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真・恋姫無双~魏・外史伝56

 こんばんわ、アンドレカンドレです。
ここ最近、1週間置き投稿が当たり前になりつつある今日この頃・・・。学校の実習が忙しい上に、試験が重なり、大学に残って勉強する日が続いて早く投稿できないです・・・。
 さて、今回で第二十四章。いよいよクライマックスに突入!ここからはもう目が離せない(笑)!!前回、左慈とタイマン勝負した一刀君。あれから三週間後・・・、一体どうなる一刀君!
 では、真・恋姫無双 魏・外史伝 第二十四章~一刀、それは希望という名の剣なり・前編~をどうぞ!!

2009-11-21 00:45:15 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6980   閲覧ユーザー数:5828

第二十四章~一刀、それは希望という名の剣なり・前編~

 

 

 

  涼州での決戦から3週間・・・。

 あれから五胡が魏領内に侵攻したという報告は無く、馬超と馬岱達は呂布を連れて蜀へと帰り、国内は

 平穏を取り戻していた。その後、呉の方で趙雲さんが助けられたという話を言伝で聞いた。そして、もう

 一人の俺が女渦を倒した事も、死んだ事も・・・。もう一度会ってみたいと思っていたのに、それはもう

 叶わない話になってしまった。

  その一方で華琳が春蘭達に軍の強化を徹底させ、城内はピリピリとした雰囲気が漂っていた。

 そして、俺は・・・。

  「・・・・・・・・・。」

  何かをするわけでもなく、自室から窓の外を眺めていた。

 いつもなら、少なくても一山が作れるくらいの竹簡が執務用の机の上にあるはずが、今は1個も無い。

 他の皆が忙しくしているにも関わらず、俺は一人、暇を持て余していた・・・。別に好きで暇をして

 いるわけではない。仕事が来ないのだから・・・。勿論、最初は仕事を貰おうと城内を歩き回った事も

 あったが・・・。

 

―――Q 仕事はありますか?

 

   A 春蘭「仕事?そんなものがあるなら、貴様の手なんかではなく猫の手を借りているわ!」

     秋蘭「姉者。」

     春蘭「う、うむ・・・。少し言い過ぎた。」

     秋蘭「まぁ、そういうわけだ。北郷、気を使ってくれるのは有り難いが、今の所お主に任せられ

       そうな仕事は無いんだ。」

     春蘭「そうだ!暇だと言うのなら、その辺の野良犬とでも戯れていろっ!」

     秋蘭「姉者。」

     春蘭「お、おう・・・。」

 

―――Q 仕事はありますか?

 

   A 流琉「え・・・、仕事ですか?急にそう言われても・・・。」

   季衣「あれ?兄ちゃん、どうかしたの?」

    流琉「季衣!遅いじゃない!?・・・って言うか、何その袋は!?」

     季衣「え、あぁ、これ?最近出来た饅頭屋さんで買って来たんだよ!あそこのお店の餡、すっごく

       とろとろでおいしいんだよ~♪兄ちゃんたちもどう?」

     流琉「ありがとう・・・、じゃなくて!季衣、私が頼んだ材料は!?」

     季衣「・・・・・・あ、忘れた。」

     流琉「季衣っ!!」

    その後、季衣をこっぴりと叱った流琉は、季衣と一緒に食材を買いにその場を去ってしまう。

   俺はその場に一人取り残される形となった・・・。  

 

―――Q 仕事はありますか?

 

   A 真桜「仕事って・・・。隊長に兵の調錬が出来るんかいな?

       警備隊の方も・・・、今んとこは人が足り取るようやし。

       隊長が出る幕は無いと思うで?」

    仕事を探しに詰所に来た俺をバッサリ切り捨てる真桜。仕方無いと、俺は別要件を真桜に話す。

 

―――Q 刃を見てくれないか?

   

   A 真桜「刃・・・?あぁ、隊長の剣かい?うちもこの剣には興味があったんや。もし何ならうちが

       三倍に頑丈にしといたるさかい。」

    そう言って、真桜は楽しそうに刃を鞘から抜いて色々な角度から眺める。どっちにしてもこの様子

   だと、凪や霞に聞いても仕事にありつけそうにないな・・・。

 

―――Q ・・・・・・。

 

   A 桂花「・・・何よ、害虫?」

 

―――Q さよなら。

 

   A 桂花「ちょっと!?いきなり現れておいて、そのままきびすを返すなんて・・・

    どれだけ無礼を働くの、あなたは!?」

    そもそも軍師から仕事を貰ったって、俺にその仕事がこなせるわけがないよな・・・。

  

