No.1117639

英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

soranoさん

異伝~知られざる鉄血の意志~

2023-04-02 01:36:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1332   閲覧ユーザー数:1144

 

 

”あの日”――――――私は”黒”にこの身と魂を捧げた。しかし、私は私の意志で帝国を破滅させると決意した――――――この地を忌まわしき”呪い”から解放するために。愛する者が生きる世界を滅ぼさんとするこの身は、もはや人に非(あら)ず。世界を闘争に導く”鉄血”として生きる事をここに誓い――――――私が私であると証明するためにここに記そう――――――

 

私が”鉄血”として生きることを誓ってから間もなく、想定外の出来事が起こった。それは――――――ゼムリアとは異なる世界と繋がり、その世界の一国たるメンフィル帝国が”百日戦役”時に何の前触れもなく登場した事だ。――――――メンフィル帝国はいくつもの想定外(イレギュラー)を起こした。ロレントを襲撃した帝国軍を皆殺しにした後、ロレントの件を口実に戦争に介入――――――メンフィル帝国の介入によって占領していたハーケン門に加え、五大都市の一角であるセントアークをも占領し、更には息子(リィン)を託したユミルをも占領した。――――――ゼムリア大陸の軍事国家として恐れられていた帝国軍をも容易に打ち破り、侵略の手を広げ始めたメンフィル帝国に対して抵抗した所で無駄な犠牲者が増えるだけと判断したテオがメンフィル帝国に降伏した話を聞いた時はリィンの件もあり、二重の意味で心配をしたが、不幸中の幸いにもメンフィル帝国は降伏したテオ達に対して危害は加えず、戦後メンフィル帝国の領土として帰属したユミルの領主一家として継続させた。――――――”黄昏”が起きた時”黒の書”にすらも記されていなかったこのメンフィル帝国という想定外(イレギュラー)は”黒”ごとこの身と魂をも滅ぼす想定外(イレギュラー)になってくれると期待している。

 

”黄昏”に導くためには、私自身を含め駒をそろえる必要があった。そんな折に出会ったのは特異な”予見”の才を持った少年――――――奇しくもあのアランドールの息子、レクター・アランドールだった。彼は全てを受け入れていた――――――父親の罪も、これから己が後ろ暗き連中の口封じに遭うだろことも。そんな彼に、私は”駒”としての居場所と、復讐という名の”生きる目的”を与えることにした。それは捨てたはずの憐憫(れんびん)か……手放した我が子に多少なりとも重ねたか。だが、あのアランドールの所業が”黒”による差し金だったとはいえ……その息子までもが雪げぬ罪を被る必要もあるまい。果たして、私が目指す”終焉”まで”予見”しているのかはわからぬが――――――レクターは興味をひかれた様子で私の誘いを受け入れたのだった。

 

帝国政府の宰相となり間もない頃……政務として四大名門と交流を交わす内に面白い青年と邂逅した。名を、ルーファス・アルバレア――――――どこまでも聡明で、空虚な青年である。彼は私を”父”と呼び、自らの存在意義を証明するための乗り越えるべき課題と定めたようだ。……再び”父”と呼ばれることになろうとはなんとも因果な巡り合わせだが……いずれにせよ、私を超えようとする者が現れたということ自体が喜ばしい事だろう。人は”呪い”に屈するばかりではないと盤上の駒では終わらないと可能性を示してくれる事に期待している。”鉄血の子供”を名乗ったところで、彼の渇きが癒える事は無いだろうが……彼が己自身で答えを見出した時、来たる新時代を担う器となれるやもしれぬ。

 

気づけば、宰相となり二年の月日が流れていた――――――ルーファスやレクターの働きもあり、”鉄血の子供”の存在が周囲に囁かれ始めている。そんな中――――――士官学院時代の友人であるリーヴェルトの訃報が届いた。不審な点の多い事故……恐らくは黒が招いた忌まわしき事件の”後始末”の為、市井へと赴いた先で……彼の娘であるクレア・リーヴェルトと出会うのだった。これも、帝国に生きる者を弄ぶ”黒”が導いた因果とでも言うのだろうか……彼女は悲劇をきっかけに”統合的共感覚”とでも呼ぶべき特異な才を発現させていたのだった。私は”後始末”を彼女自身に委ねることにし――――――結果、彼女は深く傷つきながらも己の運命に立ち向かう気骨と覚悟を示した。これもまた巡り合わせであろう――――私は彼女も”子供たち”へと誘うことにした。”終焉”が待ち受けるこの帝国の地に彼女が何を見出せるか――――せめて友(リーヴェルト)の分まで見届けるとしよう。

 

ジュライに赴き、市長との交渉の末に彼の地を属州として取り込んだ頃の事であった。時期を見計らったように現れたのは懐かしき白銀の盟友――――――今は”鋼”を名乗り、結社で暗躍していると聞いていたが。言葉を交わせば”あの頃”と変わらず私の身を案じているようだった。ジュライが属州になった今、”呪い”の種は芽吹きつつある――――――”相克”の舞台は整い始めたと言えよう。その皆を伝えると、言葉少なに彼女は立ち去った。報われるべきは彼女だというのに……互いに難儀な性分なのは相変わらずのようだ。

