~戦力強化~
「西泉さん、ちょっと私に付き合ってくれませんか?」
ある日の放課後。
戦車道の練習も終わり顧問部屋で帰る準備をしていると、突然柊ちゃんから告白をされてしまった! ……いや、冗談だ。
流石にこれを告白と捉えるほど、頭の中お花畑ではない。
多分、どこかに行くのに付き合ってほしいという話しなんだろうけど……。
「……ごめん、柊ちゃん。君の気持には答えられないよ」
「へ?」
「これでも一応顧問で、この学園の職員扱いなんだ。生徒と付き合うことは出来ない。もちろん君の事は嫌いじゃないよ? だけど生徒と職員の垣根を越えてまで付き合いたいとか、そこまでの強い気持ちは持てないんだ。折角告白してくれたのに悪いけど、どうか諦めてくれ」
「え、告白? 何を……って、あぁ! ち、ちがっ! 違います! べ、別にそういう意味の付き合ってほしいじゃ!」
俺の言葉に、柊ちゃんは顔を真っ赤にしてアワアワしている。
予想した通りの反応。
ほんと、見ていて面白い子だ。
「西泉さん! ほんと、違うんです! 勘違いしないで……って、あれ?」
「……ぷっ、くふふっ」
「……あっ! も、もしかして私……からかわれた!?」
笑いを堪え切れていない俺を見て、ようやく自分がからかわれたのを理解したらしい。
ぷくっと頬を膨らませて、不機嫌そうな顔になった。
「も、もうっ! 西泉さん、どうしてそんな意地悪するんですか!?」
「ははは。いやぁ、柊ちゃんって反応が面白いからついな」
「子供ですか!? なんか小学生の時にいましたよ、そんな男子!」
「……小学生の男子並み、だと?」
あの下品な言葉で馬鹿笑いしたり、好きな子に悪戯したり、スカート捲りしたりするような?
人生で1、2を争うくらい、恥かしげもなく全力で馬鹿やってるような年頃の?
「……流石に小学生と同レベルに見られるのは、その、なんだ? ……ちょっと傷つくわ」
「いや私の方が傷ついてますから! 心に大きな傷を負いましたからね!? 告白なんて1度もしたことないのに、フラれるなんていう訳の分からない経験して!」
「いい予行練習になったんじゃない?」
「フラれる予行練習なんて誰がやりたがるってんですか!? いらないですよ、こんなの!」
プイッとそっぽを向かれてしまった。
そういう反応も、見ていて面白いんだけど……って、こういう所が小学生男子並みと言われるのか。
思えば子供の頃の俺も恥かしげもなく全力で馬鹿やって、その度にしほさんに叱られてたっけ……あれ、俺って子供の頃から小学生男子並み?
「(精神年齢的に、もういい齢のはずなんだけどなぁ)それで? 付き合ってほしいって、これからどこに行くつもりなんだ?」
「……普通に話しを戻すんですね」
「まだ外は明るいといっても、学生の帰りが遅くなり過ぎるのはちょっとなぁ。あんまり煩く言うつもりはないけど、俺も顧問になった以上は注意する時はしないといけないんだよ」
「……だったら私の事、からかわなければよかったのに」
「はっはっは、すまんすまん」
「その反応、絶対反省してないやつ……はぁ。えっと、ですね。これから練習試合とかも含めて、本格的にメンバーの強化をしていくわけじゃないですか? だから、その前にうちの戦力を少しでも増やしておこうと思いまして」
「ふむ。戦力を増やす、ねぇ」
そのために今まで練習してきたし、これから練習試合が始まっていくわけなのだが。
「自動車部に戦車の改造でも依頼しに行くのか? ……でも、もうやれることは全部やったはずだけど」
自動車部には練習で使った戦車の整備やらポルシェティーガーの修理を含め、これまで色々と手を貸してもらってきている。
それに俺も西住にいたころに整備技能は修めているから、時間の空いている時は自動車部の負担を減らすために手伝いを買って出て、能力もフルに使って作業は進めていた。
そのためすでにポルシェティーガーのレストアは完了し、他の見つけて放置したままだった戦車も動かせる状態にまではなっている。
自動車部なんてポルシェティーガーが直ったことで、今はもう戦車道の練習に参加してもらってまでいるし。
