邑に鳴り響く警鐘。真っ先に外へと飛び出したのは、さすが武人というべきか趙雲であった。
趙雲に続いて、燐も外に向かうと邑の人は怯えた表情を見せながら、何をすべきか戸惑っているようだった。
「この音は何事か」
「賊じゃ。賊がきた。この邑はもうおしまいじゃ」
趙雲に問われた老人はそう答えると頭抱えてしまう。足はガタガタと震えていた。
他の者も大なり小なり同じような様子であり、とても立ち向かえるような気概を感じない。
燐は趙雲と顔を見合わせると物見櫓へ向かった。櫓から辺りを見渡すと北の方に土埃が舞っているのがわかる。
数は50くらいだろうか、行軍速度的に騎兵はいないようだ。しかし遠めながらも肉眼でわかる程度に近づかれてしまっている。賊にしては数は多いといえよう。
もっとも、これが全てとは限らないが。
接敵は時間の問題であった。
「さて、石灰殿。この状況、どうみられるか?」
趙雲は試すような口調だが、真剣そのもの。冗談などは許されない。もっとも、こんな状況で軽口を叩ける余裕など燐にはないが。
後をおってやって来た程立と戯志才も、現状を把握しつつ燐に意識を傾けているようだった。
「ここは3つ手段があると思う」
少し考えてから燐はそう答えた。
その言葉に目を細めるのは戯志才だ。横目でそれを見ると、燐はさらに続ける。
「1つはこちらがうってでて精鋭に急襲させる方法。この邑は塀があるとはいえ四方から攻められやすそうだからね、先手必勝というやつだ」
「しかし、この邑の民は戦慣れしていないばかりか老人か女子供ばかりですから無謀では?」
やはり、最初に異を唱えたのは戯志才であった。
「うん、そうだね。これが出来れば苦労はないんだけど、ここの人だと難しいだろうね」
「他人事のようですがご自分の意見でしょう?」
燐の軽い返答が気に入らなかったのか、戯志才が噛みついてくる。
「だから2つ目の手段だ。門をしっかりと固め、物見櫓から時間稼ぎを行うとともに、子龍さんの武で撃退する。もちろん、俺も出るつもりだよ? 言い出しっぺだし」
「2人でですか? お兄さん、寡兵で打ち破るのは将の誉れとは風も理解出来ますけど、おすすめ出来ませんねえ」
2つ目の提案に趙雲は満足そうであったが、程立は待ったをかける。ただ反対というよりは確認といった様子だ。
「邑の人にも協力は仰ぐよ?でも、正直逃げる味方の方が敵よりも厄介だとは思う。だから櫓から協力してもらおうと思うんだけど」
どうかなと燐は程立と戯志才を見るが、何も言わない。というか、程立は立ったまま寝ているようだ。
「寝ないでくれ、仲徳さん。そんなに的はずれだったか?」
「おおぉ。味方が邪魔になるなんてお兄さんが言うとは思わなかったので、驚いて眠気が。風はそこまでわかっているならいいと思いますよ。お兄さんはともかく星ちゃんの武は疑いようはないですし。禀ちゃんも問題無さそうですね」
程立も賛同に加え、禀ちゃんと呼ばれた戯志才もそうですねと首肯する。
趙雲は単騎でもあれくらいならなんともないと豪語しており、おそらくその通りなのだがあれらが黄巾党の一部だとすれば別に本隊が来るかもと燐は考えていた。
賊はこれだけじゃないかもしれないから大事をとって備えをした方がいいと燐は説き伏せた。
これで方法は決まったようなものだが、趙雲にそういえば最後の手段はなんだったのか尋ねられる。
「これは正直使いたくないんだけど、民には逃げるか隠れるかしてもらってから、奴らを一度邑に引き込むんだ」
「どういうことですかな?そのような悪手、民は納得しますまい」
これには趙雲も黙ってはおれず、口を出した。
文官2人は引いた目で見つつも何も言わない。
策としてはないわけではないからである。
燐は趙雲に向かってもちろんやるかは別と前置きをする。
「これは敗走に見せかけて自陣に誘きだしたところで門を閉め、急襲をかけるって方法なんだ。この邑を犠牲にするなら火計をかけるのも効果的だけど、守戦では勝負に勝っても、実質負けるような策だ。どうしても潰すべき対象がいなきゃやるべきじゃない。言っといてなんだけど忘れてほしい」
これは一応、関門捉賊の計に当たる。他にも空城の計などもあるにはあるが、やはりここに至っては使えるものではない。
策士策に溺れるでは意味がないのだ。とはいえ、隣にあの十面埋没の計の程立がいる。戯志才も誰かはわからないが同等の軍師であろうというのが燐の見立てであった。
優秀な軍師が2人いるのであれば、このような愚策はまず使われまいと確信があった。
しかして、4人は燐の1番目と2番目の手段の複合策でいこうと決めた。平野で趙雲を前に出し、漏れた敵を燐が押さえる。
一方、物見櫓から熱湯をかけて扉へとりつかれないようにしようということであった。
相手が烏合の衆であり、こちらに趙雲という勇将がいるから成り立つ布陣であはあるのだが。
趙雲と燐は門の前に、程立と戯志才は邑長の説得へと向かうこととなった。
ノッポから奪った槍を握り締めながら、燐はこれから始まるであろう殺しあいについて憂鬱な気分に襲われていた。
あの3人は油断していたから、殺さずにすんだ。次も同じことが出来るだろうかという恐怖があった。
燐の恐れを趙雲は隣で感じつつ、己の武で守らねばなと決意新たに、賊を待つのであった。
お待ちしております。第5話です。
はい、まだ接敵してません。なんか、あのままだと趙雲さん普通に無双して終わっちゃいそうでしたから、燐は知識あるんやでってことで。
あと、さらっと戯志才の真名出てきてます。まあ、みんな知ってるよな。魏ルートでとっくに明かされてるし。
じゃあ、魏ルート? それはどうかなということで。
関係ないけど巣作りカリンちゃんやる時間と金がほしい。
それでは、次回こそ戦闘シーンです。お楽しみに
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命の危機の次に、邑に警鐘が鳴り響く。
その時、燐は