No.111750

神魔伝承 ~第二話~

神崎羽鳥さん

創作小説の第二話です。
今回は…短かったな…!
もっと文才が欲しい~…展開が怒涛になってしまいました。
もっと精進致します。

2009-12-12 02:24:04 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:442   閲覧ユーザー数:441

【異変】

 

 

 

 

 奇妙な体験をした日から数日。あれから何か事件が起こるという事も無く、光矢の生活は元に戻っていた。いつも通り、邸の外へは出される事はなく、相変わらず祖父の盆栽に悪戯をし、怒られる毎日。

 あれは夢だったんじゃないかと思い始めていた程に、何も無い毎日。

 

 けれど、少しだけ『異変』は起こっていた。

 

 夜中。

 

「…………っう…ぃ……痛………」

 突然の激痛で、光矢は眠りから目が覚めた。

「痛い、痛い痛い痛い…!」

 目覚めた事で、痛みは多少弱まったのだが、再び眠りにつくには難しい程に激しく痛む。上半身だけ起こすが、痛みで身体が前屈みになる。

 痛みを訴えているのは、左腕だ。肩から指先に掛けて、左腕の全て、余す所無く、どくどくと脈打つ様に激痛を発している。

「なんだ、これ」

 あまりの痛みに立ち上がる余力も無い。やがて光矢は立ち上がる事を諦め、周囲に何か無いかと探った。丁度良く寝床の脇に…恐らく寝る前に放り投げていたのだろう、手ぬぐいが落ちているのに気付き、何とか手を伸ばして手繰り寄せた。それを左腕に乱暴に巻いてゆく。きつく締めていれば、それで痛みが落ち着くかもしれないと。

 だがその行為に効果は無く、痛みはいよいよ我慢出来ない程までに酷くなる。同時に熱まで持ってしまっていた。

 ぶるぶる、と身体が震えてくると、目頭がかっと熱くなり出した。痛みは酷い、悲鳴を上げてしまいそうだ。それでも我慢しなければ、と光矢は頭を左右に滅茶苦茶に振り回す。それで気を紛らわせていれば、痛みは気にはならないだろう。実際は痛みが消える事は無かったが、光矢はそれを続けた。声は上げない、泣きもせず。

 

 すると、数分経って、漸くその痛みは突然、何の前触れも無く消え失せた。

 

「……………?」

 痛みが消えた途端に、身体が軽くなった気がして、光矢は後ろに倒れ込む。体力も奪われていたらしく、ぜぇぜぇと息を切らして。

 左腕をおもむろに上げてみる。熱は未だ残っているが、痛みという痛みは一切感じられない。小さく腕を振ってみても、変わらなかった。本当に、まっさらに消えた様だ。

「なん、何だったんだ…?」

 だが、理由を考える程の体力は残っておらず、光矢は瞼が重くなった事に打ち勝てず、そのまま寝息を立てて再び眠りについてしまう。

 朝になると、左腕の熱すら完全に消え失せ、光矢は痛みなどすっかり忘れてしまっていた。

 

 

 だがそれが、何日か続く事になり、流石の光矢も胸の中に閉まっておく事が出来ず。

 

 

 

 ある日、それを祖父と母に打ち明けると、案の定な返事が返ってきた。

「なんでそれをさっさと言わんのじゃ、この莫迦者!!!」

「何処かで怪我をしたのですか?見せて御覧なさい」

 右からは捲くし立てられ、左からは腕を見せろと言われ。光矢は右耳を指で塞ぎながら、朝霧に腕を捲くって見せた。朝霧は優しく左腕に触れ、何か怪我は無いか、隅々まで見る。だが、特に変わった所は無い、少年の左腕だ。

「だ、大丈夫だって!オレも見てみたけど、怪我なんかしてないしさ」

 くすぐったさと恥ずかしさで光矢は左腕を慌てて隠す。日中ではそんな痛み出した事は無いし、夜中痛くなるのだって毎日とまではいかない。

 だが、朝霧の顔は険しいものだった。朝霧だけでは無い、光圀もまた、怒っている表情の中に、何か考え事をしているかの様な雰囲気を見せている。それが、光矢には不思議に思えて。

