No.109445

とある11月のとある週末 season2

華詩さん

自然と周りが彩り、鮮やかな色がチラホラと目にして、少しずつ暮れに向けて準備が整っていくこの季節。彼女達はどんな風に過ごしているのでしょうか。そんなわけで「とある」season2第一弾です。

2009-11-28 22:20:13 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:790   閲覧ユーザー数:771

 日差しは暖かいが、吹いている風が徐々に冷たくなってきた。そんな中でも弟妹は今日も元気に庭で遊んでいる。

 

「ほら、邪魔しちゃダメだよ。すみません。」

「いいよ。面白いんだろう。でも道具は触っちゃダメだぞ。」

「「は〜い。」」

 

 そう言われた二人は元気な声で答える。そして木に立てかけてある大きな梯子の下の段に登ったり、竹箒で下に落ちてきている木の枝や葉っぱを集めて遊んでいる。

 

 年末を前に我が家の庭木の剪定を庭師がしてくれている。毎年これ位の時期にきて綺麗にしていってくれる。木々の間に生える雑草等はとれるけど、松、梅といった木の手入れは私達ではできない。 

 

 高い梯子に登って庭師の人達が剪定を進めていく。パチパチと心地よい音が聞こえてくる。普段見る事のない道具や、下に敷かれたシートはあの子達にしてみれば格好の遊び場所なのだろう。

 

「遊んでいても良いけど、危ない事しちゃダメだよ。いい?」

「だいじょうぶ。ぼくがいるから。ねぇ、りょうちゃん。」

「うん。」

 

 弟が自信をもってそう答える。大丈夫かな、ちょっと心配だけど。過保護なのはよくないし。信じてまかせてあげる事も大事だしね。

 

「じゃ、よう君。まかせるよ、りょうちゃんと二人怪我しないようにね。」

「わかった。」

 

 そう言って家に入るものの、やっぱり気になるので自分の部屋でする予定だった小論文と期末テストの勉強を庭が見えるリビングですることにした。

 

 リビングから庭をみると、二人はさっきと同じように切り落とされた松の葉っぱで遊んでいた。庭師の人達も気にかけてくれているみたいなので大丈夫だろう。

 

 庭から目を離して、リビングのコタツの上の教科書と小論文対策集を見る。私も頑張らないと。二学期の期末テストが近づいている。それが終われば慌ただしく年末年始を向かえる。そして年が明ければ受験生だ。

 

 しばらく対策集と睨めっこしながらメモを取り文章を考えていると、玄関のチャイムが鳴る。彼かな。そう思いノートを閉じて玄関に向かう。

 つき合いはじめてから私達はほとんどの週末を一緒に過ごしている。それもほぼ一日。午前中は家でお茶をのんだり、話をしたり、たまに彼が持ってくるゲームで遊んだりする。普段の昼休みの延長みたいな感じだ。

 ときたま弟妹をつれて買い物にいったり遊びに行ったりしている。そして、午後は二人がお昼寝をしている時間に宿題やら受験勉強も一応している。

 

 「いらっしゃい。」

 「庭師がきてるんだ。家は先週来てた。二人はあっちかな。」

 

 玄関を開けて彼を迎え入れると、彼はそう言って立てかけてある梯子を指差す。

 

「そうだよ。庭師さんが来てるからはしゃいでる。」

「そっか。俺も小さいときは落ちてきた木で遊んだりしたな。」

「同じだね。私も。」

 

 そんな話をしながら彼にあがってもらう。リビングのテーブルに広げてあった参考書と電子辞書をよけて、彼のスペースをつくる。

 

「あれ、テスト勉強してたんじゃないんだ?。」

「午前中はね。午後からはそっちをやるつもりだよ。」

 

 私は推薦試験で必要な小論文対策として書いている。書上げたものは学校で現文先生にチェックしてもらい書き方の勉強をしている。

 

