scene-厨房
「るるるるる~ん、る~るりら~、るるるるる~り~らぁ~」
鼻歌まじりに料理しているのは流琉。
「ごくっ。おいしそ~なのだ」
「あったり前だ! 流琉のご飯はスッゴく美味しいんだぞ!」
皿や料理を運んだりと手伝いをしながら、つまみ食いの隙を狙っている季衣と鈴々。
「るる~るる~、るる~るる~、るるるるるるり~らぁ~」
次々と料理が仕上がっていく。
「ふむ。いいにおいをさせておるの」
「黄蓋さん、もう飲んでるのか?」
「このような日に酔わんでどうする? 天の御遣いともあろう者がそんなこともわからんとは」
「いや、できれば宴会の準備が整ってからはじめてほしいと」
酔っ払いの相手に困りつつもその豊満な胸に注目してしまう一刀。
「兄ちゃん?」
「兄様?」
「お兄ちゃん?」
少女三人からの冷たい視線に冷や汗が流れる。
「あ、あはは、ほら料理急がないと。いくら作っても足らないだろうからな」
「そうだったのだ! 三国の戦が終わったお祝いの大宴会なのだ! 豪勢なご飯でお祝いするのだ!」
魏と蜀、呉の同盟による三国の戦争は魏の勝利によって終わった。
覇王曹操の命による三国同盟が成立。今はそれを祝う大宴会の準備に追われている。
「もう。兄様は黄蓋さんを連れていっ……」
「流琉!?」
突然ふらついた流琉を支える季衣。
「だ、大丈夫か?」
「……はい」
「疲れたんだろ? 一人で厨房を取仕切るなんて、無茶するから」
「華琳さまも秋蘭さまもお忙しいし、兵隊さんたちの分は他の方が用意してくれてますから」
「でも少し休めって」
「いえ。今日のこの料理は絶対につくりたいんです!」
心配する一刀を安心させようと立ち上がる流琉。
「ならば儂が手伝おうぞ」
「え? 黄蓋さん料理できるの?」
「無論じゃ。まさか典韋も自分一人で全て仕上げる、と言うつもりではあるまい?」
「助かります」
「だら~。黄蓋の料理もおいしそ~なのだ!」
「そうだな。こんな事なら最初から頼めばよかったな」
「そ~だね~」
その声を後ろに聞きながら。
「不思議なものじゃな」
「え?」
「先程まで戦っていた者たちがこうして共に厨房に立っている。しかも儂なぞ、失敗したといえ赤壁でお前達を策に嵌めようとしたのじゃ。卑怯者と罵られてもおかしくないのじゃぞ」
中華鍋を豪快に振るいつつ自嘲した。
「けれど、もう戦争は終わりました……美味しい料理を、敵だった人がつくった料理だから美味しくない、っては言いたくないです」
大皿に盛り付けながら言う流琉。季衣は盛り付けが終ったその大皿を持ち上げて。
「うん。美味しいものは美味しい。それを作った人はスゴイ! でいいと思うよ~」
「ほう」
「だからね、スゴイ人にはボクの真名教えてあげるね~。ボクは季衣だよ」
「それならわたしも。流琉です」
「ふむ。ならば知っておるだろうが儂は祭じゃ」
「鈴々は鈴々なのだ。流琉のも祭のも美味しかったから教えるのだ!」
「美味しかったって、やっぱりつまみ食いしてたのか」
真名を交換しあった厨房の働きもあって大宴会は予定通りに始まった。
それでも流琉は料理を続け、季衣はそれを手伝っていたが、秋蘭や他国の料理ができる者が援軍に現れたため、二人は厨房を後にした。
料理の腕をふるいにきた華琳と一刀を連れて。
scene-小川
「忙しいのに連れ出してごめんさい」
「でも、ちゃんとご挨拶したかったから」
「華琳さま」
季衣がゆっくりと。
「兄様」
流琉が弱々しく。
「お別れです」
二人、声を揃えて。
「……逝くのね」
華琳は淡々と。
「やっぱり、そう、なのか?」
一刀は辛そうに。
「兄ちゃんのかわりに歴史を変えちゃったからね」
「仕方ないんです」
別れの言葉を口にした後は、晴れ晴れとした表情になった二人。
「季衣、流琉……」
「そんな悲しそうな顔しないでよ、兄ちゃん。ボクたち嬉しいんだから! 今回は今までで一番上手くいったんだよ!」
