No.109094

ガラクタロボット01 ネジの話

イツミンさん

絵本みたいな感じ。
全部で五回。

2009-11-26 23:33:35 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:740   閲覧ユーザー数:723

 

 

 

 

 

 

 

 

      これは一人の女の子のロボットが、幸せになるまでのお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ガラクタロボット ネジの話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               一

 

 それはロボットです。

女の子の形をした、少し壊れかけている、少し汚れたロボットです。

 だけれど本当は、壊れかけているのではありません。

ガラクタから出来上がったから、そう見えるだけなのです。

 お陰でその子は、ガラクタロボットと呼ばれています。

 

 

               二

 

ガラクタロボットはおんぼろです。

 ロボットは珍しくなくなりましたが、ガラクタロボットのようなロボットは別です。

 他のロボットたちは、それはそれは立派な格好をしているのです。

 足の中の骨組みが見えることはありません。

 左腕が固定されず、くるくる動くこともありません。

 それはもう、ほとんど人間と同じような姿をしています。

 ガラクタロボットも人間と同じような格好をしていますが、ところどころがボロボロなので、とても人間とはいえないのです。

足の人工皮膚が剥げ、骨組みが見えています。

 左腕は固定されず、くるくると動いてしまいます。

 だからガラクタロボットは、人間からもロボットからも馬鹿にされているのです。

 人間の側に寄れば、

「何だ汚らしい、お前のようなのはあっちに行け」

 と言われ、ロボットに話しかければ、

「お前はロボットではなくボロットだろう」

 と笑われる始末です。

 ガラクタロボットはいつも悲しくなって、いつも一人で歩いています。

 ロボットたちの仲間に入れないから、いつも一人です。

 人間たちに相手にされないから、いつも一人です。

 いつもいつも一人なのです。

 ある時ガラクタロボットは、あまりに寂しくなったので、旅に出かけることにしました。

 それもただの旅ではありません。

 ロボット達や人間達と仲良くなるために、自分に足りないものを探す旅に出るのです。

 自分に足りないものを全て集めれば、きっとみんな友達になってくれる。

 ガラクタロボットはそう考えたのです。

 だからガラクタロボットは、自分に足りない、大切な物を探す旅に出るのです。

 

                 三

 

 ガラクタロボットは大切な物を探します。

 それが何かは分かりません。

だけれど、きっと無くてはならない物だから、ガラクタロボットはそれを探しています。

 もしかすると、それは左腕を固定するネジではないでしょうか?

 左腕はいつも肩からくるくる回り、落ち着きがありません。

 もしもネジが手に入れば、落ち着きのない左腕を固定することが出来るでしょう。

 不完全な部分が一つ無くなるのです。

 そうなれば、人間にもロボットにも、もう馬鹿にされずに済むかもしれません。

 仲間に入れてもらえるかもしれません。

それはとても素敵なことです。

 ガラクタロボットは、ネジを探すことにしました。

 

 

               四

 

 ガラクタロボットは「ロボットの街」にやってきました。

 たくさんのロボットが作られている街です。

 ロボットの部品も作っている街です。

 ガラクタロボットは、一件のお店の前に立ちました。

 

 

  ―ロボットの部品なんでもあります―

 

 お店の看板にはそう書いてあります。

 ガラクタロボットはドアを押して、お店の中に入りました。

「いらっしゃい」

 雑然としたお店の奥で、お店のおじさんが笑顔で言いました。

 だけどおじさんは、ガラクタロボットを見るなり、笑みを消します。

「なんだ」

 つまらなそうに言って、おじさんは新聞を読み始めました。

 ガラクタロボットは店内を見回します。

 右回りに、お店の中をぐるりと見回します。

 視線が一周して、ガラクタロボットはようやく目の前の棚に気がつきました。

 そこにはいろいろな大きさ、長さのネジが沢山置いてあります。

 ガラクタロボットは、そのうちの一つに手を伸ばしました。

 すると、

「ああ、触るんじゃない!」

 おじさんが大きな声を上げました。

 ガラクタロボットは驚いて手を引きます。

 おじさんはいつの間にガラクタロボットを見ていたのでしょうか?

