No.1070317 英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~soranoさん 2021-08-25 00:12:09 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1378 閲覧ユーザー数:1181 |
2月17日――――――
灰獅子隊とヴァイスラント新生軍によるオルディス奪還から翌日、リィンは灰獅子隊としての活動を休暇にしてレヴォリューションをオルディスの国際空港に停泊させて仲間や部下達がそれぞれ休暇を過ごしている中、レヴォリューション内を徘徊していた。
~レヴォリューション・廊下~
「……この情報は……」
「ステラ、どうしたんだ?」
レヴォリューション内を徘徊していると廊下で真剣な表情で自身のエニグマを見つめているステラの様子が気になったリィンはステラに声をかけた。
「リィンさん。………えっと、実は海都のカイエン公爵家の城館で用事をしているミュゼさんから先程導力メールが届いたのです。ミュゼさんによると、オルディス奪還前に帝都庁からの要請でとある人物が派遣されてきて、オルディスが奪還されても帝都に帰還せず、そのままオルディスに滞在し続けているとの事ですが……………………」
「………?何か気になる事でもあるのか?」
事情を軽く説明した後目を伏せて黙り込んでいるステラが気になったリィンは真剣な表情で続きを促した。
「いえ、気になると言っても大したことではないのですが………」
「………(よくわからないが……オルディスはステラの故郷でもあるから、何か心配事があるかもしれないな。)――――ステラ、良かったら今からオルディスに降りてみないか?次にオルディスに寄れるのはいつになるかわからないのだから、何か心残りがあるのだったら今の内に解決した方がいいと思う。俺でよければ手伝うよ。」
答えを濁しているステラの様子が気になったリィンはステラにある提案をした。
「リィンさん……ありがとうございます。正直に言いますと色々確認した事があったんです。――――――ミュゼさんではなく、レーグニッツ知事閣下にですが。」
「知事閣下に?……わかった、それじゃあ早速行こうか。」
ステラの答えを聞いたリィンは驚いたがすぐに気を取り直して答えた。その後ミュゼに連絡してからオルディスに降りたリィンとステラが城館を訊ねるとミュゼの手配によってヴァイスラント新生軍の兵士達にレーグニッツ知事がいる場所に案内されるとレーグニッツ知事と共に意外な人物達がいた。
~カイエン公爵城館~
「―――失礼します。」
「リィン……!?それにステラさんも……!?」
リィンがステラと共に部屋に入ってくるとレーグニッツ知事と共にいた人物―――――マキアスは驚きの表情で声を上げ
「マキアス……!?それにクロウまでどうしてここに……」
一方リィンもマキアスとマキアスと共にいた人物―――――クロウに気づくと困惑の表情を浮かべた。
「俺はただの”付き添い”だ。なんでもマキアスが知事閣下から近況報告を受けた時に知事閣下に確かめたい事とやらができたから、カレイジャスからオルディーネでオルディスの近郊まで来てそのまま徒歩でここに来たんだよ。」
「へ……二人だけでオルディーネを使ってオルディスに?何でまたそんなことを。別にオルディス――――――ヴァイスラント新生軍はカレイジャスのオルディスへの寄港を禁止してはいないだろう?」
クロウの説明を聞いて呆けた声を出したリィンは気を取り直してクロウに訊ねた。
「他のみんなはそれぞれ”紅き翼”に来た依頼の実行の為にカレイジャスで各地を回っているから、僕のプライベートな事情の為だけにわざわざオルディスに寄ってもらう必要は無かったから、クロウに頼んでオルディーネでオルディスに連れてきてもらったんだ。」
「俺がわざわざオルディーネでマキアスをここに連れてくる事になったのも、お前達(ら)んとこの参謀連中の暗躍のお陰でトマス教官の”メルカバ”が使えなくなっちまったせいでもあるんだがな。」
