No.108051

深い闇03

白亜さん

深い闇3話のUPです
初めは美神さん視点で進みます。
本心と虚栄心の間で揺れる美神さんを表現できたかは
とても微妙です…。

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2009-11-20 21:21:56 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:7655   閲覧ユーザー数:7330

 

 

 

 

 

信じたくなかった。

 

 

 

 

 

信じられなかった。

 

 

 

 

 

その生活が当たり前すぎて、私は総てを見逃した。

 

すべてが何時も通りなんてことあるわけが無かった。

 

傷ついてないはずが無かった。でも、私は怖かった。

 

思い出したくなかった。思い出させたくなかった。

 

だから私は彼の悲鳴を否定した。

 

もう戻れない。きっと戻れない。そして二度と取り戻せない。

 

取り戻せない物があるという事を思い出してしまった。

 

知っていたはずなのに。

 

一度体験したはずなのに。

 

そして…終わりの日がやってきた。

 

あぁ、これが罪ならば、これほど辛い罰は無い…

 

 

―美神除霊事務所―

 

久しぶりに横島君が来た。

あの日以来彼はここを避けるようになった。

理由はわかっている、私達が原因。

 

「失礼します。美神所長」

 

「め、珍しいわね。あんたがそう呼ぶなんて」

 

何時もなら、「美神さん」と笑顔で呼んでくれる彼。

その声に不機嫌そうな顔をしていたけど、本当は嬉しかった。

でも、彼は美神所長と呼ぶ。

それが酷く悲しかった。

 

「来てくれて助かったわ。今日は遅くに大型の仕事があるから」

 

本当はそんな仕事とってない。

でも、彼が来たのだからキープしておいた仕事を拾うことにする。

そうしなければきっと直ぐ帰ってしまうだろうから。

どうにかして、彼と仲直りしたい。

おキヌちゃんもそう思っているはず。

でも彼女は、彼に避けられるのが怖くて多分出てこれない。

だから、この仕事を全員でかかるようにすれば、きっと話す事もできるはず。

 

「いえ、所長。今日来たのは仕事に来たわけじゃないんです」

 

「な、何?もしかして時給上げてほしいとかかしら」

 

多分そんな所だと思う、このままじゃ多分飢え死にしてしまいそうだし、

思い切って時給を上げてあげようと思う。

本当は嫌だけど、このままじゃきっと横島君の生活も大変そうだから。

 

「そういうのじゃなくて…」

 

ちょっと言いよどむ横島君。

何だろう、凄く、凄く嫌な予感がする…

勘違いであって欲しい。

思い違いであって欲しい。

でも、私の頭の中を鳴り響く警報がそれを認めてくれない。

やめて…

やめて……!

 

「今日をもってこの事務所を辞めさせてもらいます」

 

やめて!!!!

 

「……」

 

言葉が出ない。

全部真っ白だ、彼は今何て言ったの。

何故?

何故やめてしまうの?

嫌だ…彼が居なくなるのは嫌だ!

 

「な、何急にふざけた事言ってるのよ!アンタは私の丁稚なんだから

アンタの生殺与奪の権利は全部私にあるのよ!」

 

違う!

私はこんな事を言いたいんじゃない!

でも止まらない、止まれない。

私に「美神令子」という人格が、止まる事を良しとしない。

 

「急に全然来なくなったと思えばそれ!?いい?丁稚は丁稚らしく

私の言う事を聞いていればいいのよ!さっさと今日の仕事の準備する!

おキヌちゃんとシロタマも呼んできて!今日の作戦会議をしないといけないんだから!」

 

何故、こんな事しかいえないんだろう。

本心と虚勢が相反する。素直になりたくでも、自分のプライドが邪魔をする。

このままじゃだめ、このまま続けたら彼は!

 

「すんません。俺、本気で辞める気できましたから、おキヌちゃん達呼んできます

ちゃんと辞める理由も伝えたいし、二人に話もあるんで」

 

「ま、まちなさっ!」

 

言い終わる前に彼はおキヌちゃん達を呼びにいった。

どうしたらいい…

どうしたら彼を止められる?

どうすれば彼はここに残ってくれる?

どうして、どうしてこんな…

 

 

 

そうか…

私が…おキヌちゃんが否定してしまったからだ。

彼女を…ルシオラを。

彼がルシオラの命日の事を言った時、私は忘れた振りをした。

おキヌちゃんも同じだった。その後も横島君は何度かルシオラの話をし始めた。

多分、私達に忘れて欲しくなかったのだろう。この世界を守ったのは

ルシオラなんだから、せめて覚えて欲しかったんだろう。

でも無理だった。私達は其れを頑なに拒絶した。

思えば、それがきっかけなんだろう…

あの時、彼の願いを聞いていればこんな事にはならなかったのかな。

ルシオラの事なんて忘れたかった。削除しておきたかった。

彼にも覚えていてもらいたくなかった!!

だって、勝てるわけ無い。

彼女が横島君の心にいる限り、私達じゃ彼の心に入り込めないじゃない!

