No.110839

涼州戦記 ”天翔る龍騎兵”3章11話

hiroyukiさん

3章11話です。
12月に入り年末の忙しい日々が始まっていますが皆様いかがお過ごしでしょうか?
今回は区切りのいいところまでという風にした為少し長くなりました。
それではあとがきでお会いしましょう。

2009-12-06 17:35:29 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:6831   閲覧ユーザー数:5401

第3章.過去と未来編 11話 ホウ徳との別れ

 

馬騰は今青州済南の城を望む丘の上に居た。

 

郭嘉と程昱の制止を振り切って出陣した馬騰は逸早く済北太守鮑信の居城へ到着していた。

 

ここで曹操との合流をと考えたのだが、ちょっと問題があり済南まで偵察にきていた。

 

汜水関における混成軍殲滅戦で唯一生き残った太守鮑信は馬騰と涼州騎馬隊がトラウマになっており、馬騰が到着してより私室に引き篭もってしまい政務が滞ってしまったのだ。

 

鮑信の部下に泣きつかれた馬騰が激怒し「そんな根性で太守やってられるか!!」と私室に殴りこもうとしたのを流石にそれは拙いとホウ徳と馬岱が必死に止め今に至る訳である。

 

「へぇ~、よく見えるわ。一刀君がくれたこれ、けっこう役に立つわ。」

 

木の陰から望遠鏡で城の中を覗く馬騰。

 

そこにホウ徳がやってくる。

 

「菖蒲様、ここに居たんですかって何してるんですか?」

 

「ん~、伯?城をこれで覗いてるのよ。」

 

「?何です、それ?」

 

「一刀君にもらったの、遠くの物がよく見える道具。確か…望遠鏡とか言ったわね。」

 

「そんなに見えるんですか?」

 

「うん、城壁に居る兵の顔がわかるわ。」

 

「そんなにですか?…見せてくださいよ。」

 

「だ~め、今私が見てるの。」

 

「そんなこと言わないで、ちょっとですから。」

 

 

 

ホウ徳、字を令明、真名を伯と言う。

 

五胡との戦いにより戦災孤児となるも馬騰の夫、馬超の父である董和に育てられる。

 

武を馬騰に、学問を董和に学ぶ。

 

やがて董和の副官となるも突如侵攻してきた五胡の大軍との戦いで董和は死にホウ徳は大怪我を負う。

 

傷が癒えた後、馬騰の副官となり、今に至る。

 

文武にバランスの取れた将として評価されており、史実同様忠節の士である。

 

因みに一刀の武と馬術の先生でもある。

 

 

しぶしぶと馬騰より渡された望遠鏡を覗くホウ徳。

 

「はー、驚いた。ほんとによく見えますな。偵察部隊に支給すれば大分役に立ちそうです。」

 

「ええ、一刀君もそのつもりらしいわ。」

 

「しかしこういうものを見せられると改めて一刀は天の御使いなんだと痛感しますな。」

 

ホウ徳は望遠鏡から目を離し馬騰の方を向く。

 

「ふふ、あの子は普段が普段だからね。ところで何か報告でもあるの?」

 

「はい、済北方面に放った斥候が曹操軍を確認しました。数およそ3万、後数刻で着くとのことです。…」

 

「やれやれ、やっとお出ましか。んっ?どうしたの伯」

 

報告した後、ホウ徳が納得いかないという顔で自分を見ていることに馬騰は気づく。

 

「菖蒲様、どうしても曹操殿と合流するのですか?このまま合流せずに偵察を続けるというのでは駄目なのですか」

 

「稟ちゃんも風ちゃんも反対してたけど、伯も反対?」

 

それまでの無邪気な顔を仕舞い、真剣な顔でホウ徳に問う。

 

「賛成か反対かと言われれば反対です。相手が巨高様なら反対しませんが孟徳殿は乱世の奸雄と噂される人物、そんな人物の元へ赴くなぞ危険すぎます!」

 

「許子将の曹操評ね。でもその前に治世の能臣とあるわ。ふぅ~、華蓮、巨高に頼まれたのよ」

 

許子将の曹操評を伝え聞いた曹嵩が娘の将来を案じ、馬騰に自分に何かあった時には宜しくと頼んでいたのである。

 

