【琥珀】「……すぅ……すぅ……」
眠る琥珀の手を放し、その手を体の上においてやる。離れたことでまたなにかあるかと注意していたが、どうやら落ち着いているようだ。
少しの名残惜しさを残しながら、そんな琥珀を眺めて、俺は立ち上がる。腰を上げるときにずきりとした痛みがわき腹に響いた。やはり折れているのだろうか、今更だが、確認する術はなく、触れた感触では少しの違和感を覚える程度だった。
そばにいた兵に後を頼み、俺は天幕を出た。虎牢関のある方角を見れば、まだ兵達は戦っている最中だった。がちゃがちゃとした音と、兵の様々な声がこんなところにまで流れてきている。
思えば、よくあんなところへ飛び込めたものだ。黄巾のときといい、今回といい、俺は自分で思っているよりも怖いもの知らずなのかもしれない。汚れた制服は、どう見ても洗ったところで落ちる様な汚れ方ではない。既に赤色だった部分も空気に触れたことで、黒く変色していた。臭いだってひどい。
服自体がべたべたして、今の気分を表しているみたいだった。
そんな服もいつまでも着ていられるはずもなく、俺は上着を脱いだ。
興奮状態にあったせいか、寒かった気温は少し涼しいくらいにしか感じられず、風が吹けば肌寒い程度だった。
【華琳】「琥珀はどうたった?」
不意に聞こえたのは、いつもの凛々しさを持った声だった。振り向いて、その質問に答える。
【一刀】「よく寝てたよ。少しうなされていたけど、すぐに落ち着いた」
【華琳】「そう……ならいいわ」
ほんの少しだけ、怪訝な顔をして、華琳はすぐにいつもの表情に戻った。そんな様子に違和感を感じながらも、俺は少し気になっていたことを尋ねてみた。
【一刀】「なあ、華琳……琥珀って昔――」
【華琳】「やめなさい」
聞こうとしたが、華琳のその声に阻まれて、俺の言葉は尻すぼみして途中で途切れてしまった。そんな事をされて、俺は何をとも思ったが、以前言われていたことを思い出した。
【華琳】「あなたがそれを知ることがいいのか悪いのか、それはともかくとして……少なくとも、ここで話すことではないわ…」
―琥珀の過去には関わるな。
琥珀と付き合っていくならば、そうしろといわれていた。けれど、あのうなされ方はどうしてもただの悪夢だとは思えない。
この戦が始まって少しずつ見え隠れしてる琥珀の事。気にしないなんてことが出来るほど、俺は器用じゃない。
けれど、華琳が言うことももっともな事で、少なくとも、こんな陣中のど真ん中で言うべきことではなかった。
【一刀】「そうだな…悪かったよ」
【華琳】「ふふ。私に謝ったところで仕方ないけれど、まあいいわ。それより…」
【一刀】「――あ」
話題を変えて、華琳の手が、俺の腕へと伸びてきた。何事かと思えば、腕に引っかかっている上着を奪うように取り上げてしまった。
【一刀】「ちょ、それ――」
【華琳】「ずいぶん汚したわね……ふふ……それで、初めての戦功の感想は?」
戦功、になるのだろうか。華雄を捕らえたことになるのだから、それはそうなんだろう。華琳の何かを促すような、いつもの嫌な笑いは、今の俺にとってはあまり言い気分で見ることは出来ない。
それは初めて人を殺した感想を聞かれているんだから。当然華琳には俺にそんな事を聞いて楽しむ趣味はないし、単純に手柄を立てた感想を聞いているんだろう。
でも、ならば俺はどう答えればいいんだろう。
【一刀】「――テストで0点取るよりは嬉しいよ」
【華琳】「…………?」
華琳は予想通り、まったく意味が通じてないのか、俺の言ったことは理解できていない。つまりはそれくらい現実味がないことであって、同時にひどく気分の悪いものであって。
【華琳】「はぁ……いいわ。話を変えるけど、あなた、まだ動けるかしら」
【一刀】「動ける……ん」
少し体を捻ってみる。やはり少し動かすと鋭い痛みが生まれる。
【一刀】「少し痛むけど……動けないことはなさそう…かな」
【華琳】「そう……なら、アレをあそこにさして来てもらえる?」
【一刀】「青少年が聞くと色々想像してしまうから具体的にお願いします」