「…二人とも、大丈夫?」

「え、ええ」

「お前の心配しとんのに何故お前から心配されなくてはならんのじゃ」

 だが、やはり二人は何か心配事があるらしく、遂に黙り込んでしまった。光矢は変に思いつつも、二人だけにしてその場を離れる。何か余計な事を言われるのも面倒だと、庭の方へと逃げ出した。

 

 

「失礼します……お二方、どうなされました?」

西山荘へやってきた助南・格楽の二人は、光圀と朝霧が何か考え事をしてるかの様に黙っているのを見て、不思議に首を傾げている。

「お…おぉ、助南に格楽か。どうしたのじゃ」

「少し、気になる事を耳にしまして」

「御老公の方こそ、何難しい顔をされていたのですか?」

 助南の問い掛けに、光圀は唸り声で誤魔化す。

「…ちと、此方も気になる事があってのう。で、お主らの気になる事とは何ぞや」

「実は…此処数日、周辺の街道で旅人が襲われる事件が多発しているとの噂が」

「藩の方へ問い合わせてみた所、間違いでは無いらしく。守備を強化しているとの事です」

 ぴくり、と光圀は眉を潜ませた。妖魔か、と小さく尋ねると、二人は静かに頷いた。

「…むぅ、まさかとは思うが…」

「父上……矢張りあの子が…」

 朝霧の漏らした言葉に、助南と格楽は顔を顰めた。

「…若が、何をなされたと言うんです?」

 いよいよ勘付いたのか、助南が短くそう尋ねた。ぎょっ、と光圀が顔を強張らせる。

「もしや、あの時の事と関係があるとでも?」

「あの時って……若が居なくなった時の?」

 そうでなければ他に考え付かないでしょう、と助南は笑って答える。だが、その目は笑っているものではない。冷たく、探る様な眼の色で、光圀と朝霧を表情を伺っている。

「あれから御老公、裏で色々動かしてるみたいですが。それって若と関係ありますよねぇ絶対」

「そういえば暫らくお銀さんを見掛けませんが…御老公…?」

「…っだぁぁぁぁ煩い奴らじゃのう!何でも無いわ!」

 

((誤魔化すの下っ手くそな御人だなぁ…))

 

 光矢の誤魔化し下手は恐らく光圀から来てるものなのだろう。助南と格楽はしみじみとそう思わざるを得なかった。

 

 

 

「はぁ、何だか変なの」

 庭に転がっている石を蹴飛ばしながら、光矢は呟いた。

 先程の話だけではない。此処数日、邸全体がピリピリしているというか…何やら緊張感が漂っている様な気がして、光矢は毎日息が詰まる生活を送っていた。悪戯をしても光圀も朝霧もそれを咎める事は無く、何か言っても生返事で返される事も多々あった。

「何だよ、何なんだっつーの」

 光圀は所謂毎日の遊び相手の様なものだった。そんな祖父の何をしても何も返してくれないのを見ていて、光矢には良い思いをするわけが無い。自分が何故悪戯をしているのか、祖父は分かっているのだろうか。

「……俺の中の、扉」

 ふと、光矢はあの日、道長が言った言葉を思い出した。

 左腕が痛み出したのは、あの日からだ。道長があの日、自分の左腕に何かしたのだ。世間知らずの光矢だって、それぐらいはすぐに分かった。

「俺の中の、封印って…何?」

 問い掛けても、答えてくれる人はもう居なかった。

 あれだけ勿体ぶっておいて、何も答えてはくれなかった道長。何者なのか、何故自分を知っているのかも、何一つ教えてくれなかった。

 

「俺は、誰?」

 君は誰?

「俺は…籠の鳥…」

 君は、籠の鳥。

 

 答えであって答えではない言葉。光矢は何度も呟いた。

 

 

 ガシャァァン!

