「起きろ、一刀」
暗闇の世界で男の声が響く。
しかし、1度に色々な事があった一刀の脳はそれを受け付けず、さらに深い闇へと落ちていった。
「・・・起きねぇとぶった斬るぞ」
「はい起きました今起きましただから柄から手を離してお願い」
おお・・・これが生存本能というものか・・・・・・と、心臓をバクバク言わせながら実感する。
「よし」
強制的に起こされ、少し頭が朦朧とするが、何とか現状を確認した。
ベッドに座る一刀の前に、蓮聖、孫策、そして黒髪の女性が立っている。
特に、黒髪の女性の視線は強かった。
孫策は微笑を浮かべているが、その瞳は何事も見逃さぬと言わんばかりに光っている。
蓮聖は言わずもがな、朗らかな軽い表情。
「図太いっつうか、何つうか・・・よくこんな状況で寝られんな・・・」
「兄さんも同じでしょうが」
「伯符・・・孫覇殿も」
「悪ぃ悪ぃ。さあて・・・北郷一刀。尋問の時間だ」
尋問・・・という言葉に、一刀は波打つ鼓動を鎮めながら、静かに口を開いた。
「・・・それは、俺が何者なのか。そして、信ずるに値するか・・・を、証明しろ・・・って事でいいのかな」
「その通りだ・・・孫覇殿からも色々聞いているが、貴様の言葉で説明してみろ」
「あなたは・・・?」
「私の名は周瑜。貴様の尋問官とでも思えばいい」
三国志の軍師の中でも5指に入るであろう・・・周公謹・・・・・・やはり女性・・・
「ではまず、生地を教えてもらおう」
「日本の東京」
「聞かない邑だな・・・」
「邑じゃなくて、日本っていう国だよ」
「にほん・・・それは何処にあるのだ?」
「ここから東方の、海を渡った所・・・かな」
「ふむ・・・では2つ目・・・・・・孫覇殿から、貴様が別世界から来たという話を聞いた。詳しく聞こう」
難題だ。
要するに、お前の身分を証明しろと言ってるようなもの。
言葉で説明するのは、あまりにも難しい。
「・・・あくまで、仮説だよ?俺だって、未だにどういう状況なのか把握しきれてない・・・」
「構わねぇよ。お前が考えて行きついた答えを話せ」
蓮聖の言葉で、一刀は昨日考えた仮説を語り出した。
「ここの世界は・・・俺の世界から言うと、かなり昔の世界なんだ。西暦で言えば、1800年ぐらい前・・・」
「どういう事?」
「実は言うと、俺は君達の事を知ってる・・・孫伯符、周公謹・・・皆『三国志』っていう歴史小説の登場人物だ」
「!・・・何故、私の字を・・・・・・孫覇殿?」
「いや、俺は何も・・・」
「でも・・・俺が知っている孫策や周瑜は男の武将。つまり・・・俺の知っている歴史とは違う事になる・・・時空移動と空間移動によるパラレルワールド・・・って所かな・・・」
「ぱられる・・・なんちゃらとかは知らないけど、結局どういう事なの?」
「大雑把に言えば、俺は、この世界の住人じゃなく、未来から来たという事・・・そして、この空間の人間でもない・・・って、わからないよね・・・・・・」
一斉に頷く呉の将達。
しかし、周瑜だけはかろうじて話についていけていた。
「ふむ・・・この世界の住人ではなく、未来から来たと・・・そう言ったな。それの証拠は?」
来た・・・ここが正念場。ここさえ凌げば、何とかなる筈。
「・・・色々、考えたんだけど・・・これかな・・・」
と、生徒手帳の証明写真を見せる。
「うわ・・・凄い・・・・・・ソックリね・・・」
「これは・・・絵なのか?」
「これは『写真』写したい物をそのまま写すんだよ・・・今出来るけど、やる?」
と、携帯を取りだした。
「んじゃ、俺がやる」
好奇心で飛びだそうとする孫策を押しのけ、蓮聖が前に出る。
「危険だ孫覇殿!!」
「良いって別に。一刀の言葉に悪意はない。大丈夫だ・・・だろ、一刀?」
「勿論。というか、ここで何かしたら、俺、斬首でしょ?」
からからと笑う蓮聖。
その笑みが余計に怖い。
「よし、いつでもやれ!」
孫覇に照準を合わせ、写メを撮る。
瞬間鳴る、写メ特有の効果音。
「うお、何だその音・・・」
「変な音ね・・・」
「はい、これ」
と、液晶画面を見せる。
「本当だ・・・兄さんがいる・・・」
「なにぃ!俺ってこんなに美形なのか!!ふふ・・・我が身が恐ろしい」
「こ、これは・・・妖術か、仙術の類か・・・?」
