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雨やどり 第3話 コノック・サンダーブレークという男 前編

人間、誰しもそれぞれの人生にドラマがある。彼の場合は…ちょっと波瀾万丈に富んでいるけれども…

2021-11-25 11:04:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:294   閲覧ユーザー数:294

 この世界のある賢者が言っていた通り、恋に堕ちた人間というものは、その恋が激しいほどに奇妙奇天烈な行動を取りがちな傾向が見られる。いきなり博愛主義に目覚めたり、何処からともなくリュートを引っ張り出して来て吟遊詩人の真似事をしてみたり…食欲増進、逆に性格が荒くなったり、頭髪が著しくその前線を後退させたり…

 

 この世界のある医学の権威は、恋に堕ちた自身の反応を、「アレルギー」と診断したと言う伝説もある。その人に会う度に激烈な心的反応を呈すから、と言うのが根拠らしいが、恋愛学会では主流派から鼻で笑われている。

 

 ともかく、喫茶店「ア・ミン」での「運命の出逢い」直後のコノックは、弁護のしようがないほどの不審者ぶりを発揮していた。ニヤニヤと商業ギルドへの道すがら、普段は面倒臭くて使い道も無い、「天気変化」の魔法で雨雲を蹴散らし、三重の虹をかけてみたり、雨でぬかるんだ道路を一瞬で乾燥させる、火魔法と風魔法を応用した複雑魔法で公共の福祉に貢献したり。更には商業ギルドの受付のおばさまを、ちょいと10歳若返らせる超高難度の魔法を軽々、鼻歌混じりに勝手に使ってみたり。

 

 彼が喫茶店から商業ギルド、自宅の工房までの間に浮かれ気分で何らかの魔法でちょっと助けた人間は、侑に100人を数えたほどであった。今は丁度、商業ギルドで注文したミスリル鉱石100個の入った袋を片手に、自宅前まで気分良く帰って来た所だ。

 

 流石に家族の前、ましてや仕事場でもある工房への扉を開ける前には、舞い上がった気分もいくらか落ち着いた。よし、と、気合を入れて、工房の扉を開ける。

 

 一瞬にして、身を焦がすほどの高温と、男臭い汗の香り、金床で鍛え上げられる金属とハンマーの鍛造音、父と祖父がハンマーを打ち合わせる際の裂帛の気合いが、一気にコノックの五感を襲った。

 

 いつもの仕事場の風景である。熱耐性の魔法の無言詠唱で適応し、打ち合う2人に大声で帰宅を告げた。

 

「ただいまッ‼︎父ちゃんッ‼︎爺ちゃんッ‼︎ミスリル鉱石100個、買って来たから、とりあえず炉に放り込むねッ‼︎‼︎」

 

「おかえりコノックッ‼︎フンッ‼︎したら頼むわッ‼︎破ッ‼︎義父殿ぉッ‼︎カッ‼︎まだまだッ‼︎飛ばしますよッ‼︎」

「破ッ‼︎頼むぞコノ坊ッ‼︎カッ‼︎おおッ‼︎フンッ‼︎婿殿ぉッ‼︎よし来いッ‼︎受けて立つッ‼︎」

 

 キンッ‼︎カーンッ‼︎、キンッ‼︎カーンッ‼︎、キンッ‼︎カーンッ‼︎と、規則正しいリズムを刻みながら、ゴリマッチョエルフの親父とゴリゴリのドワーフの爺ちゃんが、息のあったコンビネーションでオリハルコンの塊を鍛造していた。新型炉の製作に取り掛かっている様だ。魔法を炉の中で爆縮すると言う新理論を取り入れた、最先端の技術に果敢に挑む匠2人には、いつも脱帽させられる。

 

 ただ一つ心配なのが、2人がオリハルコンを鍛えている「金床」の耐久度だ。「ヒヒイロカネ」と言う珍しく、大変な硬度のある金属製なのだが、日々お互いに高め合っている匠2人の膂力に、そろそろ新調せねば持たないかも知れないと、この間爺ちゃんが言っていた。ヒヒイロカネの鉱石は、ここからひと月掛かる北の山脈に豊富な産地があるらしいのだが、出不精なオレはまだついて行ったことがない。しかし、今の金床が壊れたら、まず間違いなく取りに行かされるのは自分だろう。

 