ついでに思ったより時間に余裕もあったから、練習が休みの日を利用して各戦車のカスタムもしておいた。
生徒会チームが乗る戦車はもうヘッツァーになってるし、柊ちゃんが乗るⅣ号も長砲身やシュルツェンまでつけてⅣ号戦車H型になっている。
なんならポルシェティーガーに関しては、劇場版に搭載してたEPSまで取り付けている。
1人のガルパンファンとしてか、もしくは元西住の整備士としての血が騒いだのか、1度弄り出したら寝食も忘れて熱中してしまっていた。
……戦車道連盟からの補助金だけでは足りず、俺の貯金からもいくらか出してるから、今年の出費はかなり凄いことになってるだろうな。
大会初戦なのに戦車がもう劇場版仕様になってしまったけど、みほちゃんがいない時点で今更だし、もう開き直って気にしないでおくことにした。
「(俺のスタンス的に、最初から原作の流れ何て気にしてないようなもんだったけどな)」
「西泉さん?」
「ん? あぁ、悪い。少し考え事をな。まぁ、ともかく大会のレギュレーション的に考えても、もう戦車の強化は現状打ち止めじゃないか?」
「えぇ、西泉さん達のおかげで。なので今回は戦車ではなく、メンバーの方を集めようかと」
「……メンバー集めかぁ」
確かにもう原作と変わってしまっている現状、後々参加してくるメンバーを今のうちに集めておくのは悪い手ではない。
これから練習試合も待ち受けているわけだし、今のうちに周りと足並みを揃えてもらった方が、よりチームの強化に繋がるだろう。
だけど。
「メンバーを集めるのは良いけど……それって、俺必要か? 流石に俺が直接声をかけるのは気が引けるんだけど。柊ちゃんがメインで話すとしても、近くにろくに話したこともない男がいたら警戒されるだろうし」
「あ、それなら大丈夫です。もう風紀委員と猫田さん達には声をかけてて、参加してもらうことは決定してますから」
「……猫田?」
「え? えっと、ねこにゃーさんの本名ですよ?」
「……あ、あぁ、そうか本名か! 基本俺、ねこにゃーって呼んでたから、猫田って名前の方はド忘れしてたわ」
「あー、確かにそういうのってありますよねぇ」
「むしろ柊ちゃんはよく覚えてたな」
「渾名のキャラって、本名なんだろうって妙に気になったりしません? それで調べたのを覚えてただけですよ」
「そ、そっか(俺も一応キャラ名は調べてたんだけどなぁ)」
ちなみに他の2人の本名も覚えてなかったりする。
記憶力は良い方だと思ってたけど、こういう所でド忘れしてるところあるんだよな俺って。
「(にしても、もう2チームも確保してたとはなぁ)」
ねこにゃーは早い時期から戦車道に参加したそうにしてたっぽいし、彼女が参加するとなれば芋づる式で他の2人も来てくれるだろう。
だけどよく風紀委員のメンバーが参加してくれる気になったものだ。
確か杏ちゃんが助っ人の打診はしてたらしいけど、風紀委員の仕事に差し支えるとかで難色を示していたらしく、なんだかんだで準決勝からの参加になったみたいなのに。
「(今回話を付けたのが柊ちゃん自身ってことを考えると、やっぱりここでも柊ちゃんの力が発揮したんだろうなぁ)」
恐るべきは精神に影響を与える柊ちゃんの能力か。
俺も気づかないうちにかかってないとも言い切れないし、柊ちゃんと話す時はなるべく心を強く持つように注意しておかないと。
「それで、あと残るは1チームなんですけど……」
「あと1チーム? ……それって、まさか」
「はい。劇場版の最終章から参加予定の、サメさんチームの皆です」
◇
「……なんだか薄気味悪い場所ですね」
「気を付けてよ。ここら辺は“大洗のヨハネスブルク”とも呼ばれていて、治安はかなり悪いわ。私達風紀委員でも取り締まり切れていない、頭が痛くなる問題の多い場所よ」
「ひえぇ……やだもぅ、帰りたいよぉ。周りはゴミばっかりだし、来る途中に有刺鉄線まであったし、薄気味悪いし。そもそも、今から新しい戦車なんて見つけても意味あるの?」
「新しく何人か入ってきてくれましたけど、その方々は今の余っている戦車に乗ってもらうことが決まっているのですよね? 確かに今の段階で新しい戦車を見つけても、整備や練習の時間を考えれば……」
