No.110787

~薫る空~47話(洛陽編)

47話。
薫が見たものと洛陽の様子。
ちなみに時間軸はあってますので、おかしく感じた方は次回までお待ちくださいorz

2009-12-06 10:49:27 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3478   閲覧ユーザー数:2888

 

 

 

 

 

 馬の足音が連続して響き渡る。早く前へ、前へ、前へ。その気持ちを体現しているように、兵達はその歩をさらに早める。眼前に広がる砦。あれを落とすことが今の最も重要な事。抵抗はあるだろう。たとえ呂布という大きな壁がなくとも、その門の堅さは歴史が物語っている。都へと群がる敵を押さえ込む壁が、この山に囲まれた地形の中に、そびえ立っていた。

 馬に乗っているとはいえ、これだけの速度を出していれば、乗っている人物にも負担はかかる。その例に漏れず、薫もすでに息が切れ始めていた。

 口から吐かれる息が、少し白くなる。それが一定の間隔で生まれては消える。

 少し前に戻った意識。そこは、最後に覚えている場所から、遥かに前へと進んだ場所にあった。

 以前ならまた混乱していた状況だが、薫はそれを受け入れることが出来た。

 意識のない間は、夢を見るはずだったのだが、今回のそれは少し違っていて、真っ暗な深層意識の中で、薫は知った。

 そこにあるもうひとつの存在。

 表と裏は常に互い違いに存在していて、それらが出会うには、自らの内側でしかありえない。唐突過ぎた初対面は、以前見た夢を思い出させた。

 やはり同じように真っ暗な中で、誰かが泣いていた夢を見た。その顔はよく見えなかったが、最後に聞いた声とその気配はまったく同じもので、その姿がまさか自分と同じだとは文字通り夢にも思わなかった。

 彼女が見せてくれた思い出は、ほんの数日分のものだった。彼女が許昌で、華琳や一刀達と出会ってからの数日。それは彼女の人生の終わりまでの数日。 

 その数日のために生きてきた約二年間と、華琳達のために生きた最後の数日間。

 そのために暴走した、望まない力。

 そして、今度は、彼女自身のほんの少しのわがまま。

 でも、そのわがままは、同時に薫自信が望んだことでもある。

 彼女の思い出は、同時にすべての物語を教えてくれた。向かうべき終端とその過程。そこから生まれた結果と願望。それらが結び起こした悲しみと命。そして、できるならもう一度という、ひとつのわがまま。

 

 

 ――薫side

 

 

 あの時、彼女はあたしを知っていた。一刀に関わることのなかったあたしを、外史の記憶として、知っていた。そして、そのあたしの存在が彼女の存在を否定した。彼女が持っていた司馬懿の記憶は、あたしの記憶。

 自分の居場所だと思っていたそこには、あたしがいた。

 なんで、今更こんなことを教えるのか、理解できなかった。今まで散々勝手に前へ出てきたのに。どうして急に、当然のように、そんな疑問はあたしの中からついて離れなかった。

 「お前が私の居場所を奪ったんだ」といわれているようで、ひどく気分が悪かった。だってあたしは知らない。そんなもの、知るはずがない。あんたが誰で、何を知って、何をされて、どうしてここにいるのかなんて、あたしは知らない。

 迷惑なのはあたしのほうだ。知れば知るほど、今こうしているのはあんたのせいじゃない。あんたがあたしの中にいるから、あたしは望まない戦なんかに関わって、呉なんかにいって、こうして軍なんか引き連れて。

 あたしがいつ軍師になりたいって望んだのよ。勝手な事しないで。一刀が消える?華琳の覇道?そんなの知らない。あたしは春蘭達とは違う。望んでここにいるわけじゃない。一刀みたいに受け入れるような頭は持ってない。

 あんたは帰りたいかもしれないけど、あたしはここに住んでいるのよ。居場所があるのよ。あんたはあたしだと言ったけど、違う。

 華琳のために生きているあんたと違って、あたしはあたしのために生きてるのよ。

 彼女の記憶を知って、気が付けば、あたしはそんなふうに叫んでいた。

 今までぐちゃぐちゃにされた不満をすべてぶつけるように、彼女へと向かって。

 なのに、彼女があたしに言ったのは一言だけ。

 ――小さい声で、ごめん、とそれだけだった。

 

 

 

 

 

 一度言った言葉は戻せない。感情がどんどん昂ぶっていって、気づけばあたしは、彼女の生き方まで、否定していた。反論しない彼女が腹立たしくて、押さえがきかないほどに、頭に血が上っていた。