本人は余り気にしておらず、そのことを馬騰は曹嵩に言ったのだが

 

「何言ってんのよ!私のかわいい華琳ちゃんが奸雄などと言われるなんて私が許さないわ!!」

 

と言われ押し切られたのだ。

 

しばらく見つめあっていたのだが、ホウ徳は大きな溜息を吐いた。

 

「はぁ~、菖蒲様は言い出したら聞きませんからな。わかりました」

 

「あはは、大丈夫よ。あの子も馬鹿じゃないんだから。さあ、行くわよ」

 

豪快に笑い飛ばすと馬騰はホウ徳に背を向け繋いである自分の愛馬のところへと歩き出す。

 

残ったホウ徳は小さな溜息を吐きながら蒼天の空を見上げる。

 

「兄者、兄者は守れなかったが菖蒲様は我が身を盾にしても守ります。我が命で足りない分はどうか手助け願います」

 

と呟くとホウ徳も自分の馬のところへと駆け出して行った。

 

 

数刻後、済南の城から5里の地点に到達した曹操軍は、右前方から砂埃を立てて接近してくる約千騎の騎馬隊を発見すると進軍を停止し迎撃の為方形陣へと移行する。

 

「砂埃?どうやら騎馬隊のようね」

 

曹操の呟きを聞き傍に居た夏侯惇が兵に問いかける。

 

「旗は見えるか!」

 

「馬の牙門旗が見えます!」

 

「華琳様、馬騰のようです」

 

兵を問いただした夏侯惇が曹操へ告げる。

 

「さて、いよいよ後戻りできない覇道の1歩を踏み出すわけね。春蘭、秋蘭、馬騰を出迎えるわよ、付いて来なさい」

 

「「はっ!」」

 

曹操は馬騰を出迎えるべく夏侯惇、夏侯淵を引き連れ、陣前方へと歩み出す。

 

「へぇ~、よく調練されてるいい軍じゃない!」

 

馬騰は曹操と合流するべく騎馬隊を引き連れ曹操軍へと向かっていたが自分達を察知すると瞬く間に方形陣へと移行する曹操軍に感嘆の声を漏らす。

 

そこに馬岱が横に並びかけてくる。

 

「伯母様、用心だけはしてくださいね。伯母様になにかあったらお姉様に怒られるんだから」

 

先に済南に来ていた馬騰達は当然遊んでいた訳ではなく周辺に偵察部隊を送り探っていたのである。

 

その結果、青州黄巾党が集結していた済南の城と曹操軍との間に何度かの人の行き来を確認していたのががそこまでで大義名分となるような確たるものは見つけられずにいた。

 

流石は曹操、荀彧というところであるが唯、曹操軍に不穏な動きがあることだけは隠せなかった。

 

「蒲公英も心配性ね。大丈夫だって。」

 

馬騰自身もこれが虎口の中に飛び込むようなものであることはわかっていた。

 

だがそれ以上に好敵手とその娘のことを信じていた。

 

正々堂々、真正面からの激突を常に望む彼女ならこの場面で手を出すことはしない、そしてその彼女が育てた娘なら同じように手は出さない、母の誇りにかけて。

 

それ故馬騰はここである提案を曹操に告げるつもりであった。

 

騎馬隊を率いてきた馬騰は曹操軍の手前で停止すると1騎のみで近づく。

 

「予州州牧、馬騰。援軍として只今着陣、曹操殿に取次ぎ願いたい!!」

 

馬騰の着陣を伝える声が響く中、曹操が夏侯姉妹を引き連れ馬騰の前へと出てくる。

 

「馬騰殿!此度の助勢感謝する。遠路遥々お疲れでしょう、ごゆるりとされるがいい。」

 

と曹操が言うとともに後方で方形陣を敷いていた曹操軍は一斉に左右が展開し馬騰達を包囲していく。

 

馬騰の後に控える騎馬隊は包囲されようとしていることに狼狽し乱れようとするが

 

「動くな!!」

 

馬騰の一喝により平静に戻る。

 

後に向かって一喝した後、馬騰は曹操の方に向き直ると曹操に歩み寄っていく。

 

そうこうしている内に包囲は完成し、辺りに静寂が訪れる。

 

 

