No.1095675

裁定者と始祖の邂逅

砥茨遵牙さん

2軸。4様とシエラ様の出会い話。百二十年前のファレナ妄想、ヒクサク妄想注意。
4←ヒクサク、4←王子表現あります。

坊っちゃん→リオン
4様→ラス

2022-06-21 17:21:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:481   閲覧ユーザー数:481

ある日のムツゴロウ城。

ラスが手伝いに駆り出されていたレストランのランチタイムが終わり、ラスとリオンが隣り合って座って遅めの昼食を取っていると。

「相変わらず仲睦まじいの。」

ラスの広い背中にポスッとのし掛かり、手を伸ばしてラスの皿からプチトマトをヒョイっと摘まみパクっと口に放り込んだのはシエラだった。

「シエラ…、行儀の悪いことをしていないで、そこをどいてくれないか。」

はぁ、とため息をつきながらシエラの行動を窘めるラスにフフン、と鼻を鳴らす。

「つれない態度じゃな。かつて妻のフリをして助けてやったわらわに対しもう少し敬意を払えぬのかえ?」

「………は?」

呆気にとられたようにぽかんと口を開けるリオンの頭の上に疑問符が浮かぶ。妻のフリ?

「シエラ、百年以上も前の話を蒸し返さないでくれないか。」

「わらわにとっては強烈な出来事であったわ。罰の紋章の主たる裁定者があのような…」

「シエラ。」

「シエラさん、詳しく聞かせて下さい。」

スッと自分の隣の椅子を引いたリオン。女性に敬意を払う仕草はテオとクレオの教育の賜物だ。それに気を良くしたシエラがそこに座る。

「ほほほ、妻君は好奇心旺盛じゃな。さて、どうする裁定者?」

「……分かった、当時の僕の事情も説明するよ。」

ラスが観念したようにはぁ、とため息をつき話し始めた。

 

 

 

 

 

百二十年ほど前のこと。ラスがファレナ女王国を訪れた頃、王女殿下の婿を決める闘神祭が開催されるところだった。当時はまだ闘技奴隷の人権も無く、裏で暗殺が容易に行われていて。優勝候補だった腕利きの闘技奴隷を毒殺された貴族が多額の謝礼金を提示し代理を募っていたが、皆命惜しさに誰も引き受けようとはしなかった。あまり国事に関わりたくは無かったが、優勝したら更に謝礼金を上乗せすると言われ、丁度旅の路銀が尽きかけているし毒物も効かない、優勝する自信もあったラスはその代理を引き受けることにしたのだ。

そこで名前を聞かれ、ラスは一瞬迷った。まだファレナと群島の交流は無いものの、群島に近い場所で本名を名乗り優勝してフレアに知られるのはまずい。約束を破ることになるが仕方ないと、ミドルネームをもじってラス・ジュノーと名乗った。

結果は火を見るより明らか、当然ラスは優勝した。しかし、そこで困ったことが起きた。ラスの他を圧倒する戦いぶりを見ていた王女殿下に一目惚れされたのだ。優勝したのだから夫となり女王騎士長になれとせがまれたが、当時のファレナの決まりでは他国の人間は女王騎士長になれない。すると、代理を頼んだ貴族を夫にするのは承知の上で、女王騎士として二番目に高い地位をやるから側にいろとせがまれたのだ。

当時のラスはキカを失って三十年、落ち着きを取り戻しつつあったが若干荒んでいた。既に心に決めた人がいると丁寧に断ったものの、ならばその者を連れて来い、連れてこなければここにあるお前の髪の毛を使ってわらわに惚れさせる呪いをかけると言われたのだ。ラスがふざけるのも大概にしてくれと断るも王女は引き下がらない。そろそろ不敬罪になるかと思ったその時。

『あなた?どうしたの?』

するり、と左腕に白く美しい手を絡ませられた。何事かと振り向くと、白銀の髪に白磁の肌をした儚げな美少女が心配そうにこちらを見上げていて。手を振り払おうとしたラスは逆にぐいっと美少女に引っ張られ無理やり屈ませられ耳打ちされた。