 

ルシオラは嫌い。

彼女はとてもいい子だったから。

彼女から横島君を奪う事なんてできなかったから。

 

ルシオラは嫌い。

彼を奪ってしまったから。

彼の本当の良さをあっさりと見抜いて、飛び込んでいってしまったから。

 

彼の心の中には彼女が住んでいて、二度と彼の心を離しはしないだろう。

ある意味究極の愛の形。比喩でもなんでもなく、彼女は横島君と一つになったから。

あの時、彼がルシオラを失って絶叫していたとき。

私は、彼を慰めていた反面、喜んでもいた。

醜くて浅ましい、どろっとした心があんな時でも喜んでいた。

コレデ、カレハワタシニスガル。

なんて馬鹿な考え。

私の中の『令子』は彼を純粋に慰め続け彼を癒したかった。

私の中の『女』はこれで彼を手に入れられると、何時も通りになれると哂っていた。

私の中の『美神』は彼を利用しようと考えていた。

 

笑ってしまう。

私は結局、自分のせいで彼を失うのだ。

 

「もどったっス」

 

「失礼するでござる」

 

「入るわね」

 

「失礼…します」

 

横島君が戻ってきた後ろから、シロとタマモとおキヌちゃんが入ってくる。

シロは横島君に引っ付きながら終始笑顔でいる。

タマモは其れを見て苦笑しながら、ソファに座った。

おキヌちゃんは、私と横島君を見た後。一歩離れた所で立っている

 

 

 

「あの、横島さん?お話しって何なのですか?」

 

少し震えているおキヌちゃん。

多分これからの事に大体予想がついているんだろう。

 

「あぁ。今話すよ…美神さん。先程言った通りで、今日をもって辞めさせて貰います

俺はまだ、ただの見習いだし、アルバイトの扱いっスからちゃんとした理由があれば

辞める事は出来ますよね」

 

その通りだ。

社員ではない彼は、行き成り首にされても文句は言えないが、

個人の理由で直ぐにやめることも可能なのだ。

ましてや彼はまだ学生。両親のストップが入れば、

それこそすぐに辞めさせなければいけない立場でもある。

 

「随分と、凄まじい実力者のアルバイトね」

 

タマモが嫌みったらしく言いながら私を見ている。

自分で扱っていてなんだけど、正しくその通りね。

 

「こらタマモ、突っ込むな」

 

「そうでござるよタマモ。話が進まないでござる」

 

「ちぇ、折角空気を和ませようかと思ったのに」

 

「横島さんっ!何で辞めちゃうんですか!?」

 

おキヌちゃんがシロ達と話している横島君に、絶叫に近い声で尋ねている。

 

「ん、理由は。何ていうかな……もうここに俺の居場所は無くなったからかな…」

 

「そんなこと無いです!横島さんの居場所はここにずっとあります!」

 

「ごめんおキヌちゃん。もう決めたんだ、だから俺はここを辞めるよ」

 

「そ、そんな…」

 

全身の力が抜けて倒れこむおキヌちゃん。

私も、椅子に寄りかかっていなければ、同じことになってる。

横島君がおキヌちゃんに肩を貸してソファに座らせる。

その間、彼女は糸の切れたマリオネットのように微動だにしなかった。

横島君は其れを少し悲しそうな表情で見つめると、

私の場所まで戻ってきて会話を続ける。

 

「其れでなんですが。シロとタマモが俺についていきたいという事で

許可を取りに来ました。シロの方は既に長老から俺に方に行ってもいいと言う

長老の許可を得てきたそうです」

 

なんですって!!

何時の間に…シロにタマモまで!?

シロは判るけど何故タマモまでついていくのよ!

 

「付いて行きたかったからよ。別に深い理由も意味も無いわ。

どうしても理由が欲しいなら、そうね…其処に横島がいるからかしら」

 

「其処に山があるから理論と似てるでござるな」

 

「五月蠅いわよバカ犬」

 

「バカじゃないもん!!」

 

「五月蠅い!!何勝手に決めてんのよ!シロはともかくタマモ!

アンタは私が保護しているのよ!あんたが勝手に出て行けば直ぐに退治の依頼が来る上に

連れて行った横島君が犯罪者扱いになるってわかってるの!?」

 

 

ふざけないで…

シロもタマモも横島君を奪うの?

横島君は、私達よりこいつらを取ったって言うの!?

 

「そこは大丈夫っス。

タマモの処遇は小竜姫様と老師に頼んで神界側の保護対象になったんで、

連れて行くのは問題ないそうです。今頃はGS協会とオカG、

国にも通達がいってる筈です」

 

何よそれ…

今まで来なかったのはこれを裏でやるためだったの?

もう私達を見捨てるつもりだったの…?