 

 何かが倒れる音が響いた。邸の外からの物音にはじめに気付いたのは助南・格楽だった。顔を見合わせて直ぐ、二人は邸の外へ向かう。その後を光圀と朝霧が続いた。

 邸の外、入口のすぐ近くでそれは倒れていた。血まみれの、何処かの武士だった。身体中に酷い切り傷を負っており、口からも血を吐いた痕が残っている。

「…格楽、手当てを」

「あぁ!」

 助南が促し、格楽は倒れた武士の元に駆け寄り、手を翳す。その手の周りに、ぼんやりと光の膜が浮かび上がると、その光は武士の身体全体に徐々に広がり始める。

「お主、何者じゃ。何があった?」

 遅れて到着した光圀が、傷だらけの武士を見るなり、慌てて駆け寄る。その後ろで朝霧も不安そうに此方を見ていた。

「も、申し上げます…。はぐれ妖魔が徒党を組み、この西山荘へ向けて…襲撃を企てていると…」

 息も絶え絶えに、その武士は答える。

 武士は、水戸藩の者だった。此処数日起きている妖魔の襲撃事件を追う内に、彼らの目的が西山荘である事、その西山荘に居る誰かを狙っている事を突き止めた。その危険を知らせる為に急いで遣いとして向かってきたものの、その途中で自らも妖魔に襲われたのだと言う。妖魔はまさに今、此方へ向かっていると、彼は途切れ途切れに語る。

「お早く、お逃げ下さりませ…!某を襲ってきた…妖魔共の数は多く…!佐々木殿と渥美殿だけでは…太刀打ちは……うぐっ…」

 びくん、と武士の身体は痙攣し始めた。自分の力だけでは自分を支える事は出来ず、なんとか腕を突っぱねて体勢を取っているものの、がくがくと腕は震えている。

「格楽」

「駄目だ、傷が深過ぎて、俺の力では…」

 これ以上、傷を癒す事は無意味だと格楽が手を降ろした瞬間、武士の動きはぴたりと止まった。その直後、がくりと頭を垂れ、そのまま伏して絶命する。

 無念そうに光圀は顔を歪ませ立ち上がる。かたじけない、と小さく、死んでいった武士に礼の言葉を呟きながら。

「うむ、この者を犬死にさせるわけにはゆかぬ。朝霧、急いで光矢を呼んで参れ。避難せねば」

「分かりました、父上」

 着の身着のまま外へ出るのも危険だが、猶予は無い。朝霧は光矢を呼ぼうと、振り返り邸の中へ入ろうと踏み出した。

 だが。

 

「朝霧様!!」

 

 助南が声を上げた。その直後。

 ドォォォォォン…!という轟音と共に、邸の中央に向かって何か黒い大きな影の塊が落下してきた。

 咄嗟に光圀が朝霧を押さえる。塊は屋根を貫き、邸を破壊しながら中へ落ちていった。今まさに朝霧が入ろうとした入口からは、埃が噴き出てきた。ぱらりぱらりと、木屑が頭に降り注ぐ。

「い、今のは…」

「御老公、敵襲です!」

 光圀は顔を上げると、我が目を一瞬疑った。何故気付かなかったのか、と舌打ちする。周囲は既に、異形の者たちに取り囲まれていた。空にも、邸の周囲も。人間のものではない姿の者たちが、邸全体を取り囲んでいた。

 烏頭の者。

 一つ目の者。

 厳つい顔をした角を持つ者。

 それらはすべて、金色の目玉をぎらぎらと燃やしている。

 妖魔、人あらざる者たち。

 彼らはそれぞれの唸り声を上げながら、此方の様子を伺っていた。

「これは、拙い事に…」

「父上、光矢が!」

 抱えていた朝霧の声に、光圀は思い出した様にハッとする。先程空から振ってきた黒い塊も、妖魔か、或いは妖術の類ではないのか。だとすれば、中に居る光矢は。

「光矢!」

「朝霧、待たぬか!!」

 光圀の腕を振り解き、朝霧は邸の中へと駆け込む。光圀はそれを止める事は出来ず、朝霧を追って中へ。

 

「片付けますよ、格楽」

「あぁ、分かっている」

 

 残された助南・格楽は入口を固める様に妖魔の前に立ち塞がる。

 随分と数が多い。険しい顔で格楽は周りの妖魔を睨みながら、己の拳に拳具を嵌める。すらりと刀を抜き、助南は構える。それを合図に、妖魔共は一斉に二人に襲い掛かる―――…


 
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