「初戦は10輌が上限だけど、決勝までいくと20輌まで上限が上がるんだぞ? 決勝まで残るような学校なんて、絶対上限いっぱいまで戦車出してくるに決まってる。厳しいようだけど、うちはただでさえ戦車数もメンバーの練度も劣ってるんだ。今のうちに1輌でも多く戦車を見つけておいて、もし今後メンバーが増えたらすぐ使えるように整備しておいた方が効率がいい」
「大会で活躍すれば、メンバーが増えるかもしれないってことですか?」
「希望的観測、とも言えないか。現に選択授業が始まってしばらく経つのに、今になってそど子とかも入ってきてるわけだからな」
「だから、そど子って呼ばないでって言ってるでしょ冷泉さん!」
「はいはい、わかってるわかってる」
「それ絶対わかってる人の態度じゃないでしょ!?」
麻子ちゃんの気のない返事に園みどり子、通称そど子ちゃんが声を荒げる。
狭い通路に響いて地味に耳が痛い。
「でも、うちってそこまで貧乏な学校じゃないでしょ? 学校に頼んで、戦車の1輌や2輌くらい買ってもらえないの?」
「武部ちゃん、戦車ってのはそこそこ高いもんなんだよ。貧乏じゃなくても、1輌買うのも考える程度にはね。そうポンポンと買える所なんて、本気で戦車道に力を入れてる学校か、入学者の多いマンモス校か。もしくは実績を残してて、バックに大きなスポンサーがついてる学校くらいだろうさ」
「生憎うちは普通の学校だし、戦車道に力を入れてるとは言っても、まだ出来立ての弱小チーム。現状何の実績もないから、もちろんスポンサーなんてついてるはずもない。学校側も少なくとも今回の大会で実績を出さない限り、戦車なんて高いものを買うための経費は回してくれないでしょうね」
俺の言葉に先を進むそど子ちゃんが捕捉するように言い、視線だけ向けて続ける。
「つまり今回の大会中は、新しい戦車を買えるお金なんてないってことよ」
「生徒会長権限とかじゃ無理なの?」
「流石の生徒会でも、そこまでの大金を動かせる権限なんてないわよ。それによく生徒会長権限とか言ってるけど、あれだってちゃんと手続きをして承認されてから実行してるんだからね?」
「へぇ、そうだったんだ。知らなかった」
「なんだか意外ですね」
「……まぁ、生徒会長の独断で強行されることがあるのも事実なんだけど」
「……へ、へぇ、そうだったんだぁ」
杏ちゃん達は1年の頃から生徒会に入っていたというし、この2年間は学校側も頭を抱えることも多かっただろうな。
それでも生徒達のことを思い、皆が楽しめるように考えて行動してるのだから、学校側としても中々強く咎めることも出来ないのだろう。
「話を戻すけど。一応、連盟から補助金も出てるし、学生だと割引とかもしてくれるみたいだけど……補助金のほとんどは、今ある戦車の修復や改造に使っちゃったみたいだしねぇ」
そど子ちゃんのジト目に、俺は明後日の方向を逸らす。
とりあえず無駄遣いじゃないことはわかってくれてるらしく、それ以上何か言ってくることはなかった。
「……西泉さん、戦車を買えるだけのお金ってあったりします? というか、ありますよね? 同人誌の売上的に考えて」
「え? ……いや、まぁ、あるにはあるけど……今ある戦車のレストアやカスタムで、俺の貯金も結構使っちまってるしなぁ。流石にこれ以上財布の紐を緩めるのは、今後の金遣いが荒くなりそうで怖いというか……」
「金は持ってるのに、意外と庶民派な考え方なんだな。だけど宝くじを当てて大金を手にした人が、金遣いを間違えてあっさり貧乏に転落する話も聞くし、それで正解かもしれないな」
一応、俺も普段からそこまで散財する方ではないし、今もまだ同人誌の新作を描いたり、今まで描いたものが売れたりで金はどんどん入ってきている。
現状、貧乏に転落する心配はないだろう……現状は、だけど。
「まぁ、確かにお金は使うためにあるものだけど。いざって時のために、ある程度は貯金しておきたいところだな」
「というか今更ですけど、今でも十分資金提供してもらってるんですよね……すみません、西泉さん。ちょっと考えなしでした」