「そっか、上手くいくと亜由美は年明け前に合格が決まるんだよな。俺のその元気はないな一般試験対策でいっぱいだしな。一年の時から頑張ってればよかったな。」

「真一も頑張ってるじゃない。模試の結果は良かったんでしょう。」

「まぁな。でも論文は無理。そうだ、渡すものがあったんだ。」

 

 そんなもう少し先の話をしていると彼は、鞄の中から一つの包みを取り出して私に差し出した。綺麗にラッピングされている

 

「はい。」

「えっ、何。」

 

 そう言われて四角いものを受け取る。重さはそれなりにあるけど重たいものではない。私が重さを確かめたり振ったりしているのをみて彼は可笑しそうに言う。

 

「開けていいよ。変なもんじゃないから。」

「あっ、うん。そうだね。」

 

 ラッピングされている紙を丁寧にほどいていくとそこにはフォトフレームみたいなものがはいっていた。でも何だか色々なスイッチがついてる。私が持ち上げて確認していると彼がそれが何なのかを教えてくれた。

 

「デジタルフォトフレーム。ちょっと貸して。」

 

 彼はそう言って私の手からフォトフレームを受け取るとスイッチを押す。すると今まで何もなかった所に写真が鮮明に映し出される。

 

「あっ、お花見の時のだ。」

 

 そこには満開に咲いているツツジをバックに彼と私と弟妹が楽しそうに写っていた。そう言えば親友がカメラを持って来てたっけな。

 

「記念日の記念品。一応考えてたんだけどあの日には間に合わなかったから。」

「ありがとう。でもいいの。貰っても。」

「いいよ、この先も写真は増えていくし。一緒になる時に持って来てくれればいいよ。」

 

 最後は照れながら彼はそう言った。言われた私も少しだけ照れくさかった。一緒なる。その言葉の意味はよくわかっている。だから私はそれにこう答えた。

 

「そうだね。じゃ、これは嫁入り道具第一号だね。それまで私が持ってるね。」

 

 そしてボタンを操作して写真が切り替わっていく。ほとんどはプリントアウトしてもらったものが多かったが中には知らないのもあった。そういったもののほとんどは私と彼が自然体に写っていて、しかも二人の距離が近かった。いや、ほとんどなかった。

 

「ねぇ、これ誰が撮ったの?たぶん優子だと思うけど。私が知らないがある。」

「あれ、亜由美には全部渡してあるからって言われたけどな。」

 

 彼は不思議そうにそう言ってボタンを進めていく。後で親友を問いただしておこう。もしかしたら他にもまだ隠し持っているかもしれない。

 

「でもいいね。これ、アルバムをめくるのも楽しいけど。これも楽しい。」

「そうだな。これからも増えるんだろうな。」

「それにしてもあの時の優子、少し怖かったよな。」

「怖かったよね。色んな意味で。」

 

 そう言って顔を見合わせて二人して笑いあう。映し出される写真を見ながらあの日の事を思い返していた。

 

 

「ねぇ、記念日のお祝いはどうするの?それとももう何かしたの?」

 

 親友が目を輝かせて私達二人をかわるがわる見ながら聞いてくる。

 

「記念日?何のお祝い?」

 

 私がそう言うと親友は信じられないといった表情をして私と彼を交互に見つめる。何だろう何か忘れちゃまずい記念日があったんだろうか。そう思い、隣にいる彼を見る。彼も私と同じように困惑している感じがした。

 

 十一月はこれといって何もイベントがない。強いていえば月末に期末テストがある位のものだ。勤労感謝の日は私達にはあまり関係がないし。そんな事を思っていると親友がため息をついて私達を見る。

 

「真一はともかく、亜由美まで失念してるなんて。」

 

 親友はため息をついてもう一度、私達をみて大きな声で宣言した。

 

「アナタ達がつき合いはじめて、今日で一年でしょう。だから一周年のお祝いはしないの?」

 

 そう言うもんなんだろうか。そんなことちょっとも考えた事もなかった。確かにつき合いはじめて一年立つんだなってことは二人で話したりもしたけど。何かしようとは二人とも思いつかなかった。そう言うものかと考えていると、親友に怒られた。