完全にスルーする周瑜。
「あれ、無視ですか?」
「いや、これは・・・科学だね」
同じくスルー。
「おーい一刀~、俺ボケたぞ~」
「かがく・・・って?」
最愛の妹までスルー。
「・・・・・・いじけてやろうか・・・」
ここにいる者は、関わるとどうせからかわれると知っている。
だから何も言わない。
「ん・・・・・・例えば、これを離すとどうなる?」
と、携帯を掲げる。
「そりゃ・・・落ちるだろ。下に」
「そう・・・落ちるよね」
実際に落としてみる。案の定、携帯は一刀の膝に落ちた。
「じゃあ、何で落ちた?」
「・・・?」
「何故全ての物は離すと落ちる?じゃあ、何で鳥は飛ぶ事が出来る?火は何で熱い?水の中だと呼吸出来ないのは何故?そういうこの世の現象を具体的に、つまり理解と説明ができるまで研究した部門の事だよ」
「・・・んん?そんな事調べてどうするの?」
「そうだな・・・つまり、あれがこうなら、ここもこうなのではないか。という事は、こうすればこうなるのではないか。だとしたら、ああする事も出来るのではないか・・・そうやって発想を重ね、応用し、社会に役立つようにする・・・って事なんだけど」
瞬間、周瑜の顔が驚愕に染まる。
「孫覇殿・・・まさか・・・・・・」
ようやく、周瑜は蓮聖の思惑に気付いた。
いや、流石、と言うべきか。
「そうさ・・・冥琳・・・いいな?」
「・・・はい。それが・・・伯符の為になるならば」
「どういう事?」
「くく・・・一刀ぉ!中々やるじゃねぇか!!」
蓮聖が立ち上がり、一刀の肩をバシバシ叩く。
「いてっ・・・え、ええと・・・大丈夫・・・・・・なのかな?」
「当たり前だ!俺や冥琳を納得させたんだから、お前の存在は否定されない!孫呉に置く事が出来る!!」
そして蓮聖は・・・一刀の度肝を抜く発言をする。
「俺の弟としてな!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁあぁあああぁああ!!!!?
「ちょ、待て蓮聖!ど、どういう事だよ!?」
「つまり・・・だ。孫呉に、天の血をいれるのさ!」
「また兄さんも・・・あくどい事を・・・・・・」
ようやく気付いた孫策。
唯一、一刀だけがわかっていない。
「簡単な話さ・・・一刀。お前は今、天の御遣いとしての役目を背負った。これはわかるな?でも、もしお前が死ねば、孫呉に天の御遣いの影がなくなり、民の信頼も少なからず薄れるだろう。でも・・・お前の子ならば!お前の血を受け継いだ者なら、民の畏怖の対象となる!!さらにその子!その孫!天の御遣いの血が、未来永劫、孫呉に宿る事になれば!孫呉は数百年安泰となる!!例え孫呉が滅びようとも、天の御遣いの子孫がいれば、そこに民が集まり、再び国が出来る!・・・・・・って言えばわかるか?」
「・・・つまり、孫呉の人を、俺が孕ませろと・・・」
「そいう事だ。上層の将兵限定でな」
ふざけるな・・・と言いたい。でも・・・それでも・・・蓮聖は本気だ。
そういう時代なのだ。血統が物を言い、血統だけで優劣を決められる。そんな時代。
それがわかっているからこそ、一刀は何も言えない。
「言っとくが、互いの了解がないと許さんからな。特に、俺の妹達に無理矢理やろうものなら・・・・・・」
くい・・・と、親指で首を斬る。
「ついでに、私達以外の可愛い子達も了解なしでやれば、私が・・・」
同じく、くい・・・と斬る。
「で、どうする?種馬になるか、野垂れ死ぬか・・・2つに1つだ」
嫌な笑みを浮かべ、蓮聖は真摯に一刀の瞳を見つめる。
一刀も笑う。この状況で何を言うか。
野垂れ死ぬ前に、この場で斬首だろう?
何せ、孫呉だけが一刀の存在を知っている。
もし追い払い、袁紹や曹操、劉備の所に行ってしまったら、最大の敵となってしまう。
何とも、意地悪い選択肢だ・・・まあ、生きれる道があるだけマシだ。
一刀にとって、これは本当のラストチャンス。
生き残るためには・・・選ぶしかない。
「やるよ・・・俺に、それが務まるのなら」
蓮聖に助けて貰った恩。
孫呉に置いて貰う恩。
ならば、自分も恩返ししよう。
孫呉の為に・・・そして、乱世に生きる民達の為に。
立ち上がる事を決意しよう・・・その為の覚悟!!
