ピンと来てない話
※薔薇を背負う人後日談
「そういや、リオンのやつラインバッハ3世にピンと来てない様子だったな。」
「えっ、そうなのか?」
「あの冒険小説って超有名じゃん。俺オヤジに全巻買ってくれるようにおねだりしたぜ。」
「俺も読んでたな。戦士の村でも読み聞かせに使われてた。」
「俺は大ファンだ。」
「知ってる。」
「そして!ラインバッハ3世の唯一無二の友があそこに!」
ビクトールが指を指し、フリック、シーナが視線を向けた先にいるのは、リーダーのリオンと一緒にいるラス。ラインバッハ3世の唯一無二の友として、薔薇の剣士に描かれている男である。
ラスを視界に入れた途端、ビクトールの作画がベルば○風に変わった。フリックとシーナはゾワゾワと鳥肌が立って動けなくなる。
「キモい。」
「あべしっ!!」
ゴインッとクレオが拳骨で殴って元に戻った熊。作画崩壊を止めたクレオに、ありがとう姐さん!とフリックとシーナが心の中で感謝する。お~痛えと後頭部をさするビクトールが先ほどの疑問を答えてくれそうなクレオに質問する。
「なあクレオ。リオンのやつ、ラインバッハ三世を知らねえみてえなんだが、あいつ薔薇の剣士読んだことねえのか?」
「あー…。」
「いやいやビクトール、それは流石に無いだろ。」
「そうそう!俺でも全巻読んでるんだから流石に……」
ビクトールの質問にクレオが頬をポリポリ指で掻きながら困った顔をして。無いな、と答えた。
「えっ、ホントに?ホントに無いの姐さん!?」
「誰が姐さんだ誰が。」
「マジか!あれ世界的に有名なやつだろ!マクドール邸には無かったのか!?」
「いや、一応あったにはあったんだが……、坊っちゃんは六歳から武術書を読んでてな。」
「…は?」
「えっ、軍人の家系怖い…」
「言っておくがテオ様が読ませるように言ったわけじゃないぞ。坊っちゃんが自分でテオ様の書斎から持ってきたんだ。」
リオンは六歳にとある人物に助けてもらってからその人の強さに憧れ、自ら厳しい鍛練をするようになった。そして、棍術に必要な人体急所の本や武術書、将来武将になるための兵法書を自ら読むようになったという。そんな息子にテオは喜び半分、子供らしいことをしてやれない申し訳無さが半分だったとか。
見かけは美人だけどめちゃめちゃ脳筋…、と三人は思った。
ついでにその坊っちゃん憧れの人物はラス殿だぞ、とクレオが付け加える。ラスの雷神を目の当たりにしている三人は分かるわーと言いながらウンウン頷いた。男は皆、強い者に惹かれる。
しかし、もったいねぇなとビクトールは呟いた。あれだけベタ惚れしている恋人が描かれている薔薇の剣士だ。リオンに見せてやりたい。
思い立ったが吉日とばかりにビクトールがリオンの元に近寄って話しかける。
「ようリオン、お前薔薇の剣士読んだこと無いってホントか?」
「薔薇の剣士?……ああ、グレミオが薦めてた本か。」
武術書と兵法書ばかり読む自分にグレミオがこちらも面白いですよと薦めていた。しかし、1日も早く強くなりたくて拒否していたっけ。
「読んだことはないが、それがどうした?」
リオンが首を傾げると、よーく聞けよとビクトールが薔薇の剣士の本を取り出し、作画が今度はガラ○の仮面の月○先生風に変わった。気持ち悪い、とリオンに鳥肌が立つ。
「これにな、ラス様が書かれてるのよ!薔薇の剣士の主人公、シュトルテハイム・ラインバッハ三世の唯一無二の友として!」
その名前、熊が偽名に使ってたやつ。確かこないだ熊を殴った時にラスから友人だって聞いた。友人のことが書かれた本を見てたけど、まさかそれに?ラスのことが?