  ってな感じであしらわれてしまい、今に至る・・・。皆、不自然なくらいに余所余所しい(一部を除いて)。

 俺に仕事をやらせまいとしているのが見え見えだ。一体どうしてそんな事をするんだ?こんな大事な時に・・・。

 

  今から1週間前、突然干吉が俺達の前に現れた。

  「外史喰らいへの道は泰山にあります。」

  そして俺達にそう告げた・・・。外史喰らいは外史と外史の狭間に存在する。だから、俺達が外史喰らい

 と戦うためには、外史喰らいが自分の分身達をこの外史に送り込むために、外史喰らい自身とこの外史の間に

 作った通路を経由して外史喰らいの中へと侵入するしかないのだそうだ。干吉が言うには、そしてのその通路が

 今、泰山の頂上にある神殿内にあるらしい。

  「分かった。なら干吉、俺をその神殿まで案内して・・・。」

  「待ちなさい、一刀。」

  外史喰らいの居所が掴めた。だからこそ俺は、決着をつけるためにその神殿に向かおうとしたが、それを

 華琳に止められてしまう。そして華琳は外史喰らいの戦いに備え、軍の強化をするよう春蘭達それぞれに指示を

 出していく。だが、俺にはその指示は無く、皆は指示された通りの事をするため次々と王宮から出ていく。

 そしてそこには俺と王座に座る華琳だけ・・・、干吉はいつの間にかその場からいなくなっていた。

  「華琳、俺は何をしたらいいんだ?」

  俺は王座に座っている華琳にそう尋ねると、華琳はそれに平然と答えた。

  「・・・どういう意味だ?」

  華琳の言葉に耳を疑った俺はその言葉の意味を聞き返す。

  「言葉通りよ。」

  「いや、何もするなって・・・。それはいくらなんでも今更過ぎるだろ?」

  「そうね。今思えば、早いうちにそう対処するべきだったと、後悔しているわ。」

  「後悔って・・・。・・・・・・・・・っ。」

  「・・・・・・・・・。」

  華琳の言葉から、俺は一つの予感が頭をよぎる。

  「・・・華琳。君は・・・、君達は・・・、俺の体の事を何処まで知っているんだ?」

  「・・・後二週間程で無双玉と完全に同化して、そしてあなたは死ぬ。」

  華琳は同化の事を知っていた。俺は真っ先に貂蝉の姿が頭に浮かぶ。きっとあいつが華琳に喋ったに違いない。

 喋るなって言ったのに・・・!

  「・・・だから、俺に何もするなって言うのか?これ以上力を使って死に急ぐなと?」

  「・・・言わずとも分かっている様ね。」

  「・・・・・・。」

  華琳が知っているという事は、きっと春蘭達も知っているだろうな・・・。

  「左慈との戦った事で、あなたは後十四日の命・・・。これ以上力を使うのは、まさに自殺行為だわ。」

  「・・・・・・。」

  確かに華琳の言うとおりだな・・・。何もしていないのに、今も同化が進んでいるんだ。力を使えばその

 進行が早まるのは、すでに実証済みだ・・・。

  「・・・一刀、あなたはもう十分に頑張ったわ。あなたのおかげで、わたし達はこの国を五胡から守る事

  が出来たわ。そして蜀も、呉も。・・・桃香と雪蓮達もあなたに感謝していたわ。」

  王座から腰を上げながら、話を続ける華琳。そしてそのまま王座から下りてくる。

  「だからこそ、死んで欲しくないの。この世界を命を懸けて守ってくれたあなただからこそ、今度は私達が

  あなたのために戦うのよ。」

  「華琳・・・。」

  華琳の言葉に、目頭が熱くなる。涙腺からじわっと涙が出て瞳を潤し、少し視界がぼやける。

  「だから一刀・・・。」

  ぼやけた視界を元に戻すと、いつの間にか俺の前に華琳が立っていた。不意に俺の顔を両手に取る華琳。

 そして華琳はそのまま俺に顔を近づけると、彼女の唇が俺の唇に触れる・・・。舌を入れるような濃いキス

 ではなく、唇同士が軽く触れるだけのキス・・・。ただそれだけのはずなのに、脳が蕩けそうな感覚に襲われる。

 ほんの数秒、触れ合っていた唇は離れる。華琳は改めて俺の顔を見てくる。

  「あなたは・・・、私達が守るわ。」

  「・・・・・・っ!」

  その言葉に、俺は嬉しく思う一方・・・、ひどく歯痒く感じた・・・。

 