その少し前、馬超達は郭嘉を連れて傍にある辺りを見回せる小高い丘に着いていた。

 

「ふう~、やっと曹操に追いついたぜ。母様はっと…!!」

 

馬上から曹操軍を望んでいた馬超は視線を右に動かしてすぐ止まった。

 

なんと曹操軍の前に既に馬騰達は来ており、よく見ると1騎だけその前方にいて下馬していた。

 

「あれは…菖蒲様!!なんて無茶を」

 

馬超が一刀より預かってきた望遠鏡を覗いていた郭嘉が絶叫する。

 

そうこうしている内に曹操軍は方形陣を展開し馬騰達を包囲していった。

 

「やばいぞ稟、すぐ助けに行かないと」

 

「翠殿、お待ちを。いくら翠殿とはいえ闇雲に突っ込んだ処で跳ね返されるのがオチです。それに菖蒲様が勝算も無しにあのような無茶するはずがありません。すぐにどうこうされる恐れはないはずです。ですから先ずは落ち着いてよく状況を確認しないと」

 

目の前の光景を見て慌てる馬超を郭嘉が静かにしかし強い威圧を持って落ち着かせる。

 

「あ、ああ。すまん稟」

 

「いいんですよ。落ち着いて状況を確認すれば必ず活路が開けます。その為に私が付いて来たんですから」

 

と言うと郭嘉は再び望遠鏡を覗き始める。

 

「ふむ、あそこにいるのが曹操とおそらく夏侯姉妹…ということは…なるほど…で、こっちは…となれば…!」

 

しばらく望遠鏡で眺めていた郭嘉はなにやらわかったようだ。

 

「翠殿、策は決まりました。」

 

先ず郭嘉は曹操の陣形について説明を始める。

 

曹操と馬騰達を中にして長円状に包囲しているが全て均等という訳ではない。

 

曹操のすぐ両側が一番厚くそれから徐々に薄くなりつつ包囲しており最遠部、曹操の反対側は騎馬隊となっている。

 

もし馬騰が曹操に襲い掛かろうとしたなら両側の兵が横に動いて壁となって防ぎその間に後方の部隊が包囲を縮め圧殺する。最遠部の騎馬隊はすばやく包囲する為でその機動力を生かした配置と言える。

 

これが歩兵部隊や普通の騎馬隊なら終わりと言えるだろう。

 

しかしと郭嘉は続ける。

 

「しかしあそこに居るのは唯の騎馬隊ではありません。大陸最強涼州騎馬隊の中でも精強中の精強と言える菖蒲様直属の千騎です。それを相手するにはあの騎馬隊では脆弱すぎます。翠殿は曹操の真後ろ、この陣形ではあそこが一番薄くなります、ここから突入し菖蒲様を救出後、そのまま千騎とともに後方の騎馬隊を突破してください。突破したら右に曲がってしばらく行けば峡間がありますのでそこを抜けてください。翠殿達がそこを抜けたなら岩や木等を落として道を塞ぎます。そうすれば引き離せるでしょう。」

 

郭嘉の説明を聞き馬超は大きく頷く。

 

「よし、じゃあお前達はあたしといっしょに母様を助けに突入、稟といっしょに来た奴らは稟が指揮して道を塞ぐ用意をしてくれ。」

 

「「「応!」」」

 

馬超は部下達と共に途中で奪ってきた曹操軍の鎧を身に纏うと馬に乗り静かに曹操軍へ向けて馬を歩ませて行き、それを見届けた郭嘉達は峡間へと向かって馬を走らせ出した。

 

 

曹操に向かって歩んでいた馬騰は曹操までわずかの距離まで近寄って停止する。

 

「曹操、いや華琳ちゃん、どういうことかしら?」

 

「…菖蒲様、申し訳ありませんが我々の準備が整うまで人質になってもらいます。」

 

それを聞いた馬騰は悲しそうな顔になる。

 

「やれやれ、華琳ちゃん。どうしてもやるつもり?」

 

「はい、菖蒲様のやり方では元の漢王朝に戻るだけ、また同じことが起きます。漢王朝は腐りきってどうにもなりません。新たな勢力により新たな統一国家を築かない限りこの大陸に平和はきません!」

 

曹操の話をじっと聞いていた馬騰は首を振りながら言う。

 

