(番外九)
「綺麗ね」
「そうだな」
「それにとても静かです」
蓮華と一刀、それに尚華は夜空に浮かぶ白銀の月を見上げてそれぞれの感想を口にした。
「こうして親子三人で月を見るのも結構いいもんだな」
「父上様、四人ですよ」
「おっとこれは失礼」
愛娘に注意されて謝る一刀に蓮華は思わず笑ってしまった。
それにつられて一刀と尚華も笑いあう。
「でも本当に母上様のこの中に私の妹か弟がいるのですね」
女性の神秘に感動をする尚華。
次世代の王として勉強の毎日だが、莉春の一件以来、何事にも一生懸命に取り組むその姿に一刀と蓮華は息抜きにと月見を親子『四人』で楽しむことにした。
「尚華が産まれたときも嬉しかった事を今でも覚えているぞ」
「あのときの一刀ったら煩くて困ったわ」
雪蓮や冥琳で出産に立ち会っているはずの一刀だが、娘達が産まれるたび彼の愛妻達が少しばかり呆れるほど大袈裟に騒いでいたため、思春あたりは本気で殴り倒そうかと思うほどだった。
「でもそれだけ貴女が産まれたことが嬉しいのよ」
「父上様……」
自分はこんなにも愛されているのだと再認識する尚華。
「父上様」
「うん?」
「私は父上様の娘で嬉しいです」
「俺も尚華の父親で嬉しいよ」
親バカすぎる一刀と父親大好きの尚華は嬉しそうに話をしていると、放置される蓮華としては少々面白くなかった。
以前にも尚華ばかりかまっていた一刀に思わず文句を言ってしまった蓮華に姉である雪蓮にこう言われたことがあった。
「そういう時は貴女自身の魅力で一刀を虜にすればいいのよ♪」
などと積極的にいけと助言を受けた事もあったが、残念なことに蓮華はその積極性は母親になってからもなかなか出てこなかった。
楽しそうに話をしている夫と娘を見るとムッとする蓮華。
「あ、あの一刀」
「どうした?」
「え、えっと…………」
「母上様?」
一刀と尚華はどうしたのだろうかと蓮華を見る。
二人から注目される蓮華はますます話しづらくなっていき、とうとう俯いてしまった。
「な、なんでもないわ…………」
ため息混じりにそう言って蓮華は自分の変わらない性格が恨めしかった。
一刀は不思議そうに彼女を見ていたが、娘である尚華は蓮華が何をしたがっているのかに気づいた。
「父上様、母上様。お茶をお持ちしますね」
そう言って立ち上がり二人に礼をとってその場から離れていった。
蓮華は娘が自分に気を利かせたのかと思い、感謝すると同時に娘にそのような気遣いをされ情けない母親だと自分を責めた。
「蓮華」
「えっ?」
「寒くないか?」
「だ、大丈夫よ」
いきなり声を掛けられて動揺する蓮華は顔を紅くする。
それに対して一刀はほんの少し目立つようになった蓮華のお腹に手を当てた。
「一刀、くすぐったいわ」
「いいじゃないか。この中に俺達の子供がいるんだぞ」
「それはそうだけど……」
いつ尚華が戻ってくるかわからないなかで、蓮華は一刀が自分に触れてくれていることが嬉しかった。
「今度は男の子かな?」
「そうだったら大変ね」
「どうして?」
「だって一刀の息子でしょう?」
天の種馬の素質を受け継がれでもしたらそれこそ何が起こるか容易に想像ができる蓮華。
一刀のように多くの女性を虜にしていき、自分達のように多妻を娶ると思うといろいろ気を使いそうで困った。
「なんか引っかかる言い方だな」
「事実を言ったまでよ」
「ひどいな……」
軽く落ち込む一刀に蓮華は笑みがこぼれる。
「大丈夫よ。もし男の子であればきっと一刀のように優しく温かさを兼ね備えているわ」
「とりあえず、氷蓮達に遊ばれるのは間違いないな」
「きっと溺愛するわね」
そう思うと息子であれば不憫だなと二人は思った。
「女の子ならきっと蓮華のように美人になるな」
「び、び、美人って……」
「そういうところは可愛いけどな」
「か、一刀!」
抗議の声をあげる前に蓮華の唇は一刀の唇によって塞がれた。
不意打ちの口付けに蓮華は動きを止め、ゆっくりと瞼を閉じていく。
温かな感触に蓮華は穏やかで幸せな気分になった。
「一刀……」
「ありがとうな、蓮華」
「どうしたの、急に?」
「だって俺の子供をまた身籠ってくれたんだぞ。感謝するだろう、普通?」
二人が愛し合った結晶が日々、蓮華のお腹の中で成長していく様子を見て一刀はそう感謝せずにはいられなかった。
優しく抱きしめていく一刀に蓮華も身体の自由を預けた。
全身を包み込む温かさ。
「一刀」
「うん?」
「私はお姉様が羨ましいと思ったの」