リィンの疑問にマキアスが答えた後クロウはジト目でリィンとステラを見つめながら指摘し、クロウの指摘にリィンとステラはそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「ハハ………それはともかく、リィン君。公女殿下より君が私に用事があると聞いているが、一体どんな用事なのかな?」
その様子を苦笑しながら見守っていたレーグニッツ知事はリィンに訊ねた。
「いえ、自分はクロウ同様”付き添い”のようなもので、知事閣下に用事があるのは――――――」
「―――――初めまして、レーグニッツ知事閣下。メンフィル帝国軍”灰獅子隊”所属、ステラ・ディアメル大佐と申します。本日は知事閣下に伺いたい事があった為、こうしてリィンさんと共に訊ねさせて頂きました。」
レーグニッツ知事の疑問にリィンが答えた後ステラに視線を向けると、ステラは軽く会釈をして自己紹介をした。
「な―――――”ディアメル”という事はまさか君は……!」
一方ステラの名を知ったレーグニッツ知事は驚きの表情でステラを見つめ
「はい、私は”知事閣下もよくご存じのアーサー・ディアメル兄様の妹”です。――――――最も、私は2年前に実家である”ディアメル家”とは”絶縁”してメンフィル帝国に”亡命”しましたから、”今のディアメル伯爵家とは無関係の間柄”ですが。」
「”彼”の妹が実家と絶縁してメンフィル帝国に亡命……………………マキアスは驚いていないようだが、既に彼女の事を知っていたのか?」
「ああ…………この戦争が始まってから、一時的に僕達とメンフィル帝国の”利害”が一致する目的があって、その時に僕達に協力してくれたメンフィル帝国の関係者が彼女の事について教えてくれたんだ。」
レーグニッツ知事の言葉に頷いたステラは自分の事を説明し、ステラの説明を聞いたレーグニッツ知事は戸惑いの表情でステラを見つめた後マキアスに訊ね、訊ねられたマキアスは複雑そうな表情で答えた。
「そう……か……―――――とりあえず二人とも座りたまえ。」
マキアスの答えを聞いたレーグニッツ知事は静かな表情で呟いた後リィンとステラに着席するように促し、二人はそれぞれ着席してマキアスとクロウと共にレーグニッツ知事と対面した。
「それでステラ大佐の父さんへの”用事”というのは一体……?」
「訊ねてきたタイミングを考えると多分お前と一緒なんじゃねぇのか?」
マキアスがステラに訊ねるとクロウが自身の推測を指摘し
「!えっと……そう……なのか……?」
「はい。マキアスさんの確認したい事というのも、恐らく”国家総動員法”の”徴兵・徴収委員会”に関する”問題”ですよね?」
クロウの推測に目を見開いたマキアスはステラに確認し、確認されたステラは頷いた後マキアスに確認し返した。
「ああ………」
「……ミュゼから少しだけ教えてもらいましたが、ヴァイスラント新生軍がオルディスを奪還するまでその委員会の関係者が問題を起こしていたんですよね?」
ステラの確認にマキアスが頷いている中リィンはレーグニッツ知事に訊ねた。
「うむ、行政機関である”法務省”……そちらに最近になって新設されたという委員会でね。その名の通り、当該法における徴兵・徴収においての権限を担う者達になる。」
「その”委員”の一人が海都に派遣され、法務を執行していたというわけか。それも――――――貴族”だけ”を狙い撃ちにするかのように。」
レーグニッツ知事の話に続くように答えたマキアスは真剣な表情で呟いた。
「ああ……ヴィンセント君のご実家、フロラルド家からの確かな情報だ。私の目の届かない所で、総動員法で取り決められた範囲を超えた財産徴収を行っていたらしくてね。中には破産寸前までに追い込まれた貴族もいるらしい。」
「それは……いくらなんでもやりすぎですね。貴族に対する私怨のようなものも感じられる気がするんですが……本当なんですか?その委員”本人”も貴族出身というのは。」
「……………………」
レーグニッツ知事の話を聞いたリィンは呆れた表情で首を横に振った後真剣な表情で訊ね、ステラは目を伏せて黙り込んでいた。