【華琳】「…………あぁ、うるさいわね。そんな事いちいち気にしないで」
少しは理解できたのか、華琳の顔が赤くなった。
【華琳】「旗を虎牢関の城壁に立てろと言っているのよ」
【一刀】「旗を?」
【華琳】「えぇ、それも一番最初にね。あなたが立てることに意味があるから気をつけなさい」
別に前にいる薫や桂花でもいいんじゃと聞く前に先手を打たれてしまった。
【華琳】「御遣いが旗を立てれば、その効果は想像できる?」
【一刀】「よくわからないけど……春蘭が立てたりするのと違うのか?」
【華琳】「当然でしょう。あなたは天の意思という代名詞を持っているんだから」
【一刀】「……あぁ…なるほど」
要はそんな俺が仕えている華琳の名声がまたものすごい勢いで上がっていくわけだ。前回俺がこの軍に入る時と同じ理由らしい。
【華琳】「それにこれは漢そのものに牽制を与えることにもなるわ」
【一刀】「牽制……帝のいる洛陽を守る虎牢関が落ちたのは、天の意思ってか?」
【華琳】「ふふ。ようやくこの時代に思考が追いついてきたようね」
俺の回答に満足いったのか、華琳はいつも以上に機嫌がよさそうだった。
【一刀】「……んじゃ、とにかく旗をたててくればいいんだな」
【華琳】「そうよ。他の軍はあまり動く様子はないようだけれど、劉備のところには気をつけなさい。諸葛亮が何を考えているか分からないわ」
【一刀】「了解」
華琳の傍から離れ、俺は馬を借りて、もう一度あの戦場を目指す。視界に入ったそこは丁度、琥珀が呂布によって倒された場所だった。
劉備、曹操両軍が攻めあぐねる中、一刀は血なまぐさい風を受けながら、城門を目指していた。遠くに感じていた戦の不快な音はサラウンド音響となって頭に響いてくる。
振り返れば、先ほどまでいた陣営が小さく移ることだろう。
一対三の戦場であったこの場所は、既に数千という兵士で埋め尽くされている。
馬をこれでもかと囃したて、今出せる一番早い速度で走る。
やがて目が流れる景色に慣れてきた頃、ひとつの旗を捕らえ、その近くに立っている二人の姿を見つけた。
【一刀】「桂花~、薫~」
護衛の兵に囲まれているためか、その場所だけは周りとは不釣合いなほどのスペースがあった。軍師二人がいるのだから、当然といえばそういえなくもないかもしれない。
【桂花】「ようやく来たわね」
【薫】「遅いよ、一刀~」
【一刀】「……え?」
一刀の姿を確認すると、二人は当たり前のように手を振っている。桂花のそれはあまり好意的とは思えないが、いきなり華琳にいわれてここにいる一刀としては、それは実に不自然な光景だった。
【一刀】「知ってたのか、俺が来ること」
近づいて、馬から下りながらそういうと二人は呆れたように答えた。
【薫】「う~ん、知ってたっていうか」
【桂花】「この状況なら、あんたが動くのが最も華琳様の名を高めることになるのよ。なんの間違いかしらないけど、あんたみたいな変態でも天の御使いなんだから」
【一刀】「いちいち変態をつけられないと喋れないお前もどうかと思うぞ……」
【桂花】「なっ…人をあんたみたいな――むぐぐっ!!」
【薫】「はいはい、話すすまないから。とにかくここにいるって事は、華琳からも聞いてるんだよね?」
騒ぎ出そうとする桂花の口を押さえながら、薫はたずねてきた。
こうしてみるとどっちが教える側がわかったものではない。
【一刀】「ああ、旗をあそこに立ててくればいいんだよな」
目線を城壁へと向けて、一刀は答える。
当然ながら、戦においてそれがもっとも難しいことであり、同時に終結を意味している。
【桂花】「ぷはぁ……そうよ、時間はかかっているけれど、もう城門が開くのも時間の問題だから、そのときにあんたは一番に走ってそれを立てること……」
【薫】「わかった?」
【一刀】「ああ、大丈夫だ」
手をどけられた桂花はひどく不機嫌になり、そっぽを向きながら話している。
息苦しかったのか、顔が赤くなっている様子はどこか照れているようにも見えて、一刀にはほんの少し新鮮に感じられた。
そして、しばらくの時が経ち、桂花の下に一人の伝令が駆け込んできた。
