No.107356

こっち向いてよ!猫耳軍師様! 8

komanariさん

 すこし間があきましたが、8話目です。

 今回は、風と秋蘭が出てくるのですが、風についてはしゃべり方が、秋蘭についてはキャラ崩壊が心配です。

 今回も、誤字・脱字などありましたら、よろしくお願いします。

2009-11-16 02:56:21 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:31292   閲覧ユーザー数:26990

「それでは、明日からは定時に城に出勤してください」

 試験に合格して、文官になるための説明会に参加していた俺は、これまで説明を行ってきた人の言葉を聞いて、ふっと緊張を緩めた。

(一応目指してきた場所だとは言っても、周りの人たちはみんな頭よさそうに人たちばかりだし、俺一人だけ場違いな感じだなぁ……)

 そんなことを考えながら、帰る準備をしていると、先ほどと同じ文官の人が俺を呼んだ。

「あぁ、それから。北郷一刀殿には別途説明がありますので、この場所に残ってください」

 その一言で、その場にいた合格者たちの目が、一斉に俺に集まった。

(や、ヤバイ。なんか見られてる……)

 この世界に来てから、大勢の人に注目されることなんてあんまりなかったし、それに加えて、合格者たちの視線がどこか懐疑的なものだったことが、余計に俺を委縮させていた。

(そ、そんなに見るなよ。確かに警備隊やってた人間がここにいるなんて不自然だけどさ)

 俺がそんなことを思っていると、周りにいた合格者たちは、ぞろぞろと部屋を出て行き始めた。俺が委縮しているのを見て、大した人物ではないとでも思ったのだろうか。

「……さて、北郷殿。あなたに別途説明をするのは、私ではありません。その方がいらっしゃるまで、もう少しお待ちください」

 俺以外の合格者たちが出て行ったあと、文官の人がそう言った。

「は、はい」

 俺は少し緊張しながらそう答えた。

 

「はいはいー。失礼しますよー」

 しばらく待っていると、少し気の抜けたような声とともに、頭に人形を乗せた女の子が部屋に入って来た。

「程昱さま。お待ちしておりました」

 そう言って、文官の人が頭を下げるのが見えたので、俺も慌てて頭を下げた。

「おうおう。そう畏まらなくてもいいんだぜぇ?」

 頭を下げていると、しゃべり方は違うが、先ほどの女の子と同じ声が聞こえてきた。

「これ宝慧。皆さんはちゃんと礼を取ってくれているのですから、あなたは少し黙っていなさい」

(こ、これもさっきの女の子の声……もしかして自作自演をしているのか? ってか、さっき程昱って呼ばれてたよな……)

