No.1072664

魔法使いと弟子 11

ぽんたろさん

10:http://www.tinami.com/view/1045107 →11:これ→12:
共通ルートあと半分くらいって書いたけど銀の蛇が終わるくらいで折り返しです。
長い夜が始まるよそして次で終わらないねごめんね

いつか暇なときに作りたいエロゲの話。とても進みは遅いけどもうオチはできてる。無垢鳥が共通ルートで無垢鳥後にルートが分岐します。終わったら本にしようと思います。

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2021-09-22 12:57:03 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:474   閲覧ユーザー数:474

弱いことが悪いことなら

 

奪うことでしか強くなれない私たちの行為は正当化されるの?

 

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魔法使いと弟子

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ね子だるま(ぽんたろ)

 

 長谷川は番号を教えるのは嫌だから、と跡継ぎの絶えた神社の廃殿に来いと俺を呼び出した。

本当はたまは家に帰したかったが、本人が同行を希望した為長谷川と円滑に話すためにも一緒に向かうことにした。

「寒くないか?」

「はい」

 たまは不安そうに箒の後ろでしがみついている。

指定された場所はそこまで遠くなかった。

一応来る前に確認したが地図記号は神社になっていた。

境内に降り、箒をしまう。

なるほど豪奢な飾りはないが鳥居もある。狛犬ではなく稲荷が置いてあるのは元々なのか後から置いたのか……

「たま、ついて来ちゃったの」

 長谷川はジャージ姿だった。トレーニングでもしていたのだろう、少し汗をかいている。

「ごめんね。邦ちゃん……私も心配で」

「ううん、いいの。冷えるから二人とも家に入って」

「うち?」

 長谷川は神社の奥の社屋を指差した。

 

