No.1099031

艦隊 真・恋姫無双 164話目 《北郷 回想編 その28》

いたさん

今回は作者の都合で色々と。詳細は本文にて。 1月11日に続きを付け加えました。

2022-07-31 20:48:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:800   閲覧ユーザー数:712

{ 作者からの連絡 }

 

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

 

かなりお待たせしましたが、やっと半分ほど書けましたので、此方に投稿いたします。

 

相変わらず忙しい日々が続いており、此方に投稿する日が遅くなりますが、気長にお待ち下さい。

 

 

それでは中途ですが、本文をお楽しみ下さい。

 

 

 

◆◇◆  ◇◆◇   ◆◇◆

 

 

 

【 裏話 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊 にて 〗

 

 

行方不明だった一刀が現れ、大喜びしていた艦娘達も、普段とは違う様子に先程までの喧騒は鳴りを潜め、静かに見つめるしかない。

 

華琳達も固唾を呑みながら見守る中、大声で叫びながら小舟で近付こうと足掻く一刀。 彼は焦燥感に駆られつも懸命に漕ぎ続けた。

 

だが、彼女達との距離は地上に居る時とは違い、幾ら進もうと努力するものの、その努力を嘲笑うかの如く、殆ど差が縮まらない。

 

元々、海は潮の流れ、波の大小、風の強弱により絶えず千万変化する流動的な難所であり、有り合わせの道具で向かうのは、自殺行為である。

 

それに、今は感情を高ぶらせているので、元気そうに振る舞う一刀だが、本来は本格的な治療が必要な身。 いつ体調が崩れるか分からない。

 

このまま行動すれば、永遠に辿り着かないのは自明の理である。 

 

だが、そんな一刀を補佐するのが、付き添う護衛の艦娘達。 最初に赴任した鎮守府から共に過ごした、信頼厚い古参艦の艦娘達だ。

 

 

『ま、待ってろよ! 必ず、必ず行くからな!!』

 

『おいおい、提督。 そんなフラフラな操縦で俺に当てんなよ。 ったく、邪魔だな!( 方向が擦れてるじゃんか……軌道修正っと! )』

 

『て、天龍……俺の操縦に干渉す………』

 

『やだぁ~、自分からおさわりに行ったのに、天龍ちゃんへ責任転嫁するなんて~。 もう、絶対に許さないから~』

 

『す、すまん、悪かったッ! この通り! 後で、しっかり謝らせてもらうからッ!!』

 

 

彼女達は名目的には護衛だが、実際は船の軌道修正。 敵艦は既に排除されている状態なので危険も少ない。 早い話が、ただの付き添い。

 

これでは、《 立場の愉悦に浸る高慢ちき 》に見えるが、決してそうではない。

 

本当は何かしらあれ手伝いたいのは山々なのだが、その申し出を拒否したのは一刀本人。 心配する彼女達を前に、頑なに我を通したからだ。

 

 

『…………提督、本当に私達の助力は要らないのか? この長門や皆が手を貸せば、楽に進む事も直ぐに会うことも可能なのだぞ?』

 

『………ハァハァ……ハァ……さっきも……話し……たがな! か、彼女は……努力しない……人を……毛嫌い……するんだ! だから……俺は!!』

 

『Oh! ストイックな提督も魅力的ネ! だけど……提督を想う気持ち、他の誰にも負ける気なんて無いワ! 昔のPartner( 恋人 )でも、ネ!!』

 

 

長門達には合流した際、説明は済んでいる。 

 

 

窮地を救ってくれた謎の軍勢。

 

その軍を率いる、近寄り難い美女や美少女達。

 

奇抜で愉快、だけどチートな変態集団。 

 

彼ら、彼女らは、提督である一刀の前世、一介の学生だった時に遭遇した────外史の住人だと。

 

 

勿論、それなりに簡潔で明快に説明……できたか分からないが、理解できている筈だ。

 

話をした一刀が提督という肩書きを持ってしても、余りにも空想、御伽話的、途轍もなく嘘臭く、とても信じられない誇大な与太話だ。

 

