No.106638

連載小説81〜85

水希さん

第81回から第85回

2009-11-12 15:54:05 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:435   閲覧ユーザー数:432

荷物持ち、追加制裁と、すっかり加藤君をこき使うモード全開の私達。

楽しくなりそうだし、いいんだいいんだ。

 

 

「んで、お母さんうっかり胡椒を使いすぎて、知らずに食べたお父さん、

一口目で目を見開いちゃってね。ビールがぶ飲み」

「あはは、えりかパパも災難だったねー。でも、うっかり使いすぎるって、

どんなうっかりよ。それも面白い」

 歩きながらの会話は他愛のない話題ばっかりだ。幸い、我が家はネタが多い。

「それが、電話で近所のおばさんと韓流スターについて語りながらだったんだって」

「え…何それ。それで分量を間違えたなんて、ホントえりかパパ気の毒だわ」

 なんか、お父さんばっかり気の毒がられてるけど…わたしも大変だったんだぞ。

「もちろん、えりかは平気だったよね」

「平気なわけあるかー! 胡椒は辛いってのと違うけど、大変だったんだから!」

 水をがぶのみ、その後白米スペシャル、そしたら舌を火傷して…

「はいはい、大変だったね。っと、お?」

「あ、話題をすげ替えるつもりだね?」

 その手には乗るもんか。

「私の大変さを流すなー!」

「じゃなくて、ようやく知ってる通りに」

 へ?

「あ、ホントだ。加藤君ありがとう」

「それはいいけど、思い切り俺を話題から外すなよ」

「ん? 何か言った?」

 いよし。

「こっからは私たちでも道分かるし、買い物するぞーっ!」

「おーーーっ!」

 

 

~つづく~

ハチキューに到着した私達。

よし、買い物するぞ!

 

 

「まずは上から降りて行こうと思うんだけど、いい?」

「その辺はえりかさんに任せるわ。私はそこまで詳しくないから」

 よし、満場一致。

「じゃ、エレベーターに乗ろうか」

「うむ」

 入り口からエレベーターまではすぐだ。

 でもって、エレベーターはすぐに来た。

「えぇと…最上階はメンズだから、その一階下から」

 七階のボタンを押す。

「あ、俺八階行きたいんだけど…メンズショップがあるなんて初めて知ったし」

「却下します」

 全く、従卒が何を言い出すのやら。

「ひでぇ!」

「今日は認めません。明日行けばいいじゃん」

 手厳しいかもしれないけど、あの時の驚きと不安は、言葉じゃ言い尽くせない。

「明日か~。それは無理だなぁ。ま、ここにメンズがあると知っただけで十分か」

「そ。諦めなさいな」

「うむうむ」

 そんな会話をしていると、エレベーターは七階にたどり着いた。

「よし。私は片っ端から見て回るけど、楓は行きたいお店って、ある?」

「んー、そんな詳しくないから、えりかに同伴」

 楓の意見は明快だった。ま、別行動より一緒に行動した方がいいのは確かだ。

「よし、じゃあまずはこのお店から」

 安さが自慢(それでいいのか?)のブランド、「Chanue」から。

「ん、ねええりか、なんて読むの?」

「シャニュ。そんな難しくないと思うけど…」

 一応、センスは悪くない。なのに値段を売りにしてる、謎な店。

「お! ちょっとえりか! これ、これ! キャミソールが千円!」

「そこ、驚かない驚かない。ここじゃ普通だから」

 何しろ、時々三着千円のキャンペーンまでやってる。

「おお~、そうなのか! それはいい!」

「え? ちょっと、楓?」

 目が輝きだした楓は、お店の中に駆け出して行った。

「えーと…他の店も回るんだけど…」

「お、俺、ここで待ってるわ」

 楓のテンションに圧倒されつつ、私もお店の中に入った。

 

 

~つづく~

「シャニュ」が安いってことを知って、目の色を変えて乗り込んで行った楓。

安さが今の楓の最重要課題なのかどうなのか、それは分からないけど…。

 

 

「楓ー、他のお店も回るんだよ?」

「分かってるー。でもさぁ、安くてかわいいお店なんて、

興奮する事しきりだって!」

 楓の気持ちは分かる。分かるけど、ここだけでお金を使い果たしそうな勢いだ。

「お財布との相談だけは、しっかりねー」

「わーってるって」

 分かってるって言葉が不安だ。楓はこういう言葉をすぐに忘れる。

「はぁ、ホントに分かってるのか…」

 現に、手には一杯の服。このお店の価格設定を考えたら、

そんなに高額にはならないだろうけど…

「な、なぁ、倉橋」

「ん、何? 通路で待ってるんじゃなかったっけ」

 加藤君、まさか中に入って来るとは。行きにくいって言ってたのに。

「あ、もしかして八階見たいとか?」

「じゃなくてさ、あいつ、あんな両手いっぱい持ってて大丈夫なのか?」

 加藤君にも心配されてるのか…すごいな。でも、私は笑顔で答えた。

「ここは安いから大丈夫だよ。お互い、お財布チェックはしてるし。

なんなら、彼女に訊いてみなよ」

「い、いや、そこまではしないけど…」

 そりゃそうだよなあ。なんで訊くのか、て所を突っ込まれたら痛いし。

「でも、加藤君、わざわざ楓の心配してくれてありがとね」

「いや、そんなんじゃなくて、お金を貸してくれ、て言われないかと…」

 なるほど、そう言う事か。更なる制裁を、とも言ってあるしなあ。

「大丈夫、そういう事は要求しないから」

「よかった。今日持ち合わせが少なくて…」

 なるほど。

「っと、悪いな。話してたら服見られないだろ」

「ううん、いいよいいよ。他のお店も見るから」

 おや、加藤君、意外と心優しい青年なのかな?