『一芝居打ってやる。お主もそれがよかろう、ソウルイーターの気配を持つ裁定者よ。』

『ッ!?君は一体…』

『なぁに、ただの同類のよしみよ。』

同類、と聞いてラスは瞬時に察した。彼女も真の紋章持ちだと。突然現れた美少女に目を丸くした王女にその者が心に決めた人なのかと震える声で問いかけられ、ラスは仕方ないと思いながらコクリと頷く。

『妻です。』

『シエラと申します。』

どうにでもなれ、と思いながらラスは王女に説明した。妻は身体が弱く、闘神祭には妻の治療費のために代理を引き受けたのだと。ラスの言葉にシエラがふらっと目眩をしたふりをして倒れそうになったのを肩を抱き寄せ支えて。二人の様子に納得した王女は優勝賞金を、ラスを雇った貴族は観目麗しい夫婦の愛に感動し、本来の金額に上乗せして謝礼金を払ったのだった。

 

フルネームで名乗らなかったら化けて出てやる、と言ったフレアの言葉が現実味を帯びてしまい、生霊でもいるのかと悪寒がしたラスはシエラと共にすぐファレナを発ち数日間共に旅をした。その間、ソウルイーターの気配がするのはテッドを抱いた後と察知したシエラに身体の関係を迫られ断り続けたのだった。

 

その数年後の太陽歴三三七年。新たな女王が即位し、他国の人間は女王騎士長になれない決まりを撤廃した。それだけに留まらず群島との交流を始める。どうやらオベル女王フレアと気が合ったらしい。女王の名前は双方の歴史に残り、今や群島とファレナを結ぶ船の名前になっている。ニルバ島から群島を巡る観光船には代々クイーン・フレア号という名がついているとか。

「……もしかして、私達が乗った船がそうか?」

「そう、エルメラーク。」

新婚旅行で群島の次に訪れたのがファレナだったため、必然的にニルバ島からファレナを往復するエルメラークに乗った。まさかその名前の女王がラスに一目惚れしていたとは。そんな目に会ったせいか、ラスがファレナに再び訪れたのは百年以上経ってからだった。

「こやつ女は抱かなかったが、行く先々で自分に見惚れた美少年美青年は抱いておったぞ。それこそテッドのように中身が自分より年上でもな。」

それはつまり。テッド以外の真の紋章持ちも?

「…………ラス。」

「ん?」

「真の紋章持ちで抱いたの、テッドの他に誰だ?」

「…………。」

言うのを躊躇っているのか、隣で気まずそうなラスに焦れたリオンが上着をぐいっと引っ張り自分の方へ引き寄せる。

「ラ~ス~?」

「……あまり大きい声で言えない人物なんだけれど。」

「耳打ちで構わない。教えてくれ。」

「…驚いても名前は叫ばないようにね。」

ラスが観念したようにリオンの耳に顔を寄せ小声で囁く。ヒクサク、と。

あまりのビッグネームにピシッと固まったリオンが絞り出すような声で、

「……美少年なのか。」

と呟いた。

「美少年と美青年の間ぐらいかな。神秘的で清らかな美貌をしていてね。」

「何年前だ?」

「百年前。」

「どっちから誘った?」

「向こうから。一夜だけでいいから抱いてほしいと。」

ヒクサクに会った日のことは鮮明に覚えている。ヒクサクは象徴として祀られ何百年も部下に誤解され、誰も信じられなくなり結局一人になった青年だ。

悲劇の始まりはハルモニア神聖国を建国してしばらく経った頃。ヒクサクは仲間が次々に死にゆくのを見て一人になるのが怖くなり、真の紋章を求め門の紋章の村から紋章の回収を命じた。だが、部下はヒクサクの命令を曲解し、結果村は焼かれ滅びた。権力を持った人間の残虐性を理解していなかったのだ。それ以降臣下は真の紋章狩りと称して侵略を繰り返してきた。門の紋章の村の生き残りであるウインディがハルモニアへの復讐のためにソウルイーターを求め、自分がされたことと同じように村を焼き討ちにして。悲劇は繰り返されていったのだ。

