No.1106363

百年前の轍を踏みしめて その弍 何卒不悪(なにとぞあしからず)

融志舫清さん

【鬼滅23巻までとFBのネタバレあり】閲覧ありがとうございます。7,782文字(16分)です。
その壱 あらすじ→【風屋敷の庭にある日突然、約百年後の平成時代に生きる同じ姓、同じ顔の警察官が現れます。その頃、冨岡さんは宇髄さん一家と何回目かの温泉に。痣の寿命のため結婚しないつもりの実弥さんは、自分はおそらくその人物の先祖の親戚だと伝えます。だけど、本当はおそらく子孫。父性ならぬ曾祖父性が芽生えてきつつある実弥さん。その頃、村田さんが新聞広告による金貸しの話に乗り…。】

オリキャラが二人出ます。その壱で後輩警察官の名前捏造ありです。実弘さんは子孫であるものの転生ではないはずという設定です。実弘さんの来た時代は幾星霜より数年前の平成。

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2022-11-07 14:37:43 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:356   閲覧ユーザー数:353

風屋敷の庭木の下にて発見され、目を覚ましてしばらく後、実弘は事実をおぼろげに理解していた。幸い身体は大丈夫だった。

…よくドラマや漫画であるやつだ。まさか自分が!!!江戸時代へ医者がタイムトリップするドラマ、あれ好きだったけど。

どうも予言みたいな能力があの輝利哉という子どもにあるらしい。元の時代に戻れるみたいだ。

大正時代。想像すらしたことがない。まるで江戸時代のような風景にちらっと洋風が混じる。

自身がタイムトリップした時の揺れについて、前年の大震災の余震ではないかと推定した。大震災の時は警察の同期で仲良かった奴が津波に流された。いまだ見つかっていない。確か大正にも大震災があったはずだ。あれは何年だったか…。日付は覚えている。防災の日9月1日だ。

「今は何年ですか?」と自分そっくりの男に聞く。

「大正6年だァ。」と自分そっくりの男が言う。

「大正時代で9月1日に大きな地震はなかったですか?」と聞いてみた。

「無かったぞォ。」

「それじゃ何年か後にくる。確かだ。大正は15年までだから、あと9年以内に。」いつのまにか敬語が無くなってるのと、喋っている事項の重大さに気づかず実弘は伝えた。

「何だそれェ。」実弥は、大地震のことや大正時代が予想以上に早く終わることに驚いた。

そして、その場にいた輝利哉が実弘そっくりの男に名前で呼ぶ。実弥と。聞くとその男は自分と同じ不死川という苗字だと言う。

この人はひょっとして…先祖か?その時からため口になった。そう思って後で実弥に聞いたが、即座に否定された。

 

「金を取り返すだけじゃねェ。詐欺師をこらしめてこれ以上被害が出ねェようにする。」

宇髄、冨岡が来た時、実弥は村田への協力を依頼した。村田は病気の親への仕送りで金が要る。わずかでも取り返したかった。

宇髄は実弥の提案に対して、「協力は惜しまねえが、前線には立てねえ。」と言った。

「実は、嫁の1人に子どもができてよ。元忍相手じゃあ前線に立ってどんな影響があるか分からん。」3人の嫁が一番大事という価値観の宇髄は万一でも妊婦を危険にさらしたくなかった。

「おめでとう。3人のうち誰だ?全くわからなかったが。」と冨岡がたずねた。

実弘は隣室で、え?この人、嫁が3人か?と驚いた。

「まきをだ。」宇髄は言った。

「おめでとうございます。」とパーっと顔を明るくして村田が言った。実弥も祝福する。

「不死川、その代わりといってはなんだが、ムキムキネズミを貸す。元忍の情報も集める。」

「俺はいつでも動ける。」と冨岡が言った。

実弘は隣室で、ムキムキネズミってなんだ?大正時代、ヤバすぎじゃね?と思った。

「ありがとうございます。皆さん。」村田は3人に感謝した。

「不死川さん、あの、ヒロさんというかたは?」と村田は実弥に聞いた。

「おう、ヒロ。呼んでるぜェ。」実弥は隣室に声をかける。だが、返事はない。

結局、実弘は皆の前に出られなかった。皆が帰ってから、実弥は隣室で、頭巾のまま固まってる実弘を見てため息をついた。

 