 ホイホイと魔法炉にミスリル鉱石を投入しつつ、ため息をつく。喫茶店の軒先での余韻と、もしも金床が今壊れたら、行き帰りで2ヶ月、製作にひと月かかるせいであの喫茶店に年末まで顔を出せなくなる可能性に思い至ったからだ。

 

 なにやら向こうのゴリゴリエルフドワーフ義理親子が、「ムムッ⁉︎なにやら恋の匂いがッ⁉︎」とか騒いでる様だが、無視だ無視だ。

 

 ゴロゴロと転がり落ちていくミスリル鉱石を確認して、早速魔力を送り込むプラグを握って、自身の魔力を注ぎ込む。熱量の調節も、送り込む魔力量で自在に変えられる仕組みだ。朝、父ちゃんが爆裂魔法で火入れを済ませているので、それだけでキチンと作動するのだが、膨大な魔力量を生まれつき持っているオレにとっては、実は送り込む魔力量の調節に、神経を使う作業である。ミスリル鉱石なら10分ほどで溶解され、精錬可能となる。ちなみにヒヒイロカネだと、この炉でも最低半月はかけなければ、溶解出来ない。

 

 これが新型魔法爆縮炉を使えば、ヒヒイロカネでさえも1秒で溶解可能となるのだから、技術の進歩は凄まじい。これまでの思い出に浸るには少々騒がしい場所だが、する事がプラグを握っているだけなので、オレはこれまでの半生、いや、一生半の人生を思い出していた。つまり、ここから回想に入るという、場面転換の常套句ですな。

 

 

 「朱美さんの、バカヤローーーーッ‼︎」

 オレが「コノック」に転生する直前、つまり死ぬ直前にしていた事といえば、告白してケチョンケチョンに振られた傷心旅行で来た鳥取砂丘で、海に向かってこう叫ぶことだった。高卒ストレートで三流商社の社員として社会人になって丸2年、その間の師匠として付いてくれたのが、朱美さんだった。ナイスバデーなメガネの似合う、いわゆる「家庭教師の美人お姉さん」みたいな雰囲気の、ステキな女性だった。仕事も

優しく指導してくれて、失敗したオレを優しく慰めて飲みに付き合ってくれたり、2人だけでの残業や、2人だけで出張に行ったり。

 

 そんなん、高卒すぐのぺーぺーでなくても惚れてまうやろ?しゃーない。惚れちゃったんだもの。その昔、中学校まで一緒だった幼馴染に惚れて以来の恋だった。

 

 ひと月かけて2人で準備した、10月末にとある企画のプレゼンを成功させた2人だけの祝勝会で、しこたま酔っ払ったオレは、勢いとこの悶々とした気持ちに整理をつけるため、二次会の静かなバーで朱美さんに告白した。

 

「…ごめんなさい。私、あなたとは付き合えない。弟としてしか、見られないの。ごめんなさい」

「…ッ⁉︎…」

 

 言い終えた彼女がマティーニをひと口。分かっていたさ。こんな自分に、こんな美人が釣り合うわけないって…

「それに私、付き合っている彼がいるの。…ウチの会社の、金田部長よ?みんなには黙っていてね?」

「…全然、気づきませんでしたよ。お似合いです、お二人共。」

 

 そっか。あのイケメンの…金田部長がお相手かぁ…ビールで苦味を流し込む。

 

「来年、札幌に引っ越して、あちらの条例で結婚するの。黙っていてごめんなさい…」

 もう婚約までしているとは…そんな人と2人で…なんだかとても悪いことをしている気に…ん?

 

「……?さっぽろ?条例?え?何故WHY?」

「…後輩クン、それともう一つ、秘密にしていたんだけど……私、元"男"だったのよ?」

「…ッ‼︎‼︎⁉︎はふぇぇ〜ッ⁉︎」

 

一気に酔いが覚めた。え、ちょっと待って。この目の前の美人さんが、元男性⁉︎え?ど、ど、ど…

 

「札幌には、同性婚を認める条例があるでしょう?それに、彼の実家も近いし♪お義父さまお義母さまとはもうご挨拶も済んでて、今は新居と式場探しをしてるの♪」

 

 オレの大混乱をヨソに、彼女もとい彼は、彼との将来の展望を楽しげに語り出した。勿論、混乱しているアタマには全く情報が入ってこない。そのかわり、手が自動的にアルコールを口に運ぶスピードが3倍に上がり、その日その後の記憶はない。

 