 

”鉄血の子供達”に新たな子供が加わった。ミリアム・オライオン――――――またの名を、限りなく完成形に近い人造人間(ホムンクルス)の最新型”Oz73”。まさに純粋無垢そのものといった少女は瞬く間に人間性を獲得し、成長を遂げてみせた。私では決して与えてやれる物をミリアムは持ち合わせているようだ……彼女と関わる内にクレアとレクターの表情も心なしか柔らかくなったように見える。”黒”に狂わされた人生において、取り零した豊かさを少しでも取り戻せているのなら幸いだ。………しかし成程、終末を齎(もたら)すに相応しく、”剣”の創造とは業が深いものだ。もとより全ての罪咎(ざいきゅう)を背負う覚悟……イシュメルガと共に煉獄へ落ちるのみだろう。

 

”リベールの異変”において皇子殿下の活躍が報じられて間もなく――――――リベール王国の”アルセイユ”に乗り華々しく凱旋した様子が、どの紙面をも彩っていた。皇子殿下がリベールを発たれる直前、”ご挨拶”を申し上げるために参上したが……やはり、オリヴァルト皇子殿下は私の予想を裏切る稀有な存在のようだ。さしずめ、帝国の眠れる獅子が目を覚ましたとでも言うべきか――――――私が世を”闘争”で塗り潰そうとする中、彼は”第二の道”を追い求めようとしている。”黄昏”に至る為の障害でしかないというのに、久方ぶりに胸が躍る思いをさせてもらった。――――――諍(あらが)うつもりならば、せいぜいただでは喰われてくれるな。クロスベルを巻き込んだ”闘争”への下準備は整いつつある――――――彼の動向に期待させてもらうとしよう。

 

クロスベルの”闘争”の”創まり”であるヨアヒム・ギュンターによるかの”D∴G教団”事件にて、”百日戦役”以来の想定外(イレギュラー)が起こった。それは――――――”六銃士”がクロスベルで本格的に台頭をした事だ。世界各地を回って時には外道な猟兵団を滅ぼし、時には民を救うまさに”現代の義賊”のような活躍をしていた彼らの動向も気にはなっていたが、まさかクロスベルで本格的に台頭するとはこの私すらも想定していなかった。しかもメンフィル帝国の手配によって警察と警備隊の上層部に就任した事から察するに、間違いなくメンフィル帝国とは何らかの関係があるのだろう。メンフィル帝国に続く”黒の書”にも記されていない想定外(イレギュラー)がメンフィル帝国同様”黒”ごと私を滅ぼす想定外(イレギュラー)になる事を期待させてもらおう。

 

トールズ士官学院性が実習で帝都を訪れると知らせを受けた。特科クラスⅦ組――――――そこには懐かしい顔もあった。テオやクレア達から話は聞いていたが…………母親に似て、他を重んじる優しさを備えているようだ。多くの課題も抱えているようだが、健やかに成長したのは何よりと言えよう。…………しかし、やはりというべきか”呪い”の影響を色濃く受けているようだ。呪いの根源たる”黒”の――――――私の心臓を受け継いだのだ。その影響は計り知れないだろう。………重い宿命を背負わせたこと……カーシャは女神(エイドス)の下で何を思うか……ともあれ、今の時点で己を制御できないのであれば、来(きた)る激動の時代を生き抜けはしまい。”黄昏”の時は近い―――今は成長に期待しよう。

 

8月31日――――――”西ゼムリア通商会議”にて”百日戦役”以来の想定外(イレギュラー)が起こった。”六銃士”が”西ゼムリア通商会議”での私とロックスミスの謀(はかりごと)を想定した上、対策どころか反撃(カウンター)まで行った事だ。まさかこの私が動揺のあまり、誘導尋問に引っかかるとは………私とロックスミスをやり込めた”六銃士”に対して賞賛の思いであった。そして同時に確信した――――――メンフィル帝国やオリヴァルト皇子殿下と協力したとはいえ、彼らが私とロックスミスの謀に反撃(カウンター)をした事もそうだがクロスベルで本格的な台頭をした理由はクロスベルの為ではなく彼ら自身の”覇業”を成すためにクロスベルの状況が都合がいい為だったのであろう。少なくても決してディーター・クロイスのような小物では扱いきれず、近い将来ディーター・クロイスは”六銃士”に喰われる事になるだろう。”六銃士”が統べるクロスベルが”黄昏”が起こった時どのように行動に出るのか、更に期待させてもらうとしよう。

 