 そんなことを思っていると、さっきと同じ声で話しかけられた。

「お兄さんも、そろそろ顔をあげてもらってもいいですよー」

「はっ」

 そう答えてから、そっと顔をあげると、先ほどの女の子が前の方に立っていた。

「お兄さんが北郷さんですかー。思ったより大きいんですねー」

 俺の方を眺めながらそう言うと、その娘の隣にいた文官の人が口を開いた。

「北郷殿、この方は今回の試験の総責任者であらせられた、程仲徳さまです。貴方への説明は、程昱さまが直々にしてくださいます」

 文官の人はそう言い終わると、スッと後ろに下がった。

「そうなのですよー。お兄さんには色々と言っておかなければならないことがあるのですー。まずはこれを見てくださいー」

 程昱さまはそう言うと、手に持っていた竹管を俺の方に差し出した。

「は、はい」

 差し出された竹管を受け取り、それを開いてみると、そこには人の名前と数字が書いてあった。

「それは、今回の試験の採点結果ですー。前から点数が高かった順に書かれていて、合格者には、名前の上に赤い丸がしてありますよー」

 その言葉を聞いてから、俺は竹管に書かれた名前と点数を見始めた。そうして、しばらく竹管を読み進めて行くと、合格者を示す赤い丸が途切れた。

「……あれ?」

 思わずそう声を発してしまった俺は、また初めから竹管を見直した。

「……な、ない」

 初めから順番に見て行っても、合格者を示す赤い丸が終わる人までの間に、俺の名前がなかった。

「お兄さんの名前なら、もう少し後ろの方にありますよー」

 自分の名前がないことに、少し動揺していた俺を見ていた程昱さまが、そう言った。

「え?」

 その声を聞いて、俺は竹管をさらに広げた。

「……あ、あった」

 最後の合格者の人から、十数人ほど下がったところに俺の名前があった。しかも、ちゃんと名前の上には赤い丸がしてあった。

「あ、あの。これはいったい、ど、どういうことなんですか?」

 自分の名前を確認した俺は、いまだに収まらない動揺で少しかみながら、そう程昱さまに聞いた。

 

 

「ぐぅ……」

 だが俺がそう聞いた時、程昱さまは寝ていた。

(こ、これはツッコんだ方がいいのだろうか……)

 そんなことを思っていると、程昱さまがふっと眼を開いた。

「むぅ。……今回は、そのことを説明するために残ってもらったんですよー」

 なぜだか先ほどよりも不機嫌な様子で、程昱さまが言った。

(や、やっぱりさっきのはツッコミ待ちだったのか……)

 そんなことを思ってると、程昱さまが話し始めた。

「その順位を見てもらっても分かると思いますが、お兄さんは本来、合格できるような点数ではありませんでしたー」

「で、では。なぜ俺がここに?」

「それはですねー。お兄さんの書いた政策案が、とってもおもしろかったからですー」

「政策案?」

「はいー。今回の試験は私が責任者だったので、今までのものと少し問題を変えてみたんですよー」

 そう言えば今回の試験は、儒教や歴史、法家思想などだけでなく、自分の考える具体的な政策案を一つあげよ、という設問もあった。そんな問題が出るだなんて聞いていなかったら少し驚いたけど、警備隊として働いていた経験を生かして、そこで気がついた町の問題点とその解決案を書いたけど、それが面白かったということだろうか。

「これまでの試験では、確かに教養の豊富な人たちを選別することが出来ましたが、文官の仕事というのは、本に書いてあることをそのまま覚えると言うようなものばかりではないのですー」

 程昱さまが説明するのを、俺はじっと聞いていた。

「かといって、そう言った知識が必要ないわけじゃないんだぜぇ?」

「おぉ、宝慧。よくわかっていますね。その通りです。知識が必要ない訳ではないのですよー。知識はもちろん必要ですが、それを補えるだけの発想力がある人を見つけ出すために、今回はああ言った問題を出したのですー」

 頭の上の人形と会話をしながら、程昱さまは話を進めた。

「なので、今回は二重の合格基準を考えていたのですよー」

「二重の合格基準?」

「はいー。これまで通り、知識を試す試験での合格点が基準を上回っている場合は即合格。知識だけでは合格基準に達してはいませんが、政策案などの発想力でそれを補っている場合も合格。というものですー」

「……つまり、俺は二つ目の合格基準の中に入ることが出来た。ということですか?」

 俺がそう聞くと、程昱さまが軽くうなずいた。

「はいー。知識の方は儒教以外があまり芳しくありませんでしたが、政策案の回答が素晴らしかったので、それを補えましたねー。これで、もし儒教もあまり点数が取れていなかったら、さすがに不合格だったと思いますがー」

 それを聞いて、俺は改めて楽進隊長に感謝した。

(楽進隊長、ありがとうございます。貴方のおかげです)

