これはいったいぜんたいどういうことだ! 石灰 燐(いしばい りん)は混乱する頭をなんとか働かせながら、状況を把握しようと試みた。
燐の前には見渡すばかりの荒野に道らしきものはなく、とてもではないが、ビルやアスファルトのような文化的な雰囲気は感じられない。遠い向こうに見える山々も燐が知るものではなかった。
わかるのは確実に日本ではないということだろうか。
燐は必死で思い出そうと頭をひねらせる。
少し落ち着いてきたのか確か自分は納屋の掃除をしていたはずだというところまで思い出すことができた。あとは芋づる式に記憶が甦ってくる。気を失っていたので正確ではないものの、燐が認識している時間としてはまだ半時間ほど前に遡る。
1人で作業していたら妙な音というのか声というのか、ともかく怪しい何かが奥から聞こえてきたのである。
誰もいないとはいえ、古い納屋である。鼠や鼬のような野生動物がいたとしてもおかしくはない。
物が倒れた音ならば、そう思い込むことも出来たであろう。けれど、何かすすり泣くような音に燐は感じられたのである。
「幽霊……とか言わないよな?」
怪しいと自身も思いつつ、興味本位に負けて奥を覗いてみると、わずかだが光が漏れている。
納屋には自分が持っている懐中電灯以外は光源なんてないはずだが、どこかにすき間でもできたのだろうか。古いものなのであり得ない話ではない。
修理するにも場所がわからねばと、さらに奥へと足を踏み入れる。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花って感じだといいんだが」
使い道のよく分からない骨董品や文献などを避けつつ決して足場のよいとはいえない道を進む。時おり鼻につく古いもの独特のカビ臭さに参りつつ、燐はついに光源の正体を掴んだ。
「これは、鏡……か?」
思わず口に出してしまう。
それはすき間でも、幽霊でもなく1枚の古い姿見であった。
今でこそ懐中電灯を当てているが、光を反射したからというわけではなさそうである。
注意深く見てみるが、やはりこれ自体が光を放っている。いや、光っているというよりも別の景色と映しているというべきか。
古いものは妖怪になるとはよく聞く話ではある。燐は気味悪さを感じつつも、この姿見から目を離すことができなかった。
これで姿見に女でも写った日には怪談話だなと思いつつ、一歩一歩近づいていく。
手が触れるかといったところで、今度ははっきりと聞こえてきた。
「どうか救ってほしい」
恨みの積もるおぞましい声などではなく、純粋に助けてほしいと懇願する声だ。年齢はわからないが声音的に女性のものとわかる。
「天よ、どうか。どうか……」
再び声が聞こえた。そうして姿見は太陽を写すかのように眩い光を放って燐を飲み込んでしまったのだ。
あとは冒頭の通り。目を覚ますと見知らぬ土地が広がっていたというわけである。
漫画でもあるまいしとは、燐も思う。そういう話に憧れがないと言えば嘘にはなるが、やはり夢は夢でおいとくに限るということか。
助けを乞う女性の声が耳に張り付いたように離れなかった。
それからどれくらいだろうか、燐はしばらく呆ける様に立ち尽くし、今後のことを考えていた。
その姿を遠巻きに見ているものがいるとも気づかずに……。
第1話お送りいたしました。
新参ではございますがどうぞよろしくお願いいたします。
更新日はお約束出来ませんが、お待たせさせない予定です。
それでは、石灰 燐ともども、すみからすみまでずずーいとよろしくお願い申し上げます。
Tweet |
|
|
2
|
0
|
追加するフォルダを選択
何を思い立ったか、今さら恋姫の二次を書こうと思った新人でございます。
ヤオイなんて呼ばれないよう頑張ります。
この物語はオリジナル主人公です。一刀さんは出る予定です。活躍はしりませんが。
続きを表示