜しむわけ無いだろう?」

「えへへ、ごめんなのだ」

 

 

周囲を置き去りにして、トントン拍子で話が進んでいく。当然一刀たちの頭上にはハテナマークが。

 

 

「えと、んと…。み、みなさん張飛ちゃんのお知り合いですか?」

「あ、ごめんなさい!私は劉備、字は玄徳って言います!」

「関羽と申します。鈴々が迷惑をかけてしまったようで…申し訳ありません」

「鈴々迷惑なんてかけてないのだー!」

 

 

朱里の問いに皆が慌ただしく答える。戦の前だというのに、本当に賑やかな少女たちである。

 

 

「(この娘たちが……)」

 

 

劉備と関羽と言ったら、三国志を知らない者でも聞いたことある程、名の通った英傑。張飛がいるなら…と思っていたが、予想通りである。

またもや女性であることを嬉しく思ってしまうのは、男の性であるために責められない。

 

 

「…ご主人様?」

「え、いや、何でもないぞ?」

 

 

雛里の瞳の奥に、心なしか鋭い光を感じたような気がして、慌てて雛里に笑いかける。

 

 

「ところで……俺たちに協力してくれるってこと?」

「はいっ!お手伝いさせてください!」

「私の武は守られるべき者を守るためにあります」

「やってやるのだー!」

 

 

意気軒昂に声を上げる3人。一刀が3人を頼もしく見ていると……

 

 

「あ、あのっ!」

「あ、ごめん。えと、君は?」

「はいっ!私は周泰です!初めましてです、御遣い様!」

「しゅ、周泰?!」

 

 

周泰と言えば呉の武人である。出身も揚州九江郡であるから、ここ雍州扶風郡からは遠く離れている。

 

 

「(まさか周泰まで……。こりゃ出身に関してはあんまり当てにしない方がいいかも……)」

「??? どうかなさったんですか?」

「いや、何でもないよ。周泰は武に心得は?」

「は、はいっ!関羽さんほどではないと思いますが……」

「謙遜することはないだろう、周泰殿。分かる者には分かるその武。私とは方向が違うようだが、誇れるものではないか」

「そんなっ、持ち上げすぎなのです…」

 

 

誉められることにあまり慣れていないのか、周泰は顔を赤くして畏まってしまう。

 

そんな彼女たちを見ながら、一刀は意を決して仲間に伝える。

 

 

「……みんな。この娘たちに小規模な軍1つずつ、預けさせられないかな?」

「はわわっ?!1軍ずつ……ですか?」

「うん。信じてみたいんだ、彼女たちを」

 

 

仲間たち、特に軍師の3人は一刀の顔をじっと見つめる。我が主は、どれほどの想いで今の言葉を綴ったのだろうかと。

 

 

「あわ……分かりました。各200ずつ程でよろしいですか?」

「うん、お願い」

「では私は、兵の皆さんに説明に行ってきます。季衣ちゃん、流琉ちゃんも一緒に来てっ」

「分かったよー麒里」

「早く伝えに行かなきゃ、麒里ちゃん」

 

 

そうして3人は駆けだした。

 

 

 

 

 

「え、えっと…私みんなと違って戦いはさっぱりなんだけど……」

 

 

劉備のその答えに、一刀は少し虚を突かれる。確かに見た目華奢な少女であるが、華奢な少女がとてつもなく強かったことなどこれまで幾度も経験している。だから『劉備』の名をもつこの少女も、いくらかの武を有していると思っていたのだが……。

 

 

「あ、そうなの?んー、だったら関羽と張飛に兵を振り分けて、劉備は俺たちと一緒に本陣にいた方がいいかな?」

「それよりも……新参者…いえ、飛び入りの部外者である私たちに、1軍を預けるのですか?」

「あぁ。もしかして少なかったかな?」

「そんなことはないのだ。でも……」

「でも?」

「御遣い様は警戒しなさすぎだと思うです…」

 

 

関羽や周泰だけでなく、張飛でさえ一刀の計らいに疑問を呈する。

 

 

「うーーん。そうかな?」

「私は一刀様のことを信じていますけど……そのようなところが不安です」

「ででもっ、そこがご主人様の良いところでもありますっ」

 

 

朱里の忠告と雛里のフォローに思わず申し訳なさを感じてしまう。

 

 

 