「さて、お兄さんがどうして合格できたのかが分かったところで、本題に入りますよー」

 のんびりとした口調で程昱さまがそう言った。この人の場合、基本的にのんびりとした口調だけど。

「お兄さんは合格したとは言え、他の合格者の人たちよりも知識が足りていません。なので、これからも引き続き勉強をしてほしいのですー」

「勉強、ですか?」

「はいー。お兄さんには他の人たちと変わらず、明日から文官の仕事をしてもらいますが、他の人たちとは別に、もう一度試験を受けてもらいますー」

「し、試験……」

「まぁ、試験と言っても大したものではありませんよー。今回の試験と同じ問題ですし、それにお兄さんは、もう少しで普通に合格出来ていたので、そんなに緊張するほどでもないと思いますよー」

 そう言う程昱さまの言葉に、俺は少し考え込んだ。

「再試験の日程はまた後日伝えますので、確認しといてくださいねー」

「おう兄ちゃん。さっさと受かって、しっかり働いてくれよ」

「おぉ、宝慧。文官でもないあなたが何を言っているのですか。……でも、宝慧の言う通りです。お兄さんの発想力には色々と期待していますので、頑張ってくださいねー」

「は、はい!」

 俺がそう答えるのを聞くと、程昱さまは少し微笑み、それから部屋を出て行かれた。

 

 

荀彧視点

 

 あいつが文官の試験に合格した。

 合格出来るほどの知識を持っていたのかと、かなり驚いたけど、それは違っているようだった。

 今回の試験は風が試験責任者を務め、試験の問題も風が作っていた。その風に聞いたところ、今回は知識を問う問題とともに、発想力や知識の応用性を見るための問題も出題したという。

 北郷は、知識の方は合格点に達していなかったが、発想力などをみる問題で、全受験者の中で最高得点を出したということだった。

「……確かに、あいつの発想力には、私たちにないものがあるかもしれないわね」

 本来、この世界の住人ではない北郷が、この世界の常識にとらわれた発想しかできないというのはおかしな話で、常識にとらわれない発想が出来ると言う方が筋が通っている。

「でも、その発想力を出しすぎると、あいつの正体がバレてしまうわね」

 そう思うのと同時に、もうひとつ思うことがあった。

(魏の上層部、たとえば華琳さまや風たちになら、あいつが未来から来たということがバレテも大丈夫なのではないかしら)

 もしかしたら、その方がいいのかも知れない。ひた隠すよりも、いっその事城に住まわせた方が、あいつの安全を守れるのではないか。そうした方が、華琳さまのためになるのではないだろうか。

「まぁ、今すぐにどうこうしようと言う問題ではないから、とりあえずは置いておきましょう」

 そう思った私は、洛陽の町人から寄せられてきた陳情に目を通した。

『警備隊の兵士たちが、皆唇を赤く腫れあがらせていたり、ひどく腹痛に悩まされているようで、心配である』

 私のところまで上がってくるということは、かなりの数の陳情が寄せられてきたということだ。しかし、この陳情はすべて二、三日の間に寄せられたもので、それ以降は寄せられていない。

「警備隊全員が、凪が食べるような料理でも食べたのかしら」

 兵士たちの症状から、ふとそう思ったけど、唇はともかく腹痛を起こすほどの激辛料理なんて、普通の人間が食べる訳もない。

「ま。陳情が止まっているってことは解決したってことよね。でも、今後こういうことがないように、凪たちには注意をしておかないと……」

 そう思ってから、私は他の仕事を始めた。

 

『 荀彧さまへ

 

 久しぶりです。元気にしていますか?

 なんとか試験に合格出来たけど、俺は知識の方の点数が悪かったらしく、再試験をやるとの事だったので、今は文官の仕事とその試験勉強で大忙しです。まぁ、文官の仕事と言っても、書類を写したり、本を運んで来たりって言う仕事ばかりだけどね。でも、その中で少しずつ仕事を覚えていければなって思っています。

 前に手紙で、「俺が城に務めるようになったら、手紙なんか送らなくても、直接会えるかも」なんて書いたけど、実際に仕事をしだしてみると、俺みたいな下っ端の文官が、そうそう魏の三軍師に会うことなんてできないって分かったよ。試験に合格してから、初めての説明会で程昱さまには会うことが出来たけど、それ以来見たことすらないし、郭嘉さまもまだ見たことない。荀彧にもまだ会ってない。