「……ああ、間違いない。かつてカイエン家に連なる縁談話もあった、伯爵家の御子息になる。――――――それも、オルディスの統治がヴァイスラント新生軍に移った今でも続けているようだ。」
「今の状況でもなお、”彼”がそんなことを……」
「一体何の為に………」
「おいおい……自分にとっての敵の本拠地で堂々とそんな事をするとか、度胸がいいにも程があるだろう……」
「そうだな……このままほおっておいてもヴァイスラント新生軍がその人物を拘束するだろうが……ここまで来て話を聞いた以上、俺達の手で拘束させてもらいますが……構いませんか、知事閣下。」
レーグニッツ知事の説明を聞いたマキアスとステラが考え込んでいる中呆れた表情で呟いたクロウの言葉に頷いたリィンはレーグニッツ知事に確認し
「ああ……ただ、できるだけ穏便な形で終わらせて欲しい。」
「了解しました。ステラもいいな?」
「はい。」
(しかしさっきの話、どこかで聞いたような……)
レーグニッツ知事の答えと頼みに頷いたリィンはステラに確認し、確認されたステラが頷いた後リィンはある事について考え込んだ。
「へっ、今回は俺達も手を貸すぜ、リィン。マキアスもいいだろう?」
「ああ……”彼”には聞きたいこともあるからな……」
「し、失礼します、レーグニッツ閣下……!」
そしてクロウもリィン達への協力を申し出た後マキアスに確認し、確認されたマキアスが頷いたその時レーグニッツ知事の部下が慌てた様子で部屋に入ってきてレーグニッツ知事に駆け寄った。
「どうした、何かあったのかね?」
「こ、港湾区で例の委員どのが業務を行っておりまして……!貴族家が共同所有している物資輸送船を強制徴収するとか……!」
レーグニッツ知事の問いかけに答えた部下の報告を聞いたその場にいる全員は血相を変えた。
~港湾区~
「それでは手分けして物資の運び出しを開始してくれたまえ。仕分けが終わり次第、各前線基地への配送を手配する。」
「了解です。」
「―――貴方は……」
青年貴族の指示に頷いた作業員たちがその場から去って作業を開始し始めたその時リィンとクロウと共にその場に駆け付けたマキアスが青年貴族に声をかけた。
「なんだい、君達は?ここは現在立ち入り禁止の筈だが。……?そちらの眼鏡の君はどこかで……」
「え……知り合いなのか、マキアス?」
「ああ……薄々予感はしていたよ。久しぶりだ、アーサーさん。……”姉さんの葬儀以来になるか。”」
青年貴族の反応を不思議に思ったリィンがマキアスに訊ねるとマキアスは頷いた後表情を引き締めて青年貴族――――――アーサーに話しかけた。
「それって確か……!」
「マキアスの従姉を手酷く裏切った元”婚約者”か……」
マキアスの言葉を聞いて心当たりを思い出したリィンとクロウは驚きの表情でアーサーを見つめた。
「……ハハ、まさかお父さんだけでなく君とも顔を合わせることになるとはね。久しぶりだ、マキアス君。内戦やトールズでの活躍は聞いている。……大きくなったものだ、本当に。」
「……………………」
(……マキアスのお従姉さんと婚約していたというステラの兄……だがカイエン家の横槍で破談し、結果的には命は助かったとはいえ、お姉さんは自ら命を……そんな話だったか。)
苦笑した後懐かしそうな様子で自分に話しかけるアーサーの様子にマキアスが黙り込んでいる中リィンは複雑そうな表情で状況を見守っていた。
「……帝都庁で勤めていた貴方が、あの一件の後、異動したのは聞いていた。法務省の管轄だと聞いてはいたが……国家総動員法の執行委員になっていたんですね。」
「……ああ、あの法律の成立直後に志願させてもらってね。ちなみに海都へ派遣されたのはまったくの偶然になる。……本来、君のお父上――――――君にも、顔を合わせられる立場じゃないからね。」
「あ…………」
「ハ……その割には随分と大胆な事をしているじゃねぇか。」