 

「亜由美。アンタがしっかりしなくてどうするのよ。真一がそう言うの疎いのはわかってるでしょう。しっかりしなさい。」

「うん、でも。」

「でもじゃないの。こうゆう事は今のうちにしっかりしとかないと。結婚記念日をスッポカされたり誕生日を忘れられたりするんだからね。」

 

 何やら親友はすごく怒っていた。その横で親友の彼が片手を上げてゴメンとうポーズをとっていた。もしかして記念日を忘れちゃったりしたんだろうか。そんな親友の話を聞いていると後ろから声をかけられる。

 

「お取り込み中の所悪いんだけど。ちょっといいかな。」

 

 そう言って声をかけられる。知らない人が私の後ろにいた。学年を識別するバッチは私達と同じ学年の色をしているけど。そう思っていたらとなりにいた彼も振り向く。

 

「木村か。どうしたんだ。」

「どうしたって、頼まれたものができたから持ってきたのと、あとプリントしたのはおまけな。」

「そっか、悪かったな。」

 

 彼はそう言って男のから茶色い封筒を受け取り、ポケットにしまう。何を貰ったんだろうか。私が見つめているとその男の子が私にも封筒を渡してくれる。

 

「えっと初めまして。写真部の木村です。これ文化祭の写真。」

 

 そういって封筒を私にも渡してくれる。彼と同じ茶色の封筒だった。

 

「写真?。なんで?買った分は貰いにいったよ。」

 

 毎年写真部は文化祭の間、カメラマンを務めている。写真をとってもらいたい人はカメラマンを見つけてとってもらう。それを後日、低価格で販売してくれる。見に行ったときに意外と多くに写っていたのにはビックリした。

 

「えっと、矢野に頼まれごとされていたついでだからサービス。」

 

 私は受け取り写真を取り出す。そこには私と彼が踊っている写真が何枚か入っていた。販売時にはってあったのとは違ったうのがそこにはあった。

 

「後夜祭の写真だ。ありがとうございます。貰って良いんですか。」

 

 展示してあった後夜祭の写真の多くは踊る前のものが多かった。踊っているものを少しはあったけど動いている分ぼやけているのが多くて買わなかった。でも今出て来たのはすごく綺麗にとれてる。

 

「すごいね。全然ぶれてないよ。」

「コイツの趣味はカメラだからな。バイト代は丸々カメラだもんな。」

「五月蝿いな。でもいい仕事してるだろう。」

「カメラのおかげだろう。」

 

 彼はそんな事を良いながら男の子と話をしていく。彼は色んな所に知り合いがいる。そう言えば彼がこういう風にしているのは初めて見たかも。親友の彼との掛け合いとはまた違った感じだ。

 

「私にも見せて。」

 

 私が写真をみつつ、そんな事を思っていると親友が手を伸ばして来た。

 

「はい。すっごくよく撮れてるよ。」

「あっ。」

 

 私が親友に写真を渡すと男の子は何だかしまったという顔をした。どうしたのかな。そう思っていると写真を見ていた親友が突然、驚きの声を上げる。何は変なのでも写っていたのかな。そう思い親友をみると親友は一枚の写真を持って目を丸くしていた。

 

「ねぇ、亜由美。これ誰?」

 

 親友は私一枚の写真を机の上に置き写真を指差す。そこにはワルツを踊っている私とあの時の一年生が写っていた。この時の写真もあるんだ、それにしてもよくとれてるな、さすが写真部。

 

 男の子の表情はとっても楽しそうだった。でもちょっぴり恥ずかしそうな感じもしていた。余裕があるつもりだったのに私も少し頬を赤く染めていた。慣れない事はしない方がいいかも。でもいつ取られたんだろうな。踊る事に夢中で気がつかなかった。

 

「本当、綺麗にとれてるな。しかも絶妙なタイミング。二人の顔がよく見える。」

 