その後、宇髄からの情報で金貸しの居場所がわかった。宇髄が聞いたことのある名前の人物と一致するならそいつはおそらく元忍である。

元忍…。実弘は聞き慣れない言葉に首をかしげた。

「元忍者だ。」と実弥から教えられた。ちなみにムキムキネズミは知能も高く日本刀位の重さなら運べるネズミだという。

「はぁ…。」実弘は最早ついていけなかった。片目片腕の客人も元忍者だという。

元忍者。平成の特殊詐欺のトップと違う意味で捕まえるの難儀じゃねェかよォ…。だがよ。宇髄さんが忍者ハットリくんとしたら、敵方はケムマキだな、と実弘は思った。

 

その金貸しの居場所に村田と交代して冨岡が張り付いている。村田が風屋敷に来た。実弘は頭巾を被る。

作戦はこうだった。元忍と村田と富岡がそいつに相対する。愈史郎から借りた姿が見えなくなる札を使って姿を隠して近づき、実弥が相手をする。

ムキムキネズミが刀など武器の手渡しと回収をしてくれる。村田は自分のために実弥が愈史郎から札を借りてくれたと勘違いした。

 

「元忍のスペックは?」と実弘が実弥にうかがう。

「スペックってなんだァ。ハイカラな言葉わかんねえぞォ。」実弥が聞く。

「ごめん。能力とか特性って意味だァ。」と実弘がこたえる。

「火薬、分身の術 、変わり身の術と聞いた。他になんかあるのかもしれん。」実弥が言う。

分身の術は 文字通り目にも留まらぬ速さで動き、敵に自分が何人もいるように見せかける。しかし、宇髄によれば実弥ならその速さに追いつくだろうとのこと。

移し身の術は 赤の他人に成りすます。催眠術を用い、人格の交換すら行う。しかし、それには時間がかかるという。

村田が宇髄から詳しく聞いたそれぞれの術の解説をする。

驚きもMAX限度越えだと実弘が思った。

「そういえばあんた、『戦』って言ってたな。どんな技使うんだァ。」と何気なく実弘はたずねる。

「そうだな。久しぶりにやるか、稽古。村田ァ。」

実弥は木刀を持って二人を庭に連れ出した。

「お、お、お手やわらかにお願いします…!」村田は実弥を巻き込んだ手前、逆らえなかった。かつての柱稽古を思い出していた。

なんだ?何がはじまるんだァ?実弘にはまったく想像がつかなかった。

実弥は村田と構えるやいなや、

「風の呼吸 捌(はち)の型 初烈風斬り。」

と瞬く間に村田に駆け寄りすれ違い様に切りかかる。村田の木刀を実弥が飛ばす。

 

すげえェェェェェ!!!!速い!なんじゃこりゃァ!

 

実弘は実弥が言っていた『戦』というものの正体を少しだけつかんだ。これでも実弥の能力は全盛期よりもずいぶん落ちたとのこと。

村田は気を失ってしばらく倒れていた。

その時、風屋敷にシズエが訪ねてきた。髪を後ろで束ねている。

「シズエ…。」

実弥は驚いた。確かにシズエを助けた時は実弥の風屋敷近くだったので、風屋敷で介抱した。それ以降、訪ねてきたことはない。

「あの、実はお願いがありまして。」シズエは言いにくそうに口を開いた。

 

輝利哉は「大正時代の9月1日に大きな地震が来る」と言っていた実弘の言葉がどうしても気にかかった。どうも嘘を言っているように思えない。父上との交信が今回はうまくいかない。自分の「先読み」では浮かんでこない。そんなに近い話ではなさそうだ。もう一度、実弘に聞いてみようと思った。

鎹鴉を風屋敷に飛ばす。

夕刻、冨岡の鎹鴉がよろめきながら、風屋敷にやってきた。

「手紙か。有難う、寛三郎。」実弥が礼を言う。

「よっしゃ行くぞ、村田。」と実弥が村田を促す。ムキムキネズミも2人のあとを追う。

実弘は静かに2人を見送った。そして産屋敷家の鎹鴉からの伝令をうける。ほどなく、1人の運転手が乗っている輝利哉のよこしたガソリン車が、風屋敷前に到着する。

「サネミさんいないけど、輝利哉って子に世話になってるしな。行くしかないかァ。」と頭巾を被って実弘は乗車した。愈史郎の札ももっている。

 