「えっ、ら、ラス、これに?ラスのことが?」
「うん。こないだ見せてもらったけど、巨大船のリーダーの記述は僕に間違いないよ。ラインバッハとは親しい友人だったし。」
「っ!?」
そう聞くなり、リオンはショックで顔を手で覆って天を仰いだ。
悔しい。よりによってラスが書かれた本を、今まで読んだことなかったなんて。
フフフフフ…と○影先生風の作画で笑うビクトールに、クレオが再びキモいと言いながらゴインッと拳骨で殴って元に戻した。
「ははははは、ビクトールは面白いね。」
「えっ、そんな、ラス様っ。」
「乙女の顔すなキモい。」
「クレオぉ!俺にもっと優しくしろ!」
ビクトールとクレオのやり取りは見ていて面白い。しかし、ラインバッハ三世の友人と知ってからビクトールがラス様と呼ぶようになり、一緒に酒を飲んでくれなくなったのは少々寂しい。
「僕としては、前のように一緒にお酒を飲んでくれたら嬉しいんだけど。どうかなビクトール?」
ラスがニッコリ笑ってそう問いかけると、ビクトールの背景にまた薔薇が咲き、ベルば○風作画に変わる。あれを前にして鳥肌も立たずにニッコリ笑っているラスに、シーナはやっぱり師匠すげえ!そこに痺れるゥ!憧れるゥ!と心の中で叫んでいた。
「もちろんです!こいつも一緒に!」
とベルば○風の熊はフリックの肩を掴んで引き寄せる。
「いやその顔やめい!近づけるな!俺を巻き込むな!」
「お願い、俺の平静のためにお願い。
「だ、か、ら、何だよ紫の薔薇の人って!その顔やめい!」
「いでっ!」
めんどくさいオタクのようになっている熊を、フリックが頭にチョップして作画を戻した。
「フリックは僕と一緒に飲むのは嫌かい?」
「へっ?あっ、いやっ、そんなこと、ないですっ。」
ラスに話しかけられて、ついつい声が裏返って敬語になってしまった。そうしたら、
「良かった。」
と言ってラスが優しく微笑むものだから。フリックは顔をボンッと真っ赤にさせて、
「すまんビクトール、俺も平静でいられる自信ない…。」
「おいこらしっかりしろ。」
「顔がいい…。抱いて…。」
と小声で話すのだった。
一方、ショックを受けてたリオンに、クレオが買ってきましょうか?と囁いて。お願い、ラスが書かれてる巻だけ買ってきて。と頼んでいたとか。
終わり。
何でもまずいのあの子の話
※3ネタ含む。ピンと来てない話の後
3年後の同盟軍本拠地内の料理対決に、絶対に審査員にしてはいけない少年がいた。
『何でも不味い』のルックである。
それはこの解放軍の食堂においても、遺憾無く発揮されており。
皿を下げて一言。
「まずい。」
と言い残して去っていく。
食堂の料理人の自信を悉く失う発言をするルックのことは当然リオンの耳にも入るわけで。
ここは育てた人に聞こうと、食堂の一角でリオンとシーナはラスにルックのことを聞いてみた。
「ルックの味覚ってどうなってるんだ?」
「それな。料理人のおっちゃん毎回落ち込んでるんっすよ、師匠。」
「だからラスを師匠って言うな。」
「いでっ!棍やめて!」
ベシッと棍でシーナの頭を小突く。
ラスの方を見てみると。右手で頭を抱えて、あの子はまた……と困った顔をしていた。
リオンとシーナはラスの料理を何度か食べたことがあるが、これが料理人に引けを取らないほど美味しいのだ。ラス本人はプロには敵わないと言って謙遜していたが、群島出身のせいか海鮮系の料理は絶品だった。その料理を食べてきたはずのルックが、何故。
ふと、ラスが珍しく遠い目をして、
「本当に大変だったんだ、ルックがまともに食べてくれるようになるまで…。」
と過去を思い出し始めた。
ヒクサクの複製として作られたルックは、どうやら味覚が鈍かったようで。本人曰く『味って何?』とのこと。
これも複製としての副作用なのかとあの国に憤りもしたが、とにかく食べなければ成長しないし魔法に身体が耐えられない。
いろいろ作って食べさせてみたが全て無反応で、一口食べてはもういらない、と突き返すばかり。
これには流石のラスも頭を抱えた。何しろラス自身も子育ては初めての経験。育児書を読みながら試行錯誤して作っても食べてはくれず。その全てはレックナートの腹の中に収まった。