 いえ、きっと最初からずっと見ていたのです。

 新聞を読むふりをして、ガラクタロボットを見ていたのです。

「汚れるだろう!」

 おじさんが血相を変えて飛んできて、ガラクタロボットの手を掴みます。

 ガラクタロボットは仕方なく、手を下ろしました。

 すると、おじさんはガラクタロボットから手を離しました。

 汚れたと思ったのでしょう、おじさんは前掛けで手を拭きます。

「ネジはありますか?」

 ガラクタロボットはおじさんに聞きます。

「ないよ」

 迷惑そうな顔で、おじさんは答えました。

 すぐ側の棚には、いろいろな大きさ、長さのネジが沢山置いてあります。

 ガラクタロボットは棚に眼をやりました。

 おじさんはガラクタロボットの目線を、腕を伸ばして遮ります。

「ない物はないんだ。お前がいると店の品位が下がる。出て行ってくれ」

 おじさんは迷惑そうな表情を変えもせず、はっきりと言い切りました。

言葉をよく知らないガラクタロボットにも、おじさんが自分を邪険にしていることはわかります。

「おじゃましました」

 ガラクタロボットは頭を下げ、お店を出ました。

 おじさんは後ろで、ガラクタロボットを見送りました。

 迷惑そうな顔でガラクタロボットを見送りました。

 

 

 

                五

 

 ガラクタロボットは公園にやってきました。

 ベンチに座って一休みです。

 ロボットだから疲れることはありませんが、体に熱が溜まります。

 熱が溜まるとロボットは動かなくなってしまうので、時々体を冷やすのです。

 普通ロボットは冷却装置があるので、滅多なことでは熱は溜まりません。

 だけどガラクタロボットはガラクタなので、冷却装置が上手く動いていないのです。

 ガラクタロボットは空を見上げます。

 空は真っ青で、とても綺麗です。

(綺麗だな)

 ガラクタロボットは、そう思いました。

 と、その青空が一瞬にして陰に変わります。

 ガラクタロボットが目の焦点を近くに合わせると、視界いっぱいに男の子の顔が映りました。

 座っているガラクタロボットの顔を、男の子が見下ろしたのです。

 ガラクタロボットは一休みを一休みして立ち上がります。

 左腕がまた、くるくると回りました。

「お前格好悪いな」

 男の子がガラクタロボットを見て言います。

「ネジはありますか?」

 ガラクタロボットは男の子に聞きました。

 男の子はくるくる回る左腕を見ます。

「壊れてるのか?」

 男の子に聞かれて、ガラクタロボットは頷きました。

「ネジはうちにある。父ちゃんに話しとくから、後から来いよ」

 男の子はそう言って、公園の入り口まで走り、そこに止めてある自転車に乗って行ってしまいました。

「あ」

 ガラクタロボットは呼び止めようとしたけれど、男の子は凄い速さで去っていきます。

 男の子はネジをくれると言いました。

 だけれど、家の場所を教えてくれませんでした。

 それではたどり着くことが出来ません。

 ガラクタロボットは仕方なく、一休みを再開することにしました。

 青い空を見上げて、ガラクタロボットは一休みを続けます。

 

 

         六

 