10月30日――――――独立国を名乗るクロスベルの攻撃によってガレリア要塞は消滅した。これを受けて、帝国は宣戦布告する……”黒の史書”の筋書き通りだ。全てが予定調和ではあるが――――――しかし、彼が舞台に上がって来ようとはな。クロウ・アームブラスト――――――ジュライ市国おける、アームブラスト市長の孫か。只人(ただびと)であった彼が憤怒に身を燃やし、私に至る程の修羅と成るとは。近頃は”西ゼムリア通商会議”の件を除いて全て想定通り進んでいただけに、人の可能性を見せてもらった心地だ。……そして、やはりと言うべきか……彼が――――――リィン・シュバルツァーがヴァリマールの起動者となったようだ。内戦が本格化するにつれて、”黒”は一層力を強めていく。”灰”ならばよくやってくれるだろうが……生半可な覚悟では容易く飲み込まれてしまうだろう。……己の息子に苛酷な運命を強いている身で言えた事ではないが。己の在り方を変えられるのは己だけ……運命に諍う力があると示してほしいものだ。

 

1月12日――――――”百日戦役”と”西ゼムリア通商会議”の時すらも比較にならない想定外(イレギュラー)が起こった。クロスベル占領に向かったルーファス達がメンフィル帝国と連合を組んだクロスベルに迎撃され、討たれた事だ。しかもルーファスを討った人物は我が息子、リィンであった。”六銃士”がメンフィル帝国と何らかの関係がある事は確信していたが、まさかこの短期間に連合を組んで共和国を滅ぼし、帝国に諍う――――――いや、帝国を呑みこむ力をつけていた事には感嘆する思いをさせてもらった。そして何よりも驚きを隠せなかったのは、リィンがトールズを離れ、メンフィル・クロスベル連合の兵(つわもの)としてルーファスを討った事だった。私を”父”と呼び、私を超えようとしていたルーファスもそうだがⅦ組を結成したオリヴァルト皇子殿下には悪いが、リィンが連合側についたことはリィンにとってよい判断だと感じた。Ⅶ組を離れ、”黒”と私を滅ぼせる勢力として最も期待させてもらっているメンフィル・クロスベル連合についた事で激動の時代を生き抜く可能性が高まったからだ。

 

予定よりも早く”黒キ星杯”を顕現させ、”黄昏”を起こしたが、痛快にもその出来事が息子(リィン)を成長させ、そして重き宿命から解き放つ糧になる切っ掛けとなったようだ。ルーファスを討った事はその”創まり”に過ぎず、リィンが受け継いだ”呪い”の根源たる私の心臓は異世界の女神と”契約”を交わした事で”呪い”が浄化された事で”黒”の影響から完全に解き放たれた事、本拠地を含めた”地精”の全ての拠点の破壊、ルーレとオルディスの占領、ノルティア州奪還軍の撃退、そして――――――”ハーケン平原”の”大戦”にてかつての我が上官であるヴァンダイク元帥の討伐――――――いくつもの想定外(イレギュラー)が重なったとはいえまさか息子(リィン)によって、帝国が追い詰められ、そして破滅させられようとしている事には信じられない思いではあったが、同時に息子の成長の速さに誇らしい思いをさせてもらった。そして何よりも、息子を重き宿命から解放してくれた異世界の女神もそうだがⅦ組を離れ、帝国を破滅させる道を選んだ息子について行き、今も息子を支え続けているテオの娘達や息子を支え続けている仲間達、息子との”絆”を決して諦めないⅦ組には心から感謝している。唯一の懸念は私の最後の舞台を己の最後の舞台でもあると見出した友(リーヴェルト)の娘をリィンがどういう結末にするかだが、内戦で己の大切な妹を拐かした”黒兎”を許し、仲間として受け入れた事から戦時でありながらも他を重んじる優しさを決して忘れていないリィンならば、友(リーヴェルト)の娘にとっても決して悪い結末にはしないと信じさせてもらうとしよう。

 

3月1日――――遂に私の最後の舞台の時が来た。内戦とこの戦争で大きく成長したリィンは今や私に刃を届かせんとしている。いくつもの想定外(イレギュラー)に恵まれたとはいえ、まさかここまで成長するとは。仲間と共にあった事が大きいようだが、それだけではあるまい。何が息子をここまでの境地に至らしめたか……父親として側で見守れたのならと思わなくもない。………全く、私らしくもない……このような局面において心を乱すとは、未だ修行が足りぬという事だろう。………息子が受け継いだ私の心臓の呪いが浄化された事で、息子が私を超えたとしても、息子が呪いを一手に引き受けるような事にはならない。もはや思い残す事は何もない――――――私を超えようとする息子を全力で受け止め、そして討たれる事こそ父親として最初で最後の務めだろう。私に望む資格等ないだろうが、もしも私のような者の祈りを女神が聞き届ける事があるならば。どうか―――リィンの未来が幸あらんことを。

 

「……………………」

手記を書き終えたオズボーン宰相はある写真――――――生まれたばかりの赤子であるリィンを抱いて幸福に満ちた笑顔を浮かべている亡き妻とかつての自分の写真を懐から出した後手記に挟み込み

「フッ、私のような者に”未練”を残す”資格”等ないな。」

静かな笑みを浮かべて呟いた後手記をまだ炎が残っている暖炉へと放り込んだ。

「さて――――――行くとするか。帝国をこの忌まわしき”呪い”から解き放つ私の”最後の舞台”へ。」

そしてオズボーン宰相は部屋を出て最終決戦の舞台へと向かい始めた――――――

 

 


 
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