「あぁ、謝らんでもいいって。最初の時も、今回の事でも、俺が好きで金を出したんだから。謝られる覚えはないよ」
「……ありがとうございます」
「そんな落ち込まないでください、柊殿! また時間がある時にでも、学校でまだ眠ってる戦車を一緒に見つけましょう! 使われないまま、埋もれたままだなんて、その戦車が可哀想ですからね!」
「うん、そうだね。ゆかりん」
柊ちゃんを励ます意味もあるのだろうが、戦車の事だからか余計に優花里ちゃんの言葉に熱意が籠っているような気がする。
前に柊ちゃんに聞いた話しだと、いろんな所に放置されたままになっていた戦車を見た時に、優花里ちゃんはかなり嘆き悲しんでいたらしい。
流石は大洗で1番の戦車大好き娘。
それだけ好かれていたら、戦車の方も本望だろう。
「もし見つけたら言ってくれな。あまり酷い状態じゃなければ、俺や自動車部でパパっと仕上げてやるさ。あとは乗る人だけど……まぁ、試合ギリギリになって見つかったとしても、最悪動かせて、撃てるくらいになってもらえればいいさ。もしかしたら相手戦車の1輌や2輌くらい、まぐれで撃破してくれるかもしれないだろ?」
「そうですね。相手を1輌でも減らしてくれたら、それだけで十分助かります」
「(……しほさんに言ったら、「戦車道にまぐれなし!」って怒鳴られるのかなぁ)」
―――運、まぐれ、偶然、そんなものに頼るのは弱者の在り方です
かつて西住家にいた時、そんなことをしほさんが言っていたのを思い出した。
言い方は厳しく感じるけど、俺としてもおおむね同意ではある。
運、まぐれ、偶然といったものも1回、もしくは2回くらいはあるだろうが、それに頼った戦い方をしていたら後が続かない。
これは戦車道に限らず、何事にも言えることだろう。
「(本来起こるはずのないことが起こるのが奇跡、起こる可能性が1%でもあるのが運やまぐれや偶然。そして起こるべくして起こるのが必然だ。皆には、出来れば必然って言えるくらい練度を上げてもらいたいもんだけど……ゲームと違って、現実にはレベルとかステータスがあるわけじゃないからなぁ。なるようにしかならないか)」
そんなことを思いながら薄暗い通路を懐中電灯の僅かな明かりを頼りに、あんこうチームの5人+風紀委員1人+俺の7人パーティはゆっくりと進んでいく。
今更だが、ここは大洗学園艦の最深部。
おもに船舶科の不良達が溜まり場としている、大洗でも最も治安の悪い場所だ。
薄暗いだけでなくそこらにゴミが散乱し、通路を進むごとにあからさまに不良然とした目つきの悪い生徒達が増えていく。
その近くを通り過ぎる度に、俺達に向けてガンつけてくる。
「やっぱり西泉さんについて来てもらって正解だったわね。先生、何かあったらよろしくお願いします!」
「用心棒かい俺は。さっきのしおらしさはどこ行った?」
「それはそれ、これはこれってことで」
「場所が場所だけに、用心棒として連れて来たようなものだろうな……ふぁ~……眠い」
「ま、麻子も京子も西泉さんも余裕過ぎない? 私なんて、ただでさえ薄暗くてちょっとホラーテイストでキツイのに。それに周りは「あぁん? 何見てんだコラァ!?」 ひぇっ、ご、ごめんなさいぃ!」
沙織ちゃん怖がって咄嗟に俺の腕にしがみついてくる……ちょっと役得。
そもそもの話し、ここまで怖がるようなこの子達がなぜ一緒について来ているのか。
最初は俺と柊ちゃんの2人で行くのかと思いきや、道中で他の子達と合流して向かうと柊ちゃんに言われたのだ。
彼女が言うには最終章でもやったように事前にレーダーで戦車を見つけて、それを探しに行くという理由であんこうチームを巻き込んで行くことにしたらしい。
出来れば原作と同様の流れの方が、穏便に話しも進むかもしれないと考えての事だとか。
その“原作と同様の流れ”で考えれば、隊長の柊ちゃんがみほちゃんと同じことをすることになるのだが。
さっきの「何かあったらよろしく」という言葉から察するに、絶対俺に丸投げするつもりだろう。
正直、面倒臭い。
「(というか同じ流れに持っていくとしても、最終章の時は桃ちゃんの留年騒ぎがあったから力を貸してくれる気になったようなもんだろ)」