 一休みを終えて、ガラクタロボットは町に戻ってきました。

 ネジを捜しながら男の子の家も捜します。

 ガラクタロボットは一件の工場を見つけました。

 ロボットを作っている工場です。

 ガラクタロボットは工場の中に入ります。

 工場では男の人が一人、作業をしていました。

「ネジはありますか?」

 ガラクタロボットは男の人に聞きました。

 その声に、男の人が振り向きます。

 男の人は人の良さそうな笑みで立ち上がりました。

 そしてガラクタロボットを見ます。

「腕を直すのかい?」

 男の人の質問に、ガラクタロボットは頷きました。

「左腕が壊れているので、ネジが欲しいのです」

 ガラクタロボットが言うと、男の人はガラクタロボットの左腕の、その中を覗き込みます。

「うん、このネジならあるよ」

 男の人は頷き、そしてガラクタロボットの目を見ます。

「だけど君、お金は持ってるのかな?」

 物を受け取るにはそれ相応の代価が必要です。

 ネジを貰うには、ネジを貰うことが出来るだけのお金をあげなければならないのです。

 それくらいはガラクタロボットでも知っています。

 ガラクタロボットは首を振りました。

「僕はお金を持っていません」

 ガラクタロボットの答えに、男の人はため息をつきました。

「お金を持っていないのなら、ネジはあげられない。僕の工場というなら、ネジの一つくらいあげられるけれど、ここは僕の工場じゃなく、持ち主は別にいるんだ。僕は雇われているんだよ」

 男の人は続けます。

「親方はお金に厳しい人だから、ネジをあげると言ったらきっと怒るから、ネジは別で探して欲しい」

 男の人は最後まで言い終えると、すまなそうな顔をして作業に戻りました。

 男の人の言うことはもっともです。

 ガラクタロボットは仕方なく、ここでネジを貰うことを諦めました。

「それでは男の子のいるお店を知りませんか?その子は僕にネジをくれると言ってくれたのです」

 だけどガラクタロボットは、最後に一つだけ聞きました。

 男の人は作業を中断して考えます。

「うーん、男の子のいるお店はたくさんあるな。だけど、ネジをくれると言ったならあそこだろう、町外れの部品屋さんだよ」

 言い終えると、男の人はまた作業に入りました。

「おじゃましました」

 ガラクタロボットは男の人に頭を下げ、そして工場を出ました。

 

 

 

              七

 