「華蓮の心配してた通りになったわね。華琳ちゃん、本音は違うでしょ?あなたがあなた足る由縁、その有り余る覇気を自分自身でも抑えきれなくなったんでしょう。」

 

「なっ!?」

 

曹操は内心を見透かされたことに驚くが表情は崩さない。

 

「やっぱりこうなったか…華琳ちゃんそんなまどろっこしいことはやめなさい。代わりにあなたの軍3万を私の1万騎で相手してあげるわ。」

 

「なんですって!」

 

「ああ、安心しなさい。月、董卓にも劉備にも手は出させないわ。どう?」

 

この馬騰の言に曹操は怒りの表情で

 

「菖蒲様、私が手塩にかけた軍をなめてるのですか!?陶謙のとこのような柔な軍ではありませんよ!!」

 

だが馬騰はそれを平然と受け止めると闘気を全開にする。

 

「ふっ、…小娘が何を言うか!!!!五胡の兵どもを相手に練磨した我が1万騎、中央の柔な兵がいくら調練したとて何程のものか!!!!!!」

 

「うっ、ううう」

 

闘気を全開にした馬騰の威圧は凄まじく曹操、夏候姉妹はもちろんのことその場に居た全ての曹操軍兵士は動けなくなっていた。

 

その時、馬超は曹操の後ろにそろそろと接近していたのだが突然発せられた馬騰の闘気にこちらも当てられていた。

 

「うっ、母様。相変わらずだな」

 

だがやがて闘気は抑えられ、曹操軍の兵士は緊張が解けたようにガクッとなっていた。

 

それにより周りの曹操軍兵士に気取られず近くまで接近できた馬超だが、前に居る曹操軍の鎧を着た兵士に違和感を感じる。

 

馬騰の威圧を受けて動けなくなっていたのは同じなのだが、闘気が抑えられて他の兵士が力が抜けたように脱力していたのにその兵士は顔を振ると馬騰と睨み付けた後、なにやら考え込んでいるようだった。

 

 

闘気を抑えた馬騰はあれ?という顔で周りを見ていた。

 

「う~ん、最近の中央の兵は軟弱になったものね~…んっ?」

 

周囲を見回していた馬騰は曹操の後ろで視線が止まった。

 

騎馬が目に入ったのだがよく見るとそれは馬超だった。

 

「あら、翠じゃない?何してるのか・し・ら…!!」

 

曹操の後ろに馬超を認めた馬騰だったが馬超の前にいる兵士が自分を見ているのに気づく。

 

なんだろう?と思っているとその兵士はこちらに向けて弓を構えだした。

 

自分を狙ってるのかと一瞬思ったが弓の狙いが違うことに気づいた。

 

違う、曹操を狙っている!!

 

次の瞬間、馬騰の体は動いていた。

 

瞬動の如き速さで曹操の懐に入り込むと右手を振るい曹操を右に弾き飛ばしていた。

 

「きゃっ」

 

ドスッ

 

「ぐっ」

 

夏侯姉妹は何が起こったか分からず唖然とし、周りはし~んと静まり返った。

 

「いきなりなにをす・る・の…な、なんなのよこれは!」

 

吹き飛ばされた曹操は怒りを滲ませた顔を馬騰へと向けるがそこに信じられないものを見る。

 

馬騰の胸に矢が刺さっていたのである。

 

「…ごめ・んね、華・琳・ちゃ・ん。じ・かんが・なかった・のよ」

 

曹操の方へと痛々しい笑顔を向ける馬騰。

 

「ちっ、まあいい。馬騰とどめ、ぐわぁっ」

 

「母様!!」

 

刺客が馬騰に止めの矢を放とうとするが突っ込んできた馬超により一撃で絶命させられる。

 

曹操軍を突破した馬超は馬騰の傍まで馬を走らせると飛び降り馬騰に駆け寄る。

 

「母様!一刀ごめん、間に合わなかった…」

 

「…くっ、まだ死んでないわよ」

 

苦笑いを馬超に返すが、馬騰は苦しげにガクッと片膝を地面に付ける。

 

「くっ、咄嗟に硬気功で致命傷は防いだけど…」

 