 翌日、不幸にもバッチリと記憶がなくなるまでの記憶は残っていたオレは、三日間の休暇を取り、取り敢えず鳥取砂丘でバカヤローー!と叫んでスッキリする事にした。

 

 その新幹線の車中、いやでも冷静に整理されていくオレの頭の中。するとアレか、オレは、"元"殿方の事をお慕い申し上げていたという事、その"元"殿方からは、文字通り男兄弟の弟の様に可愛がられていただけで、ちょっと過剰で喜んでいたボデータッチの多さも、オレは"元"殿方の偽乳を有り難く拝んでいたと。そういう訳か。んで、社内No.1のイケメン、デキるモテ男の金田課長は衆道を嗜む方で、来年朱美さんと退社して、札幌でケッコンすると…あれ?ウチの会社、金田さん居なくなったら潰れるって、社長が笑いながら言ってた様な…

 

 車内でグルグルと思考は回転し続け。なんとか乗り継ぎやタクシーを駆使して、黄昏時の鳥取砂丘、穏やかな日本海を見て、何だかグチャグチャな感情のまま、オレは有らん限りのチカラを振り絞って泣いた。そして、叫んだ。

 

「朱美さんバカヤローーーーッ‼︎」

…シュンッ‼︎ドドスッ‼︎……ドタッ…ズザサ〜〜…スッ。

 

 これが前世生前に覚えている、最期の音だ。こうして何が起こったのか分からないまま、オレの20年の人生は終わった。なんて終わり方なのだろう…神様やらあの世なんて信じていなかった私が最期に思ったのは、走馬灯って案外浮かんでこないもんだな、と言った感想であった。

 

「………い。……ざめなさい。…めざめなさい…アレ?おかしいわね、中々目醒めないわ?このひと。」

「そりゃあ、貴女達2柱の女神がムキになって放った矢が同時に心臓をぶち抜いたのだから、魂だって一種の脳震盪みたいな症状を引き起こすでしょうよ‼︎」

「「…ハイ、反省しております…」」

「はぁ、全く……ん?目が覚めたみたいね?」

 

 暗闇から、覚醒を促す美しい声が聞こえていた。それに応えようと藻搔いていたが、ようやく視覚に光を感じた。マジで覚醒5秒前ってとこだな。ユルユルと瞼を開く。

 

 まず戻ったのは聴覚で、先程から4人程の、美しい声の女性、いや、あんな事があったから、男性の可能性も捨てきれんな…ともかく美しい声で、中々穏やかじゃない会話が聞こえていた。

 

 次に戻ったのは視覚と嗅覚で、美しい女性、いや、あんな事があったから男性の可能性も捨てきれんな…とにかく美しい、人間を超越したかの様な美貌の持ち主が4人、心配そうにこちらを見ていた。そして、濃厚な檜の匂い。しっかりと見たことはないが、まるで神社の中にいる様な、そんな雰囲気の建物の様だ。

 

 戻って来た触覚が正確ならば、どうやら私は布団に寝かされているらしい。手触りは最高級の絹織りなのか、極上だ。

 

 どうやら息もしていて、声を出す事も可能らしい。こう言う場合のお約束として、まずはひと言、美貌の4人に言い放った。

 

「…知らない天井だ……」

「「「「………?」」」」

 

 あ、盛大に滑った、というか通じなかったらしい。仕方がないので今度は布団から起き上がって真っ当に会話のキャッチボールを始めよう。なんだかまとめ役っぽい、スーツをバシッと決めた、委員長キャラっぽい方が1番近くに居たので、その方に向かって話しかけてみる。

 

「えぇと、すみません、あの、コチラは病院か何かでしょうか?先ほど、鳥取砂丘に居たんですけど、なんだかもの凄い衝撃が同時に2度、心臓辺りに走って、倒れて、砂丘から滑り落ちた様な記憶がある様な無いような…」

 

 委員長キャラっぽい方の後ろ、キリッとしたこちらも気の強そうな美人2人が、同時にサッと視線を逸らし、ついでに片手に持っていた弓を背中に隠したのを横目で見てしまった。

 

「…まずは貴方に謝罪を。本当にごめんなさい。貴方は…妾たち神々の手違いで、死なせてしまったのです。まだまだこれから、素晴らしい未来が拓けていた貴方の未来を、閉ざしてしまったのです。…本当に、ごめんなさい。」

 

 