「おじゃまします」

「入り口は勝手に閉まるから出たいときは言って」

 靴を揃え上がると中は綺麗にリメイクされていた。本当に暮らしているらしい。

 居間に通され、座布団に座るよう促されそれに倣う。

「長谷川…さんはご両親と暮らしてないのか」

玄関に靴は無かったし人の気配が無い。

「昔死んだわ。今は庵とここに住んでる」

 長谷川はさらりと言う。表情は揺らぎもしない。

 たまも知らなかったのだろう。顔が青い。

「そんな……」

「悲しそうな顔しないで、たま。黙っててごめんなさい」

「ううん……」

「庵について聞きたいのでしょう。少し待って」

 長谷川の視線を追うと奥の部屋からちょこちょことなにかを持った狐が二本足で歩いてきた。

「狐さん……!」

「ありがとう、椿」

 狐が器用に持ってきた盆の上には人数分の茶と丸められた手拭きが置かれている。

後ろから羊羹を載せた皿を持った狐もついてきた。更に部屋の外から何匹か顔だけ出してこちらをうかがっている。

「この子たちは庵の式よ」

 式、式神。魔術生物。神楽坂はいつも侍らせていたが炎を纏っていない時は普通の狐なのか。

 長谷川が狐を撫でるとふんと鼻を鳴らし嬉しそうにゆるく太い尾を振る。こう見ると犬のようだ。かわいい。

「やっぱりだめね。普段は回路を繋いでいるから喋れるのだけど、一週間前から回路は切れているの。だから連絡は無理」

「電話番号は」

「あれは仕事用。なに、あなた庵に依頼したことあるの?」

「一回教えてもらっただけだ」

職業殺人者。要は殺し屋に頼む仕事は無い。

「ふぅん……ただ生きてはいるわ。この子達も元気だし」

「回路は切れているんじゃないのか」

「通信はね。素子供給の回路は例え壁を百枚張られて一帯にチャフをまかれたところで死なない限り切れないわ。知らないの?」

「そうか……」

 魔術生物について、俺は詳しくない。メルキオルの素子供給は杖に残ったもので足りているから管理は雑だ。

 茶を飲む。かなり良い茶葉だ。ふくよかな香りが口に広がる。

「心配は……しないのか?」

「庵を?」

 長谷川はじっとたまを見ていた。たまは寄ってきた狐とじゃれている。

「あの人は負けないから必要ないわ」

「そ、そうか」

 無表情ではっきり言い切られた。これも師弟の信頼なのだろうか。

「庵に連絡を取りたいってことは討伐に知り合いでも行っているの?」

「……妹が」

「妹……?…………あの金髪の子?」

 長谷川はクリスマスに面識があったのを覚えていたようだ。

「りり……リーリーちゃんって言うんです」

ハッとしたようにたまが続けた。戯れていた狐は腹を見せて転がっている。

「……そう……」

「もしなにか分かったら連絡して欲しい」

 俺はポケットからメモを出し番号を書いて破った。

「橙に聞いたら。協会と仕事してるんでしょう」

 長谷川は気持ち嫌そうに紙片を受け取る。

「橙は入院中だ」

「……そう、なの」

 ひょっとして橙と仲がいいのだろうか、少し表情が揺らいだ気がする。

「通信が戻るかはわからないけど預かってあげる。ケーキのお礼はこれでいいかしら」

「あれは気にしなくて良いんだが……助かる」

「用はそれだけ?」

「あ、ああ」

「じゃあ話はおわり、たまはわたしが送っていくわ」

「?俺が帰りに「送っていくわ」

「あ、うん」

 少し怖い。

 飛んできて分かったがここから環の家もそこまで遠くない。

たまが長谷川を幼馴染と言っていたのはおそらく本当なのだろう。

「邦ちゃん、そんな、悪いよ」

「ううん、ランニングも行くところだったから。たまはエスコートがわたしじゃ嫌?」

「私は嬉しいけど邦ちゃんは迷惑じゃない?もう夜だし、寒いよ?」

「全然」

 任せないと後が怖そうだ。

「分かった。た……芦原さんを頼む」

「先生?」

「じゃあ、俺は先に行くから」

 頼むから突っ込まないでくれ。いらぬ波風を立てないためなんだ。

 俺は先に立ち上がり玄関に向かう

「ああ、待って」

引き戸に手をかけようとして長谷川に止められた。

「指、無くなるわよ」

指先に痛みが走った。

手を見ると浅く何箇所も切れ血が流れている。

発現まで気配も痛みも一切無かった。じくじくと痛みが広がってくる。

「出たいときは言ってって、言ったでしょう」

少し意地悪い小悪魔の笑みを浮かべ長谷川は扉に手を着き解錠をする。

二度とは来るまい。俺は止血しながら思った。

 

× × ×

 

 

 しかし……それからいくら待っても、りり子からも長谷川からも連絡は来ることはなかった。

もうすぐ1月が終わる。

先週、今冬の初雪が降った。

このあたりの雪はすぐに溶け春が来る。

「…………」

「……ぃ……先生」

「あ……悪い。たま、どうした?」

「また考え事をされていたんですか?」

「ああ……」

 最近は戦闘も無く、ぼんやりしすぎていた。

「りりちゃん、大丈夫でしょうか……」

「……」

「先生、今日はご予約やお約束はありますか?」

「い、いや」

 今日はなにもない。

「りりちゃんを探しに行きませんか?」

 たまはまっすぐこちらを見ている。

「いや、駄目だ。危険すぎる……それにどこに行ったのか俺は知らないし……」

『朔』

 客がいないのをいいことにフラフラと鳥が出てきた。

『現在地は分からないけど討伐遠征の場所は分かるよ』

「…………たま。メルとなにかしていたのか?」

 たまは少しだけ唇を噛んでからまた意を決したようにこちらを見る。

「ネットワーク経由で、防犯カメラの記録をみつけました。りりちゃん達の行き先は、途中までなら分かります」

「お前のそれは犯罪だぞ……」

「はい……ごめんなさい……」

 悪いことをしている自覚はあるのだろう、たまは顔を伏せている。

「学校は、大丈夫なのか……」

「先生……!」

「本当は、置いていきたい」

「…………嫌です……」

 俺は薬箱から未開封の小箱を出して環の前に置いた。

「どんなに遅くとも23時には送り届ける。酔いどめ飲んどけ」

 

× × ×

 