ヒクサクが求めるのは、自分と同じ不老の存在が側にいてくれることだけだ。誰も信じられないが、一人は嫌だと涙を流した彼の慰めになればと抱いた。背に腕を回し擦った時の嬉しそうな、幸せに満ちた顔は忘れられない。時の流れを達観出来なかった、哀れで悲しい人。それがまさか自分の分身を作らせ真の紋章を宿させるなんて思いもよらなかったが。

「何故シエラが彼とのことを知っているんだ?」

「ネクロードの情報を得る目的で奴の元を訪ねてな。案外あっさり会えたのじゃが、そこでお主のことも聞かれたのじゃ。しかし、何百年も動かなかったあやつの心を動かすとは。美青年キラーも伊達ではないということか。」

「一度きり、一晩だけだ。」

「……ラス、確かファレナの女王騎士長代理も一度だけ抱いてたよな?元天魁星で美少年だった。」

「ああ、うん…。」

「ファレナで天魁星とな?十三年以上前にあったクーデターか?」

「シエラも知っていたのか。」

「星の化身が関わっておったからな。」

「星の化身?」

「夜の紋章の眷属、星の紋章の化身だよ。」

真の紋章が生まれた時から対の存在だった太陽の紋章と夜の紋章。しかし、太陽の紋章に嫌気が差した夜の紋章は剣の形を取り、繋がりを断ち切った。その破片から生まれたとされる太陽の紋章の眷属である黄昏の紋章と黎明の紋章と同じく世界に一つしかない紋章で、真の紋章ではないがそれに匹敵する力を持つ。夜の紋章と同じく形を取った星の紋章はゼラセと名乗り、夜の紋章に代わって太陽の紋章との調整役を担っている。

「しかし、いくら美少年とはいえあれだけ迫られておった王女の子孫をよく喰う気になったものよ。」

「……彼は僕の血縁でもあるんだよ…。」

「なんと。」

クーデターが起こる前の女王アルシュタートの夫であり女王騎士長フェリドはラスの姉フレアの子孫だったため、今のファレナの血筋にはオベル王家の血も入っている。ラスのフルネームとその姿を知っていたフェリドはラスを見かけるなり太陽宮に招き、そこで王子の武術指南を頼まれしばらく滞在していた。その二ヶ月後、闘神祭が開催される直前にルックが心配になったラスは太陽宮を去ったのだった。

「彼から告白されて、断ったんだ。そしたら初恋の思い出に一度だけでいいから抱いてほしいと。」

「……ラス、いろんなところで初恋泥棒してるな…。」

「妻君の初恋もこやつか?」

「はい。私の母親代わりもです。彼は当時美少年だったので。」

「色男は罪じゃな。」

「不可抗力なんだけどな……。」

ラスが告白されても断り続けたのはかつての恋人であるキカをずっと想っているからだ。亡くなっている人にはどう足掻いても勝てない。今までラスに告白した人は、ラスの一番になりたかったからハッキリと断られた。それでも生来の優しさから、求められれば抱いてきたのだろう。

リオンはラスのキカを想う心ごと愛しているから、ラスの伴侶になれた。ラスが自分を好いてくれるならばそれでいいと。だが、自分が生まれる前や過去のこととはいえ、キカ以外はやっぱり妬くものは妬く。

「リオ、ンっ?」

ぐわしっ、とラスの顔を両手で掴んでじっと見つめる。

「リオン、どうしたんだい?」

栗色の髪、切れ長の目に縁取られた睫毛、深い蒼の瞳に瞳孔に橙色の色彩、すっと通った鼻筋、母親似という端正な美貌。パッと見て、一筋縄ではいかない素敵な人という印象を受ける。やっぱり顔がいい。何度間近で見ても惚れ惚れしてしまう。