「……僕は貴方の意志の確認をしに来ただけです。一体貴方がどういうつもりで、その船を徴収するつもりなのか。父さんによればその船の物資は、戦争被害を受けた領民や難民への支援のために貴族が合同出資で?き集めた”最後の砦”……いくら総動員法といえど、国民の生活保証に影響を及ぼす徴収は認められないはずでは?――――――ましてや今のオルディスの統治権は帝国政府ではなく、ヴァイスラント新生軍なのですから、もはや今の貴方がオルディスでその権限を振るう”資格”もないのでは?」
アーサーの言葉に呆けた声を出したリィンは気まずそうな表情を浮かべ、クロウは鼻を鳴らしてアーサーヲ睨み、マキアスは真剣な表情で問いかけた。
「……そうだな。だがそれは総動員法の解釈次第だし、そもそもヴァイスラント新生軍は”帝国政府にとっては反乱軍”だ。委員会の本部にはすでに確認もとれていてね。平均以上の資産を有する貴族は徴発においても最大限の負担を負うべき――――――そう進言させてもらったわけだ。」
「……どうしてそこまで……」
「……やはり、聞いた通り貴族に対して露骨に強引な徴収を行っているみたいですね。だが、法が様々な解釈を認めているのは多種多様な事態に柔軟に対応するため――――――今回の件はそれを”悪用”したに過ぎない。法務省に属している貴方ならそのくらいはわかっているはずでしょう?」
アーサーの意志にリィンが戸惑っている中疲れた表情で呟いたマキアスは表情を引き締めて指摘した。
「……マキアス君は去年、あの内戦を戦ったんだったね。だからわかるだろう?――――――”貴族”がいかに愚かなのか。主犯のカイエン公爵家や追従した貴族は莫大な賠償金を支払うどころか、内戦後すぐに始まったメンフィル・クロスベル連合との戦争にあろうことか祖国を裏切って連合側についた――――――そして、伝統に縛られ、帝国の進化を妨げ、罪なき国民を犠牲にしてきた歴史を思えば……ああそうだ、私達は貴族は償いをしなければ……せめて戦争を乗り越えるための礎に……帝国の未来のためにも……」
マキアスの指摘に対して答えたアーサーの周囲に黒い瘴気が纏い始めた!
「っ……!(これは……)」
「チッ……”そういう事だったのかよ”……!」
アーサーの様子を見たリィンとクロウはそれぞれ血相を変え
「……やっぱり、か。」
マキアスは納得した様子で呟いた。
「アーサーさん。そんなことをしても――――――トリシャ姉さんは喜びませんよ。」
「…………………………え。」
マキアスの指摘に少しの間黙り込んだアーサーは呆けた声を出した。
「……ここに来るまで、ずっと考えていたんです。何故貴方が総動員法の委員会に入ったのか。自らも伯爵家の出でありながら、何故貴族を追い詰めるような真似をするのか。……ずっと後悔していたんじゃないですか?姉さんを死なせてしまったことを。カイエン家の、貴族の横槍さえなければ――――――いや、自分があんな言葉を言わなければと。」
わ、私は彼女に言ったんだ!”愛妾”として大切にするから、どうか我慢してくれと!なのにどうして命を絶つ!?
「っ……ハ、ハハ、何を言っているんだい?彼女のことは……今更、悔いたところで……」
当時の事を指摘されたアーサーは答えを誤魔化そうとしたが
「ええ……それがわかっていてもなお、貴方は後悔し続けたんだ。……僭越ながら父さんから姉さんの件の後の貴方の事について色々と教えてもらいました。姉さんの一件のあと、貴方は帝都庁を去って、それでも別の部署で仕事に従事し続けた。結局カイエン家との縁談も断って、実家から縁切り同然の扱いを受けながら……それでも貴方なりに帝国や貴族の在り方をなんとか変えようと足掻いていたそうですね。……全部、姉さんへの罪滅ぼしのためだったんでしょう?」
「あ……」
「マキアス……」
マキアスのアーサーへの指摘を聞いたリィンは呆けた声を出し、クロウは静かな表情で見守っていた。
「っ………私には、それを言う資格など……」
「……僕も貴方と同じです。貴族を憎み、帝国のありかたを憎み、――――――何よりも自分の弱さを憎んだ。……一方で貴方は、あの内戦を機に”貴族”に完全に絶望したんでしょう。だから国家総動員法の執行委員として貴族の力を削ぎ、戦争の糧とする道を選んだ――――――だけど――――――それじゃダメなんだ!どんなに状況が厳しくても、汚い手を使う人間が相手でも、変えられない現状に絶望しても……!法と秩序に携わるのならばあくまで”規範(ルール)”の上で戦わなくては!」