その内容は、期待していた門が開いたというものではなく――。
”城壁に旗が立っている”というものだった。
【一刀】「あれって……」
【桂花】「……そんな……どうやって……」
知らせを聞き、慌ててそちらを向けば、確かにそこには「劉」の字が刺繍された旗が立てられていた。
その隣には関羽がたっていた。そして……
【関羽】「この虎牢関は劉玄徳率いる我ら義勇軍が制圧した――!」
その名乗りは、高々と戦場に響いた。
【薫】「……これ、どうなって……っ!な、ちょ、なんで今……」
その光景に疑問しか浮かばない。
まだ城門は開いていないのに、どうやって。
中にいた董卓軍はどうしたのか。
何が在ったのか。
様々な疑問は浮かぶが、それを解決する前に、薫の意識は裏へと移る。それは同時に裏にいた彼女が前へと出てくるということ。
【薫】「ごめん、ちょっとだけだから」
誰にも聞こえないような声で、そんな風に呟くと、薫は目を閉じた。
【薫】「な――っ」
以前のように、流れ込んできた記憶の中に見た、その光景。それは今の状況をすべて物語っていた。
【薫】「急いで華琳に伝令送って!!虎牢関はそのまま放置して、私達は洛陽に向かうから!!」
【桂花】「か、薫!あんた何勝手に!!」
【薫】「いいから急いで!!このままじゃ……」
――私たちが着く前に洛陽が墜ちる。
――洛陽
”李儒様、よろしいんですか?”
兵の一人は、その場にたたずむ若い男に、たずねた。兵は董卓の持つ軍の中でも上位の軍。つまりはいわゆる親衛隊に所属する者だった。
そして、そんな男に李儒は冷たく言い放った。
【李儒】「ああ、新たな世ではこの街は邪魔になるからな」
新たな世。それはすなわち訪れると予言されている乱世であろう。
その乱世においては、この街は邪魔になる。それがどういう意味なのか、親衛隊の兵には理解できなかった。
しかし、李儒は彼の上官であり、たとえ理解できずともその命令は従わなくてはならない。彼の意図が理解できずとも、その過程を実行していかなくてはならないのだ。
【李儒】「お前は……この世の何をもって乱とし、何をもって治とするか……分かるか?」
何かの準備に入っている兵に、冷たく、ゆっくりと語りかける。
哲学じみたその問いに、一兵卒が答えられるはずもなく、男は首を振る。
【李儒】「ふ……力あるものが存在せず、ただ混沌とする世を乱世とするなら、今がまさにそれではないか……帝すら力を維持できず、国は意味を持たず、あのような少女ですら街を治める……そんな世が治といえるか」
”李儒様……それ以上は……”
帝や董卓の名まで挙がり始めたことに、男は畏怖を覚え、李儒を制止するように口をはさんだ。
【李儒】「ふ……ふはは……そうだな……今は語るときではない」
昂ぶった気を静めるように、声を押さえ、李儒はその兵を連れ、いずこかへと消えていった。
――曹操軍・本陣
【華琳】「そう……わかったわ。こちらもすぐに動くと伝えてちょうだい」
琥珀の眠る、治療用の天幕の中。
薫の下から飛び込んできた伝令にそう伝える。
薫から伝えられたのは、洛陽から兵がさらに動いているということ。さらに虎牢関にいた兵はそのほとんどが洛陽へと戻っている。だが、これだけならば、薫の行動は理解できない。
それは敵が足並みを揃え、決戦に挑もうとしていると取れるから。
しかし、伝令が伝えたのはここで終らず、洛陽から火の手が上がっている。
さらに洛陽より出動した軍は、虎牢関には向かっていない。その方角から、先に在るのは長安という街だ。
洛陽で何が起こっているかまではわからない。
さらに、劉備軍がどうして開いていない門の向こう側にいたのかも分からない。だが、理解を捨ててでも、今は先へと進まなければならなかった。
【華琳】「……ふふ」
目の前で眠る琥珀の額をなでて、うっすらと華琳は笑う。
すぐに向かうとは言ったが、せめて琥珀が目覚めるのは待っていてあげたかった。
こうしていると、曹の家に来たばかりの頃に、家の者に弄られていた頃を思い出す。今思えばひどい時期だった。いつもこうして琥珀を見ていた気がする。