成長のためにと言われて野菜ジュースだけは飲むようになったが、父親代わりとしては、例え作られた存在でも今は1人の命ある人間なのだから、食事を楽しめるようにとの思いで食事を作り続けていた。
そんなこんなでレックナートが肥えてきて、1年ほど経ったある日。とある料理を食べて、ルックの顔つきが変わった。初めて、全部食べたのだ。美味しいとも何も言わなかったが、全部食べたことでラスは喜んでルックを抱き上げて頬擦りしたのは覚えている。
それからいくつかレパートリーを試したが、ルックが全部食べる料理は限られていた。とにかく食べてくれるようになっただけで著しい成長だったのだ。次第にルックも、その料理だけは美味しいと言うようになったのである。
「その時に作った料理、実は何の試行錯誤も無しに作ったものでね。もう自分の好きなもの入れて作ろう、って。それをルックが初めて全部食べたのは嬉しかったな。」
複製ということは伏せ、実の親の育児放棄によりまともに食べたこともなく味も分からなくなって何を食べてもいらないと残してた、と言うと、あいつホント師匠に会えて良かったなぁ、とシーナがえぐえぐ泣いている。
「ラスの、好きなもの?」
「そう。蟹肉入りの海鮮まんじゅう。」
「まんじゅう。」
「海鮮肉まんと言えばいいかな。」
「うっわ旨そう!」
ラスの好物は、蟹とまんじゅう。
まんじゅうと言ってもまんじゅう状のものなら何でも好きなので、肉まんも含まれる。
「そういえば、あいつ肉まんだけは残さず食ってたなー。」
「えっ、じゃあルックの好物って。」
「僕と一緒。」
「でもよ、肉まん食ってもまずいって言うんっすよ。何でなんすかね師匠?」
「だからラスを師匠って言うな。」
「いでっ。棍やめて!」
「うーん、そんなこと無いはずなんだけど…、こればかりは本人に聞かないとね。」
と話していると、丁度ルックが食堂に来た。カウンターで肉まんを受け取り、ラスの姿を見つけるや否や真っ直ぐ歩いてきた。
「父さん。」
「おや、ルック。丁度良かった。」
「?」
「ここに座りなさい。」
「っ!」
ラスが少し強めの口調で言い、隣の席を指差す。ルックはビクッと震えたが、父に逆らえずにおずおずと隣に座った。
「な、何?」
「ルック、どうして食堂の食事をまずいって言うんだい?」
「えっ。」
「味覚に関しては分かるようになったと思っていたんだけれど…。そうじゃないなら教えてくれないか?」
「だ、大丈夫。ちゃんと味は分かるよ。」
「それなら良かった。じゃあ、どうしてまずいって言うのかな?」
「それは……。」
チラチラとラスを見ながら、言いにくそうに指を弄るルック。ラスがルックの顔を覗きこむと、ぼそぼそと口を開いた。
「と、父さんの、料理以外は、まずい。」
「…えっ。」
「栄養取るために食べてるけど。父さんの料理の方が美味しい。」
横で聞いていたシーナはあんぐりと口を開いた。つまりあれか、師匠の料理以外は全てまずい判定なのか。
「お前、師匠大好きじゃん。」
「うるっっさい。」
「ふんぎゃーっ!!」
ゲシッとシーナの脛をおもいっきり蹴飛ばすルック。弁慶の泣き所に直撃し、シーナは椅子から転げ落ちた。
そして可愛い息子の可愛すぎる本音を聞いたラスは、嬉しすぎて頭を抱えた。
俺の息子がこんなに可愛い。
「…可愛すぎて父親として心配になってきた…。」
頭を抱えるラスに、リオンはラスの手を取る。
「ラス、大丈夫。ルックにまとわりつく虫はリーダー権限で私が払う。」
「ありがとう、リオン。」
リオンの手を握り、その手の甲に軽く口づけて。リオンの顔がボンッと赤くなった。
「いやあんたは父さんに群がる虫に集中しろ。あと息子の隣でいちゃつくな!」
「ははは、ごめんごめん。」
そう言ってラスがルックの頭をヨシヨシ撫でて。誤魔化されないからね、とルックは唇を尖らせるのだった。
ルックの『何でもまずい。』
それは、
『父親の料理以外は全てまずい。』
という理由なのであった。
終わり。
おまけの会話。
「僕の恋人と息子が可愛すぎて心配になるな…。」
「あ、大丈夫っす師匠。あいつら師匠の前で可愛子ぶってるだけです。」
「おいそこのパツキン、ツラ貸しな。」
「ラスに余計なことを言うな。」
「やべっ!」
「逃げ足の早い…。追うぞルック。」
「合点。」
「…二人とも、仲良くなったなぁ。」