「母様、ここは引くよ。おい、母様を馬に、あたしの後ろに乗せて落ちないようにあたし諸共縛るんだ」

 

と言うと馬超は馬に乗り部下達は馬騰をその後に乗せ、縄で体を馬超ごと縛る。

 

 

そうしている内にホウ徳や馬岱が騎馬隊を引き連れやってきた。

 

「翠殿!菖蒲様は、菖蒲様は無事ですか!!」

 

「お姉様!伯母様は大丈夫なの!?」

 

慌てた様子で聞いてくるホウ徳、馬岱。

 

「致命傷じゃないけど重傷なのは確かだ。一刻も早く手当てをしないと」

 

とその時左右の曹操軍より声が聞こえてくる。

 

「曹操様が襲われたぞ!!奴らを生かして帰すな!!」

 

「押し包んで奴らを討ち取れ!!」

 

馬騰の尋常じゃない闘気に中てられていた曹操軍兵士達だが、そこは流石曹操が鍛えた兵士達、主が襲われたとの声に瞬時に正気に戻り馬超達を討ち取らんと押し寄せてくる。

 

唯、馬騰の闘気が利きすぎたのか暴走ぎみであったが。

 

「なっ、誰が討ち取れと言ったか!!春蘭、秋蘭すぐ止めなさい!」

 

「「はっ!」」

 

しかし残念ながら止まらない。

 

今回出陣した曹操軍3万の内5千は反董卓連合戦後に徴兵した兵で調練がまだ完全に終わっていなかった。

 

またその他5千は主に陳留の警邏の経験しかなく本格的な大軍の戦いの経験がなかった。

 

その為、刺客の仲間に煽られた新兵が暴走しそれに引きずられるように経験不足の兵も暴走してしまった。

 

経験を積ませる目的で新兵や経験不足の兵を連れてきていたのだがそれが徒となった。

 

「くそ!このままじゃまずい。伯、蒲公英、後方の騎馬隊を一点突破して包囲を脱するぞ!」

 

馬超はホウ徳と馬岱にそう告げるが、ホウ徳は周りを見回した後、部隊長達を見る。

 

すると部隊長達はホウ徳と視線を合わせると頷いた。

 

「翠殿、蒲公英と共に5百騎を率いて後方を突破してください」

 

ホウ徳は淡々とした口調でそう言うが驚いた馬岱が問い質してくる。

 

「えっ、伯兄様達は?」

 

「我らはここに止まり時間を稼ぐ。時間がない!急げ!!」

 

「そんな!!死んじゃうよ」

 

馬超も馬首を返しホウ徳を見つめるが、苦痛に満ちた顔で

 

「…わかった。蒲公英行くぞ!」

 

「お姉様!伯兄様達が死んじゃうよ」

 

「うるさい!!…こうするしかないんだ。ぐずぐずするな!!行くぞ」

 

再び馬首を返し行こうとする馬超にホウ徳達が最後の声をかける。

 

「お嬢!一刀に伝えてくれ。我らの希望をお前に託すと」

 

「菖蒲様に申し訳ありませんと謝っといてください」

 

「蒲公英!元気でな、悪戯ばかりしてないで腕もちゃんと磨けよ」

 

その声に馬超は振り返らず俯きながら5百騎と共に後方の曹操軍騎馬隊へ向けて突撃する。

 

 

それを見送った後、ホウ徳は部隊長達の方を向く。

 

「さて、それでは董和様の下へ赴くとするか。だがその前にこの馬鹿どもに涼州騎馬隊の恐ろしさを思い知らせてやらねばならんな。閻行、お前は2百騎で右を叩け。辺章は同じく2百騎で左を、残りは俺とともに後方に突撃、曹操殿の心胆を寒からしめてやろう。行くぞ!!!!」

 

「「「「「応!!」」」」」

 

それから曹操軍の新兵達は地獄を味わうことになる。

 

大陸最強の涼州騎馬隊、その中でも精強中の精強である馬騰隊で中核を担っている5百騎がその威力を遺憾なく発揮した。

 

暴走した為連携が取れてない新兵は数の暴力で襲い掛かろうとするが、左右に分かれた2隊はそれぞれ弱そうな所を瞬時に見抜くとそこに突撃をかけ兵を吹き飛ばし、踏み潰し蹂躙していく。