だが、古参の彼女達は信じた。

 

現に艦娘達は類稀な(たぐいまれ)な機会を出来事に遭遇し、更には《起死回生》の言葉通りという想像不可能な体験を受けた身の上。

 

何よりも、《 信頼する提督 》から《 誰よりも先 》に《 秘密を打ち明けてくれた 》という、乙女の事情が大きかったようだ。

 

だから、まあ……少し嫌みが増えるのも、仕方が無いのかも知れないが。

 

そんなこんながありながら、華琳達の側へ船はユックリと進んで行った。

 

 

◇◆◇

 

【 内輪 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊 にて 〗

 

 

この一刀……いや提督の慌てぶりを見た事情を知らぬ艦娘達は、思わず目を瞬(しばたた)かせるしかなかった。

 

ほんの数日間だが共に行動し、今では敬愛するまでになった提督が、あんなに感情を露(あらわ)にするなど、自分達の時には無かったのだから。

 

 

中には、混乱する艦娘も────

 

 

『ぷぅ~! なんかぁやだ! あんな提督さんなんてぇ見たくない! ふてくされてやる!!』

 

『もしかして、私は……お邪魔だったのでしょうか? そ、そうですよね……こんな面倒な子……』

 

 

その中でも特に……瑞鶴は面白くなさそうに頬を膨らませ、潮は分かりやすく意気消沈させた。

 

性格も経緯も違う二隻だが、提督に関わって救われた動機は一緒。 そんな気になる提督が、自分達を助けてくれた女性に高揚しているのだ。

 

果たして、この艦娘の痛む胸中に宿りしは……幼き嫉妬か、はたまた早熟な悋気か?

 

そんな感情を持て余す二隻に、静かに近付く者が居た。

 

 

『……行方が分からなかった提督が、こうして無事に帰還されたのだ。 喜ぶこそあれ、そのような表情では提督に心配されるぞ?』

 

『『 日向さん!! 』』

 

『まあ、何があったかは知らないが、こう言う場合こそ落ち着きが大事だ。 私と一緒に瑞雲を数え、心を静かに落ち着かせようじゃないか』

 

 

戦友を心配して声を掛けてくれた日向に、自分達が抱える胸中の凝り(しこり)を伝えようし、日向は察しつつも柔らかく受け止めた。

 

しかし、日向の言葉に違和感を感じ、しきりに首を傾げらぜるえない二隻。

 

何か腑に落ちない単語を聞き付けたのだが、当の言い出しっぺは早くも実行していた。

 

 

『落ち着け……《瑞雲》を数えて落ち着くんだ……

《瑞雲》は多用途に役立つ孤高な水上機……私に前進する勇気を与えてくれる………』

 

『やっぱり聞き間違えじゃなかったぁ!!』

 

『え? ず、瑞雲……? え?』

 

 

目を瞑り一生懸命に瞑想する日向に向け、抗議や戸惑う二隻。 そんな慌ただしい周辺の状況に瞑想を中止した日向は、少し不機嫌な表情で瑞鶴達へ再び伝えた。

 

 

『何をしている? 早く私と共に『瑞雲』を数え心を落ち着かせるんだ。 瞼の裏に夕日へ向かう瑞雲の雄飛を! あの尊い姿を浮かべながら!』

 

『あのねぇ! 何で私達が! 瑞雲を数えなきゃいけないのよッ!?』

 

『これか? これはだな……古来から伝わる《 数息観 》という禅の観法を私なりにアレンジしたものだ。 これを行うと実に気分が高揚───』

 

『心を落ち着かせなきゃならない場面で、逆に高揚なんかさせたら駄目に決まっているでしょう!?』

 

 

日向の力説する話に、全力でツッコミを入れる瑞鶴。

 

そんな何時もの漫才の如機会やり取りの側で、小さく手を上げる潮が申し訳なさそうに発言する。

 

 

『あ、あの! 瑞鶴さんは航空母艦ですから……納得できますけど……わ、私は……駆逐艦なので……』

 

『ん? 心配はいらんぞ。 瑞雲の教えは航空母艦だけではなく、駆逐艦だろうが拒む理由に当たらない。 まずは体験してみるが───早い!』

 

『ひっ、嫌ぁぁああああ!』

 

『その半被、どこから取り出した───って、なに普通に着せようとするの!? 幾ら日向さんでもそろそろ止めないと爆撃するよ!!』

 

 

この日向の発言は、落ち込む二隻を励ますためにと、わざと行ったボケなのか?