 机に置かれた写真を見て隣にいる親友の彼がそう言った。

 

「そうだね。貼ってあった写真はほとんどブレたのが多かったしね。」

「俺たち撮影用で止まってとってもらったからな。来年は頼んでいいか。」

「いいけどできるだけ中央で踊ってくれな。あそこがベストポジションな。」

 

 親友の彼と写真部の子がもう来年のダンス会の話をしている。でもこの子と踊ったのって隅の方だった気がするけど。そんな疑問を持ちつつ写真を見ていると彼が話に入って来た。

 

「その写真。その一年生にも渡してあげれば。」

「そうだね。でも私名前聞くの忘れちゃった。真一は聞いた?」

「そう言えば聞いてないな。圭司、こいつ見た事ない?」

 

 彼はそう言って親友の彼に聞く。彼も私と同じく一年生との接点はほとんどない。部活を続けていればあったかもしれないけど。

 

「ないな。部活の時に一年にきいてみるから。写真借りていい?」

「いいよ。わかったら教えてね。私達で渡しにいくから。」

「了解。」

 

 私達が話しているとちょっと低い声がした。

 

「ちょっと何私を置き去りにしてるのよ。」

 

 声がした方を見ると親友が笑いながら怒っていた。困って隣を見ると、彼はさっき自分が受け取った封筒をポケットから取り出して、写真を取り出そうしていた。

 それを写真部の子が彼を静止して耳元で呟く。すると彼はすこし顔を赤くしたかと思うと、怒った表情になっていた。

 

「なんでそんなのがあるんだよ。」

「いや、偶然。というよりも、責任はそちらにあるとおもうけど。」

「何、話してるのよ。これはどういう事なの。真一。」

「何が?」

「これ、亜由美と可愛いらしい男の子の写真。アンタはこの時どこで何やってたのよ。」

「二人が踊るのを見てたよ。けど、それがどうした。」

 

 彼がとっても不思議そうに親友に聞き返すと親友は勢いよく机を叩く。一瞬教室が静かになるがまたいつものようにザワザワとしはじめる。

 

「もう、亜由美ちゃんと説明しなさい。」

「踊りませんかって、誘われたからとしかいいようが……。」

 

 なぜかその時の事を話す事になった。そして渡すなら早い方がいいという事になり、残りの昼休みは男の子探しになった。写真を渡したときの男の子の嬉しそうな表情がとっても印象的だった。

 

 

 あの時の事を思い返していて、彼が写真部の子に貰った写真が気になりはじめた。

 

「そいえば、真一が貰った写真て何が写っていたの。」

「ああ、もうすぐわかるよ。」

 

 彼はそう言ってデジタルフレームを操作していく。そして写真が映し出される。

 

「うそ。」

 

 私はその写真をみて顔が赤くなっていくのを感じた。彼が渡せた時に怒った感じだったのはこの写真の為だったのか。でもデジタルフォトフレームに入っているってことはデータがあるっととだよね。

「データは誰が持ってるの?」

「心配しなくて良いよ。データごと貰ったから。木村は信用出来る奴だよ。」

「うん、でもまさか写真撮られてた何てね。」

「まぁ偶然らしい。データを整理していて気づいたらしい。」

 

 リビングにある時計の鐘が鳴る。時計の針は十時をさしていた。そうだお茶出さないと。私がソファーから立ち上がると彼がどうしたの

 

「そろそろ、休憩の時間。私、庭師の人にお茶出してくる。私達もお茶にしよう。」

「そうだな。何か手伝う事あるか。」

「お茶出している間に二人に手洗いをさせて欲しいな。」

「わかった。」

 

 私は一度キッチンにいき、お茶とお茶菓子の準備をする。そして彼と一緒に玄関から外に出て庭師さんに休憩をしてもらうように進める。

 

「休憩してください。お茶とお菓子置いていきますのでよかったらどうぞ。」

「ありがとうございます。おい、休憩するぞ。」

「は〜い。どうもすみません。頂きます。」

 