「どうして?」
こうして抱かれていて幸せだと感じながらも、一刀が一番初め選んだのが雪蓮であることがほんの少し嫌な気持ちになっていた。
雪蓮ではなく自分が一番だったらどれだけ幸せなのだろうか。
順番など今の幸せの中ではどうでもいいことのはずなのに、つい考えてしまいそれに気づいた自分に呆れる蓮華。
「一刀」
「どうした?」
「一刀は私達の中で一番誰が好きなの?」
その答えは知っているのに聞いてしまう自分に笑ってしまう蓮華だが、それでも聞きたくないという気持ちにはならなかった。
「一番か…………」
珍しく悩む一刀。
そんな彼に蓮華は自分だと言ってくれないだろうかとささやかな希望を持った。
「今は蓮華かな」
「えっ?」
意外な答えに驚く蓮華。
「い、今……何て言ったの?」
「だから今は蓮華だって言ったんだ」
聞き間違えることなく自分が一番だと言われ、蓮華は天にも昇る気持ちになっていく。
あの雪蓮よりも自分が一番だと。
あまりにも嬉しくなり一刀を抱きしめたくなったが、そこでふとあることに気づいた。
(今は……ってことは……)
その言葉の意味を理解した蓮華は喜びが収まっていく。
自分はどんなことがあっても雪蓮には勝てないのだと。
それと同時に妙に落ち着いている自分がいることに気づいた。
「蓮華?」
一刀の言葉に蓮華は顔を横に振った。
「なんでもないわ。それよりも一刀」
「うん?」
「さっきからどこを触っているのかしら?」
「決まってるじゃないか。蓮華の胸」
さっきまでの気持ちは吹き飛び、代わりに入ってきたのは恥ずかしさだった。
「一刀!」
「な……ぐわっ!」
思いっきり蓮華の頭突きを食らった一刀は彼女を抱きしめたまま後ろに倒れた。
「きゃっ」
逃げることもできずに一刀の上に倒れこんだ蓮華。
そしてすかさず一刀は彼女を抱きしめた。
「ち、ちょっ……」
離しなさいと言う前に二度目の口付けをされた。
重なり合った唇同士に蓮華は身体中の力が吸い取られていくような感覚に襲われた。
(一刀……)
全てを委ねていく蓮華。
抱きしめられることが嬉しくてこのままずっといたいと思えるほど彼女は幸せな気持ちになっていく。
唇を離すと一刀は彼女にこう言った。
「本当に綺麗だよ、蓮華」
「一刀……」
どちらがでなかく二人は三度目の口付けを交わす。
愛しくて愛しくてたまらない。
二人は許される事ならもっと深く愛し合いたかった。
「今日は四人で寝ようか」
「そうね」
二人はそう言って四度目の口付けを交わした。
「もう少しこのままでいいかな?」
「ええ。私もこうしていたい」
一刀と蓮華はお腹の子供が息子か娘かなどと楽しげに尚華が戻ってくるまで抱き合って話し合っていた。
そして翌朝、二人は見事に風邪を引いた。
「当たり前よ。あんな寒い夜にいつまでも外にいるほうがバカよ」
「父上様、母上様、申し訳ございません」
「とりあえず蓮華はお腹の子供にも障るから以後気をつけなさい」
笑いながらも呆れたように言う雪蓮と申し訳なさそうに謝る尚華の前には仲良く看病されている一刀と蓮華が苦笑いと恥ずかしさで染まっていた。
だが、二人が見えないところで一刀と蓮華は手と手を握り合っていた。
(一刀、大好きよ)
声にするといつも恥ずかしくて上手く言えなくても心の中では素直にそう言えた蓮華だった。
(座談)
水無月:寒いです!
雪蓮 :根性ないわね。
一刀 :いや、冗談抜きで寒いぞ、この頃。
水無月:身も心も懐も寒いです。
雪蓮 :外に出て身体を動かせば問題ないじゃない。
水無月:といいつつもしっかりとカイロを握り締めている雪蓮さんでした。
雪蓮 :女の子はいいのよ、女の子は♪
水無月:仕方ないですね。一刀くん。
一刀 :なんだよ?
水無月:乾布摩擦をしてきてください。
一刀 :俺がか!
雪蓮 :頑張ってね♪
水無月:ちなみに私は暖かお布団で寝ます。
一刀 :お前もこい!
水無月:や、やめて、寒いのはいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?(ズルズルと引きずられていく)
雪蓮 :みんなも風邪を引かないように注意よ♪
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とりあえず息抜きがてらに書いてみました、蓮華の番外です。
頭に思いついたことをとりあえず書いてみました。
本編はまだ仕上がっていないのでしばらくの間、番外編をお楽しみください。