No.110278

Princess of Thiengran 第四章ー謀反3

まめごさん

ティエンランシリーズ第一巻。
過酷な運命を背負った王女リウヒが王座に上るまでの物語。

「リウヒさまを頼みます」

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2009-12-03 19:39:14 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:552   閲覧ユーザー数:541

お星さま、ありがとうございます。

キャラはいつものように、一番星に祈りをささげ感謝した。

だって、願いは届けられた。トモキがこの村に帰ってきたのだ。

隣村にお使いにいって、その帰り道だった。馬を引いて歩く青年を見つけた。見間違えるはずがない。

トモキだった。まず心臓が高鳴って、足が勝手に動いた。気が付いたら走り出して、抱きついていた。はしたないことをと思ったが、トモキは優しく頭をなでてくれた。

そのことを思い出すと今でも顔がにんまりしてしまう。

嬉しさの余りトモキにくっつきまわり、どうでもいいことを報告した。

体が喜びで跳ねる。口が言葉を紡ぎだして止まらない。自分でもどうしようもなかった。

だけどもトモキはほほ笑んで、それを受け入れてくれた。もう、叫びだしそうなくらい幸せだった。

ずっとこのまま横にいたかったが、家の近くになって帰りなさいと言われ不承不承、家に帰った。トモキはそのまま、自分の家に連れていた少女と共に入って行ってしまった。

あの少女。

キャラは鼻に皺を寄せる。

あの子は何なのだ。えらそうに馬にのって、トモキに歩かせて。あたしを変なものを見るような目で見ていた。挨拶も声もよこさなかった、暗そうな子。そんなに可愛いわけでもないのに。あたしの方が、ぜったい可愛い。

質のいい高そうな衣を着ていたから、もしかしたらトモキが仕えている人の子供なのかもしれない。

 

トモキが突然宮廷に上がった時は、悲しかった。親から聞いて悲しさの余り大泣きした。母親は、キャラはトモキちゃんに懐いていたものね、とほほ笑んだ。

そんなんじゃない、と当時七歳の少女は思った。そんなに軽い表現で表わさないでほしい。これはもっと偉大なものなのだ。

が、それをどう言っていいか分からず、言葉はぐずぐずと消えていった。

宮廷に入ってしまったら、めったのものでは外に出られない。トモキに会える方法は、キャラが大学を卒業して、入廷するしか思いつかなかったが、到底不可能だった。そんな金は家になかったし、第一、勉強が嫌いだった。何で、そんなものが必要なんだと思う。読み書きなんて、日々の暮らしには必要ないではないか。畑を耕すだけの毎日。

 

それでもトモキには、どうしても会いたかった。縋るものがほしかった。

だから、毎日一番星にお願いをした。

 

どうかトモキに会わせてください。お星さま。どうかどうか。

 

天は聞き入れてくれた。トモキが帰ってきた。

シシの村に帰ってきたのだ。

****

 

「そんな、あなた帰って来たばかりだというのに」

「ごめん、かあさん」

母は予想通りうろたえ息子を止めた。その顔に申し訳なさは募ったが、ただ頭を下げるしかなかった。

あれから数日が経った。都に関する噂はあまり流れてこない。情報がまったく入ってこず、ただ不安だけが増していく中トモキは一つに決意を固めていた。

宮廷の様子を探りに行く。

状況が分からなければ、動きようがない。動けるのは自分しかいない。命の危険すらもあるかもしれないが、このまま手をこまねいているのは嫌だった。

「リウヒさまの事、よろしくお願いします」

母に再度頭をさげると、青い顔をしてしぶしぶうなずいてくれた。心配をかけるのは忍びないが、今頼れるのは母とカガミしかいないのだ。

奥の部屋から咳きこむ声が聞こえる。

リウヒは、ここに来てから体調を崩し寝込んでいた。今までトモキが注意するほど、健啖だった少女がお粥しか口を通さないのも心配だった。

寝ているリウヒを覗き込む。身を守るように丸く小さくなって寝ていた。うっすら汗をかいている。顔に張り付いた数本の髪の毛をとってやると、うわ言を二言、三言呟いて、苦しそうに眉を顰めた。

なるべく早く、戻ってこなければ。

 

畑仕事の手伝いをしていたカガミにも告げ、ここまで乗ってきた馬の手綱をとった。

「危険すぎるよ、何も君が行かなくても」

「このまま何も分からないのは、嫌なんです」

それに、と続ける。

「まずは知ることが大事。そう教えてくれたのはカガミさん、あなたですよ」

手綱をめぐらせトモキが笑った。

「そうかい」

オヤジは頭をかいて馬上の青年を眩しそうに見上げる。

「リウヒさまを頼みます」

「うん。頼まれた」

カガミはおおきくうなずいた。

「行っておいで。無事を祈っているよ」

トモキが笑顔で応え、馬腹を蹴ろうとした瞬間。

「どこにいくんだ」

リウヒが戸口に立って、馬上のトモキを睨みつけていた。擦れていたがその声は低く怒りをにじませている。

「お前はわたしをおいて、どこに行くんだと聞いているんだ」

トモキは一瞬、馬から降りてリウヒに駆け寄りそうになった。

すみません、ウソです。だからお願いですから、寝台に戻って横になってください、どこにも行きませんから、ずっと横についていますから、と言って一緒に家の中に戻りたかった。

しかし、今ここで、馬を降りたら自分の決心はぐらつくのは分かっている。すんでのところで腹に力をいれて堪えた。

「ここで待っていてください」

馬の頭を巡らせて叫ぶ。

「必ず戻ります」

そのまま、振り切るように馬腹をけって駈け出した。馬は驚き大きく嘶いて走り出す。

小さくなっていく後ろ姿をリウヒは呆然と、カガミは厳しい顔をして見送っていた。

 

 


 
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