 りり子達の足跡は野茨駅で途絶えていた。

 危険を避けるため俺達は念の為一つ前の街で箒から降りて電車に乗った。

 数年ぶりに使った磁気カードが停止状態になっており、俺は慌ててしまった。

 駅を出て人のまばらな街を歩く。コンビニ近くの小さな公園で俺達はベンチに座った。

「メルちゃん、新しい解析結果は出ましたか?」

 たまが小声で端末に語りかける。青い小鳥は画面の中でくるくる飛び回っている。メルはなかなかに電子機器に強かったらしい。

『監視カメラに写り込んでいたのはそこのコンビニが最後だね』

「メルキオル……複写を飛ばせ」

 近くに結界や強い術の反応はない。もっと海の方に向かったのだろうか。

 たまを巻き込まずに済んだ安堵と無駄足の後悔がせめぎ合っていた。

「せ、先生」

「なんだ」

「一つ、使えるようになった術があるので見てください」

 たまは小さく深呼吸して俺の前に立った。

 急なことに少し慌てて結界を張る。

 たまに教えたのは小さく区切った範囲内での弱い効果の術だけだ。

 境界の範囲外に影響を及ぼしたり広域を探知するような術は教えていない。

「何をする気だ」

「先生、私を少しだけ信じてください」

 環は鞄につけているお守りと、何か紙とメルの通信器を握り集中している。

「やめろ、術を解け。本拠地は近いはずだ。下手な術は敵を呼び寄せるだけだ」

「5秒……3秒だけで、いいです」

 たまの肩から弱い光の粒が浮かび上がる。素子で組み上げた式が白に近い水色に淡く輝く。

「メル、たまは何をしている」

 術の構成を解析する。

知らない

俺は、こんな術を教えていない。

『朔、大丈夫だよ。僕がサポートする』

 メルの青い光がたまの光を支える。

 おかしい、使い魔のメルキオルが術士の俺よりたまの命令権限を優先できるはずがないのに。

 メルキオルに結界がこじ開けられる。

「メル!」

「届けて…!」

 たまから一斉に光が舞い上がった。

 次の瞬間結界は元の形に戻りメルが霧散する。

「環!」

 同時にたまが倒れた。

 頭を打つ前に抱きとめたがひどく青ざめており、意識がない。

「何をしたんだ……なんで……」

『朔、成功だ。リーリーを見つけたヨ』

 

 

 説明は後でしっかりさせることにして、俺はたまをおぶりメルに続いて歩いた。意識の無いその体はあまりに軽い。

『たまチャンは素子量がかなり低クテ実際かなり術士に向いて無い』

 メルなりに命令違反の為に身を削ったのか少しだけ喋り方がおかしい。

『……どれくらい』

『今気絶シタのは素子切れヲ起こしてル。朔が使うようなあったま悪い攻撃術を一回組んだら多分死んじゃうくラいタマちゃんは素子がない』

 たまの詳細な解析は対抗術の兼ね合いで進んでいなかったし俺は警戒してあまり大掛かりな術を教えてこなかった。

『…………何故たまを手伝った』

『頼まれた……のもあるけど、さっきのは一時的に支配権を取られちゃってた』

『さっきのは……無詠唱で、儀式も組まずそれなりに素子を使ったはずだ。たまは死んでいないが本当に素子量が少ないのか』

『たまチャンのお守り、あれ杖だよ』

 忍に関係するなにかなのだろうか、分からないが5センチもない平たい包みは杖を仕込むにはあまりに小さい。

 橙のように圧縮したのだろうか、たまに近い誰かが。

『だから……どうした』

『たまチャンの為に作られた杖。少なくとも調整された杖だろうね』

『……』

 元よりメルが自分の意思で反抗できるはずもない。

背中の子供が少しだけ重く感じた。

触媒の質は術士の価値を何十倍にも引き上げる。

特注の杖持ちなどかなりの金持ちの名家に限られる。

そしてたまはどちらでもない、筈だ。

赤穂の名前がチラついて離れない。

『たまチャンが作っタのはリーリーの手紙からリーリーノ残滓を追う術』

 まだ固く閉じた掌にそれは握られたままだ。

小さな電子情報の粒を飛ばし該当想念の持ち主に当たるまで跳躍させ、当たった地点から情報を持って帰ってくる。かなり高等な術だ。

『俺は、教えていない』

『そうダね僕が聞かれて組成ヲ手伝ったヨ』

 俺が呆けているうちに、たまはメルに教えを請うていたらしい。

『絶望的に才能は無いけど、確かにソノ子は天才なんだよ。朔』

『俺に話していいのか』

 一時的とはいえ主になっていたなら無意識に禁則くらいかけられるものだ。

『ずっと、一切、朔への隠し事は命じられてナいよ』

「そうか…………」

 今までも、報告はしていないだけで喋るなとは言われていないのだろう。

メルは道を曲がり川辺に出た。このまま河川沿いを内陸側に進むらしい。

「このまま帰ってたまを置いてきたいと、俺は思う」

『今この解析はたまチャンがつけたものだし……ん?ポイントが動き出した。多分、車かな』

「りり子は無事なのか?」

『分かんないからオススメデキナイ。ボクノ複写端末ヤマーカーとは違うから追えるのは術の効果が切れるまでだし範囲から出たら術が切れちゃう。ただ完全に脳が死んでたら意識を拾えてないから多分生キてる』