 悲痛で哀しみに溢れた顔で語り出した彼女は、最後には一筋の涙を流しながら、深々とこちらへ頭を下げたのだった。今まで生きてきた中で、ここまで心配され、心の篭った謝罪をされたことなどあっただろうか?いや、無かったな。

 

 まず彼女の謝罪で分かったことは、オレは神々の手違いで殺されたらしいと言うこと。これまで、神様なんて居ないと思っていたから、これがドッキリでは無いかと疑う気持ちもあったが、まずは色々と聞いてみないことには、分からないな。あんなグチャグチャな気持ちだったところに突然の死だ。実感もないし、あまり怒りも湧かない。

 

「…そうでしたか、私は死んだ、という事なんですね?…なんというか…割と気持ちが生きるか死ぬかという、タイムリーな所に…それにしては、まるで感覚にこれまでとの違いがないのですが…それと、状況も教えて頂ければ…」

 

「冷静に考えて頂いているみたいで、助かります。それでは、長い話になりますし、あちらのテーブルへ移動致しましょう。」

 

 オレは起き上がって、とりあえず足もちゃんとある事を確認しつつ、指示されたテーブルへ向かった。部屋の作りは和室なので、そこに鎮座するギリシャ風の大理石製の立派な6人掛けのテーブルと椅子は、ちょっと違和感があったが、とりあえずツッコまずに黙って従う。冷たい飲み物が各自の前に(何故かジョッキで)既に用意されており、これから長い話が始まる事を、認識させられたのだった。

 

 オレの正面には、スーツ姿の委員長キャラっぽい方、その方を挟んで俺から見て右側に、ゆるフワナチュラルファッションとキリッとした眉が印象的なお姉さん、左側にミリタリー系ファッションとキツめな顔つきの、女戦士みたいなガタイの良いお姉さん、さらにその左には、困り眉の、笑顔が穏やかな目の細いお姉さんが座った。

 

 まずはこの場を仕切っている、委員長キャラっぽいスーツで一人称が「わらわ」な方からの自己紹介から始まった。やたら優雅で、見ていると少し眩しささえ感じてしまう美しさを持った方だ。一瞬、光ったかと思うと、古式豊かな日本古来の十二単衣、に似た服装へ早変わりしたかと思うと、

 

「妾は、この日の本の国の神のひと柱、名を『天照大神』と申します。どうぞ、よしなに。」

 オレは即座に二礼ニ拍一礼と土下座をかました。どんなアホでも、日本神話の最高神の名前を一度は聞いたことあるだろう?この方はモノホンだと、反応レベルでの反応であった。あと、男だと疑った後ろめたさもちょっとあった。

 

 天照大神様は、ちょっと困った顔をして、またスーツ姿に戻ると、

「そんなに畏まられると、話が進みません。どうぞ、お掛けになって?」

と、着席を勧めて頂いたので、素直に座り直す。

 

「続いて、今回の事件の犯人、つまり貴方を殺してしまった二柱の女神、貴方から見て右側の女神がアルテミス、左側がアテナよ?ほら、2人とも、ご挨拶!」

 

 これまた有名ドコロのお名前の女神様が、ギリシャ神話からご登場だ。生憎、ギリシャの神々への礼拝方法は知らないので、取り敢えず土下座で許してもらおう!

「話が進まないので落ち着いて下さい!」

 

 天照大神様にそう言われたので、スゴスゴと椅子に戻った。

 

「女神アルテミスと申します。この度は…本ッ当〜にごめんね‼︎申し開きもできないほど、こちらの落ち度で、すみませんでした!」

「…女神アテナだ。この度は、その…ごめん…」

「や、これはわざわざご丁寧にありがとうございます…」

 

 それぞれ今回の殺人犯が挨拶と謝罪を終えて、オレとお互いに一礼し合う、奇妙な光景が続いた。

 

「それで、貴方が死んだ状況なのだけれど…」

 

 こうして、天照大神様の長い状況説明が始まった。要約すると、現在、世界中の神々にもグローバル化の波が押し寄せており、第二次世界大戦後の国際連合発足と同時に、神々も円卓会議を持って、グローバルな神々の交流が持たれたこと。調整の末、一年に一度、10月にひと月かけて、世界中の神々が出雲に集まって、大会議と大交流会を持つ事になり、毎年10月日本の出雲では、様々な神々のイベントが開催されていること、などの、前段階としての説明の後、いよいよオレの死因の話に及んだ。