「っ……そんなことはわかっているさ!だが綺麗事だけじゃ何も変わらない……変えられない、そうだろう!?」
マキアスの指摘に対して辛そうな表情で唇を噛み締めたアーサーは反論した。
「ああ、”一人では”な!」
アーサーの反論に頷いたマキアスはアーサーに近づいてアーサーの胸倉を掴んだ。
「少なくともアンタの目の前にいる男は、現状を良しとなんかしていない!アンタと同じく、姉さんの死をきっかけに歪んで、偏って……それでもリィンやユーシスたちⅦ組のみんなと過ごした先で、新しい視点を見つけられた!アンタだって見つけられるはずだ――――――そのためならいくらでも手を貸してやる!だってアンタは――――――紛れもなくあの姉さんが選んだ男なんだから……!」
「!!…………………マキアス、君…………」
マキアスの指摘に当時の出来事をふと思い返したアーサーは辛そうな表情で呟き
「マキアス……」
「へへ……」
マキアスの様子をリィンとクロウは見守っていた。
「ハハ……本当に……本当に……大きくなったんだな……なのに私はいつまでも立ち止まって……」
「―――――全くもってその通りですね。」
マキアスがアーサーを離すとアーサーがその場で跪いて寂しげな様子で呟いたその時、ステラの声が聞こえた後ステラがベルフェゴールと共に作業員が入って行った船から出てきてアーサーに近づいた。
「お疲れ、ステラ。作業員たちはどうしたんだ?」
「私の暗示で眠ってもらった後、手足を拘束しただけだから直接危害を加えていないわよ。」
「そうか……転位魔術での先回りといい、ありがとう、ベルフェゴール。」
「うふふ、感謝するのだったら、今夜”ベッドで示してちょうだい♪”」
「どさくさに紛れて、リア充な所を見せつけやがって、このシスコンリア充剣士は……」
ステラの代わりに答えたベルフェゴールの話を聞いたリィンは感謝の言葉を口にし、リィンの感謝に対して妖艶な笑みを浮かべてウインクして答えたベルフェゴールの答えを聞いたクロウはジト目でリィンを睨み、クロウに睨まれたリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「まさか君は………ステ……ラ………?どうして家出した君が………ここに……」
一方ステラを目にしたアーサーは信じられない表情でステラを見つめた。
「―――――兄様もご存じの通り、私は伯爵家が決めた私の”婚約”に納得できず、家を出た後メンフィル帝国に”亡命”して、自分だけの力で生きていけるようにメンフィル帝国軍の訓練兵に志願して、訓練兵を卒業後正式にメンフィル帝国軍に入隊して……そして今のエレボニアとメンフィルの関係を考えれば、今私がこの場にいる理由はそれ以上説明しなくても聡明な兄様でしたら、すぐに察する事ができるでしょう?」
「あのステラが”亡命”に加えてメンフィル帝国軍に入隊してエレボニア帝国との戦争に参加しているなんて……ハハ……マキアス君といい、ステラといい、本当に大きく、そして強く成長したものだな……」
ステラの説明を聞いたアーサーは呆けた表情でステラを見つめながら呟いた後寂しげな表情を浮かべて呟き
「先程マキアスさんが仰ったトリシャ様の件の後の兄様の事については、私も初耳でした………兄様、トリシャ様の件を悔いて、伯爵家から縁を切られて同然の状態になるくらいトリシャ様を愛しておられたのでしたら、どうしてトリシャ様と”駆け落ち”をしなかったのですか?”愛妾”にすると言われて自らの命を絶つ程兄様の妻になる事を信じ、愛しておられたのですから、もし兄様がトリシャ様に”駆け落ち”を申し出たら、間違いなくトリシャ様も応じていましたよ。あの頃の兄様もご自身の財産はそれなりにありましたから、トリシャ様と共に他国に亡命して新しい生活を築くことくらいはできたはずでしょうし、私や伯爵家はともかく、知事閣下とマキアスさんは大切な家族であるトリシャ様が駆け落ちした事に複雑な思いを抱えるでしょうが、それでもそれがトリシャ様と兄様自身の意思だったのならばトリシャ様と兄様が幸せになる事を願ってくれていたと思いますよ。」