 まぁ、軍師の身の安全を守るためには、俺みたいな下っ端が簡単に会えるようなことじゃ駄目なんだろうけどね。

 なので、これからも手紙を書こうと思います。手紙を書いているうちは、まだまだ荀彧の役に立てていないってことだと思うから、早く荀彧の役に立てるように、頑張っていくつもりです。

 それじゃあ、体には気をつけて。

 

 北郷一刀より 』

 

 北郷からこんな手紙が来たのは、あいつが文官の仕事をし始めてから、しばらくたった時だった。

「再試験は、この間行われたみたいね」

 恐らくこの手紙が書かれたのは、あいつが文官になってすぐの時だったのだろう。再試験はつい先日行われ、北郷は、ギリギリではあったが合格点をとれたということだった。

「まったく、同じ問題だったのに、なんで全問答えられないのかしら」

 そう思いながら、私は手紙を見つめた。

「そうね。早く私のところまで上がってきなさい。そうすれば、奴隷のように使ってあげるわ……」

 ふと、そんな言葉が口からもれた。

「……な、何言ってるのよ!」

 無意識のうちにしゃべっていた言葉に、私は少し驚いていた。

「まぁ、あいつの発想力、というよりも、未来の知識は使えるものだしね。それを使えば、華琳さまにもっとお喜びいただけるのだから、悪い話ではないわよね」

 あいつの持っている知識は、何も歴史だけではない。未来でもものの考え方は、私たちにとっては思いもよらない発想を可能にする。

「そうよ。華琳さまのために、あいつの知識が必要なのよ!」

 その時は、そう思って納得することが出来ていた。

 

 

一刀視点

 

 なんとか、再試験を合格することが出来た。

 ギリギリな点数だったみたいだけど、なんとか合格出来てよかった。

「これで見習い卒業ですね」

 なんて先輩に言われたりもしたけど、俺としては、まだまだ見習いという気分だった。と言うのも、書類を作ったり、本を取りに行ったりしていると、自分の知識の足りなさを痛感するからだった。

 書類は、今まで俺が使っていたような文章じゃなくて、もっと格式ばった文章で書かなければいけないし、本にしても、作者と書名、あるいは書の内容を聞かれても、俺にはさっぱりなことが多くあった。

「もっと勉強しなきゃだな」

 そんなことがあったから、俺は仕事が終わってから、よく書庫に通うようになっていた。再試験の勉強も書庫でしていたので、かれこれ数カ月、書庫に通い続けている。

 依然としてお金があまりない俺は、勉強するために本を買うのが難しいから、書庫の本で勉強しているのだが、その書庫の本も、城の外に住んでいる俺には借りることが出来ないため、書庫に行って勉強する時は毎回、書庫の管理をしている文官の人がいなくなるまで、勉強させてもらっていた。

 最近では、書庫の人とも顔なじみになり、俺が勉強をしている時は、いつもよりも長めに居させてもらっている。

 そんなことをしてもらっているので、書庫の人には、お礼としてお土産を買って行ったりもしているけど、さすがに迷惑をかけ過ぎている気がして、少し気が引けていた。

 

 そんなある日、仕事が終わった俺は、いつものように書庫に顔を出した。

「失礼しますー」

 そう言って俺が入ると、書庫の人が少し苦笑い気味に俺を迎えてくれた。

「北郷くん。今日もですか?」

「は、はい。すみません……。これ、お土産です。最近町ではやってるお菓子なんですけど」

「ふふ。まぁ、お土産をもらっているので、私も文句は言えませんね」

 そう言ってお土産を受け取ると、書庫の人は少し笑った。

「今日は、いつもよりも多いですね」

「はい。他の方にも迷惑をかけているかなって思ったので、今日は少し多めに買って来ました」

 お土産を買ってくるのは、だいたい週に一回ぐらいだった。まぁ、毎回買ってきていては俺の財布が空になってしまうから、週に一回だったのだけど、それだとお土産をもらえない人もいる。なので、今日はいつもより多めに買って来たのだ。