 

それとも、瑞雲教による教義の為せる業なのか?

 

 

謎の日向の行動により、騒ぎは別の混迷に呑み込まれ、やがて鎮静化するのであった。

 

 

 

【 援護 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊 にて 〗

 

 

一刀の身体は、僅か数日だけ離れていただけなのに、その疲労感は半端ない。 無事が安心した故の疲れが出たか、それとも何か別の要因か。

 

それと同時に、無理をして小舟を漕ぎ続けたため、今にも倒れそうな雰囲気を纏っている。

 

 

『おい提督! そんなふらついた動きで、アイツのところに行けると思ってんのか!?』

 

『………行く、必ず行って……伝えないと……』

 

 

そんな様子なので、天龍達が心配し休むように提案するが、頑なに意見を変えない一刀。

 

ついには、気が短い天龍が動き出し────

 

 

『チッ、何時もオレらの心配しやがる癖に、自分の身体も心配しやがれよ。 ───ほらッ!』

 

『お……おいっ!!』

 

 

衰弱している一刀を軽々動かして、天龍は自分の肩へ一刀の腕を回し、身体を支えながら小舟を誘導し始めた。

 

 

『ふん………そんなに行きたいのなら、艦隊中で一番強い天龍様が、特別に肩貸してやるよ』

 

『…………悪いな、天龍』

 

『うっせえ、黙って静かに……貸りられろよ』

 

 

そんな様子を見ていた艦娘の一隻は、楽しそうに、実に楽しそうに笑う。

 

普段よりも、より柔らかい笑顔で。

 

 

『もう、天龍ちゃんたらぁ~ホントに素直じゃないんだから~うっふふふ』

 

『な、何だよぉ!? 何か文句あんのかッ!!』

 

『別にぃ……いいんじゃないかなぁ? うふふふふふっ♪』

 

『わ、笑ってんじゃねぇ! 龍田!!』

 

 

天龍の苦情は龍田に軽くあしらわれた。

 

だが、一刀の安心した様子を横目で確認し安堵した天龍は、なるべく最小限に動きを抑えつつ先頭として目標地点へ向かう。

 

一刀が目指した、あの少女の下へ……と。

 

 

 

【 待望 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊 にて 〗

 

 

『うむぅぅぅ~~ッ、遅い! 遅い過ぎるぞ、北郷めっ!!』

 

『春蘭、殺気を無闇矢鱈に撒き散らすのは、いい加減に止めなさい。 あの娘達に要らぬ警戒と敵がい心を与えるのは、最終的に私が困るのよ』

 

『も、申し訳ありません! 華琳様!!』

 

 

そんな一刀を待つのは、華琳……だけではない。

 

 

『………ったく、北郷の奴め。 華琳様を何時まで待たせるつもりなんだ………』

 

『はぁ…………何度も同じ言葉を繰り返すなんて、何時から猪から鸚鵡(オウム)になったのよ、春蘭。 今ので、ちょうど十回目なんだけど?』

 

『わ、私は、華琳様への対応に不満を───』

 

『そんなに心配なら、行ってくればいいじゃない。 この近辺は制圧されたから危険は少ないし、鸚鵡でも猪でも護衛は勤まらないわよ』

 

 

華琳の後方で控えるのは、不機嫌そうな顔をした《 魏武の大剣 》こと春蘭。

 

そして、もう一人────

 

 

『っと言うか、お前こそ! 華琳様の護衛なら私一人でも十分だ! 一刀に逢いたければ、さっさと行ってくればいい!!』

 

『………か、一刀に………』

 

『うん?』

 