 

阿鼻叫喚の地獄絵図

 

新兵達に血の雨が降る

 

だがやはり数の暴力には勝てず1騎減り2騎減り、数刻後新兵2千の死傷者を積み上げて全滅した。

 

ホウ徳は残り百騎とともに曹操目掛けて突撃した。

 

瞬く間に曹操の前に兵の壁が出来ていたが躊躇することなく突っ込み馬騰には劣るものの普通の騎馬より遥かに強力な突撃力を発揮し兵を吹き飛ばした。

 

しかし兵の壁は厚く突進力は弱められ1騎、2騎と討ち取られていく。

 

ホウ徳は槍を振るい前へ前へと進んでいく。

 

兵の壁を突破した時、百騎は全滅しホウ徳は深手を負っており馬も傷つき倒れていた。

 

その代わり、壁となった親衛隊も大打撃を受け、3分の1が死傷しており、隊長である許緒、典韋も怪我を負って動けなくなっていた。

 

「皆逝ったか、兄者もういいですよね」

 

前を見ると曹操と夏侯姉妹が居た。

 

「馬寿成が家臣、ホウ令明、曹孟徳、我が槍を受けよ!!」

 

ホウ徳は槍を構えると曹操目掛けて疾駆する。

 

曹操の横に居た夏侯惇が無言のまま前に進み出て剣を構える。

 

「…」

 

ホウ徳は疾駆しながら思っていた。

 

「(兄者、今回は守るべき者を守ることができたようです。褒めてくれますか)」

 

夏侯惇とホウ徳が交差する刹那、一筋の光が走る。

 

ホウ徳は倒れながら呟いた。

 

「巨・高様…あなた…のご息女に…槍を・向け・た・こと・お・許し…ください」

 

倒れたホウ徳は満足そうな笑みを浮かべており動くことはなかった。

 

ここに涼州騎馬隊の中核は壊滅した。

 

「秋蘭、…この勇者達を丁重に葬りなさい。くれぐれも粗末に扱うことのないよう厳命しなさい」

 

「はっ」

 

そこに騎馬隊からの伝令がやってくる。

 

「申し上げます、百騎ほど討ち取りましたが馬超以下4百騎に包囲を突破されました。残存の8百騎が追撃しておりますが…」

 

「追撃は無用よ。ただちに引き上げるよう伝えなさい」

 

「はっ」

 

礼をすると伝令は馬に乗り駆けて行った。

 

曹操は空を見上げ呟く。

 

「お母様、私は間違ってるの?」

 

答える者は無く、荒野には風が吹いていた。

 

 

その頃、曹操軍騎馬隊を突破した馬超達は右に曲がり、峡間目指して馬を走らせていた。

 

今ここには馬超、馬騰、馬岱他百騎しかいなかった。

 

普通なら突破後、全速力で駆ければ曹操の騎馬隊に追いつかれるようなことはなかったのだが、重傷の馬騰を連れている為速度が上げられず追いつかれてしまったのだ。

 

止むを得ず3百騎ほどが反転し足止めを行うべく突っ込んでいった。

 

「ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょう!!もう少し早く来ていれば」

 

「お姉様…」

 

しばらく駆けると目の前に峡間が見えてきた。

 

「お姉様、峡間が見えてきたよ。あれ?あれ、稟さんじゃない?」

 

峡間の入り口付近に郭嘉が数名の部下とともに居た。

 

峡間へと先回りしていた郭嘉は部下を指揮して峡間を塞ぐ準備をしていたが、準備が終わり馬超達をまだかまだかと待っていたところやっとこちらに向かってくる馬超達を認めた。

 

しかし望遠鏡で確認すると馬騰らしき人が馬超と2人乗りしており、その上付き従ってくる騎馬の数がどう見ても百騎ほどしかいない。

 

これはなにかあったと判断し馬超に聞くべく入り口まで下りて来ていた。

 

「翠殿!!」

 

「稟!」

 

馬超は郭嘉の傍まで来ると馬を止め、後続の騎馬もそれを倣って停止する。

 

「翠殿、何があった…菖蒲様!どうしたんですか!?」

 

「稟、すまん。間に合わなかった、矢を受けて重傷なんだ」

 

馬騰は気を失っており無言だった。

 