 

「今年は、古の日本文化に触れてみよう!というテーマで、色々と衣装や芸術品、武具などの展示と、体験コーナーを用意していたの。大いに盛り上がったのは良いんだけれど、そこのおたんこなす女神2人が、『流鏑馬体験コーナー』の前で、出店の焼きそばの味付けについての口論が白熱しちゃって…『じゃあ流鏑馬で勝負だ‼︎』って言って、禁止している『本気モード』を出しちゃって…その流れ矢が、見事に貴方の心臓と、もう1人の方の心臓にクリーンヒットしてしまって…それが、貴方の直接の死因なのです…」

 

 長い話を語り終わった天照大神様は、話の内容も相俟って、大きなため息をついたのだった。アルテミスとアテナは、縮こまるばかり。よっぽど天照大神様や主神ゼウスに叱られたのだろう。

 

 話を聞いていたコッチも、まさか焼きそばの味付けが原因の流れ矢での死亡とは、つゆほども思っていなかったので、先程から開いた口が塞がらない。段々と口内も乾いてきたので、ため息一つ、用意されていた飲み物をひと口頂く。あ、おいしい。

 

「…これまでの経緯については、分かっていただけたかしら?本当に、神界円卓議長としても、日の本の最高神としても、改めてごめんなさい…」

「いえいえ、頭を上げて下さい!起きてしまった事は仕方がありませんし…ちょっと原因はアレですが、まぁ、仕方ないと思いますし…」

 

 すかさず謝罪を入れて来る天照大神様の横で、アルテミス様とアテナ様も頭を下げまくるので、そんな神様にアタマを下げさせるなんて、生きた心地がしない。あ、もう死んでたなオレ。

 

「それで…今後の事ですけど、これだけ謝られるって事は、生き返る事は出来ない…ってコトですよね?」

 

 薄々察してはいるが確認だ。未練ならある。親孝行も出来ていないし、ましてや彼女いない歴=人生だったのだ、それにあの、業の深い我がHDDは、誰が処分すんだ?

 

 申し訳なさそうに天照大神様が首を横に振りながら、

「なんせ、おたんこなすの流れ矢と言っても女神の本気、申し訳ありませんが、黄泉還りは出来ません。」

 

 

 Oh…グッバイオレの尊厳。こんにちは変態のレッテル…

 

 肩を落とし、ため息をつきながら、自分の行き先を尋ねてみる。

「良い人間だった覚えはないので、行き先は地獄のどちらかでしょうか?あの、どうかお手柔らかに…」

 

 天照大神様は目を丸くして驚き、そしてクスクスと笑った。ふつくしい。

「フフッ、そんなに卑屈になる事はありません。今回の出来事は、完全にこちらの落ち度ゆえ、貴方は地獄落ちの心配ご無用ですよ?」

 

 どうやら地獄での責め苦は回避できた様だ。良かった…

「ただ…天国に送るにも、おたんこ女神二柱の矢で、貴方の魂はボロボロになってしまったので、天国へ送るにも、エラーが出かねない危険性があると判断されました。なので、天国にも行けません。更に、人間として地球に産まれ直すのも、厳しい状態なのです。試算した結果…ミミズに生まれ変わるのが、精一杯だと…」

 

 おたんこ、の件りで、両女神をジロリと睨みながら、そう告げられた。そんな中途半端な状態なの?今のオレって⁉︎来世ミミズは絶対イヤだ⁉︎益虫だけれども‼︎

 

「そこで、地獄でもなく、天国でもなく、ミミズでもない道として、別世界への転生という、最近開発された技術を使った第4の道を、我々は貴方に提案いたしまー」「『異世界転生』ですね是非お願いします出来ればイケメンのエルフで魔力量無限大で明るい家族にかこまれて楽しい世界が良いですよろしくお願いします‼︎」

「は、ハイ、わ、分かりました、分かりましたから落ち着いて‼︎」

 

 

 おっといけない、日々妄想していた、オレカッケー、な妄想の蓋を開いちまった。オレは紳士、クールに行こう。深呼吸、深呼吸。

 

 

「…すみません、つい興奮してしまって。それで、その第4の道、と言うのは、どの様な形になるのでしょうか?」

 

「…落ち着いていただけたみたいですね?それでは、ここからの説明は、こちらの別世界の女神、アマンダにお願いしましょう。」


 
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