「ありがとう、みんな喜びますよ。北郷くんのそう言った気遣いは、私以外の書庫の皆さんにもとても人気が高いんですよ?」

 今日、俺がお土産を渡したのは書庫の管理長をしている人で、他にもたくさんの人にお世話になっていた。

「いえいえ。これくらいしないと、皆さんに申し訳ないですし。……それじゃあ、時間になったら声掛けてください」

 俺はそう答えてから、いつものように書庫の中にある机に荷物を置きに行った。

 

「さてと、今日はこの前の続きからやらなきゃだから……」

 席に荷物を置いた俺は、この前まで読んでいた本を探しに、本棚へと向かった。

「えっと、この前は、韓非子の心度篇まで終わってたから……あれ?」

 俺は目的の本があるはずの棚に行ったのだが、この前まで読んでいた本はあるが、その続きの本が見つからなかった。

「あれ?おかしいな……借りられちゃってるのかな?」

 そう思いながら、俺は本棚をもう一度見回した。

「やっぱりないなぁ……。どうしよう」

 目的の本が見つからないので、どうしようか悩んでいると、後ろから声をかけられた。

「うん? そこのお前、どうかしたのか?」

 その声がした方を振り向くと、青い髪に、青い服を着た女性が立ってた。

「か、夏侯淵さま!?」

 その女性は、俺がまだ潁川郡にいたころに荀彧に手紙を届けてもらった人であり、この国の中で、最高幹部といっても過言ではない人だった。

「うん? お前は私に会ったことがあるか?」

 俺の顔を見た夏侯淵さまは、そう言って少し首をひねった。

「あ、はい。行軍で潁川郡をお通りになった際に……」

「潁川? ……あぁ、桂花に手紙を渡してくれと言ってきた者か」

 俺のことを思い出したのか、夏侯淵さまはそう言った。桂花というのは、恐らく荀彧の真名だろう。

「はい。その節は、お世話になりました」

 そう言って頭を下げると、夏侯淵さまはふっと表情を緩めた。

「うむ。まぁ、手紙を運んだだけでは、大した世話をしたとも思えんがな。……それで、潁川郡にいたお前が、なぜこんなところにいるのだ?」

 夏侯淵さまがそう聞いてきたので、俺はこれまでの経緯を説明した。

 

 

「――と、言うわけで、警備隊にはいられなくなりましたので、文官になろうと思ったんです。それで、つい先日の試験受けて、今ここにいるんです」

 荀彧と話していた通り、俺は海を渡ったところにある島から来たということ設定で、これまでの経緯を大筋で説明すると、夏侯淵さまはふむとうなずいた。

「ふむ。それでは、文官になったのか。……しかし、海を渡ってこの大陸に来たお前が、なぜわざわざ洛陽にまで来たのだ?民のために何かしたいと思えば、潁川郡でそう言った職に就けばよかっただろう?」

 そう聞いてきた夏侯淵さまに、俺は少し苦笑いをしながら答えた。

「……本当のことを言うと、俺は好きな人を追いかけて洛陽に来たんです。その人に認めてほしくて、少しでもその人の近くに行きたくて、洛陽まで来たんです。……けど」

「けど?」

「けど、今はそれだけじゃないんです。その人に認められたいっていうのは、今も変わらずあるんですけど、それ以外にも、本当に人の役に立ちたいって思えるようになってきたんです。洛陽で警備隊の仕事をして、いろんな人と接して、その人たちに少しでも笑顔になってもらいたいって思えてきたんです」

 俺は、今思っていることを素直に話していた。

「でも、俺はまだ知識とかが全然足りてないので、そのために勉強しなきゃって思って、時々書庫で勉強させてもらってるんです。町に住んでいるので、書庫の本は借りられませんし、まだ本を買って勉強出来るほどお金もないので……」