「分かった」

 俺は川辺に生えていた水草から縄を作り、たまを自分に括り付けた。

たまがわかった上で俺と来たと言うなら、後は俺に託してくれたのだろう。

「体調は万全だ。多少無理してもいいよな」

『僕朔のそウいう頭悪くてお人好しな所が割と好きだよ』

 

 

 なるべく低空、水面ギリギリを滑空する。

 釣りをしていた老人が風圧で帽子を落としそうになり慌てていた。

たまの意識がなくてよかった。いや、下手すると起きたあとすぐ吐くかもしれない。慎重に、急ごう。

『イエーイ』

 メルは久しぶりに全力で翔べて機嫌がいいのかやたらテンションが高い。

4キロほど遡上し川から離れ、メルの指し示すままに飛ぶ

『近いよ朔』

メルの呻くような鳴き声とその建物が視界に入ったのは同時だった。

施設の立地、規模、止まっている車から一目で理解する。

 

「火葬場だ」

 

 

 

『たまチャン、置いていく……?』

「……連れて行く。りり子を助けたらすぐ逃げる」

『それ本気?』

「どっちでも後悔するからいい。これ以上の口応えはやきとりになりたいに変換するが」

『ぴー』

 嫌な考えを振り払い外縁の林の中に降りる。

 簡易触媒のストックは余裕があるがメルを杖に戻す。

『複写を背後につけろ、たまを守れ』

『いつもそれくらい慎重になればいいの……あ、これはヒトリゴドダヨ』

 火葬場には霊柩車も含め車が何台も止まっているが葬儀の看板は出ていない。

『複写を一羽だけ協会に飛ばしとくネェ』

 身を隠す結界を張り建物に近づく。

 入り口に人の気配はない。

『加工場に使っているのか……?』

 りり子はそう簡単に死なない筈だが嫌な想像が膨らむばかりだ。

たまが気絶していてよかったと思いながら建物内に侵入する。

『…………っ』

 無機質な建物内に似つかわしくない強烈な腐臭。

『リーリーは二階だね』

倉庫から綿のマスクを取り出し、嗅覚を遮断し低濃度酸素を合成できる簡易なガスマスクを形成。たまにもつける。俺の意識さえあれば30分は保つはずだ。

 

 階段に差し掛かり俺は目を背けた。

 天井から吊り下げられたそれらから引き出された腸が悪趣味なオーナメントになっている。

 この施設の従業員だったのだろう、素子があまりないからか加工もされず腐敗するまま放置されている。

 人をなんだと思っているのだろうか。

『終わったら降ろしにくるからな』

 階段を登りきる直前、俺は肉体強化を最大にした。

 一番硬そうな梁に足をつき、一気に跳ぶ。

「うあ、な」

 俺は勢いに任せて一人の首を掴みそのまま床に叩きつけた。

二階は斎場になっていた。

 壁は割られ、突っ込まれたワゴンから降ろされたのだろう、何人かは既にバラされて床に並んでいた。

 彼らにとって商品価値のある人間、術士が。

 わざわざ二階に上げたのは恐らく、一階に置き場所が無くなったから。

「りり子っ」

 こちらを怯えた目で見る中に知った顔はいない。

2人分の視線。

 俺は気絶した男を近くにいた女に投げつけ、我に返ったもう一人の男に殴りかかる。

杖であろう短剣を握る手をひねり上げ側頭部を蹴りつける。

「う、うう……」

 投げた男の下から抜け出た女が短剣を構えるが遅い。

 俺は二人目から手を放し踏み込むと女の顎下から掌底を叩き込んだ。骨が折れる嫌な手応え。

 鼻血を吹きながら女も倒れる。

 不意打ちできる近距離戦は殴ったほうが速い。勿論肉体強化の有る無しは重要だが呑気に炎を作るより頭を殴ったほうが手っ取り早く無力化できる。

 敵が5人以上で人質になる生存者がいなければガスを使ったり火をつけたりも有効だが今回は状況がわからない。

 俺は意識の無い3人から短剣と触媒を奪い後ろ手に縛り上げ、口に縄を噛ませ転がした。

 血を吸ったテーブルの上に目を向ける。

 死んでいるのはどれも男だ。大きな大腿骨が並んでいる。

「りり子……」

 パーツの量からバラされたのは6人程か、神楽坂の髪色は見えない。

 震える手でワゴンの中を覗く。

 折り重なった人間は10体と少し、過剰積載だがそんなことはどうでもいい。

 久しぶりに見た髪色に涙が出そうになる。

「りり子……りり……」

 人の山を崩しりり子を引っ張り出す。

 いつもツインテールにしている髪は解けていた。

 黒焦げの服、四肢はついているがかなりの範囲炭化している。

 

 そして、息がない

 

 慌てて床に転がし顔を横に向け、胸部に手を当てる。

「なんでだよ。クソ……」

心臓を圧迫する。

1、2、3、4、5...