 嫌だった。

 自分と同じ姿で、自分の存在を否定するような彼女のやり方が、あたしには理解できないし、したくもなかった。自己犠牲といえば聞こえはいい。けど結局そこに自分が存在しないんだから、あたしは認めたくない。

 あたしにこれだけ否定されているのに、彼女はまだ、何も言わない。

 間が生まれて、あたしは耐えられずにまた彼女を否定しようとした。けど、その言葉が出る前に、彼女に遮られた。

 

 

【カオル】「……だから、手伝ってくれないかな」

 

 

 笑いながらそう言った。

 

 

【薫】「なんで笑ってんのよ」

【カオル】「え…あ、ごめん」

 

 謝りながら、笑顔は直らない。

 

【カオル】「先生と知り合う前の私とよく似てると思ったら、つい」

【薫】「先生って……あぁ、一刀のこと…ね」

 

 

 

 一刀と知り合う前の彼女。つまりは、彼女自身が生まれて間もないころということだろう。

 学校というところに入って、一刀と関わっていって、自分の事であたまがいっぱいだった頃から、変わったらしい。

 でもだからって、自分が消える運命なんていわれて受け入れられるだろうか。

 あたしには無理。

 だって、あたしはあんな光景を見せられても信じられていないんだから。

 

【カオル】「う~ん、なんて言えばいいのかな…」

【薫】「……」

 

 何を伝えたいのか、彼女はしきりに悩んでいる。

 

【カオル】「私のアレ、見たよね?」

【薫】「うん」

【カオル】「コレ、もう何かわかってるよね?」

 

 そう言って手のひらを上に向けて、青いような光をだす。

 

【薫】「うん、外史を形作ってる何か…だっけ」

【カオル】「そうそう、それで、せんせ……一刀がどうなるか、とか、華琳がどうなる~とか、わかったよね?」

【薫】「まあ、わざわざ見せもらったし」

【カオル】「で、なんか思わない?」

【薫】「……別に。関係ないし」

【カオル】「なんで!?思うでしょ!普通、うわぁかわいそう…とか!助けてあげたい!とか!」

 

 

 急に詰め寄ってくるカオル。

 

【薫】「可哀想とはおもったけど、だってあんたここで、覚悟きめちゃってるし」

 

 さっきまで見ていた光を指す。そこには、窓に向かって何か呟いているカオルの姿があった。

 

【カオル】「え、と…たしかにそうなんだけど…」

【薫】「しかもこの後…」

 

 映像を早送りして、一刀とカオルが寝台の中に入っている場面へと変わった。

 

 

【薫】「抱かれてるし……」

【カオル】「わあああああああ!!!!???これはだめええええ!!!」

 

 と、その場面が映った瞬間、顔を真っ赤にしてカオルは光をかき消した。

 一瞬の動きなのに、カオルは肩で息をするほど興奮していた。

 

【カオル】「くっ……もういい!こうなったら、あんたが協力したくなるようにするから!」

【薫】「え、ちょ、ちょっと!」

 

 

 捨て台詞をはいて、カオルはそのまま消えていった。

 

【薫】「なんなの……え」

 

 人の人生狂わせた割りには子供っぽい奴とか思っていたら、記憶を共有しているせいか、急に思い出したように、頭の中に浮かび上がってきた。

 

【薫】「当時●4歳って……まずいでしょ北郷せんせー」

 

 ジト目で散り散りになった光に映る一刀の顔を眺めた。

 

【薫】「――……消える…かぁ…」

 

 

 これがあの時のあそこでの出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

【桂花】「薫?」

【薫】「え、あ、なに?」

【桂花】「何じゃないわよ、前向いていないと危険よ」

 

 隣を走る桂花の顔が説教するときの顔になっていた。

 

【薫】「あ、うん。ありがと」

 

 慌てて前を向けば、門前にまで視界は迫っていて、既に城壁へと足をかけている兵もいる。

 

【桂花】「もう始まっているのだから、油断だけはしないで」

【薫】「うん」

 

 

 

 

 

 

 ――洛陽

 

 

【董卓】「え……」

 

 少女の顔が、何かが崩れ落ちたように、蒼白に変わっていく。

 目の前に立つ男によって、突然もたらされた知らせに、深い不安を覚え、膝を折る。

 

【李儒】「ですから、虎牢関は落ちました。お早くお逃げください」

【董卓】「そんな…」

 

 虎牢関が落ちた。先日の汜水関に続き、虎牢関までも。賈駆が向かったにも関わらず、その壁は簡単に崩されてしまった。

 何度も、その言葉が頭に響いてくる。

 虎牢関が落ちたということは連合軍は、この洛陽にまで向かってくるということだ。しかし、董卓―月が心配していたのは、そんな事ではなく、ましてや自分の身でもなく、戦に向かった皆のことだった。