 そう言いながら、少し恥ずかしくて頭をかいていると、夏侯淵さまは少し考えこんだような表情をした。

「……今は、何を読んでいるのだ?」

「韓非子です。今日は、最後の制分篇を読もうかと思ったんですけど、誰かが借りているみたいで見つからなかったんですけど」

 俺がそう答えると、夏侯淵さまはふっと微笑んだ。

「そうか。ならば、制分篇を読み終わった後は、私に声をかけてくれ、書庫ほどではないが、それなりに本を持っているから、それでよければ貸そう」

 突然のことに、俺は何が何だか分からなくなった。

「え!? か、夏侯淵さまに本を借りるなんて、そんな……」

 俺が動揺していると、夏侯淵さまはすっと本を差し出した。

「お前が探していた制分篇を借りていたのは私だ。書庫ではこのようなことがよく起こるだろう? それに、書庫で長居していると、書庫を管理している者たちにも迷惑をかけるだろう?」

 夏侯淵さまはそう言いながら俺に本を渡すと、ふふっと笑った。

「それにな。お前が書庫で遅くまで勉強をしていることは、知っていたのだ。書庫に来ると、よくお前が勉強していたからな。なぜわざわざ書庫で勉強しているのかわからなかったが、今の説明でその理由が分かった。困っている者がいて、それを手助けしようと思うのは、当然のことではないか?」

 夏侯淵さまの言葉が、俺にはまだ飲みこめなかった。

「で、でも、俺なんかが借りては……」

「それともお前は、私に手助けなどされたくないか?」

「と、とんでもない!」

 俺がそう答えると、夏侯淵さまはニヤリと笑った。

「では、その本を読み終わったら、次からは私の部屋を訪ねてくるように」

 そのニヤリと笑った顔を見て、やられたと思ったけど、夏侯淵さまの提案自体は、俺にとってとてもうれしいものだし、書庫の人たちに迷惑をかけないで済むようになれば、いいような気もしてきた。

「……はい。わかりました。よろしくお願いします」

 少し諦めの雰囲気をにおわせながら、俺がそう答えると、夏侯淵さまはふっと笑った。

「あぁ。それでは、勉強頑張れよ。北郷一刀」

「はい……。ってどうして俺の名前を?」

「うん? ……あぁ、お前のことが気なったのでな、書庫の者たちに名前を聞いて、色々と調べていたのだ」

「え? それじゃあ、俺がこれまで話してきたことって……」

「まぁ、好きな女を追ってきたとかいう話や、勉強している理由は知らなかったが、それ以外はだいたい知っていた」

「そ、そんなぁ……」

「ふふ。まぁ気にするな。好きな女の話はまた今度聞くしな」

 そう言って笑う夏侯淵さまは、巷で言われているような冷徹なイメージではなく、新しく手に入ったおもちゃで遊ぶ少女のように思えた。

(その新しいおもちゃが俺って言うのは、なんか納得いかないけどなぁ)

 そう思いながら、俺は荷物が置いてある席に戻って行った。

 

 

あとがき

 

 どうもkomanariです。

 前回の一発ネタに、思いの他多くの支援をいただけて、とても驚いています。支援やコメントを下さった皆さま、本当にありがとうございます。

 

 さて、やっとの8話目ですが、どうだったでしょうか?

 前書きにも書きましたが、僕としましては、風のしゃべり方とか、秋蘭のキャラ崩壊が心配でなりません。特に秋蘭のキャラは、ストーリー的にこうするしかなかったとは言え、少し崩しすぎたような気がしています。

 その辺が気になった方には、申し訳なく思います。

 

 ここ2話ほど、桂花さんがあんまり活躍していないというか、あんまり登場していませんが、この話のメインヒロインは桂花さんですので、ご安心ください。

 

 そんな感じのお話でしたが、今回も閲覧していただき、ありがとうございました。


 
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