「ステラ………」
「………………」
「ハハ……あの頃の私には……そんな勇気は……持てなかったんだろうな………ステラの言う通り……本当に……あの頃の私に全てを捨ててでも彼女の手を取る想いがあったのならば、彼女もあんなことには………マキアス君や、マキアス君のお父さんに……いったいどう顔向けすればいいのか……」
ステラの指摘をリィンは静かな表情で見守り、マキアスは目を伏せて黙り込み、アーサーが辛そうな表情で答えたその時
「―――――真っ直ぐ、前を向いてくれればいい。」
レーグニッツ知事がその場に現れてアーサーに声をかけた。
「………レーグニッツ閣下……」
「この先、何があったとしても私は帝都知事として足掻き続けるだろう。だが私一人では力不足だ――――――マキアスやリィン君たちのような若者や外部の力と視点も存分に借りなければ。その時はアーサー君も力を貸して欲しい――――――かつて私の元で働いてくれた時のように。あの子も、トリシャもきっと……」
「……ああ、姉さんもそれを望んでいるはずさ。どうか前を向いてくれ、アーサーさん。ただ貴族を追い詰めるんじゃなく――――――本当の意味でこの国を変える為にも。」
「マキアス、君……」
レーグニッツ知事とマキアスの言葉によってアーサーが正気を取り戻すとアーサーを纏っていた黒い瘴気が消え去った。
「………私は……私はまた過ちを………すまない……トリシャ……すまなかった、本当に……!」
正気に戻ったアーサーは辛そうな表情を浮かべてその場である人物に対して謝罪し続けた。
その後アーサーと作業員はリィンから連絡を受けたミュゼが手配した新生軍の兵士たちによって連行されることになったが………リィンやミュゼのレーグニッツ知事達に対するせめてもの”配慮”として、アーサー達による強制徴収による罪はあくまでオルディスの統治が新生軍に移ってからの為”未遂”という事になり……その為拘留期間は数日程度になり、解放後のアーサーの身柄は戦争が終結するまでレーグニッツ知事が預かる事になった。
「……よかったな、マキアス。」
「ああ……おかげで僕も、区切りがつけられた気がする。」
アーサー達が連行される様子を見つめながら呟いたリィンの言葉にマキアスは頷き
「アンタの方はマキアスと違って思惑が外されたって所か?」
「………そうですね。ですが、かつての私が尊敬していたアーサー兄様――――――平民を想い、血統主義の帝国を変えようとしたアーサー兄様に戻ってよかったです。――――――そういえばマキアスさん。”トリシャ様が実は生きている事”はアーサー兄様もそうですが、知事閣下にも教えなくてよかったのですか?」
クロウに訊ねられたステラは静かな表情で答えた後マキアスに訊ねた。
「戦争が終わって二人の状況が落ち着いたら話すつもりさ。まあ、今の状況でも話してもいいんだが……父さんはともかく、アーサーさんには”追い討ち”をしてしまう事にもなりかねないから、さすがに今は言えないよ。」
「クク、確かに戦争相手の国の皇族に”寝取られて”子供もいるなんて知ったら、ショックのあまりまた”呪い”に魅入られて元の木阿弥になりかねぇかもしれねぇな。」
「ハハ………」
ステラの問いかけに答えた後困った表情を浮かべたマキアスの推測を聞いたクロウは口元に笑みを浮かべて指摘し、リィンは苦笑していた。
「あ、あのなあ……”寝取られる”だなんて人聞きの悪い事を言わないでくれ。――――――それはともかく、ありがとう、リィン。ミュゼ――――――ミルディーヌ公女にアーサーさんの罪を軽くするように言い含めておいてくれて。」
「ハハ、このくらいは別にいいさ。実際、彼が犯そうとした罪はオルディスの統治がヴァイスラント新生軍に移ってからの為”未遂”だし、多分ミュゼの方も戦後の事も考えて彼の罪を軽くしたんだと思うからな。」