「くく・・・いい眼になりやがって」
「そうね・・・じゃあ、一刀?兄さんも許してるから、私も真名を許すわ。私の真名は雪蓮。よろしくね」
「我が真名は冥琳だ・・・期待しているぞ、北郷」
呉の2将から真名を託され、一気に重荷がのしかかる。
「うん・・・頑張るよ・・・俺の出来うる限りを・・・」
「うーし、天の御遣い、まず1つ目の仕事をしてもらおうか。一刀・・・一緒に来い」
「?・・・ああ」
蓮聖と共に部屋を出、城を出、街を出・・・蓮聖と初めて会った森に入る。
既に日は落ち、満月が2人を照らしていた。
蓮聖は一言も喋らず、ただ一刀の前を歩くだけ。
その背中を見据えながら、一刀も大人しく歩く。
「ここだ」
唐突に、蓮聖は止まった。
覆っていた森がその空間だけ避けているかのように空いている。
月明かりに照らされるその場所には、1つの墓があった。
「俺達の母親・・・『江東の虎』孫文台の墓だ」
「・・・っ・・・・・・」
孫堅文台。『江東の虎』として、江東、江南を始めとする、呉の礎を築いた英雄。
「俺や雪蓮が死ねば、恐らくここに埋められる・・・一応、教えとかないとな。信頼の証ととってもいいぜ?その代わり・・・・・・」
己の腰にぶら下げた剣を引き抜き、一刀につきつける。ただし、殺意はない。
「ここにいる限り、お前は孫呉の人間。俺達の家族になる為に、母の前で俺式の誓約をしてもらう」
そう言い、己の指先を浅く斬る。
それを持参した杯に垂らした。
「ほれ、お前も」
一刀も己自身で指先を斬り、己の杯に垂らす。
そこに酒を流しこみ、混ぜ合わせた。
お互いの杯を交換し、月に掲げる。
「今宵、我らは家族となる。その命、我が守ろう。この命、そなたに託そう。血で結束される絆は硬く、どんな名剣だろうと斬る事叶わん。打ち砕く事もまた然り。願わくば、死が分かつその日まで・・・・・・『江東の覇人』孫覇示威」
「・・・『天の御遣い』北郷一刀」
「我らが共に在らん事を・・・!乾杯!!」
静かに杯を合わせ、一気に飲み干す。
杯を墓の前に置き、そのまま静かに一礼した。
「これで、お前も孫呉の一員だ・・・」
「・・・何か・・・・・・不思議な気分だ・・・」
でも、一刀の表情は柔らかい。
充実感のようなものに包まれている。
「・・・一刀、先帰っててくれ、道、わかるよな?」
「ん?」
蓮聖の瞳は孫堅の墓を見据えている。
何となく察した一刀は頷くと、静かにその場を去ろうとした。
「最近夜盗とか盗賊の残党が多いから気をつけろよー」
「・・・・・・・・・」
一瞬立ち止まり、全速力で駆けだす一刀。
その後ろ姿を面白そうに見届け、再び墓に向き直る。
「・・・・・・母さん・・・」
静かに呼び、その場に座り込む。
「・・・・・・・・・ようやく、ゆっくり話せる・・・俺さ・・・母さんとの約束・・・破っちゃったよ」
『復讐の為に・・・闘うんじゃない・・・・・・約束だからね・・・蓮聖』
しかし、蓮聖は復讐の為に闘ってしまった。
そして今も、復讐の為に闘い続けている。
「俺に、母さんの後を継ぐ資格はない・・・孫呉は、雪蓮や蓮華に任せるつもりだよ」
その視線に後悔はない。
「俺は・・・未来、孫呉の敵となりうる奴らを滅ぼす。その為に、この身が闇に堕ちても構わないと思ってる」
その言葉に未練はない。
ただ・・・1つだけ・・・・・・
「それでも・・・さ・・・・・・俺は、母さんに生きてて欲しかった。生きて・・・その道を歩む俺を叱って欲しかった」
孫堅の死。
これだけは、後悔と未練が残る。
この時代『死』というものはそれ程珍しくない。
それはわかっていた。十分理解していた。
しかし、納得がいかなかった。
母が死んだという事が。
母の死に様を見送る事が出来なかった事が。
何よりも悲しかった。悔しかった。
その後、孫呉で内乱が相次ぎ、孫呉に服従していた者達も孫堅がいなくなった事で離れていった。
一気に弱体化した孫呉は潰されぬ為、荊州太守、袁術の客将となり、一命を取り留める。
孫堅亡き後、雪蓮が王となり、ずば抜けた人望と力で着実に力をつけていった。
当初は己を恨んだ。
兄なのに、覇人なのに、英雄なのに・・・その場にいる事はできなかった。
しかし、自分は子供ではない。いつまでも泣きじゃくり、行動を起こさぬ子供ではない。