数年して、華琳は都で勤めることとなり、それからはしばらく見ていなかったが、このような以前と同じような格好を見ると、懐かしいような、切ないような。
再会してからも、忙しいせいかあまり話す機会もなかった。
【琥珀】「あい……しゃ……」
その声に少し驚いて、手を引いてしまったが、すぐに寝言だとわかって、息をつく。
そうだ、これも以前から聞いている名前。「あいしゃ」という名。
その響きからおそらくは真名であろうが、こうして看病している身としては少しの嫉妬を覚える。
【琥珀】「……かず……」
【華琳】「―――っ」
以前から聞いている名前はあいしゃだが、それ以外、琥珀が誰かの名前を寝言で呟くなんてはじめてだった。
しかし、驚きもあったが、同時に納得している自分もいた。
一刀なら、当たり前かと。
【華琳】「まったく、軍の旗は立てられなかったくせに……」
こういうところでは、しっかりと支えになっている。
ある意味、味方にしておいてよかったと、今更にしてほんの少しだけ、華琳は思った。
【華琳】「さて、そろそろ動かなくてはね…。誰かのせいでいらぬ重荷を背負ったんだから」
得られる名声はほとんど劉備に持っていかれた。あとは洛陽一番乗りくらいであろうが、それも薫から聞いた話ではどれほど意味をもってくるか分かったものではない。
琥珀から手を離して、華琳はその天幕をでた。
【琥珀】「………………ん……ここ……」
その後に、誰もいなくなった天幕の中、のっそりと上体を起こす。
【琥珀】「痛っ…………ん……もうちょっと寝る」
しかし、起こされた上体はまた寝台に倒れこんだ。
【一刀】「…………」
突然慌てだした薫。彼女が言うには、俺達が董卓から解放しようとしている洛陽が炎上し、その街を守るはずの軍は、別の街へ移動しようとしているらしい。
それが本当なら、たしかにこんなところで劉備を相手にしている暇はない。もし洛陽が燃え尽きてしまえば、この連合の存在意義も失ってしまう。逆賊である董卓を討つ為に再び結成されるであろうが……
【一刀】「洛陽が炎上って……」
それはありえないことだった。少なくとも歴史を知る一刀にとっては、あってはいけないことだった。
一刀の知る三国志の歴史上では、虎牢関で敗走した董卓軍はそのまま連合軍に押し込まれ、董卓もそのときに討たれてしまう。実際にその場にいたわけではないから、ここまでにあった、張遼の奇襲や呂布の仁王立ちのような細かいところまでは知らないが、洛陽に火が放たれるなんて事件があれば必ずいろんな形で耳にするはずだ。
それがないのだから、いま起きているこれは、確実に歴史が変えられたということだ。
何がきっかけなのか。張角を救ったから?司馬懿がいるから?それとも、一刀自身が存在しているから?
疑問は後を絶たない。
あまり歴史を変えてはいけない。それはわかっている。
時間的なものもそうだが、一刀は曹操のためにうごいているのだから、一刀の知らない歴史を辿るようになってしまえば、彼が出来ることは半減してしまう。
それは同時に、天の遣いとしての意味も失ってしまうのだ。
仮初の名とはいっても、今はそれを裏付ける知識が存在しているから、一刀は堂々と名乗っていられる。けれど、どの知識すら意味を失えば、一刀はただの一人の少年になってしまう。
それでも出来ることはあるかもしれない。だが、今の時点で、それを失うわけには行かなかった。せめて、華琳が十分な力を持つまでは。
【薫】「一刀、あたし達はすぐに出るけど、あんたどうする?」
考え事をしていると、後ろから薫に声をかけられた。
どうするも何も、こうなった以上一刀もでないわけにはいかないだろう。
だが、この場から離れるのであれば、ひとつだけしておきたいことがあった。
【一刀】「先に行っててくれ。すぐに追いつくから」
【薫】「…………うん、わかった。桂花に伝えとく」
薫は一度だけ頷いて、走っていった。
とても軍師とは思えないほど、身軽な動きで走っていく姿を見届けた後、一刀は元戦場である、虎牢関の城門前へと向かった。