「そっか」

「うん。でもちょっと見て来るから、その辺で待っててね」

 何しろ大事な荷物持ち。

「おう。でも、できるだけ早くな」

「できたら、ね」

 ゆるい約束をして、私も商品捜索に向かった。

 

 

~つづく~

買い物モード全開の私。

買い物モード暴走中の楓。

私が楓を制御しつつ、の買い物だった。

 

 

「いやー、助かったよえりか」

「なんていうか…自制して。楓、自制して」

 私が買ったのは少し、三千円分だけ。でも、楓は凄かった。

 

 

「まさか、二万円分も持ってるとは思わなかったよ」

「いやー、安かったからつい」

 つい、で買いすぎるなんて、典型的なパターンだよ、楓。

私はため息を禁じ得ない。

「そんな事言って、両手いっぱい持ってたじゃん…どうするのさあのまま買ってたら」

「そりゃ、そこに荷物持ちがいるんだから…」

 じろり、と加藤君の方を見る楓。当てにしてるのは私も同じだけど、

一軒目でここまで使い倒すつもりはない。まぁ、そこまでは言わないけど。

「お、俺の方を見るな!」

「だってさ。ま、それはそれとしても、荷物持ちって…私だって当てにしてるんだから」

「そっかそっか、それはすまんすまん」

 すまんじゃないよ、全く…

「このお店で破産するつもり?」

「それを言われると、面目ない…」

 ほほう? どうやら楓もそこには思う所があるのか。

「ははは、まあいいよ。んじゃ、次の店に行こう。加藤君、お願い!」

「うをっ!」

 私達の荷物を持たされた加藤君は重そうにしてる。頼りないなぁ。

「まだ一軒目だよ? 頑張って頑張って!」

「ファイトファイト!」

 私達の薄っぺらい応援を浴びて、加藤君の顔が少し輝きだした。

「よし、それじゃあ次のお店に行こう!」

「おー!」

「おー…ふぅ」

 

 

加藤君のため息なんて、聴こえない聴こえない。

 

 

~つづく~

二軒目突入の私達。

二軒目は「Chu-Chu(シュシュ)」。

こんな名前でもシュシュの専門店じゃない。

 

 

「このお店はどんなお店?」

「かわいい系のお店。普段ならそんなに行かないんだけど、

バーゲンセール中らしい。そう聞いたら、行かなきゃね」

 バーゲンと聞いてまた楓が暴走しないか心配だったけど、どうかな?

「かわいい系か…私には縁遠いかな」

「そっか」

 というか、私も普段は見ないし。それが理由でも、楓が暴走しないなら安心か。

「楓ー、先に言っておくけど、買い過ぎ注意ね」

「大丈夫。ここは少しだけだから」

 中に入る前に、一応釘を刺しておく。いくら「好みと違う」と言っても、

全部が全部じゃないだろうし、もともとは結構高いお店だから…

「いくらバーゲンといっても、油断は禁物禁物…」

「え、そーなの?」

 楓は知らないよね。って!

「ええええ! ちょっと、いつの間に!」

「ん、何が?」

 楓の手にはしっかりとワンピが握られている。

「それ。その服」

「いやー、そこに掛けてあったんだけど、ツボった」

 ツボった。って…

「ピンクのフリフリ、どこで着るのさ」

「まぁ、学校の外?」

 つまり、普段着って事か。

「それに、好みに合わないんじゃ…」

「たまにはこういうかわいいのにツボる事もあるさ。サイズは良さそうだし…」

 まぁ、本人が納得してるならそれでいいけど、問題は次だ。

「ちょっと楓、値札見せて」

「値札? どこだろ。あ、これか」

 値札タグを見ると…

「がーん。楓、これ買うの?」

「へ? えーと、いちじゅうひゃくせん…げ! こんなに高いのか!」

 しかもこれ、バーゲン対象商品じゃない。

「さ、さすがに買えないわ…」

 かちゃり、と元の場所に戻す楓。気の毒だけど、しょうがない。

「それにしても中に入る前から見つけちゃうなんてねー」

「だって、偶然の出会いだし。っとと、まだ諦めるのは早かった!」

 え?

「まさか楓!」

「そう、そのまさか!」

 なんと! 値切り交渉か!

「じゃ、行って来る!」

 再び例の服を手に、店員さんの所に駆け寄る楓。

「あぁ~ぁ~、他人のフリしよう…」

「お前も苦労するな…」

 加藤君にまで同情されてしまった…

「いいよ、慣れてるし」

「そっか」

 さて、楓の値切り交渉は?

 

「あのー」

「あ、いらっしゃいませー。なんでしょうか」

 服をずずいっと突きつけて…

「この服なんですけど、高くて買えないんで…」

「は、はぁ…」

 言われても困るよねー、店員さん。

「似たデザインの服って、ないですか?」

 げ! そう来たか! 値切りじゃなかった!

 

 

は、果たして店員さんはどう答えるのやら…

 

 

~つづく~


 
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