「翠殿、取りあえず峡間の向こう側に行きましょう」

 

郭嘉は馬騰重傷の報に狼狽しかけたが即座に冷静さを取り戻し峡間の向こう側へ移動し始めた。

 

移動し終えた馬超達は一旦馬騰を降ろし傷の具合を見た。

 

矢は左胸に刺さっていた。

 

しかし豊かな乳房と咄嗟の硬気功により心臓までは届いておらず致命傷にはなっていなかった。

 

しかし重傷は間違いなく一刻も早く医者に見せ矢を抜く必要があった。

 

「ところで翠殿、他の者達は?それに伯殿の姿が見えませんが…」

 

馬騰の容態を診てほっとした郭嘉が馬超に疑問を問い質す。

 

「伯は、伯達5百騎は包囲を突破する時間を稼ぐ為…その場に残った」

 

 

馬超は俯き両手をギュっと握り締めながら事と次第を郭嘉に説明していく。

 

「…多分、追撃の足止めに残った3百も…」

 

郭嘉も悲痛な顔になっていく。

 

とその時崖の上に居た郭嘉の部下がやってくる。

 

「郭嘉様、砂埃がこちらに迫ってきます。おそらく騎馬隊と思われます」

 

「なに!追撃部隊か!?」

 

部下の報告を聞いた郭嘉は徐に望遠鏡を取り出し峡間の向こう側を見る。

 

確かに砂埃がこちらに向かっている…しかし

 

「いえ、あれは我が軍の騎馬です」

 

やがて肉眼で見えるようになってくると馬超が喜びの声を上げる。

 

「あれは…足止めに残った奴らだ!」

 

続々と馬騰軍の鎧を着た騎馬は峡間を越えてやってくる。

 

最終的にやってきた騎馬は2百騎ほどで2人乗りした騎馬もおり総数で250名ほどが帰還したことになる。

 

戻ってきた者の話を聞くと約8百の騎馬隊に3百で突っ込んだが、いくら鐙を装備し個々の能力では上でも数には勝てずこのまま全滅するかと思われたがやがて伝令がやってくると曹操軍はすぐさま引き返して行ったとのことだった。

 

「稟、奴らどうしたんだろうな?」

 

「多分、伯殿達が助けてくれたんですよ」

 

ホウ徳達がかなりの打撃をあたえたのだろう。

 

曹操軍も騎馬隊は持ってるものの2千がいいところだ。

 

追撃をかけてその半数が壊滅しては目が当てられない。

 

だから温存することも考えて追撃をやめさせたのだと郭嘉が馬超に説明する。

 

「そうか、伯達が…よし、予州に急いで戻るぞ。全軍を纏めて曹操の迎撃だ!」

 

生き残った3百騎を引き連れ馬超は予州へと急いだ。

 

 

<あとがき>

 

どうも、hiroyukiです。

 

今回はまた遅れてしまいました。

 

仕事のこともあり、しばらくはこのペースで更新することになりそうです。

 

さて対曹操パート最初の激突です。

 

区切りのいいところまで書こうとした為、いつもよりページ数が多くなりました。

 

ホウ徳が死んでしまいました。(殺したのは私ですが)

 

あまり活躍させてあげられなかったのが残念ですが最後に少しは見せ場が作れたのかなと思っています。

 

史実では最終的に曹操に仕えて関羽に敗れ死にましたが、本作では馬騰に仕えたまま曹操との戦いで命を失いました。

 

はたして彼にとってどちらが幸せだったのでしょうか?

 

それとそのホウ徳の部下という形で閻行と辺章が出てきましたがあまり深い意味はありません。

 

ああいう場面ではやはり名前で呼びたいなと思い、史実では馬超を半殺しにし、某サイトのSS(高○と言えばわかりますでしょうか?)で活躍しすぎた閻行とあまり有名ではありませんが韓遂らと後漢に反乱を起こしたもののその韓遂に殺された辺章を出してみました。

 

さて、馬騰軍は数はまだいるものの軍の中核が壊滅してしまいました。馬超、郭嘉、程昱はどう立て直すのか 乞うご期待!

 

では、あとがきはこのくらいにしてまた次の更新(最低でも年内に1回はするつもりです)でお会いしましょう。


 
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