冨岡は相手の居場所である長屋の角部屋を張っていた。冨岡によると金貸しはいつもこの時間位に出かけるという。三人はムキムキネズミから刀を受け取った。

「もうそろそろ出てくる時間だ。」冨岡はそう言った。冨岡と村田は身構えた。実弥はその少し前に愈史郎の札をつけていた。

金貸しが部屋から出てきた。

 

実弘の乗っているガソリン車には屋根はあるが壁がなかった。車が通りすぎる際、道では大正時代の警察官が市民に「もしもし。」と声をかけている。

運転手が言う。「明治のころは警察は声かける時『おいおい、こらこら』だったのに、最近じゃ『もしもし』ですよね。ずいぶんと変わりました。なんでも大正はじめに警視総監の指示が出たそうですよ。」

「そうなんですかァ。」と実弘は返事する。

そうなったのは大正二年。当時の警視総監の指示で明治時代の警察の高圧的な態度を改めたのだった。

だが、実弘は知らなかったが、その後、大正末期には社会主義運動をする人が増えて治安維持できなくなる懸念から警察は取り締まりを強化する方向になった。再び「おいおい」「こらこら」の時代になったのだ。

車は音をたてながら進んだ。

カーナビもパワーステアリングもチューナーも何もない時代だもんなァ…。当然、MT車だし。と実弘は思った。

 

「二円、調査費用じゃないですよね。」村田が金貸しに声をかける。すぐそばには額に愈史郎の札をつけ縄を持った実弥がいるが、富岡達にはもちろん、金貸しには見えていない。

一瞬ぎょっとした顔をした金貸しは、2人とも帯刀していることもあり、「そうだ。」と認める。

その刹那、見えない空間から手をつかまれ、「返してもらおう。」と見えない空間から告げられる。

金貸しは火薬を取り出し火をつけた。

「不死川!」冨岡が叫ぶ。

実弥はやむなく縄から手を離した。愈史郎の札が外れた。

だが実弥は瞬く間に金貸しに駆け寄りすれ違い様に急所を素手で突いた。

金貸しはよろけて倒れる。

片腕であったが、冨岡も瞬時に加勢し2人で金貸しを捕縛する。

愈史郎の札に気づいた村田は大事に拾う。

 

「わかった。返す。だから警察に突き出すのだけはやめてくれ。」と金貸しは顔をゆがめて言った。年の頃30歳位である。

「何を言ってやがる。」

「この人の相手したのは俺だ。だが他の奴の件は俺じゃねえ!」

長屋から一つの影が飛び出した。

「しまった!」実弥は瞬時に理解した。もう1人いた。

「冨岡、後は頼む!」と言い残して実弥は駆け出す。

「わかった。不死川、おそらく双子、同じ顔だ!」と冨岡が推測し伝える。そしてカァーといった鴉が一羽飛んでいった。

「あれは寛三郎でも爽籟でもない…。」冨岡は怪訝そうにチラッと空を見上げた。

 

今まで何回も見失っていた相手を捕獲できるのか、そんなことはわからない。できることをするのみ。

速く…!

とその時、ガソリン車に乗っていた実弘が実弥を発見する。車上から声をかける。

「サネミさん!何してんですか。」

「ヒロ、追っている!奴は双子だった。なんでお前、そこに?」実弥は疑問に思ったがそれどころではない。

やべ。実弘は決断した。

「運転手さん、ちょっと停めて。」と伝え、停めさせた。

「ちょっと回り道してくるわァ、ごめん。」と運転手に言い、えっと振り向いた運転手からハンドルを奪う。運転手は反動でつんのめって車から降りる形になった。

「わわっ。」運転手は四つん這いになって道にうずくまった。

実弘は実弥に乗るよう促す。

「なんか知らんが、わかった。」と実弥はすばやく乗車する。

「どいつだァ?」先ほどの乗車でガソリン車の運転方法をじっくり観察してた実弘はクラッチを踏む。

「あの灰色の羽織の男だァ。」と言いながら実弥は実弘の運転に驚愕した。この時代に初めて乗る車を水を得た魚のように操ってやがる。

 

灰色の羽織の男が路地裏に入ろうとしたら、

「そいつは詐欺師だ。路地裏に入らせんな!」という声がどこからか響いた。民衆はどよめいたが、我に返った人々は路地裏に入らせないようにする。声色を変えているがあの声は、

宇髄!