ジト目でクロウに反論したマキアスは気を取り直してリィンに感謝の言葉を口にし、マキアスに感謝されたリィンは苦笑しながら答えた。
「そうか………」
「ったく、あのヴィータよりも一物がある女をよく信じられるものだぜ……」
「ハハ、そのセリフはクロチルダさんと協力関係だったクロウにもそっくりそのまま返すよ。」
リィンの答えを聞いたマキアスが静かな笑みを浮かべている中クロウは呆れた表情で呟き、クロウの言葉に対してリィンは苦笑しながら指摘した。その後二人と別れたリィンとステラはステラの提案によってオルディスの近くにある海岸に向かった。
~アウロス海岸道~
「いい風………ここは何年経っても変わりませんね……」
「……もしかして、ここはステラのお気に入りの場所か何かだったのか?」
海風を受けて長い黒髪をなびかせて海を見つめているステラにリィンは静かな表情で訊ねた。
「ええ………私がまだ幼かった頃、アーサー兄様に教えてもらった場所です。」
「アーサーさんに?」
「はい。”二人だけの秘密だよ”と仰っていましたから、恐らく他の家族は知らないと思います。――――――まあ、トリシャ様と秘密の逢瀬をしていましたから、正確に言えば”3人だけの秘密”になりますが。」
「トリシャさんも……あれ?もしかしてステラ、マキアスお従姉(ねえ)さん―――――トリシャさんとも面識があったのか?」
ステラの話を聞いてある事に気づいたリィンは目を丸くして訊ねた。
「ええ、1度だけですが偶然お二人がここでデートしている所を鉢合わせて、その時に兄様に紹介してもらいました。」
「そうだったのか………」
ステラの答えを聞いたリィンは静かな表情でステラを見つめた。
「―――――今日は付き合って頂き、ありがとうございます、リィンさん。本当でしたらせめて私の手で引導を渡すつもりでしたのに、リィンさんのお陰でかつて尊敬していた唯一の家族が戻ってきてくれました。」
「ハハ、アーサーさんの件についてはほとんどマキアスと知事閣下の説得によるものだから、俺はほとんど何もしていないさ。」
ステラに感謝されたリィンは苦笑しながら答えた。
「フフ、その謙遜さも相変わらずですね。……………………………」
「どうかしたのか、ステラ?」
リィンの謙遜さに苦笑した後目を伏せて黙り込んだステラが気になったリィンは不思議そうな表情で首を傾げて声をかけた。
「リィンさん、私が実家――――――ディアメル伯爵家と絶縁し、メンフィル帝国に亡命した理由は以前にも何度かお話しましたよね?」
「へ?あ、ああ。政略結婚もそうだが政略結婚を押し付けようとする家族が嫌になってメンフィル帝国に亡命したんだったな。」
「はい。……今の状況になって改めて思いました……私の選択は、正しかったのだと。伯爵家が決めた私の婚約相手――――――ナーシェン卿に嫁げば、私はこの世の誰よりも不幸だったはず。」
「……確かに内戦に加担して、内戦後は国外に逃亡した挙句、ミュゼ達によって貴族連合軍の状況が変わった途端手のひらを返したナーシェン卿の行動を考えると、そんな彼に嫁いだ女性は決して幸せになることはなかっただろうな。」
ステラの推測に頷いたリィンは真剣な表情で呟いた。
「ええ。そして…………………――――――”メンフィル帝国に亡命し、メンフィル帝国軍の訓練兵に志願した事で私自身が心を寄せるパートナーと出会えた事”も本当に私の選択は正しかったのだと、改めて思いましたよ――――――リィンさん。」
「…………………………へ。」
リィンの言葉に頷いたステラは頬を赤らめて微笑みながらリィンを見つめて告白し、ステラの告白に石化したかのように固まったリィンは少しの間固まった後呆けた声を出した。
それよりもエーデルガルトさんの推測を聞いて気づきましたけど……もしかして、黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)の女生徒の中にもリィン少将に対して”クラスメイト以上の感情”を抱いている方がいらっしゃるのでは?
