No.1066219

異世界雑貨店ルドベキア5

テムテフさん

バトル回

2021-07-10 01:19:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:374   閲覧ユーザー数:372

ナダラ森の鬱蒼(うっそう)とした木々の間を、私たち6人は目的の場所へ向かって歩いている。

異世界人の言う山や森のように、何人も歩いてできた道や、整備された道なんてものはない。

ひたすら続く獣道。

 

森を抜けた先にはたくさんのゴーレムが守る遺跡が眠っている。

 

(アリス)「聞いたことはあったけど、実際に見ると本当にすごいですね・・・。これって魔法なんですか?」

(ルド)「う〜ん。魔法・・・ではないかなあ。草木にお願いして力を貸してもらってる・・・って感じかなあ」

 

見渡す限り草木が茂り。

場所によっては背丈くらいの草もある。

ぬかるんだ地面も、頭の大きさの石が転がるような中、滞ることなく歩いているのは私の力で”避けてもらっている”から。

 

これはエルフとしての私の力で、草木や、石、宙を満たす霧に呼びかけて道を開けてもらっている。

 

(アル)「草や石がスススス・・・っと動いていくの面白いですね。見る見る道ができてく」

(ルド)「初めてみると面白いよね。え〜っとね、ナダラ遺跡は・・・あっちだって。」

(アリス)「道も聞けるんですか?いいなあ、私もお話してみた〜い」

(アル)「僕の短い足で草むらを歩くのは大変なので助かります〜」

 

ナダラ森の中にある遺跡まではもう少しかかる。

この辺で一旦休憩しようかな。

また草木にお願いして場所を開けてもらう。

 

(エレク)「な〜ルドぉ。なんでわざわざ森歩くんだよ。俺の勇者能力なら一瞬で遺跡までいけるのによお」

(ルド)「アンタねえ。私たちはピクニックも兼ねてるっていったでしょ?それでもついてきたんじゃない」

(エレク)「ダラダラ歩くのの何が楽しいんだよ・・・」

(ルド)「おだまり。こういうのは過程を楽しむものなの」

 

こういうのは過程が楽しいのに・・・。

なんでも異世界能力で一瞬で片付けてしまう異世界人はこう言う楽しみを逃してるんじゃないかって時々思うんだよね。

 

こうやって文句ばっかり言うくせに、歩いてナダラ遺跡まで行くと言ったら面白そうだからついていく・・・だって。

勇者一行は来週のBL本販売の準備を手伝ってもらった手前、無下に断るのも気が引けたから、そのまま連れてきちゃったんだよね・・・。

 

(アル)「それにしても、日が差しても涼しいですねえ〜。この世界でも緑の中は最高の避暑地だ」

(アリス)「本当だねえ。ルドさんのお店の庭もいい風が吹き抜けるけど、ここは本当に格別だわ」

 

草木に避けてもらった開けた場所で、お弁当の時間。

これも歩いていないとない時間だよね。

 

(マージ)「ルドさんのお弁当・・・。お店のお弁当みたい」

(ルド)「時々街で出してる出店のお弁当は私が作ってるからね〜」

(セン)「お弁当の時間も過程・・・。っふ、私もルドさんと家庭を築く過程を味わってみたいものだな」

(マージ)「うわ・・・・」

 

(ルド)「・・・・・あの、センさん?私に近づかないでくださいませんか?」

 

 

 

みんなが私の作ったお弁当を食べ終わる頃、近くの草木から近くの小川辺りまで来てることを聞いた。

もう遺跡は目前。

遺跡にゴーレムみたいな危険がなければ、そこでお昼にしてもよかったんだけどね。

 

(ルド)「お弁当の容器は帰るまでちゃんと持っててね。あ・・・、エレクまたそんなに残して・・・。ほとんど食べてないじゃない」

(エレク)「うえ〜。人に嫌いなものを食べさせちゃだめだぞルド。」

(ルド)「アンタねえ・・・、アンタのいた世界と違ってこの世界は食べ物で溢れてはいないんだから。はあ・・・、食べないなら作らなきゃよかった」

(エレク)「あ、いや、これはだな」

 