 庭師の人達があつまり休憩をする。さてあとは二人におやつを作ってあげないと。そう思い、二人を探す。二人は彼と一緒に外の水道で手を洗っていた。

 

「おねえちゃん。おやつなに。」

「なに?」

 

 私は持っていたタオルを二人に渡す。

 

「今日はホットケーキだよ。今から焼くからちょっと待っててね。」

「ほっとけーき。ちょこかけていい?」

「ぼくははちみつをかける。」

 

 弟妹が目を輝かせながらそれぞれの希望をいう。もちろん二人の希望に応えられるように準備は万全だ。チョコシロップと蜂蜜もちゃんと買ってある。私はバターをゆっくりと溶かしながら食べるのが好きだ。

 

「いいよ。でもかけすぎちゃダメだからね。リビングで待っててね。」

 

 彼に二人をリビングに連れて行ってもらい。私はホットケーキを焼く準備を始める。ホットケーキの素を牛乳でさっと解いていく。粉が玉にならないようにかき混ぜていく、指につけて固さを見る。うん大丈夫、これ位かな。

 

 タネの準備ができたので大きめのフライパンを強火で温めていく。十分に暖まったのを確認してコンロの火をきる。そして用意しておいた湯濡れ付近に素早くのせる

 

「あれ、あっためたの冷やしていいのか。」

 

 振り返ると彼が不思議そうに見ていた。

 

「そうだよ。一度ね冷やすといいんだよ。それからまた火をいれるんだけどね。二人は?」

「テレビをみてる。見忘れる所だったって騒ぎながら。」

 

 そう言えば、普段だとテレビを見てる時間か。私も忘れてた。タネをお玉ですくって少し高い位置からゆっくりとフライパンに流し込んでいく。小さめのフライパンだけど出来上がりは丁度いい大きさになる。

 

 表面に沸々と小さな穴があきはじめたのをみて、フライ返しで丁寧にひっくり返す。フライパンに付くとこともなく綺麗にはがれ見事なきつね色をしていた。蓋をかぶせて仕上げをする。

 

 それを数回繰り返して8枚のホットケーキを焼く。焼いたものを二枚ずつ重ねてそれぞれのお皿に盛り、そしてそれぞれを一口サイズに切り分ける。

 

 そして、蜂蜜をかけたものと、チョコレートシロップをかけたものの二種類を準備する。あとはフォークを準備しておしまい。飲み物は二人は牛乳でいいかな。私達はコーヒーかな。一応聞いておこう。

 

「真一は飲み物どうする?私はコーヒーにするけど。」

「俺もコーヒーがいいな。」

「わかった。お砂糖は一つでだったよね。」

「あとクリームもあれば欲しい。亜由美はブラックだったけ。大人っぽいよな。」

「優子にも言われたな、それ。」

 

 そんな話をしながらカップを用意していると、彼はホットケーキの乗ったお皿に手を伸ばそうとしたいた。反射的に二人にするみたいに軽く手を叩く。彼がビックリしていた。

 

「ダメだよ。つまみ食いは。二人みたいなことしないの。」

「ごめん。いい匂いだったもんだからつい。」

「もう。」

 

 そう言って彼は頭を掻く、こういう子どもっぽい一面をたまに見せる。もしかしてあの子達のがうつったかな。そんなわけないよね。私達の影響を二人が受ける事はあっても。お盆にホットケーキと飲み物をのせる。

 

「あっ、真一。フォークと飲み物をもってリビングに行ってもらっていいかな。」

「いいよ。そっちを俺が持とうか。」

「大丈夫だよ。いつもの事だから。ありがとうね。」

 

 二人揃ってリビングに戻る。弟妹達はテレビでなくコタツに置いておいたフォトフレームをソファーに座って二人で珍しそうに覗き込んでいた。テレビよりも新しいものに目がいくみたいだ。

 

 そう言えば話の途中でそのままだったけな。そんな事を私が思っていると彼は慌ててコタツにお盆を置いて、二人の元に近づく。すると妹がこっちをむき大きな声で言った。

 