生臭い空気が漂う中、乾いた風が吹き荒れる。戦の汚い部分をすべてこの場にあつめたような光景に吐き気を覚えながら、一刀はあるものを探していた。
きょろきょろと周りを見渡しながら、それを探す。
【一刀】「あ、あった」
そして、平らな地面に突き出たそれを見つけ、そこまで走っていった。
地面に突き刺さるように、立てられたそれを抜く。
ざくりと音をたてて、一般的なものよりも短く仕上げられたその剣は、一刀の手に収まった。
まだ一本目。
この場には、全部で五本、同じものが存在しているはずだ。
片手にそれを持ちながら、次のものを探すと、二本目はあっさりと見つかった。
同じようにして抜き取り、二本目を持ち上げる。二本目の刃には、誰のものかわからない黒く変色した汚れが付いていた。
【一刀】「……いや……あいつ、たしか呂布以外とは戦っていないんだっけか」
そして、呂布は撤退するとき、ほとんど無傷だった。つまりはそういうことだ。
次は三本目。二本目と違って、地面に刺さっていないのか、少し見つけるのに手間取ったが、地面に倒れるようにしてあったそれをなんとか目にして、一刀は拾い上げる。
よく見ると、刃の部分が少しかけていた。どれほど強く打ち合ったのか。
一刀と戦っているときに、こんなことはなかった。俺を吹き飛ばすほど強く打っても、かけるなんてありえなかった刃がかけている。それだけで、背筋が凍るようなその時の情景が浮かぶ。
四本目は三本目のすぐ近くにあった。おそらくは同時に投げたのだろう。同じようにしてかけている刃は今の琥珀そのものにみえて仕方がなかった。
そして、五本目を探そうとして振り向いた時に、一刀はその場から動けなくなっていた。
【一刀】「…………」
最後の五本目は、そこにあった。
だが、その姿は戦前のものとは見る影もなく、ボロボロに砕かれていた。
粉砕された刃。血のこびりついた柄。
【一刀】「…………痛い……だろうな」
いろんな意味で。
呟きながら、他の四本を片腕で抱え、その折れた一本を拾い上げる。
【春蘭】「ほんご~~~~~!!」
すると、遠くから、懐かしいような声が聞こえてきた。
ふりむけば、春蘭がこちらに向かって馬で駆けてきていた。
【一刀】「春蘭、無事だったか?」
【春蘭】「当たり前だ。誰だと思っている」
たずねてみれば、誇らしげに胸を張る。そんな彼女を見て、少し笑ってしまった。
戦場でも、日常でも春蘭はいつも通りだったから。
【一刀】「はは、そっか」
【春蘭】「そんな事より、お前はこんなところで何をしているんだ?桂花と共に先発で出たのではなかったのか?」
【一刀】「ああ、その前にこれを回収しておきたくてさ」
頭上に疑問符を浮かべる春蘭に、両手に抱えた四本と半分の小太刀を見せる。
【春蘭】「あぁ…琥珀の剣か」
【一刀】「うん、どうしても拾っておきたくてさ」
【春蘭】「ほう、お前もたまにはいい事するんだな、北郷」
【一刀】「たまにはってなんだよ」
【春蘭】「はははは」
高笑いする春蘭を見ていると、なぜか怒る気もうせてくる。
【秋蘭】「ふぅ、姉者。急がねば薫と桂花に手柄をすべて持っていかれるぞ」
笑っていると、後ろのほうから秋蘭も追いついてきた。突出していた春蘭の代わりに兵を指揮していたのだから、その苦労も計り知れなかっただろう。
【春蘭】「おお!そうだったな!北郷、私達は先にゆくぞ!お前もはやく来るのだぞ!」
【一刀】「ああ、わかったよ」
【秋蘭】「ふふ。ではな、北郷」
二人は一刀に声をかけて、そのまま虎牢関を抜けていった。
【一刀】「さて……これ届けたら急がないとな」
ぼそりと呟いた言葉は、ほんの少しだけ、決意を含んだものだった。
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洛陽編30話目の48話です。
年末も近づいてきてるのに、なぜか小説を書く時間がある自分……切ないです。
クリスマスなんかなくなれb(ry
とまぁ、それはともかく、虎牢関戦も今回で終えて洛陽編も佳境に入ってきました。