お子ちゃま特有のマズいと思うと急に弁解を始めるや〜つ。

エレクの場合、完全に好き嫌いで食べないだけだからねえ。

 

(ルド)「出発まで待ってるから。早く食べちゃいなさい」

(エレク)「ふぁぁい」

 

 

エレクがお弁当を口に掻き込むのを横目に、広げたシートのクズを払って畳んでいく。

アリスもアルも手伝ってくれるなか、マージとセンはボーッと倒木に座ってる。

 

(アリス)「私、こういうピクニックって大好きだったんです。この世界にきてから深い自然ってどこも危険がいっぱいだったから全然機会がなくって、今日は本当に楽しい・・・!」

(アル)「この森も本当は触るだけでも危険な毒草とかめちゃくちゃシゲってますもんね。ルドさんとじゃなきゃ入れない」

(アリス)「街じゃ獰猛だって言われてる狼とか・・・」

(アル)「にゃぉおん」

 

アリスの目線の先ではアクビをしたりして寛いでる超大型の狼が何匹かいる。

リーダー狼には私が話を通してるから襲われる心配はない。

アル君がさっき鼻キスしてたけど、なんだか仲良くなったのかな?

 

毒草も私たちが通る間だけ毒を抑えてもらってるから、うっかり触っても大丈夫。

 

異世界人の魔法や特殊能力も弾くS級危険動物。

その実、その辺の野生動物と変わらない精神の持ち主。

 

(ルド)「異世界、アリスちゃんたちの世界にも山とか森を楽しむことあったんだよね。それもこの世界より安全で」

(アリス)「はい〜。クマさんには気をつけないといけないですけど、それでもこの世界よりずっと安全でした」

(アル)「ルドさんといると、ルドさんがなんとかしてくれるから忘れてますけど、山森だけじゃなくても普段からかなり神経すり減らして暮らす世界ですよね。この世界って」

 

アリスたちの元々いた世界。

食べ物に困ることもなく、娯楽に溢れ、あらゆる争いを悪だとハッキリと言える世界。

 

家族を残してきた異世界人も中にはいる。

私は異世界人と日頃から接していて、いつも不思議に感じていたことがある。

 

(ルド)「ねえ、時々異世界からきた人に聞くんだけどさ。帰りたいって、思わないものなの?」

(アリス)「私の場合、前の世界の記憶が断片的なので・・・」

(ルド)「あ!ごめんなさい!私ったら・・・」

(アリス)「いえいえ!気にしないでください!でも考えてみると、今から帰りたいとは思わないかもしれないです。私、今が幸せなので」

 

(ルド)「ありがとう、アリスちゃん」

 

アリスが私に肩を寄せてきた。

かわいいなあ・・・。

私も、今アリスと一緒にいて幸せだから、幸せなんて言ってもらえて本当によかった。

 

(アル)「僕も帰りたいとは思わないですね。アリスさんの言う通り安全で、食べ物にも困らない世界だった。この世界の方がずっと危険や貧しさがあるのに」

(エレク)「そーゆー人間が召喚されてんじゃねーの?」

 

(ルド)「異世界召喚自体の方法はある程度確立されてるけど、選定される相手はよくわかってない。確かにその可能性はあるかもしれないね・・・」

 

 

森の中をもう少し進んで、私たちはナダラ遺跡の端まできている。

あたりは石造だった建物の瓦礫が散らばっていて、あたりにはかつて使われていた魔法陣があちこちに刻んである。

 

目的のゴーレムを探して、中央の大魔法陣に向かって進んでいく。

 

(ルド)「レンズを採取するマジックゴーレムは大魔法陣を守るようにいるんだ。あちこちに防衛ゴーレムもいるから、みんな私から離れないようにね」

 

防衛ゴーレムの目は刻まれた模様で、目としての機能はない。

だから、採取できるのは大魔法陣を守る巨大なマジックゴーレムが身につける8つの目だけ。

 