  「・・・そうか。俺に力を使わせまいと・・・。」

  俺が下手に力を使わせない様、皆なりに気遣っているのか・・・。

 だが、そうだと分かったからと言って、この歯痒さが消えるわけではない。

 俺はその気持ちを紛らせるために、部屋から飛び出した・・・。

 

  ピリピリとした雰囲気の城とは打って変わり、街の方は普段と変わらない日常が流れていた・・・。

 歩いていると、通りの店のおじさんやおばさんから声を掛けられるし、子供達からは「みつかいさまー!」

 と叫びながら、俺に大きく手を振ってくれる。街の人達の俺を見る目は変わらない。それは、今の俺とって

 心の安らぐものだった・・・。

 

―――・・・一刀、あなたはもう十分に頑張ったわ。あなたのおかげで、わたし達はこの国を五胡から守る事

   が出来たわ。

 

  華琳の言う通り、俺がした事はこの国を守る事になって、この国に暮らす人達の笑顔を取り戻す事が出来た。

 それは、きっと胸を張っても良い事なのだろう。でも・・・、それだけでいいのか?守ったから、これでお終い

 ・・・、だからもう戦わなくていいのか?

 

―――俺に託されたこの力は・・・。

 

―――この力が託された意味は・・・。

 

  そんな事を考えながら、俺は真桜がいる詰所へとやって来た。中に入ってみると案の定、真桜がいた。

 凪と沙和の姿は無く、真桜は一人、専用の机で刃を虫眼鏡の様なもので隅々まで調べていた。

  「・・・・・・ん?あ、隊長!」

  俺の姿に気づいた真桜。それを機に俺は真桜の机の前まで近づいていく。

  「熱心だな。そんなに刃が珍しいのか?」

  刃は言うなれば、日本刀に近い剣だ。片刃で反った刀身・・・。形だけで見れば、この時代で流通している

 剣とは出来方が違う・・・。そう言えば、周泰が使っていた武器も日本刀に似ていたな・・・、確か。

  「んん・・・、まぁ、確かに色んな意味で珍しいでぇ。とりあえず、この剣は隊長に返すで。」

  そう言って、真桜は刃を鞘に収めると俺の前に差し出してくる。

  「・・・・・・・・・。」

  俺は刃を手にとって、改めて鞘から取り出して見回す。

  「あれ?何も変わっていない?」

  どこをどう見ても、刃にこれといった変化は見当たらない。真桜の事だ、強化したなら作法だ、意匠だとか

 言って、刃も強そう?な形に変わっていると思っていたんだが・・・。

  「あぁ、そりゃそうや。だってうち、その剣に手ぇつけてへんのやから。」

  「そうなのか?」

  俺は刃を鞘に戻す。

  「隊長にその剣を渡されて早速刀身の方を調べたんやけど・・・。」

  「やけど・・・?」

  「刃こぼれどころか、ひび一つも入っておらんかった。」

  「・・・それがどうした?刃こぼれやひびなんて無いに越した事はないだろう?」

  「いや、そりゃそうなんやけど・・・!うちが言いたいんはそこやなくて!」

  「・・・?」

  「隊長の戦い方を見る限りやと、そんな細い刀身やったら、とうの昔にぽっきり折れとるはずなんや。

  なのにその剣いくら調べても、折れてるどころか、刃こぼれもひびも無い・・・新品同然の状態なんよ。

  こんなん常識的にあり得へんで!」

  「そう、なのか・・・?」

  俺はあまり自覚していなかったけど、俺ってそんな無茶苦茶な戦い方をしていたのか・・・?

 そりゃあ、派手に吹き飛ばされるわ、壁は壊すわ、屋根の上を飛び移るわ、四方八方から飛んで来る矢を

 片端から叩き落としているわ、重い一撃を受け止めるわ、手から変な光だか気だかを込めたり、飛ばしたり

 していたけど・・・・・・、あれ?こうして改めて思い返してみると、俺・・・、随分無茶苦茶やって

 いるな・・・。

  「そうなん。姐さんの偃月刀よりも明らかに軟(やわ)そうなのに、偃月刀以上の丈夫さと来たもん

  やから、うちの付け入る隙があらへんその剣。・・・隊長、それ一体どんな経緯で手に入れたんや?」

  真桜にそう言われ、俺は困惑してしまう・・・。そんな凄い剣なのかこれ?