あー………
その件については”件の人物がいたことを仮定して、その人物のクラスメイトとしての気遣いでノーコメント”とさせてもらうわ。
「そ、その………もしかして、ステラが心を寄せている人物というのは………俺の事か?」
ふとレジーニアとルシエルが仲間になった翌日の”休養日”でのある出来事をふと思い返したリィンは冷や汗をかいて気まずそうな表情を浮かべながらステラに問いかけ
(もしかしなくても、リィン様の事ですわよ……)
(フフ、既にエリゼ達や私達がいる影響で女性の気持ちに対する鈍感さは少しはマシになっているようね。)
(うふふ、これでまた一人増えたわね、ご主人様のハーレムメンバーが♪)
(ベルフェゴール様は何故喜んでおられるのでしょう……?リィン様に心を寄せる女性が増えればその分、リィン様がわたし達を愛してくれる機会を新たな女性達にも割く事で、睡魔族であるベルフェゴール様にとっては大切な”性魔術”の機会も減ると思いますのに……)
(睡魔の魔神の考え等理解しない方が貴女の身の為ですよ……)
その様子を見守っていたメサイアは呆れ、アイドスは苦笑し、からかいの表情を浮かべて呟いたベルフェゴールの様子を不思議そうな表情で見つめて呟いたアンリエットの疑問にユリーシャは疲れた表情で指摘した。
「フフ、ようやく気付いてくれましたか。さすがにあれ程の数の女性達から想いをぶつけられて今の状況になれば、恋愛方面に関しては致命的なまでに鈍感なリィンさんも少しはマシになったようですね。」
「う”っ……………………えっと………一体いつから俺の事を……?」
苦笑しながら答えたステラの指摘を聞いたリィンは唸り声を上げた後気まずそうな表情を浮かべて訊ねた。
「訓練兵時代に”パートナー”として組んでから大体2,3ヶ月くらいしてからですかね?………一番身近にいたエリゼさんの気持ちにすら気づけませんでしたから、私の初恋を実らせるのは相当厳しいと思っていましたけど………今回の戦争で再会した時は正直複雑でしたよ?幼い頃より一番身近にいたエリゼさんとエリスさんは理解できますが、それ以外の女性達――――――私よりも後で出会った女性達と既に付き合っている所か肉体関係まで結んでいたのですから。」
「う”っ。こ、これにはブレアード迷宮よりも深い理由が………って、それよりも以前ミュゼがからかい半分で黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)の中に俺に想いを寄せてくれている女性がいるかどうかを訊ねた時、フォルデ先輩達は誤魔化していたけど、もしかしてみんなステラの気持ちにも気づいていたのか……!?」
自身の疑問に対して答えた後呆れた表情で溜息を吐いたステラの指摘に再び唸り声を上げたリィンは疲れた表情で言い訳をしようとしたがすぐにある事を思い出してステラに訊ねた。
「ええ。訓練兵時代フォルデ先輩から、『一番身近にいて大切にしている妹の気持ちにも気づかない超鈍感野郎に恋するなんて、ステラは随分と難儀な恋をしちまったもんだな』と同情されましたし、エーデルガルトさん達女性陣からは遠回しな言い方で同情や応援の言葉を頂きました。フォルデ先輩を除いたディミトリさん達男性陣からは何も言われてませんが……ドゥドゥーさん達の口ぶりから察するに男性陣も気づいていたのでしょうね。――――――それとセシリア教官も当然気づいておられたと思いますよ。”神軍師”と称えられたパント卿の一番弟子にしてメンフィル帝国軍の中でも有数な参謀でもあられるのですから、人の気持ちにも聡いでしょうし。」
「……………………えっと……………………すまない!今まで君の気持ちに気づかなくて……!」
ステラの説明を聞いて気まずそうな表情で言葉を濁したリィンだったがすぐに潔く謝罪の言葉を口にした。
「別に謝罪までしなくていいです。――――――今のリィンさんの状況を考えれば、私は”失恋”した訳ではなく、それどころかチャンスはまだまだ残っている事は明白ですからね。」
「え。」
そしてステラの答えを聞いたリィンが呆けた声を出したその時
「ん……………………」
「!!!!!?????」
ステラは不意打ちでリィンと口付けをし、ステラの不意打ちの口付けにリィンは混乱した。
「フフ、今は戦争中でお互い立場もありますから、とりあえずこれだけにしておきます。――――――ですがお互い無事に戦争を乗り越えられたら、私もミュゼさんのように本格的なアプローチをするつもりですから、覚悟しておいてくださいね?――――――それでは失礼します。」
リィンから離れたステラは頬を赤らめてリィンに微笑んだ後その場から去って行き
「ステラ……………………」
リィンは去って行くステラの背中を呆けた表情で見つめ続けていた――――――
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第136話