あの月は敵か味方か。
東倣現想境 ~ Clear Moonlight.
向こう側を眺める妖怪による他愛も無い雑談
梅雨も過ぎ、本格的に夏がやってきた。
桜子達は雨上がりの蒸し暑い樹海にある屋敷を離れ、避暑も兼ねて
境界の神社へ遊びに来ていた。
今日は桜子達の他にも、妖怪が集まっている。桜子が神社にやって来た
理由はもう一つあったのだ。
桜子 「良い天気だわ。 これなら今日の夜はバッチリね。」
奏 「みんな気合いが入ってるねえ。」
桜子 「あんたも見てないで手伝いなさい。」
神社に集まった妖怪達はせっせと宴会の準備をしていた。
ここでの宴会は今に始まったわけでも無く、特に珍しい事では無いのだが・・・
? 「おお、まだ早いのにやってますねぇ。」
二人が宴会の準備をしはじめると、後ろからやってきた妖怪に声をかけられた。
桜子と同じく、ちょくちょくと神社に遊びに来る犬神「物部 楓子(ものべ ふうこ)」である。
出会う頻度も高く、何かと縁があるので自然に仲良くなっていたのだった。
桜子 「そんな事言いつつ、あんたも早いじゃないの。
ほらほら、おいしいお酒が呑みたけりゃあんたも手伝うのよ。」
楓子 「任せて下さいな。」
奏 「そのやる気を後片付けの方にもまわして貰いたいものだ。」
今宵は満月の日。
妖怪にとって特別な日の夜は、特別な宴会を開くのが昔からの習慣である。
日も暮れ、辺りが暗くなってくると神社の妖怪達もいよいよ騒がしくなってきた。
空にはここ一番の満月が妖しく輝いている。
桜子 「今日の満月はすごいわね。 ・・・不自然なくらい。」
楓子 「本当ですね。 今日の月は今までに見たこと無いくらい
強い力を持っている。 ・・・何事も無ければよいのですが。」
今宵の満月は、長く生きてきた妖怪から見ても特別に強い力を感じた。
それだけ地上の妖怪達も強い力の恩恵を受ける事ができるのだが、
内心少しだけ警戒していた。
桜子 「立派な満月のおかげで、とても良いお酒が呑めそうだわ。 ・・・不自然なくらい。」
奏 「何事も無ければそれで良いではないか。 ほれ犬神さんも呑むが良い。」
楓子 「ありがとう。 いやあ、本当に良い月です。
次にこんな月が見られるのは何時になる事やら。」
月の様子に初めは少し戸惑っていたが、特に異変は起こらず平和であった。
ただ、月の影響で高揚したのか終始皆のテンションは高く、
呑みすぎた妖怪達がバタバタと寝転がって今回の宴会はお開きとなった。
桜子 「あー・・・さすがの私も今回は呑みすぎたわ。
って、あれ? まだ薄暗いじゃないの。
もしかして夜まで寝てたのかしら?」
目が覚めると、まだ日の出前の薄暗い空が見えた。
呑みすぎて一日中寝ていたものかと思ったが、ただ早起きなだけだった。
他の妖怪達も続々と起きてきたが、何やら様子がおかしい。
一日中寝ていたと思っていたのは自分だけでは無かったのだ。
奏 「げっ、もう夜・・・朝だった何これ。」
楓子 「あれだけ呑んだ割りに、随分と早起きだったのですね、皆。」
奏 「いやいや、もしかしたら次の日の朝かも・・・」
桜子 「あら、結局皆早起きだったのね。
昨日の月といい、変な事が起こるのはやっぱりこの神社近辺なのよねぇ。」
楓子 「ここに来るようになってから、本当に不思議な事ばかりです。
やはりあの結界の影響なのでしょうか。」
神社にやってくる妖怪達は、他では見られない奇妙な光景を幾度と無く見てきた。
噂も広がり神社を訪れる妖怪も増え、境界の神社はもはや
妖怪の観光地と言っても過言では無くなっていた。
桜子 「月に早起きの術でもかけられたのかしら。
まあいいわ、宴会はお開きお開き。 また会いましょう。」
楓子 「そうですね、ではまた。
面白い事が起こったら、私にも教えて下さいよ?」
奏 「さて諸君、後片付けの時間だよ。」
桜子 「・・・。」
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後片付けも終り、朝日と共に二人は帰路についた。
神社が遠く小さくなっていくにつれて、日の昇る速度がほんの少しずつ速くなっていった
・・・ような気がした。
桜子 「もうすぐ家だけど・・・って、もう昼前じゃないの。
おかしいわねぇ、そんな遠かったかしら。」
奏 「まだ酒が残ってるんじゃないのかね。」
桜子 「失礼ね、あんたよりは強いわよ。 圧倒的に。」
奏 「それにしても、今回のは何だったのか。
わからない事が多すぎて調べる気も起こらんわ。」
桜子 「別に解らない事なんて解らないままで良いじゃない。
その方がきっと楽しいわ。 調査なんてまた今度でいいのよ。」
また今度 ~ Next Tea Time.
犬神さん
○物部 楓子 (Monobe Huuko)
今尚語られる恐怖の妖怪、犬神である。
普段は礼儀正しく柔らかな物腰。祟りが怖いので敵対する妖怪は少ない。
最近は人間による犬の品種改良や乱繁殖に憤りを感じているとか。
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・オリキャラしかいない東方project系二次創作のようなものです。