 

このやり取りで、改めて劉備は思う。

やっぱりすごい、と。

 

何を根拠に自分たちを信じているかは分からないが、その決意は決して揺るがない。配下の者も主の言を鵜呑みにすることはないが、端々に信頼が伺える。

 

だから感じる。これが自分の思う、統治者の理想像だと。

 

 

 

 

「それじゃ行こう。ここからが……俺たちの夢を叶えるための、本当の戦いだ」

 

 

 

 

戦況は明らかに北郷軍有利。数に任せて攻め込んでいた黄巾党も、関羽隊と張飛隊の横撃に大きく崩され、動揺が走っている。時機に仕上げの周泰隊が敵中軍へと駆ければ、黄巾党は瓦解するだろう。

 

 

 

 

「御遣い様は何で戦うんですか?」

 

 

劉備から突然そんな話を振られる。一刀の視線も劉備の視線も、戦場から外れることはない。

 

 

「……みんなを幸せにしたいからかな?」

 

 

尚戦場から視線を外すことなく、一刀は答える。

 

 

「御遣い様の言う『みんな』には、今あそこにいる黄巾党の人たちは含まれないんですか?」

 

 

普段の劉備からは考えられないような冷静な声。このような類の問いかけをする際は、いつも感情的になってしまう。ここまで平静を保ちながら言えているのは、相手が『天の御遣い』だからである。

 

 

「……全ての人を救えるなんて思ってない。人にはそれぞれ正義があるから。

今の彼らにとっては、ここを占領して、食料や財産を奪うことが正義なんだよ」

「そんなの間違ってます!みんなで説得すればきっと「無理だよ」っ!」

「あの大軍の目の前で『みんなを幸せにします。だから戦わないで』って言ったって、説得なんて出来ない。俺にも……きっと劉備にも」

 

 

思わず下唇を噛む。何千という大軍を前にそんな言葉を綴ったって、相手にしたらただのまやかしだ。誰も信じようとは思わない。

 

 

「話を聞いてもらうには力がいる。力を得るには……戦うしかないんだ、この世の中では」

 

 

戦う以外に力を得る方法を懸命に考えるが、劉備の頭には一向に浮かんでこない。力がない故に虐げられてきた人々を、これまで見てきているから。

 

 

「だから今回の黄巾党の人たちは……残念だけど『みんな』には入らない。……絶対に糧にしなきゃならないけど」

「糧……ですか?」

「うん。動物や植物の命を奪って人間が生きていくように、人の命を奪っているなら絶対にその人たちの分まで生きて、幸せにしていかなきゃならない。それが俺たちの責任であり、使命だと思ってる」

「責任と使命……」

 

 

劉備は呟く。ゆっくり、でも確実に一刀の言葉の真意を理解するように。

 

 

「……劉備は人を殺したことある?」

「い、いえ!私にはそんなことっ!「でも関羽や張飛は今そうしてる」!!!」

 

 

劉備の瞳が大きく見開かれ、身体が大きく震えた。

 

 

「俺にしたって同じだよ。

武人である季衣や流琉はもちろん、軍師である麒里・雛里・朱里だって『人を殺すための策』を考えてる。

だから………そういうみんなの主になってる俺は、戦場で誰よりも人を殺してると思う」

 

 

劉備は黙り込む。一見飄々として、親しみやすくて、優しい少年の胸の内に秘める想いが、どれほど大きなものなのだろうかと。

 

 

「理想を掲げるのは良いことだと思う。その理想に憧れて、支持してくれる人もいるだろうから。

でも、現実を見て見ぬ振りして、逃げるのは駄目なんだ。俺はそれが……責任とか使命ってことだと思ってる」

 

 

カチャリ、と一刀の腰に据えた剣が鳴る。戦場にいるにも関わらず、その音はやけに大きく聞こえた。

 

 

「…終わったみたいだ。それじゃ行こう、劉備。みんなを労わないと。それに……弔いも」

 

 

2人は歩き出す。勝ち鬨をあげるその戦場へ向けて。

 

 

 

 

兵たちが少しずつと町へ帰還していく。無傷な者や疲労困憊の者、1人では歩けないほど傷ついた者など程度は様々であるが、多くの者が帰ってきてくれている。

 

 