  「どんなって言われても・・・。こいつは露仁から・・・」

  そう、この剣は元々は露仁こと南華老仙が最初に出会った頃、洛陽までの護衛として俺に手渡した物だ。

 最初は珍しいなと感心する程度だったが、今はこうして共に闘う間柄になっている・・・。

  「その剣は老仙ちゃんがあなたのためだけに作った特別な剣なのよ。」

  「貂蝉っ!?お前、いつの間に!?」

  突然背後の方から奴の声が聞こえ、後ろを振り返ると、そこには貂蝉が立っていた。

  「その剣の刀身には特別な術式が刻み込まれているの。だから、一刀ちゃんの力に十分に耐えられるって

  理由ねぇ♪」

  「なるほどなぁ~。・・・まぁ、それはええやけど、貂蝉。悪いんやけど、はよう外に出て行って

  くれへんか?あんたがいるせいで、警備隊の連中が気持ち悪がって中に入ってこれへん。」

  そう言えば、確かに外から帰って来た警備隊の皆が中に入るのを戸惑っているな・・・。

  「まぁ、ひどいわ!折角教えてあげたって言うのにっ!!」

  そう言って貂蝉は涙目に腰をくねらせる。

  「それとこれとじゃ話は別やって・・・。」

  そんな貂蝉に呆れながら、真桜は呟くように言う。

  「・・・・・・露仁。」

  そんな中、俺は一人手に握られていた刃を見る・・・。この刃も、俺に託された力なんだな・・・。

 

  そして翌日・・・。

 華琳は魏全軍を招集。洛陽の街から泰山へと出陣していった。

 泰山はここから東に位置し、桂花の計算では2日後に到着するようだ。

 そして俺は、洛陽の街から出陣していく魏軍の行進を城の城壁から眺めていた・・・。

 華琳が俺の同伴を拒否したからだ。無論、それは予想できたことだったから俺もそれ以上の追求はしなかった。

  