「おねえちゃんとおにいちゃんがチューしてる。」

 

 妹はニコニコして私達にフレームを向ける。隣にいる弟も同じようにニコニコしていた。その言葉を聞いて私は顔が真っ赤になるのを感じた。そう言えばその写真のままだったけ。彼が慌てて二人の元に言った事を今更ながら理解した。

 

 彼はコタツに飲み物とフォークを置いて二人の横に座る。二人はニコニコしながらデジタルフォトフレームを眺めている。幼い二人とは言えマジマジとあんな写真を見られるのは恥ずかしい。

 

「ラブラブ」

「ラブラブだね。」

 

 二人はとっても楽しそうだ。間違いなくお母さんに伝わるんだろうな。何となくお母さんのニヤニヤした顔が浮かんだ。彼がどうするのか見ていると彼は二人に合わせた。

 

「そうだな。ラブラブな。ほら、ホットケーキ来たぞ。二人ともコタツの上にナフキンを引いて。手伝いしないとホットケーキなし。」

 

 彼がそう言うと二人はフォトフレームをソファに置き、慌ててナフキンをコタツの上にひく。そうやって彼はまんまと二人からフォトフレームを取り戻す。

 

 

 二人は机の上にナフキンをひき、食べる準備をする。手にはしっかりとフォークをにぎっていた。私はそれぞれのリクエスト通りになっているホットケーキの皿を渡し、自分達の分をならべる。

 

「真一。ごめんね。すっかり忘れてた。」

 

 私は彼からフォトフレームを受け取り電源を切って、教科書や参考書と一緒にコタツの横に置く。

 

「俺こそごめん。二人が見る可能性をすっかり忘れた。あとであれだけ消去しておく。」

「うん、でも写真は欲しいな。あとでプリントしてね。アルバムにしまっておく。」

「おねえちゃん。はやくたべようよ。」

「はやくはやく。」

 

 立ったままそんな話をしていると、二人にせかされ、私達も並んでコタツに入る。そう言えば二人で並んで座るのってめずらしいな。

 普段だと弟妹のどっちかがそれぞれの横に座る。もしくは膝に座っている事が多いので私と彼は対面に座る事が多い。そんな事を思いつつ自分達の分の皿を置く。

 

「じゃ、食べようか。いただきます。」

「「いただきます。」」

 

 四人で手を合わせていただきますをして食べはじめる。弟妹たちは勢い良く、ホットケーキを口に運んでいく。私達はなんとなく恥ずかしさと気まずさで二人を見ている。さてさっきの奴はどう説明したらいいんだろう。

 

「おねえちゃん、たべないの?おいしいよ。」

「おなかいたいの?」

 

 二人が不思議そうにそして心配そうに私を見る。さっきの写真の事はホットケーキで忘れちゃったみたいだ。隣を見ると彼もホッとしたような顔をしながら、ホットケーキを食べていた。

 

「うん、食べるよ。あっ、りょうちゃん。口の周りにチョコが付いてる。」

「うそ、どこ。」

「ここ。」

 

 私は自分の頬を指差して教えてやる。すると妹は反対側を一生懸命に触っていた。なので私は手を伸ばして頬を軽くなぞってとってやる。

 

「ほら、こっちね。慌てて食べるからだよ。よく噛んでね。」

「うん。」

 

 私もホットケーキをフォークに差して、、口の中に放り込む。口の中に蜂蜜の甘さとホットケーキの食感が広がる。久々に作ったホットケーキは美味しかった。でもやっぱり私はバターで食べるのが好き。

 

「そうだ、二人とも欲しいものってあるか。」

 

 彼が突然そう言うと二人は口をモゴモゴさせ、牛乳を飲み。関口一番に同じ物を注文した。

 

「「ぎんいろのながぐつ。」」

「銀色の長靴?」

「「うん。」」

 