終わり。
血の運命
※献杯後日談、4ネタ有り
「ラス殿、少々お話よろしいでしょうか。」
モラビア城から戻ってすぐ、ラスがリオンの部屋に食事を運ぼうとしたらマッシュに声をかけられた。
「何かな?食事が冷めてしまうから手短にお願いするよ。」
「では単刀直入に伺います。貴方は私の策を見抜いておられましたね?その上で、フリックとクレオにのみ忠告しておられた。」
「ああ。」
ビクトールが墓参りのついでに都市同盟へ使いに行ったことも、訓練ではなく進軍なのもラスは見抜いていた。
「何故忠告したのが僕だと?」
「私が進軍を命じたあの時、クレオだけでなくフリックも一瞬だけ驚きはしましたがどこか納得したような顔をしていましたので。フリックに問い質しました。」
「なるほど、彼らしい。」
「……見抜いていたにも関わらず、貴方はそれを帝国に伝えていなかった。スパイと疑っていたこと、お詫び致します。」
頭を下げるマッシュに、構わないよ、顔を上げてと返した。いくらリーダーの恋人で亡きグレミオが信頼を寄せていたとはいえ、軍師として得体の知れない人物を疑うのは当然だ。
「しかし、まさかエレノアも子孫が同じ策を使うだなんて思わなかっただろうな。」
「……はっ?」
ラスが呟いた名前に、マッシュは覚えがあった。
エレノア・シルバーバーグ。シルバーバーグ家に名を残す随一の女傑軍師。その名を何故ラスが知っているのか。150年前の人物だというのに本人を知っているような口振り。まさか。
「…ラス殿、貴方のフルネームをお聞かせ願えますか?」
「ん?ああそうか。君には直接言ってなかったか。」
この城にラスが来てすぐの頃、グレミオが皆に『坊っちゃんの恋人のラス様です。』と紹介して回っていたのだ。直接ラス本人から名前を聞いたわけではなかった。
「ラス・ジュノ・クルデス。君の予想通りの名前かな?」
「…っ、ええ。」
ラス・ジュノ・クルデス。それはエレノアに関係する人物の名前だった。
150年前、群島諸国で亡くなったとされるエレノアの遺品とその軍略を記した伝記がターニャという女性の手でシルバーバーグ家に届けられた。その伝記に、エレノアが軍師として最後に従ったのが群島解放戦争のリーダー、ラス・ジュノ・クルデスと記されていたのだ。何度も海に流されても必ず生き延びる、海に愛された覇王、海皇ラスという別名と共に。同じ伝記が群島諸国連合のオベル王国にもあるという。彼の功績を称えて当時のオベル国王リノ・エン・クルデスが自らの姓を与え、次のフレア女王の代からはイーガン姓を名乗るようになったのだとか。マッシュはその伝記を年の離れた妹である幼いオデッサに読み聞かせていたものだ。
「……まさか、貴方があの伝記の…。」
「参ったな。その伝記、僕をフルネームで書いてるのか。」
フレアがターニャに書かせたな、とラスは予想がついた。名は絶対残すから!と言った姉の顔を思い出して苦笑いする。
「君が驚いた顔をするなんて珍しい。」
「それは当然でしょう。150年前の海皇様が目の前にいるのですから。」
「仰々しいからその呼び名はやめてくれないか。」
「承知しました。確か、真の紋章は不老になるのでしたか。」
「ああ。」
「では私の策を見抜いておられたのは……。」
「エレノアに軍略を叩きこまれたのさ。それに、彼女もかつて自らを囮にし、身内を使って赤月帝国の軍をクールークに侵攻させ、手薄になる隙を狙って強襲する策を使っていたからね。」
「なるほど、恐れ入りました。」
「まあ、流石に使いの者が捕まることは無かったけれども。君もビクトールが一緒に捕まるのは予想外だっただろう?」
「はい。なんとも間の悪いと。」
「ははは。そういうところも彼らしいといえば彼らしいね。」
「ええ。憎めません。」
雰囲気がいくらか和らいだマッシュ。今回のように、気質は違ってもシルバーバーグの軍師が無茶をするのはやはり血の運命か、とラスはマッシュを見ながらエレノアを思い出す。
「ついつい話し込んでしまいましたが、貴方が信用足る方だということは分かりました。お料理を冷ましてしまい申し訳ない。」
「構わないよ、温め直してくるから。」
「……我らがリーダーが人間らしさを見せるのが貴方様です。どうか、リオン殿をよろしくお願いします。」