 ガラクタロボットはまた町を歩きます。

 どんどん町を歩きます。

 町外れを目指しながら、いろいろなお店に入り、色々な工場に入りました。

 そのどこでも、ネジはもらえません。

 お金があるかどうかまで聞いてくれるのはいい方です。

 悪いところになると、お店の中を見せてさえもらえません。

 お店に入るや否や、

「お前みたいなのが出入りしてると知れたら、売り上げが落ちる」

 などと言われたりしました。

 工場は工場で、作りかけのロボットに、

「お前は俺以上に出来ていないな」

 と言われました。

 当然、ネジは貰えていません。

 この分では、男の子家に行けたとして、ネジが貰えることは少ないでしょう。

 それでもガラクタロボットは町を行きます。

 大切な物を手に入れれば、きっと人は仲良くしてくれます。

 ネジを手に入れれば、きっと他のロボットは仲良くしてくれます。

 そう思うから、ガラクタロボットは町を歩きます。

 段々立ち並ぶお店や、家が少なくなってきました。

 だけど、町はまだ終わりではないから、ガラクタロボットは歩きます。

 そのうちに、とうとう建物はなくなって、道だけになりました。

 それでも次の街に行く道路にはつきません。

 だからガラクタロボットは歩き続けます。

 すると、視線の向こうに一つの小さなお店が見えてきました。

 町外れも外れに建っています。

 男の人が言っていたお店でしょう。

 ガラクタロボットは熱が溜まりだし、鈍くなってきた動きを急がせ、お店の前まで行きました。

 そのお店はおんぼろでした。

 見上げるガラクタロボットと負けず劣らず、相当なボロです。

 ガラクタロボットは中に入るのをやめ、後ろに下がりました。

 今まで行ったどのお店より、このお店はお金に困っているでしょう。

 それなら、ただでネジをくれるはずがありません。

 ガラクタロボットは諦めることにしました。

 ネジは次の街で探すことにしました。

 ガラクタロボットが次の街へ行こうと、歩き始めたそのときです。

「やぁ、君だね?息子が言っていたのは」

 お店の中から、人の良さそうなおじさんが出て来ました。

 そして工場の男の人がやっていたのと同じように、ガラクタロボットの左腕の中を覗き込みます。

「うーむ、中で折れちゃってるんだな。ちょっと待っておくれよ」

 そう言うとおじさんはお店の中に消え、そしてちょっと経ってからまた出て来ました。

 手には工具箱と、長いネジを持っています。

 おじさんは手馴れた動作でガラクタロボットの左腕の、肩の部分のネジを外します。

 そして左腕の中にピンセットのようなものを指し入れ、今度はちょっと時間がかかって、それでもすぐにネジを取り出しました。

 

 

次におじさんはガラクタロボットのくるくる回る腕を押さえ、肩の位置を合わせると、長いネジを素早くはめ込みました。

「これでどうかな?」

 おじさんがガラクタロボットに聞きます。

 ガラクタロボットは左腕を動かします。

 右に回します。

 右に回りました。

 左に回します。

 左に回りました。

 動きを止めます。

 右にも左にも回りません。

 自分の意志で動きます。

 ガラクタロボットは嬉しくなりました。

 しかし、同時に悲しくなりました。

 ガラクタロボットはお金がないのです。

 ガラクタロボットにお金がないことを知ると、きっとネジは外されてしまうでしょう。

「ありがとうございます。だけど、僕はお金を持っていません。ネジのお金を払えません」

 ガラクタロボットは正直に言いました。

 それを聞くと、おじさんは一瞬驚き、そして笑いました。

「はは、お金は要らないよ。困っている時はお互い様だからね。君が困っている人を見つけたときに、その人を助けてあげればそれでいいよ」

 おじさんはそう言うとお店の中に入り、そしてガラクタロボットを手招きしました。

 ガラクタロボットはそれに従い、お店の中に入ります。

 お店の中ではさっきの男の子が、濡れたタオルを持って立っていました。

「体を拭いてあげなさい」

 おじさんが言うと、男の子は頷き、ガラクタロボットの体を濡れタオルで拭きます。

 熱を持ったガラクタロボットのことを考えた、よく冷やされた濡れタオルです。

 土埃にまみれて黒くなっていたガラクタロボットの体が、みるみる綺麗になっていきます。

「お前、さっきよりは格好よくなったな」

 ガラクタロボットの体を拭きながら、男の子が言いました。

「でも、まだまだ格好悪いぞ」

 男の子は続けてそう言い、タオルを洗って、またガラクタロボットの体を拭き続けます。

 それでもガラクタロボットは嬉しくて、おじさんと男の子に何度も何度も頭を下げました。

 

 

              八

 

 ガラクタロボットは道を歩きます。

 ガラクタロボットは次の街へ行くのです。

 途中、ガラクタロボットは左腕を高く上げました。

 そして、そのまま少し歩き続けます。

 もう、左腕が勝手に降りてくることはありません。

 自分で動かそうと思わない限り、左腕は勝手に動くことはありません。

 ネジで固定されているから、変な方向に向くことはないのです。

 ガラクタロボットは、わざわざ左手に持った紙切れに目をやりました。

 そこには次の街にある、ロボットの工場の住所が書いてあります。

 ネジをくれたおじさんが書いてくれたものです。

「君の人工皮膚は所々裂けているから、直してもらうといいよ」

 と、おじさんが知り合いのロボット工場を教えてくれたのです。

 電話をして、約束を取り付けてくれるとも言ってくれました。

 ガラクタロボットは道を歩きます。

 ガラクタロボットは次の街へ行くのです。

 ネジは手に入ったけど、大切なものはまだまだたくさんあるようです。

 ガラクタロボットは旅を続けます。

 なくてはならない大切なものが、全部揃うその日まで。

 ガラクタロボットの旅は続きます。

 

 

 

 

 

 


 
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