 砦が落ちたのだから、つまりは敗北した。戦で負けるという意味を、幼いながらも理解はしている。

 無事でいて欲しい。

 望みの薄い願いだとしても、思わずにはいられなかった。

 

【李儒】「ここにいては、貴女の命も危うい。ですから――」

 

 李儒という男は、いつもこうして、董卓を動かそうとする。以前、賈駆が董卓に言っていたことある。李儒の言うことだけは信じるなと。

 今こうして、董卓の命を救おうとしているが、それは果たして誰のためだろうか。だが、少なくとも、董卓の為でないことは確かだろう。

 男の笑いは、常にそれを示している。悪ぶれもせず、隠そうともせず、その野心に近い何かを、惜しげもなく前に出しているこの男は何のために、董卓を利用するのか。

 董卓にそれを理解するだけの力はない。また、理解する気も必要もない。ただその真偽を見極めることが出来れば、それでよかった。

 李儒の狙いが何であろうと、董卓のすることに変わりはない。ただ、信を置く者達の帰りを待つこと。

 この暗く、堕ちた街でも、彼女達にとっては自分の住むべき場所。そこが居場所なのだから。

 だから、董卓は言う。

 

【董卓】「――逃げません」

【李儒】「な――しかし…!」

 

 詰め寄ろうとする李儒を、董卓は目で制止する。普段の彼女からではありえないほどの意思の強さ。それは、この街の太守になると決めたときと同じ瞳。皆を信じて、送り出したのだから、最期まで待ち続けることが、信頼の証。 

 ――最期まで。

 

【李儒】「――……わかりました。では、連合は私が迎え撃ちます。董卓様はここに」

 

 一礼し、そう告げた李儒はその部屋をでた。

 踵を返した時の表情は、普段の彼とは打って変わって、ひどく不愉快に歪んでいた。

 扉の閉まる音と共に、部屋には静寂が戻る。

 ――かつかつと、窓を叩く何かの音が聞こえた。細かく連続するそれらを確かめる。振り向けば、窓の向こう側が広がり、空は暗い雲に覆われていた。

 

【董卓】「……雨」

 

 静か過ぎない城内には、ただその雨音だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――虎牢関

 

 

 劉備軍、曹操軍によって突撃をかけられた虎牢関は、かなりの抵抗を見せた。攻城では、攻めに必要な兵は守りの三倍といわれているが、実質の兵数差は互いの三分の一程度の差しかなかった。

 さらに、虎牢関はほぼ真正面のみの防衛でことが足りてしまう上に、城壁もかなり高い。難攻不落と呼ばれた所以を、両軍の軍師勢はこれでもかというほどに味わっていた。

 そして、虎牢関城内。

 捕らえられた、華雄、張遼以外の将達がその場に集まっていた。

 

【賈駆】「そう……霞と華雄は捕まったのね」

【呂布】「……」

 

 呂布は返答に一度だけ頷く。その呂布の代わりとでも言うふうに、下のほうから、

 

「情けない話なのです」などと声が聞こえてくる。

 否定できないことに苦笑いになりながらも、賈駆は、駒の置かれた地図を見る。

 篭城戦とはいえ、外の情報はつかんでおかなくては話にならない。物見の報告では、曹操が前線にまで上がり、劉備と同時攻撃を仕掛けているらしい。相変わらず孫策、馬騰の軍は動きを見せない。後ろにいる袁術、袁紹、公孫賛も、ほぼこの攻めには加わっていない。前回の事もあって、特に公孫賛には気を配っているのだが、今回はほとんど動きはないようだ。

 

 

【賈駆】「…………」

 

 

 ―このまま門前で敵をなぎ払っていれば、いずれ決着はつく。けれど、それが出来るだろうか。あの連合軍相手に。

 

【賈駆】「違うわね。やらないといけないんだわ」

 

 ―そうだ。城内に篭れば、またこちらに分がある。兵数差なんて、まだ取り戻せるくらい。とにかくこの戦に勝つことが先決だ。霞と華雄を取り戻して、早く月の元に帰らないと。

 

 小さな決意だが、それは前を向くには十分な理由になった。

 

【賈駆】「……将が減ってから、篭城策を使うなんて、皮肉もいいところね」

 

 自嘲する賈駆の顔は相変わらず曇ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

ちょっと短かったかなとか思いつつ、あんまり更新しないのもアレなので、投稿しました。(´・ω・`)

 

それとなーくお話の核心に近づいていってます。

 

にしても進行ペース遅いや( ´゚д゚`)

 

 


 
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