>Foretへ。
>フルーツを、食べるとあなたを思い出す。
>シャクシャク美味しそうに食べるあの音。
>またきかせてちょうだい。母。
朝一番、そんな手紙とともに送られてきたのは、ひとつのリンゴだった。
つやつやと、甘みが詰まっていそうな真っ赤なリンゴ。
カントリーなテーブルの中央にそれをおいて、私はしばらく黙考していた。
正直な気持ちとしては、ここしばらくは釣ったお魚がメインの食事だったので、今すぐ皮ごとパクリと食べてしまいたい。
しかし、せっかくのリンゴだ。
このまま食べてしまうより、リンゴのパイや、タルト、ジャムなどにして、リンゴの良さを生かして食べるのも…と、想像してしまって、また食欲をそそられた。
黙って腕を組んで考える姿勢が、だんだんと悩むあまりに前のめりになっていく。
どうしたものか。そう思った時、ノックもなしに家のドアが開けられた。
「ただいま……って、どうしたんだよ、凄い顔してるぞ」
右手に釣竿、左手に今日先ほどまで頑張って釣ってきてくれたのだろうお魚が数匹、その手からぶら下がっているのを見て、もう反射的と言えるくらい一瞬でシャキッと背筋を伸ばしてカントリーな椅子から立ち上がる。
「おかえり、アニー。今日もいいお魚が釣れたんだねっ!」
「ああ、ブラックバスが二匹とアジが十三匹。あとで焼いて食べるか」
そしてそのまま奥のキッチンスペースへと行こうとして、ふと足を止まって、なんだろうと視線を追うと、先ほどまで私が見ていたそれらに向けられていた。
「…テーブルのそれ、誰から?」
「あ、お母さんから。手紙とリンゴが送られてきたの」
「ほう」
「せっかくだし、リンゴの方はどんな風に調理して食べようかなってさっきまで考えてて…」
言い終わるか終らないかの内に、ひょいっとリンゴを手に取ってじっとそれを眺めている。
私は思い切って先刻まで悩むほど考えていたことを訊いてみた。
「えとそれで、アニーはパイとタルト、どっちがいい?」
「どっちも食べたいけど、一個じゃ両方作れないだろ」
くるくると多方面からリンゴを見つめてそう答えられた。
「うんだからね…」
パイとタルト、どっちが食べたい? そう続けようとして、
「なあ、どっちも食べれるいい方法があるぜ。やらないか?」
先にそんなことを言われた。
よいしょっと、スコップを地面に突き立てて、えいやあと、その部分を掘り返す。
何回かその動作を繰り返したあと、あの真っ赤なリンゴは、今しがた掘った穴に入れられた。
それから今度は逆の動作を、穴に土を戻す作業を繰り返して、アニーの言った『いい方法』の第一段階は終わり、二人して泥だらけの手で額に浮かんだ汗を拭って、お互い凄いことになってるね、と笑う。
「これで何日か経ったら芽が出て、大きく成長して、あのリンゴの実をつけてくれるようになるよ。そしたらいくつも食べられる」
朝一番、といってももうお昼になっちゃったけれど、朝とほとんど変わらない青空を見つめて私たちはこのリンゴの木の成長を願った。
ああ、その日まで待ちきれないな。
家の裏手に植えられたその部分を見つめながら、そう思う。
口の中にリンゴの、ほとんど幻の味がした。
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DS版のおい森にて、たまに送られてくる母よりレター、それをテーマにした短編です。
2011年6月8日14:27にPixivで投稿したものをこちらにも再掲。