 

「本当は、辞めて一人でナルニアに行く予定だったんですけど、

昨日、シロとタマモがパピリオと一緒にやってきて、俺に言って来たんですよ。

止めても聞かないっぽいし、こいつらなら別にいいかなと。

で、シロは美神さんの所での預かりだし、タマモもここで保護されてたんで

報告も兼ねて来ました」

 

この二人の事は彼にとっても予想外だったって事。

でも、だから何?何も解決して無い、彼がいなくなって、更に二人消えてしまうですって…

 

「認めないわ…」

 

「え…?」

 

「認めないって言ってるのよ!この馬鹿横島!大体何?アンタ何時の間に

そんな偉そうに私に正面きって話してるのよ!何度でも言ってあげるわ!

アンタが辞めるのは認めない!いい?私は美神令子よ!どんな手を使っても

ここを辞めさせてたまるものですか!」

 

精一杯の虚勢を張る。

気づいて欲しい。駄目な私の精一杯の気持ちを。

私は本気で貴方に辞めてほしくない。

私の傍で、おキヌちゃんの傍で、その笑顔を元気を見せ続けてほしい。

 

でも…

現実は非常だ…

 

「すんません…俺は……」

 

…………

………

……

 

其処にいるのは私とおキヌちゃんだけ。

それと人口幽霊一号だけね…

 

『よかったのですか?』

 

「いいのよ…もう、手遅れなんだもの…」

 

おキヌちゃんは顔を真っ青にして、ずっと下を向いている。

あの一言は、私をおキヌちゃんを絶望に叩き落した。

 

『俺は…もう、美神さんやおキヌちゃんと今までのままで

接していける自信が無いんです。このままだったら…

俺、多分美神さんやおキヌちゃんを傷つける。

だから、もう二人と道を交えるつもりはないんです…

すいません、本当にすいません』

 

彼は我慢していたのだ。

ルシオラを無視し続け今の状態だけを見ていた私とおキヌちゃんに。

傷つけたくなかったのだ、私達を。

でも……

 

「馬鹿……私達の心は救ってくれないの…」

 

きっと、これが彼の最大限の譲歩だったのかもしれない。

彼は優しすぎたから、だから離れてしまったんだ。

でも、優しすぎたから、傷つけたくなかったから。

私達の心は深く抉られたのだ。

 

ごめん…今は何も考えたくない。

ごめんおキヌちゃん。今は少しだけ休ませて。

私は、これが夢であるように祈り、静かに目を閉じる。

夢であるように願い。

しかしどこまでも現実だということを理解し。

彼を想いながら。

 

 

 

―横島宅―

 

 

泣かせてしまったな。

こうなるって判ってたけど、それでも辛い。

ならやめればいいと思ったけど、俺はもう決めたから。

美神さんには西条や隊長がいる。

おキヌちゃんには弓さんや一文字さん、沢山の友人が居る。

あの人達が二人を癒してくれると願い、そんなことを考えてる自分に腹を立てる。

結局はただ傷つけただけ。自分が出来ないから人任せにする

という考えが嫌になる。

そんなことを考えていると、背中が急に温かくなった。

其処には抱きついているタマモとシロがいる。

 

「頑張ったわよ、横島は。ただ何も言わないで行くよりずっと良かったと思う」

 

「そうでござる、先生は立派でござったよ」

 

二人の暖かさと、重さを心地よく感じながら俺は二人に感謝する。

まったく、本当にいい家族だよお前達は。

 

「私達が…」

 

「家族、でござるか?」

 

「ん?嫌だったか?これから一緒にすむ事になるんだし。

それなら家族になると思ったんだが」

 

「い、嫌な訳無いじゃない!ちょっと驚いただけよ!」

 

「そうでござる!拙者嬉しいでござるよ!!」

 

二人がわたわたしている姿が微笑ましい、

この二人を見てると、落ち込み気味だったのが嘘みたいに元気になっていく。

そうだな、まだまだやる事がある、元気出していくか!

小鳩ちゃんに挨拶をして、マリアとついでにカオスにも挨拶してやるか。

それが終ればエミさんの所でタイガーと、学校で愛子たちにも挨拶していかないとな。

あ、ちなみに学校は辞めてるぞ?その事についてはお袋にも話しておいたから

ボコボコにされる心配も無い。言わずに無断で学校辞めましたと気がつかれたら

俺は多分死ぬ。いや、割と冗談じゃない所が恐ろしい。

後は神父の所でピートにも会って、勿論魔鈴さんにも会いに行かなければな。

オカGは遠慮しておく。西条と隊長にはできるだけ会いたくない。

西条は単純にムカつくだけだが、隊長は未だにちょっと苦手というか、積極的に

話し合いたくない人だからな。

冥子ちゃんはまぁ別にいいだろう。会えるかどうかが問題だしなぁ。

雪之丞にはここに手紙でも置いとけば多分ナルニアにでも来るだろう。

アイツの無駄にハイスペックな移動力があればたぶんくるだろう。たかりに…

 

「よし、これから少し忙しいぞ!」

 

「了解!でござる!」

 

「んー、面倒だから私ここで待ってるわ」

 

「了承できんな!お前もついてくるんじゃー!」

 

「ふみー!腕を引っ張らないでよ~!」

 

そんな楽しそうな表情で言われたら、止める事なぞできんな!

さぁ、行くか!まずは色々怒られたりしてくるぜ!

 


 
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