『どんな顔して……逢えばいいのよ。 まだ、あの頃の謝罪さえ……していないのに………』

 

『………………桂花……』

 

 

猫耳頭巾を深く被り、顔を見せない小柄な少女が佇む。 まあ、誰かと言えば隠す気もなく、魏の筆頭軍師の桂花である。

 

因みに、他の三国の将達は、周辺の警戒をしつつも一刀との対面できることを待ち望み、華琳達の後方、更に離れた場所で待機中。

 

天龍達以外の艦娘達も、一刀の後方、言わば三国の将達と対面するように陣取り、一刀の護衛任務や周辺の警戒を強めている。

 

そんな中、前方に現れた一刀一行を見つける華琳。 だが、その表情は喜色ではなく、逆に寂しげな微笑むを浮かばせるだけであった。

 

 

 

【 謝罪 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊 にて 〗

 

 

天龍の助力により、華琳達の前に辿り着いた一刀。 しかし、かなり疲労困憊の状況で来たため、視野狭窄となった一刀は気付かない。

 

華琳の後ろに誰が居るのか、を。

 

 

『………か、華琳』

 

『………………』

 

 

掠れた声で少女の大事な名で呼ぶが、とうの少女は聞こえないのか目を閉じたまま。 後方の二人も一刀に対して口を開こうとはしない。

 

更に呼び掛けると、ようやく華琳が返事をした。

 

 

『二日振り………と言っていいのかしら。 その様子だと、私のこと……思い出せた?』

 

『─────ッ!?』

 

 

その発する声質は平坦そのもの。 だが、発した言葉に万感の思いが込められた事を感じ、一刀の顔は思わず強張り、目を見開く。

 

 

感じたのは──────『待ち人の想い』

 

 

この少女の前より消え去りて、こうして再会するのに幾星霜を重ねた。  かの時代より単純に考えても、約千八百(1800)年間。 

 

だが、心情としては……それ以上だろう。 

 

《 一日千秋 (いちじつせんしゅう) 》という言葉もあるのだ。 実質の期間より遥かに長い間、心労を掛けたのは間違いない事実だ。

 

少し憂いを含む少女からの問いに対し、一刀は唇を噛みしめ姿勢を正し見つめ返した後、まるで神に懺悔する罪人の如く謝罪を行う。

 

 

『も、勿論だ! 君を思い出すのに……こんなに遅くなって……ごめん!』

 

『…………………』

 

 

一刀とも提督として、長年に渡り艦娘達と共に過ごした身。 その心痛を察せれるのは、何度も何度も実体験し痛感していたからだ。

 

そもそも艦娘達の最大の目的とも言えるのは、海域を支配する深海棲艦の排除、そして世界を交わる海上交通の復活。

 

その為に、艦娘達は鎮守府内で生活しつつも《 遠征 》で資材等を調達、《 演習 》で経験値や熟練度の獲得、《 出撃 》への意欲を高めるものだ。

 

《 出撃 》……文字通り、鎮守府から出港し、敵対する深海棲艦達との交戦という、一大イベント。 

勝てば、海域の解放と資金資材の確保となり、大いに鎮守府は潤う結果になろう。

 

だが、負ければ多大の損害は勿論、最悪は……艦娘達にとって実質の死別となる【 轟沈 】が待ち受けていた。

 

だから、艦娘達を家族と公言する一刀は、向かう海域の情報を出来る限り取り寄せ、出撃する艦娘達には可能な限り最新装備に変更し向かわす。

 

それでも一刀は心配し、出撃した艦娘達の行き先に向け、執務の合間に無事の帰還を祈ることを欠かせなかった。 

 

 

『本当に、本当に………ごめん!!』

 

 

そんな辛い想いを、こんな少女に抱かしたまま、長い歳月を待ち続けさせた自分は────

 

そう考えると、一刀の頭は自然と下がり、謝罪する彼の目から光る物が頬を伝わる。

 

古の記憶を思い出した彼の足下に、波飛沫とは違う塩辛い水が、古びた舟板を濡らすのであった。

 

 

 


 
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