(アリス)「あっちこっち壁に穴が空いてたり、床に穴が空いてる・・・。」

(ルド)「大昔のトラップだね。発射装置の類は全部壊れてるけど、魔法陣と落とし穴は気をつけて。」

 

大昔は動いていただろうトラップも、今は残骸。

落とし穴は天板が落ちて隠れてはいないけど、危険な深さ。

魔法陣は残った文字で暴発の危険がないとは言い切れなかった。

 

およそ1000年以上前のものだと言われるこの遺跡は、現状ほとんど研究が進んでいない。

まず、この遺跡に辿り着くには、異世界人でも苦戦する動物たちや解毒の難しい毒草の群生地を抜けて来なけれなならない。

 

それらを全部スルーできるエルフの特権で私たちはピクニック気分で遺跡まできている。

一度避けてもらった草木は私たちが通ったあと元に戻っていく。

いつまでも体を寄せて道を開けるのは誰だって嫌だもの。

 

さっき、エレクの言った一瞬でここまで来る方法も、空からも、瞬間移動でも遺跡の大量の防衛ゴーレムに迎撃されるので完全防備の戦闘態勢でこないといけない。

足元からコッソリ入れば、一体一体丁寧に相手をしていける。

 

(アリス)「ルドさん。さっきからどうやってゴーレムを倒してるんですか・・・?攻撃魔法にも見えないんですけど。ゴーレムが勝手に倒れてく・・・」

(ルド)「ああ、これは魔法の素のマナを超高濃度にしてるんだよ。ゴーレムの周辺だけね。」

(アリス)「ええ?でもここのマジックゴーレムって魔法生物ですよね。むしろ強くなったりしないですか?」

(ルド)「っふっふっふ」

 

人間を始め、生物は酸素を吸って生きている。

ただし、それには適切な濃度がある。

自然に発生した濃度ならともかく、超高濃度の酸素を吸い込んだ場合、酸素中毒に陥って肉体障害や最悪死に至る。

 

魔法生物は魔法の素、マナを吸い込んで生きている。

魔法生物にとっての酸素、マナも超高濃度になれば致死量が存在する。

異常な濃度のマナを吸い込んだゴーレムは機能停止に陥って壊れていく。

 

(ルド)「逆にマナを排除してしまうと、すぐに気づかれて余計に暴れられちゃうからね。」

 

違うのは、放っておくと復活すること。

魔法生物はあくまで無機質の機械、活動に必要なパーツが無事なら再起動をすれば元に戻っていく。

 

(アリス)「ルドさんって空気とか、そういうものも操作できるんですね・・・」

(ルド)「ん〜、私がっていうか、エルフの能力かも?私もエルフの里は小さい時に出ちゃったからよく知らないんだけど・・・」

 

ひょっとしたら私特有の能力だったりして?

まさかね。

 

(エレク)「ほえ〜。ってことはだ、例えば軍隊とか酸素吸わせていっぺんに潰せるのか!」

(ルド)「普通の人間なら一酸化炭素の方が早いかな。そもそも軍隊と戦うことなんてないけど」

(エレク)「やべーな・・・」

 

この広い遺跡全体を超高濃度のマナで満たせば、確かに全てのゴーレムを止められる。

でも、魔法の素であるため、意図しない魔法が暴発する危険がある。

特に、壊れているとはいえ魔法陣が敷き詰められたこの遺跡では何が起こるかわからない。

 

もちろん、普通に使う魔法も使用厳禁。

発動した瞬間ガス爆発のように魔法が爆発してしまう。

 

だからこそ、ゴーレム一体一体に対して超高濃度マナを吸わせているんだ。

 

 

この能力があるからこそ、人間の都では下手に要所には近づきたくない。

別に私の能力は誰彼構わず言ってるわけじゃないけど、死因のわからない無傷の変死なんて、疑われれてもしょうがない。

一応、テンマ様には伝えているけど。

 