数年の後、蓮聖は立ち上がる。
居場所に向かう為、そして、孫呉の宿願を果たす為。
華佗達と旅をしながら、同士を集め、軍隊を作った。
孫呉が袁術から抜け出す時、助太刀する為に。
それでも、まだ・・・何かが足りない・・・・・・後一歩、何かが。
そんな時、耳にしたのが天の御遣いの噂。
噂というより、予言。
まだ大陸にはそれ程広まっていないものの、蓮聖の思考はその予言に奪われた。
直接管輅に会いに行き、その予言を聞く。
管路の瞳は、生きた者が出さぬような独特のものだった。
むしろ、神や仙人がいたらこんな瞳なのだろうな・・・と、思えるような瞳。
その瞳に何かを感じ、蓮聖は行動を起こす。
華佗達と協力し、各地に天の御遣いの予言を触れて回った。
大陸中に噂を広め、天の御遣いを孫呉に引き入れる。
そうすれば、名声、畏怖、信頼、全てが孫呉に加担し、宿願に・・・一歩近づく。
管路によれば、荊州の何処かに天の御遣いなる者が降臨するとの事。
実際、そこまで天の御遣いの事は信じていなかった。
それなりに良心を持ち、覚悟を備えた人間がいれば、それでいいと思った。
この森に来たのは雪蓮達に会う為。
そして、母の墓参りをする為。
しかし、天の御遣いは実在した。
北郷一刀という・・・良心を持ち、覚悟を備えた本物の『天の御遣い』が。
全ての準備は・・・整った。
「母さん・・・もうすぐだ・・・・・・俺達が、孫呉の宿願を果たして見せる」
独立に向け、蓮聖が立ち上がる。
「シャオ、蓮華、雪蓮・・・そして俺を・・・・・・天から、見守ってくれ」
墓に背を向け、歩き出した。
その背に映る覚悟。
ただ、歩む。
国の為、民の為・・・妹達の為に。
ど~も、アクシスです。
第1部・・・と言いますか、ゲームにおけるプロローグ的な部分が終わりました。
という訳で、おまけというか何というか、一刀と蓮聖と一緒に会話的なものをば。
「う~す、江東の覇人こと、孫覇示威でーっす」
「何か主人公として大丈夫?影薄くならない?的な雰囲気が漂ってる北郷一刀です」
どもども・・・ええと・・・コメントにもあったけど、結局、蓮聖って雪蓮達の事どう思ってんの?
「・・・てめぇ・・・俺の真名を呼ぶんじゃねぇ・・・」
「いや、そこは仕様だから・・・というか創造主的な人に何言ってんだお前!?」
・・・一刀の気持ちが少しわかったような気がする。
「まぁいい・・・普通に妹だぞ?」
「いや、そういう事じゃないだろ・・・お前、雪蓮とキスとかしてたじゃん」
「きす・・・?ああ、接吻か?普通じゃね?」
それを普通と言わないから聞いてるんだが。
「つってもなぁ・・・ホントの事だしよぉ。まあ、恋人とまではいかないっつうな。あくまで妹、家族としての愛情表現だ」
「いや・・・でも・・・・・・流石に兄妹はなぁ」
「そりゃお前らの価値観だろ?血を重んじるとこなんか、兄妹婚してるのもあるしなぁ。時代や国によって価値観が違うのはしょうがねぇと思うが」
まぁ・・・そう言われると・・・・・・なぁ。
「とことんシスコンなんだなぁ・・・お前」
「しすこん?何じゃそりゃ?」
「シスコン・・・・・・妹を重んじる慈愛の言葉」
シスターコンプレックス。妹に対する、現実意識に抑圧された無意識下にある感情の事だな。
「・・・マジかよ・・・・・・まさか、未来にはそんなに素晴らしい言葉があるなんて!!シスコン・・・シスコン・・・良い響きだ・・・」
蓮聖トリップしちゃったから、勝手に進めるか。
「だな・・・そういやさ・・・・・・何か、話が重いような気が・・・?」
うぐっ・・・・・・いや、あの・・・というかさ、何かギャグというか楽しく見れるような作品にしたいのだけれども・・・・・・何故か・・・こっち方面に・・・
「まぁ・・・そういうのは人それぞれだろ?」
まぁな・・・でも・・・・・・う~ん・・・・・・とりあえず、頑張るわ。
「ああ、頑張れよ」
じゃあ・・・そういう事で、今回は御開きに・・・またの機会にお会いしましょう。
「シスコン・・・・・・いいね・・・・・・シスコン・・・・・・ふははははは!!!」
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3話です。
これで、一区切り。
相変わらず稚拙な文章です・・・