「みんな、お疲れ様。戦果はどうだった?」

「もうバッチリだったよ、兄ちゃん!」

「みんなしっかり連携が取れていて、普段の調練の成果が出てましたっ!」

 

 

季衣と流琉からは喜ばしい声があがる。戦場での兵たちみんなの動きは、2人から見ても目を見張るものだったようだ。

 

 

「やはり関羽さんたちの武は、かなりのものでしたっ。あれで皆さんの士気も、大いに高まったようです!」

「周泰さんの部隊も効果的ですね。ああいった素早い動きが出来る部隊の編成は、今後検討しなくては」

 

 

朱里と麒里は飛び入りの戦力に対する評価を。遠くから見ていた一刀でさえ、その武が群を抜いていることが分かるほどだった。

 

 

「……この度の戦い、『軍師としての私たち』は、十分に満足のいく戦果が上げられたと思ってます。でも……」

 

 

雛里は力無く視線を彼方へと向ける。その先には横たわる数々の体躯。もう動くことのないそれを、少女たちは悲しげに見つめる。敵も味方も関係なく……。

 

 

「みんなは良くやってくれたよ。ありがとう」

 

 

そう言うと、一刀は少女たちに合わせるように少し屈んで、5人一気に抱きしめる。

 

 

 

「わぷっ」

「あわわわわわっ」

「ににに兄様っ?!」

「……ふわわ~」

「麒里ちゃんしっかりしてー!?」

 

 

突然の行為に、少女たちは多種多様な反応を見せる。

季衣以外は一瞬にして茹で蛸になっており、見てる側が恥ずかしくなるような好意の晒しっぷりである。

 

一刀は一刀で、劉備に胸の内を話したことで少し感傷的になっているのだろう。5人を抱きしめていることに、何の疑問も抱いていない。

 

 

 

 

そんなことよりこの状況。問題点があるとすればただ1つ。

 

 

周囲は完全に置き去りなのである。

 

 

「あのー……」

 

 

そんな状況を打破すべく上げた周泰の声に反応し、一刀は腕を解いた。

 

 

「うわっ、周泰っ!?」

「「「「あっ………」」」」

 

 

数人から残念そうな声が漏れる。それが誰なのかは、括弧の数で判断して頂きたい。

 

 

「お兄ちゃん!鈴々ねー、悪いヤツらいっぱいやっつけてやったのだ!」

「あ、あぁ。ありがとな張飛。みんな強かったって言ってたぞ」

「えへへー、当然なのだっ!」

 

 

張飛は子供のように無邪気な笑顔を浮かべる。誉めれば誉めるほど伸びる子なのだろう。

 

 

「って、いつまで兄ちゃんって言ってんのさ、このチビ!」

「そんなの鈴々の勝手なのだー♪」

「むかー!!」

 

 

出会って間もないにも関わらず、この2人の口喧嘩もすっかり定番となっている。

 

 

「関羽も周泰もありがとう。君たちのおかげで、かなり被害を減らすことができたよ」

「いえ、この勝利は私たちの手柄ではなく、兵たち皆がもたらしたものでしょう。調練の行き届いた、良き兵たちでした」

「でも、御遣い様にそう言って頂けて光栄なのですっ!」

 

 

関羽は賞賛と共に微笑みを、周泰は謝辞と共に花のような笑顔を以て力強く答え、その武功を誇る。

 

 

そう。彼女たちの持つその力は、この先の乱世を生き残っていく上で大きな戦力となる。

なにより彼女たちは、自らこの町を救うために名乗り上げてくれた。だから……

 

 

 

「………みんな、俺たちの仲間になってくれないか?」

 

 

一刀は意を決して申し出た。

この先の未来のために。

 

 

 

 

「鈴々は構わないのだっ♪」

 

 

最初に答えたのは張飛だ。両手を頭の後ろで組みながら、満面の笑みで答える。

 

 

「り、鈴々!」

「だって愛紗ー。絶対このお兄ちゃん良い人なのだ。困ってる人もいっぱい助けられると思うのだっ!」

「確かに……そうかもしれぬが……」

 

 

関羽はチラッと劉備へ視線を投げる。我が義姉はどう考えているのだろうかと…。

 

 

「………御遣い様、その答え……保留させてもらってもいいですか?」

 

 

劉備の言葉はゆっくりで……しかしそこには確かな意志が込められていた。

 

 