「魏が勝利することができ、その上で、祭さんや他の敵将が健在です。この後にあるであろう五胡との戦いにも不安がありません」
「そして何より兄ちゃんが消えない! ほら、ぱ~へくと! でしょ?」
誇らしげに胸を張る。
「でも、お前達が消えたら寂しいよ……」
「兄ちゃん」
「兄様」
堪えきれずに二人を抱きしめる一刀。
一刀に抱きしめられたまま。
「もう時間がなさそうですので、このままお礼を言うことをお許し下さい」
「華琳さま、約束を守ってくれてありがとうございました」
「おかげで兄様が消えずにすみます。ありがとうございました」
「礼を言うのはこちらよ、季衣、流琉。あなた達は最高の臣よ」
「やだなあ、華琳さま。それ……は春蘭さまたち……ですよぅ」
「でも、ありがと……ございま……す」
途切れ途切れになっていく二人の言葉。
「季衣! 流琉!」
一刀は泣きながら二人を強く強く抱きしめる。
「兄……ちゃん。華琳さま……春蘭さまたちと……元気で」
「華琳さま……兄様を……お願いしま……す」
「さようなら……」
「季衣ッ! 流琉ーッ!」
二人を抱きしめたまま一刀が号泣し続け、華琳は背を向ける。涙を見せたくないのだろう。その肩は震えていた。
「も~、痛いよ、兄ちゃん」
「強く抱きしめすぎです……嬉しいけど」
一刀の腕の中で二人が抗議の声を上げた。流琉は真っ赤な顔で。
「え?」
驚いて力を抜いた隙に季衣が腕から出る。
「あの……季衣?」
「にゃ?」
一刀の腕の中で一人抱きしめられることとなった流琉。
「兄様ぁ」
幸せそうだった。
「なんだよ、きょっちーと流琉ツーがいなくなったのか」
「うん。言わなかったっけ?」
「聞いてない!」
「華琳さまには言ったはずですけれど……」
「華琳?」
背を向けたままの華琳を見る。相変わらず肩を震わせているが、なにやら様子がおかしい。
「もしかして……笑っているのか?」
振り向いた華琳は笑顔だった。
「ふふふっ。そうよ、二人が死んだと思って泣く一刀が面白くって」
「悪趣味な」
「体が消えなかった事に疑問を持たなかった一刀が悪いわ。歴史を変えたのはあの二人。この世界の季衣と流琉は残る可能性があることに気づきなさい」
「くっ。……きょっちーと流琉ツーがいなくなったのは悲しくないのか?」
「あなたの狼狽ぶりに、それも消し飛んだわ。……それにあの子たちは絶対」
「絶対?」
「あの子たちの一刀に会えるわ。悲しむ必要があって?」
そう、言い切った。
「うん。ボクもそう思うよ!」
「きっと会えます!」
「そうか……そうだな!」
う~んッと伸びをしてから季衣が歩き出す。
「じゃ、宴会に戻ろうよ。ボク、スッゴイおなか空いてるんだ!」
「もう季衣ったら」
名残惜しそうに一刀の腕を抜け出して、流琉も季衣を追った。
残された二人。一刀はそっと華琳の肩を抱く。
「華琳?」
「なに?」
「やっぱ泣いてただろ?」
「なんのことかしら?」
<あとがき>
1話あとがきで、話数は少なくなるはずとしてました。
まさかもう終わるとは思われなかったかもしれませんが、最終話です。
前回の後は、ほとんど本編魏√と同じですので超大幅にスキップしました。
……祭はいったいどうやって助かったんでしょう?
わかりにくい話につきあって下さって本当にありがとうございました。
でも、季衣と流琉の旅はもうちょっとだけ続くんです。
<次回予告>
元の外史に戻った季衣(きょっちー)と流琉(流琉ツー)。
二人はあたためていた計画を発動する。
「兄様に会うためには、華琳さまの力が必要なんです」
「待ってるだけなんて、華琳さまらしくないですよ! 兄ちゃんを捕まえに行きましょ~!!」
『追姫†無双』
その内、スタート予定。
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タイトルの『対』は『たい』じゃなくて『つい』です。
7話目です。