宇髄さん!

実弥と実弘は同時に思った。後にわかったが、冨岡が先程見た鴉は宇髄の鎹鴉、虹丸だった。

灰色の羽織の男の前にガソリン車が急停車する。その一瞬前に実弥がガソリン車から飛び降り、男の身体の重心を崩し落とし捕縛する。

 

「まったくもう。あの札を乱用しないでっていいましたよね、実弥、実弘さん。車も乱用して。」産屋敷家で輝利哉は子どもらしからぬ口調で実弥と実弘にお灸をすえた。

「申し訳ございません。お館様。」実弥は畳に土下座して謝罪した。

「すいませんでしたァ。」と実弘が輝利哉に頭をかいて謝りながら、思う。

サネミさん、土下座してるぜェ。この子そんなに偉いんだ。

「僕にも子どもらしくいる時間をくださいよ。」と言って輝利哉はくいな、かなたと笑った。

「さて。」と輝利哉は本題に入る。

「実弘さんは『大正時代の 9月1日に大きな地震が来る』とおっしゃりましたね。できるだけ発生時期を詳しくお聞きしたいのですが…。」

「ああ、そのことだけど、来るのは確実だァ。だけど何年だったか忘れてしまって…。」実弘は正直に話した。

「では思い出したらお聞かせください。それとどんな状況でしたか。」落ち着いて輝利哉は質問した。

「火災が多かったらしい。それと…。朝鮮人があらぬ噂で誤解されて虐殺された。地震での死者、行方不明者は10万人を超える。」実弘はありったけの知識を伝えた。

輝利哉とくいな、かなた、そして実弥は絶句した。

同時にそれ以上、未来のことを聞いていいのかとわずか9歳の当主は思案を重ねた。

 

この当時、警察は、犯罪の予防、国民の生命、身体、財産の保護だけではなく、言論・出版に関すること、衛生に関すること、建築に関すること、消防に関することなど極めて広範かつ強大な権限を付与されていた。

特に1911年に設置された特別高等警察(特高)については用心しなくてはならない。大正時代の社会運動家は暴力的な尋問、拷問を受けている。死にも至るという。

輝利哉は実弘に万一でもそういったことが降りかかるのを恐れて、実弘に愈史郎の札を渡してくれていたのだ。

「なんか俺らより、よっぽどしっかりしてんなァ、あの子。」帰り道、実弘が実弥に言う。

「俺らと言ったなァ。一緒にすんなァ、ヒロ。警察官が昔の警察に捕まってどうする?」実弥が返事する。

「それはそうと、こっちが終わったからよォ。今度はシズエさんとの件だよなァ。」実弘が茶化すように言った。

「それだがよォ、ヒロ。俺が字が書けねェのは、わかってるだろォ?」と実弥はヒロを見やる。

 

実弥達が捕まえた最初に捕縛した男は灰色の羽織の男の双子だったが、双子の片割れに請われてしぶしぶ行ったらしい。最初に捕縛した男は名を段蔵という。実弥達は村田に二円を返した段蔵を許し、灰色の羽織の男だけ警察に突き出した。灰色の羽織の男は何もかも段蔵よりも能力は劣っていた。

段蔵は実弥達に礼を言って去った。

表向きは間諜であっても窃盗を生業とした泥棒・強盗・山賊の技術が忍術の源流である。そういった境遇を抜け出し、まっとうに生きようとしつつ兄弟の悪事に手を貸してしまったらしい。そんな段蔵の話を冨岡から聞き、宇髄は段蔵を憐れんだ。

 

シズエの頼みは婚約者のふりをしてほしいというものだった。気量と気立ての良いシズエは成金に見染められてしまい、しつこく付きまとわれているのだという。

今度、その成金も来るお茶会があるから、実弥に婚約者のふりをして成金に諦めてもらいたいというものだった。

 

「まァ確かに文字を書くこともあるかもしれん。」実弘は思った。しかし、この時代にもストーカーかよ。ま、いつの時代にもいるけどな。

「来たやつは入口の芳名録にまず名前書くんだよォ。で、頼みがある。ヒロよ。」真剣な顔して実弥は言った。

「はァ?」実弘は耳を疑った。

 

クソがァ。なんでサネミさんの代わりに俺がこんなことになってんだァ?実弘は実弥の一丁裏の着物を着てお茶会に参加しシズエの隣にいた。

ボロが出たどうするんだァ?

