>Foretへ。
>自転車の、補助輪取れたあの時の、
>あなたの笑顔、今も鮮やか。
>覚えてるかしら? 母より。
花の種を買いに、たぬきちさんのお店に来てみたら、黄色と緑のコントラストが素敵なマウンテンバイクが入荷していた。
たぬきちさんのお店には、わりと頻繁に訪れている。
手紙やメッセージボトルをはじめ、花の種や植林用なのか木の苗、それからスコップや斧といった道具や、どんな病気や虫刺されにも効くという万能なおくすり、果ては家の増築や屋根のペンキの塗り替え、家具の販売、いらないものの売買まで、様々なことをやっているたぬきちさんのお店は、特に用がなくともついつい寄ってしまうのだ。
とりあえずまず先に、家の裏で大事に育てたリンゴを数個と、海岸で拾った貝殻を売り、それからその代金で赤いバラの種と、チューリップの種を入荷している分購入した。
それから店に入って最初に目に留まったマウンテンバイクの前に立つ。
じっと眺めているのを見て、小走りにたぬきちさんがやってきた。
「おや、フォレさん。このマウンテンバイクに興味があるなも?」
「はい、お店に入ってから、ずっと気になっていたんです」
私は運動の類がとても苦手だ。
毎日この広い村を走り回る同居人のアニーは、正直凄いと思う。
だがこのマウンテンバイクなら、少ない体力でも楽に村を走り回ることができるだろうし、乗り回している内にアニーほどではなくとも、体力が段々とついてくるかもしれない。
そう思って、店内に入ってからずっと気になっていたのだ。…別に最近お腹周りにお肉がついてきたとかいうわけではない。断じて。
「これはすごくいいと思うなも! ぜひ買っていくといいなも!」
心中を察したのか、後押しするようにたぬきちさんがそういうので、ちょっと出費が痛いが、思い切って買うことにする。
お値段3380ベル。
けれどこれで村中走り回れるなら、長期的な目で見れば安い方なのかもしれない。
そう思うことにした。そう自分に言い聞かせることにした。
「まいどありー!! 確かに、3380ベル頂戴しました、だなも!」
もふふん、とマウンテンバイクが葉っぱのオブジェクトに変わる。
渡されたそれをしっかり受け取って、私は早速帰路に着くことにした。
店内から外へと出て、購入したばかりのマウンテンバイクを葉っぱからオブジェクトに変えようとして――
それは葉っぱから変わることなくふわりと地面に舞い降りた。
「…あ、あれ?」
拾いなおして、家で家具を実体化させるのと同じようにもう一度、だが葉っぱはマウンテンバイクに変わない。
まさか不良品だろうか、慌ててお店に戻り、たぬきちさんに訊いた。
「た、たぬきちさん!」
「どうしたなも、そんなに慌てて」
ポケットからマウンテンバイクが実体化される葉っぱを取り出して、たぬきちさんに見せながら事の経緯を話す。
すると、なんてことはない、というようにたぬきちさんは笑ってから教えてくれた。
「なーんだ、びっくりしたなも。確かにそれはマウンテンバイクだなも。でもね、それで村を走り回ることはできないなも!」
「ど、どうしてですか? グレースさんは車で時々役所の前にいますよ!」
「まあそれは置いといて、そのマウンテンバイクは観賞用のものだなも。つまりココヤシやボトルシップのようなものと同じってことだなも!」
…母さんへ。今日も私は、元気に村を歩きまわっています。
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DS版のおい森にて、たまに送られてくる母よりレター、それをテーマにした短編です。基本的に一話完結なので、番号に関しては特に関係ありません。
2011年6月13日 22:55にPixivで投稿したものをこちらにも再掲。