「……あぁ、構わないよ」

「理由……聞かないんですか?」

「んー、聞いたところで劉備の意志が変わるわけでもないだろうし。慌てる必要なんてないから、自分なりの答えを出してほしい。その上で俺たちの仲間になるって言ってくれたら、大歓迎だよ」

 

 

父性が滲み出るような笑顔で一刀は答える。その笑顔を見て、劉備は心底感謝する。

 

 

「……ありがとうございます、御遣い様。

愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、もう少し私の我が儘に付き合ってくれないかな?」

「もちろんです、桃香様!」

「んー…お姉ちゃんの頼みならしょうがないのだ」

 

 

やはり3人の絆は固い。張飛も口ではこう言うが、義姉の意見を尊重した上での軽口であることが分かる。

 

 

「周泰はどうする?もう少し考えてから決める?」

 

 

そう言って一刀は周泰を見る。だが一刀の言葉とは裏腹に、周泰の答えは既に出ているようだ。

 

 

「いいえっ、私は御遣い様にお仕えしたいですっ!一所懸命頑張るのですっ!」

「…そっか。じゃーこれからよろしくなっ、周泰!」

「はいっ!」

 

 

周泰の笑顔はまるで向日葵のようで、周囲も笑顔で溢れる。

 

 

「それでは、みなさんお疲れでしょう。城まで案内しますから、ゆっくり休んでください」

「歓迎しますっ!」

「あ、お夕飯の準備もしなきゃ!」

「流琉ーお腹空いたー」

 

 

麒里を先頭にして、劉備たちは城の方へ歩き出した。その顔には達成感が滲む。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……………」

 

 

皆が離れても尚、一刀は戦場を見据える。

 

 

「ご主人様……」

 

 

一刀の顔があまりに悲痛に見えて、雛里は横から一刀に抱きつく。普段の雛里からは想像出来ないくらい、力強く。

 

 

「?雛里?どうした?」

「……後ほど、敵味方に関わらず丁重に…ですか?」

「うん……ありがとう、雛里。ホント、支えてもらってばっかりだな、俺は」

「そんなことないですっ。私たちを支えてるのは……他ならぬご主人様です…」

 

 

雛里の言葉が優しくて、一刀は思わず雛里の肩をそっと抱いた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「…………」

「桃香様?どうかなさいましたか?」

「……ううん、何でもないよっ愛紗ちゃん♪」

 

 

2人のやり取りを遠くから見ていた劉備は、軽く微笑んで振り返った。

 

 

 

 

黄巾党撃退の2日後。

 

 

 

「もう行くのか、桃香?」

 

 

旅の準備を済ませた桃香たちを名残惜しそうに見る。

これよりこの町を守っていく大きな支えとして、真名を預けられるほどの良き友人として、別れが惜しかった。

 

 

「はい。一刀さんの手が届かない所で困ってる人を、1人でも多く助けたいんです。だからあんまり長居しちゃうと……」

「…そっか。それもそうだよな」

「それに……長居しちゃうと、居心地の良さに甘えちゃいそうで。まずは自分で答え、探さないと」

「…うん、陰ながら応援してるよ」

 

 

桃香の決意に、一刀は明るく送り出す。友人の旅立ちに、暗い顔は禁物だ。

 

 

「でも……答え、意外に早く見つかると思うんです。だから……」

 

 

桃香は自らの未来を予測する。

 

 

「近いうちに、またお世話になるかもしれませんっ♪」

 

 

桃香の笑顔に迷いはなく、一刀もつられて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「愛紗さん。今度会ったら、稽古をつけてくれませんか?」

「あぁ。それは私からも望むところだ。流琉はまだまだ伸びるだろうからな」

 

 

流琉の申し出を、愛紗は快く受ける。まだ未完であるその武の行く末を見たいのであろう。

 

 

 

「お兄ちゃん、きっとまた会うのだー!」

「お前はもう来なくていいぞー」

「にゃにおー!!」

 

 

本当に季衣と鈴々はイイ漫才コンビに仕上がっている。

 

 

 

「あははは。それじゃ一刀さん、私たちそろそろ出発しますね」

「あぁ、桃香、愛紗、元気でな」

「はいっ!」

「ありがとうございます、一刀殿」

「むーお兄ちゃん!何で鈴々だけ省かれてるのだ?!」

「鈴々が元気なさそうにしてる所なんて、想像できないからな」

「お兄ちゃんまでお姉ちゃんや愛紗みたいなこと言うのだ…」

「それだけお前が分かりやすい性格だということだ」

「納得いかないのだー!!」

 