「ああ。君も、あまり無茶しないようにね。君の命も一つなんだから。」
「はい。」
くるりと振り返って去っていくマッシュの背を見送って、調理場へ向かっていくラスの胸中は複雑だった。
裁定者であるラスにはとある男の罪が見えている。レナンカンプのアジトを密告し、オデッサを死に追いやり解放戦争を加速させたスパイの罪。その罪は近い内に増えることになり贖いの時へ向かっていく。彼、マッシュが刺される未来が見えていても、それを言うことは出来ない。
せめて、無茶しないように、自分の身を大事にしてほしいと願うばかりだ。それが非情になりきれないシルバーバーグの血の運命だとしても。
終わり。
グレミオの独白
※4←グレミオ要素有り
「坊っちゃん…、グレミオは坊っちゃんが小さなころから世話をしてきました。坊っちゃんが、弟、いや、息子のように思える時があります。最初は、テオ様への恩返しのつもりでしたが、今は……。でも、もう坊っちゃんには、このグレミオの助けはいらないのかもしれないですね。」
あの日からずっと、坊っちゃんのお世話をしてきたのは私の誇りです。
テッドくんとお友達になってやんちゃするようになって、心配もしました。でも、同じ年頃の男の子のお友達は初めてで。あの御方に憧れて、いつも自分に厳しく鍛練をしていた坊っちゃんが楽しそうなのが私も嬉しかった。
まさかそのテッドくんに紋章を託され、王都を追われ、解放軍に入って、そのままリーダーになるなんて思いもしませんでしたけど。
ずっとテオ様に申し訳がなかった。テオ様から任された坊っちゃんが、テオ様と敵対する道を進むなんて。でも、帝国の腐敗を目にした坊っちゃんが選んだ道。最初は成り行きだったけれど、グレミオは坊っちゃんの側にいることを選びました。
そんな折りに、まさかあの御方が坊っちゃんに会いに来るなんて。10年前と、変わらない姿のままで。
聞けば、真の紋章を宿していらっしゃって、テッドくんとも知り合いなのだとか。それだけでもびっくりなのに、まさか坊っちゃんが密かに会って、再会を約束していたのがあの御方だとは。
10年越しに知ることが出来たあの御方のお名前。ラス様。
すっかり私の方がおじさんになっちゃいましたね、って言うと。
『そんなことはないよ。10年経っても君の顔と心根は綺麗なままだ。』
あの日のように優しい言葉をかけてくださって。この10年、斧を振るうための鍛練ですっかりタコだらけになってしまった手を取って、
『いい武人になったね。』
と言ってくださって。年甲斐もなく、照れて真っ赤になっちゃいましたね。その日に作ったシチューもレシピを知りたいとおっしゃって、内緒です、なんて言ったり。
私の初恋は叶いませんでしたけど、坊っちゃんの初恋が叶って、本当に嬉しい。
美少年キラーなのはいただけないですが、今は坊っちゃんだけとおっしゃってますから、まあ良しとしましょう。
ラス様が坊っちゃん専属の護衛として側にいるようになって、安心しました。ラス様がテオ様より遥かに強い御方なのは他でもないこのグレミオがよく知っています。
もう坊っちゃんは、グレミオの助けなど必要がないほど、成長なされましたね。この先坊っちゃんは、テッドくんと同じように長い時を生きることになるでしょう。けれど、同じように真の紋章を宿しているラス様が側にいらっしゃるなら、きっと大丈夫。グレミオが太鼓判を押します。
だから、坊っちゃんのことを全て託していける。あの御方に。
「坊っちゃん…。坊っちゃんは、グレミオの誇りですよ。お願いです。坊っちゃんは、最後まで信じることをつらぬいてください。それがグレミオの……最初で……最後の……お願いで………す…」
この先テオ様と戦うことになっても、ラス様が隣にいてくださるなら、坊っちゃんは立ち上がれると信じています。
なんて、かっこつけちゃいましたけど、
「……ああ、こんなところで死にたくない、
まだまだ、坊っちゃんのために……。そういえば、洗濯物が溜まったままだったはずだし……シチューの新しい…んっ?あれ、あれっ?」
終わり。
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小話を詰めました。3のネタバレ要素あります。
坊っちゃん→リオン
4様→ラス