 二人はそう言ったあと、再びホットケーキを頬張ってしまった。それ以上の情報を聞けなかった彼は困惑した表情で私を見る。

 

「あのね。二人が言ってるのはお菓子が詰まっている奴だよ。この間買い物の時にみていらいずっと言ってるんだ。」

 

 私も小さい時に買ってもらった記憶がある。長靴に目一杯に入っているお菓子はすごく魅力的だった。

 

「じゃ、二人のクリスマスプレゼントはそれでいいかな。」

「悪いよ。去年も二人に貰ったし。」

「いいって。今年もここで過ごすんだろ。長靴は俺がプレゼントするよ。」

 

 彼がそう言うと二人は顔を見合わせ、すぐさまこちらを向き大きな声を出して喜んだ。

 

「いいの。ながぐつ。」

「やったー。ながぐつ。」

 

 二人はとっても嬉しそうだった。笑顔を向けられた彼も嬉しそうな顔をしていた。そう言えば去年プレゼントを渡したてたときも同じような顔をしていた。

 

「二人ともよかったね。ありがとうを言わないとね。」

「「おにいちゃんありがとう。」」「あとごちそさま。」

「さま。」

 

 そう言って二人はホットケーキを食べ終ると、また、庭に出ていった。テストが終わると一気にクリスマスと言った空気に早変わりする。イルミネーションが街を彩り、聞こえてくる音楽もそれっぽいものが多くなる。学校のなかも何だかソワソワした感じになり、落ち着きがなくなる。

 

 本当はテストが終わってからと思っていたけど、今、クリスマスの事が話にでたから今のうちにしておこう。バタバタしていると言いそびれそうだし。それに何か予定を考えてもらっていると悪い。

 

「あのね、真一。」

「ん?」

 

 私はリビングにある戸棚にいって、一組のチケットを取り出す。お父さんからの、少しどころか早過ぎるクリスマスプレゼントと言ってお母さんから渡された物。渡された時に一緒に入っていたカードには『彼と楽しんで来なさい』一言とメッセージが入っていた。

 

「一緒に見に行かない?クリスマスの日なんだけどさ。どうかな。」

 

 そう言って私は彼にチケットを見せる。こう言うのって興味ないかな。受けつけない人もいるから少しだけ不安だったが、彼はチケットを手にとり興味深げにしていた。そして嬉しそうな顔を私に向けて返事をくれた。

 

「いいよ。見に行こう。初めて行くよ。」

 

 彼はそう言ってOKの返事をくれた。良かった。嫌いだって言う人もいるから。中々誘う事ができなかった。

 

「私は二回目かな。小さかったからあんまり覚えてないんだ。」

「今年のクリスマスは早々と決まりだな。でもいいのか。」

「うん、大丈夫だよ金曜日だしね。それに夕方の公演だから。」

「そうじゃなくて、二人。」

 

 彼はそう言って庭で遊んでいる二人の方をみる。庭師さんとなにやら話している。邪魔してないといいけど。彼が何を心配しているのかよくわかる。

 

「大丈夫だよ。お母さんもいるし。それに我が家はイブがメインだしね。」

「そっか。」

「ありがとうねあの子達の心配までしてくれて。」

 

 私がそう言うと彼に何故だか頭を撫でられる。もう、子どもじゃないんだぞと思いつつも、撫でられる手がとってもくすぐったく気持ちよくされるがままになっていた。そして彼にそっと寄りかかる。

 

「いいよ。俺にとっても二人は大切な家族だから。じゃさ、丸一日外でデートしないか?夕方のコレだけじゃなくて。」

「いいよ。真一にまかせるよ。でもその前にテストだね。頑張ろうか。」

「そうだな。たぶん大丈夫だけど休み中の補習は嫌だしな。」

「さぁ、頑張ろう。ここ片付けるね。」

 

 空になったホットケーキの皿を積み重ねて、コタツの上を片付けていく。まずはテストを無事に終えないとね。こうしていつもの週末がちょっとした意味を持った週末にかわり過ぎていく。

 

fin


 
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