 

 

 

 

遠く離れても尚、手を振り続ける3人に一刀たちも手を振って応える。

 

 

「行っちゃったな」

「そうですね…賑やかな方たちでした」

「季衣が2人いるみたいだったね」

「むー。何であんなちびっこと一緒にするのさー流琉ー」

 

 

朱里の言葉に流琉が続く。季衣は頬を膨らませてかなり不満そうだが…

 

 

「是非仲間になって頂きたかったですが…」

 

 

雛里は心底残念そうに呟く。それだけ戦場での活躍は群を抜いていたのだ。

 

 

「そうだね……でもきっと大丈夫」

「一刀様は3人が仲間に加わってくれるとお考えなのですか?」

 

 

麒里自身、何となくそんな予感を感じるのだが、あえて主に聞き直す。

 

 

「あぁ。きっと仲間になってくれるよ……明命みたいにね」

「はぅあ?!わ、私ですかっ?!」

 

 

突然の振りに明命は目をぱちくりさせる。

 

 

「うん。今回明命が仲間になってくれて、俺は嬉しかったぞ。改めてよろしくな、明命」

「はいっ!これから一所懸命一刀様をお支えするのですっ!!」

「おぅ。頑張ろうな、明命」

 

 

思わず頭を撫でてやると、明命は顔を赤くしながらも気持ちよさそうに目を細める。

一刀は新たな仲間を頼もしく思うと共に、これからの大陸を憂う。

 

 

「これからは本格的に争いが大きくなっていく……。今のうちに国力を増強しておかないと……」

 

 

 

 

 

そう。戦乱は未だ序曲の途中。

 

 

 

 

はぁ……まあちとパヤパヤしたい……

 

 

 

 

後書きという名の言い訳

 

 

――――桃香の扱いについて――――

 

本編ではあまり人気のないように思われる蜀の君主・桃香さん。

やはり魏√での華琳とのやり取りがその最たるものなのかなーと感じます。

でも作者としては、あーゆー矛盾とかを孕んでる所がすごく『人間らしい』ので好きです。

というよりあの華琳とのやり取りは、華琳好きのバッジョ氏が華琳を引き立たせるためにやったものかなーって感じがしてます。

『そこまで桃香を扱き下ろさんでも…』というのが作者の感想です。まぁここは人それぞれ感じ方も違いますので、何とも言えませんが…。

 

 

拙作では『王になんてなりたくなかった』という桃香を『王にしなけりゃいいじゃん』と考えました。あ、これって思いっきり今後のネタバレですねw

これを書くために少し本編をやり直したりするのですが、改めて思うのが『桃香は王に向いていない』と言うこと。拠点やると尚更感じます。

なので『心優しい町のお姉ちゃん』くらいの役割の方がいいのかなーなんて思いました。ってゆうか蜀√だと役割が一刀とかぶr(ry

 

 

まぁ結論から言ってしまうと

『桃香を君主としてあるべき姿に立たせられるような、構成力・文才が作者にはない』

ということになります。どうかご了承下さいませ。

 

 

ちなみに最後のやり取りは無印版の一刀と星とのやり取りと被らせました。

 

 

 

――――明命の加入について――――

 

作者的『新キャラランキング』で悠々TOP3入りする娘を入れないわけがないでしょうw

 

 

……いえ、実は当初は入れない予定だったんです。あまりにも出身が違いすぎたので……。

でも前作のコメントがあんなことになっていましたので、だったら呉からも入れちまおう、ってことになりました。

璃々の加入や、あまりに唐突な南蛮討伐等を期待した方がいらっしゃいましたら、申し訳ありませんでした。

 

 

………え?そこまで真性じゃない?何をおっしゃいます皆様。こんな拙作を読んでる時点で(ry

 

 

 

 

 

それでは皆様、今回も拙作をご覧下さってありがとうございました。

良きクリスマスをお過ごしください。作者はDSLLとソフトを買って、乗り遅れながら彼女とのラブがプラスされた生活を送りたいと思います。

ではまた次回、よろしくお願い致します。

 

 

 


 
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