  それから2日後・・・。

 俺に残された時間はついに一週間をすでに切り、だが俺自身死の不安とか、恐怖とかそういった感覚は不思議

 と湧いてこない・・・。きっと分からないんだ、『死』というものを・・・。

  そんな事を考えていると、俺はいつの間にか城壁の階段を登っていた。そして案の定というべきか、城壁の

 上には城の守りを任されていた桂花が一人、華琳達が向かった泰山の頂上を眺めていた。

  「大丈夫かな、皆・・・。」

  俺はさり気なくそう話しかけながら桂花の横に並ぶ。

  「大丈夫よ・・・って、何であんたがここにいるのよ!?」

  今頃気づいたのか・・・。

  「いや・・・、何でって言われても・・・。皆の事を考えると、どうも落ち着けなくて・・・。」

  「何よ、あんた。華琳様達では当てにならないっていうの?」

  「そうじゃない・・・、そうじゃない、けど・・・。」

  皆が強いのは俺だってよく知っている・・・。けど、皆が今戦おうとしているのは蜀と呉でも、

 五胡でも無い。あの伏義や女渦、祝融を使ってこの世界を消そうとしているような存在なんだ。

  「敵は・・・、強大過ぎるんだ。この世界の常識に当てはまらないくらいに。」

  「へぇ~、経験者は語る・・・って所かしら?随分と上から目線に言ってくれるじゃない?そんな得体の

  知れない力を手に入れて強くなったものだから、自分より弱い私達を憐れんでいるのかしら?」

  「そ、そんなつもりじゃ・・・!」

  「そんな事は百も承知なのよ。」

  「・・・・・・え?」

  「正和党の反乱を裏から操っていたという伏義。あの黒尽くめの武装集団や巨大な鋼の船を作ってこの

  大陸を消し飛ばそうとしたという女渦。五胡と手を組んでこの国を滅ぼそうとした祝融。連中の目的が

  何だったのかは知らないけど、こんな事あり得ないわよ。歴史上類を見ない、前代未聞の一大事よ。 

  それを平然とやってのけた連中を束ねていた相手と戦うなんて・・・。」

  「・・・・・・。」

  視線を下にずらすと、桂花の握られた左手がぶるぶると震えていた・・・。

  「私は反対したわ。そんな相手と戦うのは無謀だって、華琳様にも言ったわ。・・・でも、その言葉は

  聞き入れてはくれなかったわ。華琳様は、この世界をその命を削ってまでして守ったあんたを・・・、

  今度は自分が守ろうとしているのよ。」

  「・・・・・・。」

  そして桂花はぶるぶると震える左手を自分の胸の前に持っていくと、右手で包み込む。

  「悔しいけど、認めてあげるわ。確かに・・・あんたがいたから、私達は、この国は生き延びたわ。」

  あの桂花が俺に対してここまで素直な言葉を言ったのは・・・恐らく初めてかもしれない。

  「・・・あの日、あんたがこの街に戻って来た時・・・、華琳様は嬉しそうな顔をしたわ。」

  「桂花・・・?」

  「私が仕事で良い結果を取ろうと必死になって、それでやっとの思いで見る事が出来る華琳様の純粋な

  笑顔を・・・、あんたはただそこにいるだけで、いとも簡単にそれをやってのける・・・!嫉妬よ。

  私は・・・、あんたが華琳様を笑顔にする度に、その度にあんたに嫉妬したわ・・・!」

 

―――歯がゆい・・・、何と歯痒いのだ!!華琳様が泣いておられるというに、

  それが分かっているというに・・・!私は・・・華琳様の涙をぬぐってやる事が出来ない!

 

  「悔しい・・・!

  悔しいけど・・・!私では・・・、あんたの代わりにはなれない・・・!それが分かっているから!

  余計に腹立たしい・・・っ!!」

  その小さな体を震わせながら、桂花は腹の底に貯め込んできたものを吐き出すように喋り続ける。

 その目から大粒の涙を、子供のようにぼろぼろと流しながら・・・。 

  

  「私にもあんたみたいな力があれば・・・、今すぐにでも、華琳様の元へと行って・・・、お守りしたい!

  でも・・・、そんな力なんて私には無くて・・・だからせめて華琳様の言いつけだけは!この城を守って、

  華琳様達が無事に帰ってくるのを信じて待つ事・・・。それが、華琳様への唯一の忠誠の証になるのよ!」

  「・・・・・・。」

  俺は目の前の光景に唖然としてしまった・・・。

 まさかここまで桂花が自分の弱い姿を俺に見せるとは思いもよらなかったから・・・。

 

―――私にもあんたみたいな力があれば・・・、今すぐにでも、華琳様の元へと行って・・・、お守りしたい!

 

  「・・・そうか。」

  俺は一人納得する。

  「・・・これじゃ駄目なんだよな、きっと。」

  この力は、『守られる』ためのものじゃない。『守る』ために託されたんだ。

  「迷う必要はない・・・、答えはもう出ているんだ。」

  こんな所でくすぶっているわけには・・・、いかないよな?

  「ちょっと、あんたねぇ!人の話を・・・!」

  「桂花。」

  「な、何よ・・・?」

  桂花は裾で涙を拭うと、充血した目で俺を見てくる。

  「ありがとう。おかげで踏ん切りがついた。」

  「・・・は?あんた何を言って・・・。」

  「干吉、いるんだろ・・・?」

  桂花の言葉を遮って、何処にいるわけでもないあの男の名前を呼ぶ。

  「・・・お気づきでしたか。」

  その声は俺の背後から聞こえ、そして俺の背後にすっと干吉がその姿を現す。俺の背後から突然現れた干吉

 に、桂花を目を丸くして驚いている。俺は後ろにいる干吉の方に体を向ける。

  「干吉、俺を・・・華琳達がいる場所へ連れて行ってくれ。」

  俺がそう言うと、干吉はゆっくりと頷く。

  「お望みとあれば・・・。」

  そして、干吉は人差し指と中指を重ねたまま、その二本指の先を俺に向ける。

  「北郷・・・っ!」

  桂花の声が俺の背中にかかる。

  「分かっているさ・・・。」

  「一体何が分かっているって言うのよっ!?」

  「華琳達は、俺が守るから・・・。」

  「私が言いたいのは・・・!!」

  「『送』っ!!」

  桂花の言葉は干吉の一声で掻き消される。

  「北・・・!」

  バ・・・ッ!!

 

  「・・・・・・・・・。」

  二人の姿は干吉の一声で一瞬にしてその場から消え、そこには桂花一人が取り残される。

  「何が、分かっているさ・・・なのよ・・・。全然何も分かっていないじゃない・・・。」

  一人取り残された桂花は誰に話しかけるわけでもなく、声を漏らす・・・。

  「馬鹿・・・、精液男・・・、孕ませ男・・・、・・・・・・。」

  桂花の罵声も、いつになく歯切れが悪く、すぐに口ごもってしまう・・・。

  「・・・嫌いよ。あんたなんか・・・、北郷なんか・・・、大っ嫌い・・・。」

  一刀に向けた『嫌い』という言葉・・・。その言葉に込められた意味は、桂花のみが知るのであった。


 
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