確かにボロがでないように事前に打ち合わせをした。喉が痛くてあまりしゃべられないことにもした。

だがよォ。

実弥は冨岡にはこういうことは頼めないという。村田はやっと就職しそれどころではない。

「じゃあ断ればいいだろう。」と実弘が言うと、実弥は横を向いて黙った。

なんかさァ。ちょっと顔赤かったような気がしたんだァ、サネミさんの。

だったら断れないだろうがァ、俺。

 

ええと、はじめてのお茶会の場合は、正客と次客と末客にならない、だったな…。「実はお茶会ははじめて。」と言わなくては。

扇子、懐紙、楊枝という最低限の持ち物を確認して実弘は席に着いた。

調子狂うぜェ…。

 

メガネをかけた慇懃無礼な男がシズエに尋ねる。このが成金かと実弘は察した。

「シズエさん、そちらの男性は?」

「私の婚約者です。」と髪を上げた髪型のシズエはにっこりして答えた。着物に似合って美しい。

実弘は喉が痛いフリをしていた。

「ふうん。君はどういったお仕事をしてるんだね?」成金は実弘に聞く。

しまった!

いや、想定してたはずだ。ええと…。足がしびれすぎて思い出せないぞォ。

「(用心棒だ。産屋敷家の。)」何もない空間から実弘にささやく声があった。

サネミさん!また輝利哉くんに怒られるぞォ。マジしらねーぞォ。と実弘は思った。

「用心棒です。産屋敷家の。」と実弘は喉が痛そうに答えた。

「ああ、産屋敷さんね。そういえば、私が以前見合いした桃色の三つ編み髪の大食らいで力持ちの娘さん、そのあと産屋敷さんとつながりがあったと聞いてます。最近あの女性、見なくなりましたけどどこか引越…。」

最後まで言い終らないうちに、何も障害物のない空間でメガネをかけた成金はすっころんだ。

「痛い!誰だ私を蹴ったのは?」メガネ成金は叫んだ。

「誰も何もしてませんよ、自分で転んでて不思議ですね。行きましょう不死川さん。」シズエは実弘とその場を離れた。

蹴っ飛ばしたの、どう考えてもサネミさんだろ?と思いながら実弘はその場を去った。

「何卒悪しからず!」シズエの嬉しそうな声が響いた。

 

「仲間だったんだよ。桃色の三つ編み髪の女は…。俺たちの。」風屋敷に帰ってから遠くを見て実弥は実弘に言った。

「死んだのか。」実弘は聞く。

「戦の時、想い人に抱きしめられて一緒にあの世に行った。想い人は俺の友達だ。2人とも大事なものを守って死んだ。それなのに…。ヒロ、お前が代わりに茶会に行ってくれて良かった。俺がシズエの横にいたら成金に何してるかわからねェ。」今でも悔しそうに実弥はつぶやいた。

「蹴っ飛ばしといてよく言うよ。サネミさん…好きなんだろ?シズエさんのこと。」実弘は言った。

実弥はしばらく沈黙した。

やっと口を開いた。

「俺自身、失う辛さを何回も何回も感じている。痣の寿命のある俺じゃ、相手にそんな思いをさせてしまうかもしれない。そんな思いさせるのが痛いほどわかるんだァ。幸せにしてやれねェ。」

実弘は、これでもかという優しい目をした。

「俺のいた未来にも、ものすごい地震があったんだ。津波で流されて俺の同期の仲間は結婚直前に亡くなった。あれから何度も考える。」

「ヒロ…。」実弥は驚いた表情をした。

「未来なんてわかんねェ。もし本当に一緒にいる時間が短くても一緒になれよ。一緒になれないほうがつらいんじゃないかァ。」とヒロは言った。

「黙りやがれェ…。」と言った実弥の声はいつもの威嚇するような声でなく、弱々しかった。

 

 

(その参に続く)

 


 
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