「……顔がいい。」

「ありがとう。」

そのまま顔を近づけ、チュッとリオンの唇に軽く口付けた。ポッと頬を赤く染めたリオンが手を離し、一連のイチャイチャを見ていたシエラはおー暑い暑いと手でパタパタと扇いでいる。

「そういえば、妻君はそのファレナの元天魁星とやらに会ったことがあるのか?」

「あ、はい。三年前にラスとの新婚旅行でファレナに行ったので。」

「どんな顔をしておった?」

「……えっと…、」

ちらりとラスを見上げ、シエラに視線を戻す。

「ラスに似てました。」

「ほほう!詳しく聞かせよ。」

ずいっとリオンに詰め寄ってきたシエラだったが、それを遮るようにラスがリオンの椅子を自分に引き寄せ肩を抱いた。

「わわっ。」

突然椅子を引かれ驚きつつもラスの腕の中に収まったリオン。

「……シエラ。」

「ほっほほほ!愛されておるの、妻君よ。」

シエラの言葉にぱちくりと目を丸くするリオン。つまり今のラスの行動はまさか、妬いてくれたのか。行為中以外は滅多に見せないラスからの独占欲に嬉しくなって、ふわりと微笑みラスを見つめる。

「ラス……」

「…あまり君を束縛したくないし、交流を邪魔する気は無いんだ。でもシエラだけは読めなくて。」

「いい。私の心も身体もラスのものだ。好きにして構わない。束縛されても、私がラスを嫌いになることは絶対に無い。その代わり、これからもラスの過去には妬くし虫は焼き払うから。」

「っ、本当に君は……。」

柔らかい微笑みで物騒な発言をするリオンに愛しさがこみ上げてきて、両腕で力強くギュウゥッと抱きしめる。この想いを何に例えたらいいのか。もう手離せない、これからを共に生きる愛しい伴侶、最愛最強の妻。

「俺のこれからは君のものだよ、我が妻。」

「ん。」

ラスの言葉に満足したように、すりすりと胸板に頬擦りした。ラスの鍛えられた大胸筋はリオンのお気に入りで、いつでも飛び込んで頬擦り出来るように胸当てを外してもらっている。優しくて強くてカッコいい、私の最愛の旦那様。

 

 

 

お互いにかけがえのない幸せを感じて、

「お主ら、わらわがいることを忘れていちゃつくでないわ。」

テーブルに片肘をついて不貞腐れたシエラに文句を言われるまであと数秒。

 

 

 

 

終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけの会話

 

 

 

「そういえば、百二十年前の話の中で毒物が効かないって言ってたよな?どうしてなんだ?」

「ああ、それは罰の紋章のおかげと言うべきかな……」

「罰の紋章の、おかげ?」

「こやつ、罰の紋章に気に入られすぎてな。こやつの体内に異物が入るのを酷く嫌っておるのよ。毒物や病原菌を探知すれば全て弾き、憑き物すら寄せ付けん。憑き物が憑けば魂に傷がつく故当然の行為ではあるのだが。」

「…気に入られすぎて、右手に宿す予定だった固有紋章すら弾かれたけれど。まあ、ソウルイーターの呪いに干渉されないのは罰のおかげだから、役得かな。」

「…ソウルイーター、極上の魂が罰に寄生されてるからどうにもならなくて悔しいと言っていた。」

「なんと。妻君よ、ソウルイーターと話をしたのか。」

「はい。かつてソウルイーターが食った、テッドが好きだった男性の姿をして、夢の中で。」

「…それ、長髪ポニーテールで僕と同じくらいの背丈だったかい?」

「そうそう。ラス、知ってるのか?」

「ああ、僕の仲間だった青年だよ。テッドのことをいつも気に掛けていて、戦いの後一人で旅立った彼についていったんだ。」

「あやつ恋愛遍歴を暴露されたのか……。不憫よの…。」

「(テッドの記憶を辿ってキカさんの姿にも化けたのは言わないでおこう。)」

 

 

 

終わり。


 
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