今のこの時期、まだ桃ちゃんの留年騒ぎは起きていない。
だからその話題を使い、桃ちゃんに恩のあるサメさんチームの皆を引き込むのは出来ないのだ。
「(どうするつもりなんだ? 柊ちゃん)」
そう思いながら歩いていると、通路に2人の船舶科の不良が立ちふさがった。
「ちょっと待ちな」
「断りもなく通るつもり?」
「学校の中を通るのに誰の許可がいるのよ!」
「(おー、最終章で見たなぁこの展開。しかもなんか見覚えあるし、多分最終章の時に出て来た2人か?)」
そど子ちゃんが不良2人と言い争っているのを眺めながら、唐突に発生した原作再現に少しだけ頬が緩む。
こういうのを見ると、柊ちゃんが原作に拘るのもよくわかる。
やっぱり俺も、柊ちゃんも、ガルパンが好きなんだなぁと改めて実感した。
と、頬を緩めている俺に気が付いたのか、不良2人の標的が俺の方に移ってしまった。
「さっきからニヤニヤと、なんだあんたは?」
「こんな所でデートですかぁ? 両手に花どころか、花束抱えてさぁ。ずいぶんとおモテになるようで」
ずんずんと2人が俺の方に歩み寄って来る。
俺の腕にしがみついていた沙織ちゃんが軽く悲鳴を上げて、俺を盾にするように後ろに隠れた。
「デートなら、もう少し景色の良い場所を選ぶよ。今日はちょっとこの先に用事があってな。なんなら2人が案内してくれないか?」
「はははっ! おいおい、聞いたか? こいつ、これだけ女連れてるのに、まだ足りないみたいだぜ!?」
「あたしら目の前にして、ずいぶん肝が据わってんな……舐めてんのか?」
「別に舐めてるわけじゃないんだけどなぁ」
ただ子供の頃からしほさんの怒りと拳骨を頻繁に受けていたせいで、この程度じゃ全然怖いと思わないだけで。
特にガチでキレた時のしほさんは、本当に殺されるんじゃないかってくらいに殺気が出てた気がする。
いや、転生して浮かれて自重を忘れていたとはいえ、ガチでキレさせることをしてた小さい頃の俺も相当馬鹿だったけどさ。
ともかくしほさんに比べたらこの程度、まったく脅威に感じられないのだ。
「……チッ。気にくわないねぇ、あたしらなんて怖くないってか?」
「おい、どうするよ」
「ふんっ、こういう奴にはお仕置きが必要さ。あたしらに楯突くとどうなるか、身をもって知ってもらうんだよ」
「へへ、いいねぇ。やってやろうじゃん」
「……へぇ、お仕置きねぇ。いったいどうするってんだ?」
確かこの後、そど子ちゃんが連れ去られる展開だったはずだ。
だけど今この2人の標的は俺になってるみたいだし、もしかしたら俺が連れ去られるのか?
「(そうなったらどうするかねぇ。振りほどく、というか捕まらないようにするのは簡単だけど、それだと話が進まなそうだし……まぁ、柊ちゃんは原作通りに進ませたがってたし、なんなら俺が囚われのお姫様、じゃなくて王子様役になるのも一興か?)」
そう考えながら相手の出方を窺っていると、2人の不良はバッと踵を返して走り去っていった。
「……え?」
「あ!」
「そど子!?」
去り際に、そど子ちゃんの両脇を抱えて。
「……そど子ちゃんが、連れ去られた」
「えぇ? あそこは俺にお仕置きする場面じゃないの? なぜに彼女が?」
「西泉さんだと、体格的に運ぶのが難しいと思ったんじゃないですか?」
「あぁ、なるほど」
「言ってる場合か。追うぞ」
予想外の事態に固まる俺達だったが、真っ先に駆けだしたのは麻子ちゃんだった。
なんだかんだで、やっぱり仲が良いんだな。
麻子ちゃんが走る背中を見て、俺達も駆け出した。
(あとがき)
Q:この時期ってまだ戦車道始まってから短い時期だと思うけど、戦車のレストアやカスタムってそんなに早く出来るものなの?
A:かつて西住の神童と呼ばれた西泉の腕と、原作チート自動車部の腕が合わさって成し得た事と言うことで。
必要な物資は柊と相談して、事前に購入しておいたという感じでお願いします。
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6作目。
なんだかここまで続くともういいかなぁと思って、短編タグ外しちゃいました。