 りり子に効果があるかは分からないが必死に救急救命法の手順を思い出す。

「りり子っ……リーリー……頼むから……」

 ついこの間まで無邪気に笑っていた顔には血の気はない

 胸骨を折る感触に目を瞑り、心臓マッサージを継続する。

 

「おに、ちゃ」

 

「りり子……」

 聞き違えるはずもない、妹の声に手を止める。

肌は血の気がないが確かに目が開いている。

「りり子」

りり子を抱きしめる。冷たいままだが確かに弱い拍動を感じた。

「あは、は、ちょっと、痛いな」

 はっと我に返る。心臓マッサージで胸骨を折ったばかりだ。すぐ医者に見せなければならない。

 背中に背負ったままのたまのことも忘れていた。

 慌てて背中から降ろし、りり子と一緒に壁に凭れさせた。

「たまも、一緒に、来てくれた、のね……。ね、今、何日かしら……」

 横の環に軽く凭れ、りり子はその手を握る。

「28だ。もう一月が終わっちまう。そこでちょっとだけ待っててくれ、他に生存者がいないか確かめないと」

「多分、無駄よ」

 りり子は苦しそうに顔をしかめた。

 ワゴンの中は死臭に満ちている。脈を取るまでもなく完品の人体はほとんど無い。

「こいつらは死体拾いの更に下っ端だと思うわ」

 解体は形が良いものからしていたのだろう。

 りり子の手足にも深い火傷が出来ているが単に火の熱で焼けたようには見えない。

「鶴来に、やられたのか」

 高圧電流の感電事故を一度だけ見たことがある。

 記憶にあるその時の傷口に似ていた。

「ドジ、しちゃった……」

 りり子の傍に寄り上着を着せる。

「神楽坂達はどうした」

「多分、まだ……」

 りり子が顔をしかめる。

「無理に喋るな。一緒に帰るぞ」

 たまには悪いがまた背中に乗ってもらおう。

 たまを背負い直し、りり子を抱き上げようとするとりり子は俺の手を押し返した。

「ごめん、まだ帰れない」

 りり子は本来到底立てるはずがないのに、ゆっくり壁に手を付き一人で立ち上がる。

「ここの施設位なら俺がなんとかするから」

 違う、分かっている。りり子は戦場に戻るつもりだ。

「お兄ちゃんをみたら元気でた」

 りり子が自分の腕を噛んだ。血がゆっくりと垂れる。

「駄目だ」

「ここで帰ったら、きっともうお兄ちゃんと暮らせなくなっちゃう」

「俺が何とかするから」

 自信はない、それでも行かせるよりはマシだ

「もう、大丈夫」

 りり子が軽く足を動かすと下から怪我のない皮膚が露わになった。

りり子は、普通の人間ではない。

 傷の治りは異常に早いし通常致死レベルのダメージからも蘇生できる。

恒常的に、自動的に、りり子は身体を修復し続ける。

魔術学校に招致されたのもこの異常体質あってのことだ。

けれど俺はりり子が痛みを感じることも、少なくとも心は普通の少女であることも知っている。

「お兄ちゃんは、たまを守ってあげなきゃ」

 りり子は息をつき壁に血で陣を書いた。血の幾何学サークルから黒い大鎌が引き出される。触媒となった血液は杖と引き換えに構造を維持できなくなり崩れ霧散した。

「行くな……行かないでくれ」

 りり子は決して不死身ではない。

今回は運良く解体前に間に合ったがバラバラにされたり修復不能なダメージを負えば死ぬ。

りり子の、ほんとうのきょうだいがそうなったように。

「お兄ちゃん、ありがとう」

 りり子は伸ばした手から逃げるように、ワゴンと壁の隙間から外に飛び出した。

「りり子!」

 俺には無茶をするなとか言った癖に!

『朔、リーリーを追う?』

「当たり前だ」

『こいつらはいいの?』

 床に転がる術士を見遣る。

意識は無いとはいえ敵の構成員。

殺して行くべきか、足が止まる。

「いい、……生存者が優先だ」

奪ったナイフと触媒を倉庫に放り込んで壁を蹴破り、りり子を追う。

 


 
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