付け加えて、この能力は何もないところから生み出すものではなくて、あるものを組み替えている能力。

それから『魔物』は酸素やマナなどでは倒せない。

どうやら呼吸をしていないみたい。

 

異世界でいう科学の知識は、この世界ではエルフたちでしかまだ発達していない学問がほとんどなんだ。

私はあんまり複雑なのはわかんないんだけどね・・・。

 

 

到着した遺跡の中央部。

大魔法陣の間は光を失った大きな魔法陣を目的の巨大なマジックゴーレムが守っている。

私たちに気づいてズンズンと向かってきている。

 

(ルド)「大きいゴーレムは動きが止まるまで少し時間がかかるから、みんな戦闘態勢!充満させるマナの量が多くなるから、魔法は使わないで!」

 

道中のゴーレム相手ですでに武器を抜いていたみんなは、一斉に武器を構えた。

戦えないアル君に私の背負っていた荷物を投げ渡した。

 

(ルド)「みんな下がって!ゴーレムの流れ弾だけ気をつけて!」

(アル)「ひ、ひっえぇえ!ほ、ほ、本物のマジックゴーレムだああ!!」

(エレク)「おっしゃー!オレが一気にぶっ潰してやらあ!」

 

エレクが一人突撃しようとするのをセンが力尽くで引き留めてる。

エレクの静止役としては必要だね・・・。

 

マジックゴーレムの動きが少しずつゆっくりになっていく。

過剰に吸い込んだマナで苦しいのをマナ不足と勘違いして、超高濃度とも知らずに余計に吸い込んでいく悪循環。

 

ゴーレムの拳を避けて、そこに私の攻撃を打ち込む。

ゴーレムは岩石の体。

私の切るタイプの剣、日本刀では攻撃にならない。

魔法も、大型ゴーレムに向けて充満した超高濃度マナのせいで使えない。

ならば・・・。

 

(ルド)「正拳突き!」

(一同)「!?!?!?」

 

っふっふっふ。

みんな驚いてる驚いてる。

異世界人の一人から教えてもらった『武道』というものの一つ、らしい。

 

(アリス)「わあ・・・かっこいい・・・!!」

(アル)「ゴーレムの拳を拳で弾いたんですか・・・!?」

 

このためにわざわざお手製グローブまで作って持ってきたんだから。

流石にちょっとジンジンするけど・・・。

 

(ルド)「フック!アッパー!ムーンサルト!」

 

ゴーレムの攻撃を受け流すだけでいい。

ゴーレムの周りのマナの濃度を高く保ちつつ、時間を稼ぐ。

ついに、マジックゴーレムはズズンと音を立てて倒れた。

 

(ルド)「一丁上がりだね。さ、必要なのは目だけだけど、ついでにいくつか使えるパーツもらってちゃおうか」

 

倒れたゴーレムにアル君がおそるおそる近づいていく。

猫の手がノミと木槌を使って器用にゴーレムの顔からレンズを取りハズていく。

 

(アル)「これは・・・、本当にレンズですね。調節は必要だけど、レンズとしてなら研磨が必要ないくらい綺麗で、しかも透明度が最高です!」

(アリス)「あちこちについてる鉱石や宝石も少しなら持って帰ってもいいかな」

(ルド)「重たいしかさ張るから全部は無理だけど、持てるだけ持って帰ろう。かなり貴重な素材になるからね。ウチで使えなくても高く売れるし」

 

ゴーレムはパーツを持っていっても、活動が可能ならいつの間にかパーツを調達して元に戻っている。

申し訳ない気もするけど、私たちに作れない素材をいただいていっちゃおう。

 

 

(ルド)「・・・・?どうしたのエレク。珍しく真剣な顔をしてるじゃない」

(エレク)「ルドぉ。この大魔法陣。見覚えがあるんだが・・・、どこだっけ?」

(ルド)「いやいや・・・私に聞かれても・・・。んん?」

 

知らない・・・と思ってた。

けど、よくみてみると確かに見覚えがある。

 

ここには随分久しぶりに、何年も前に一度きたきりだけど、その時は魔法陣のこともよく知らなくてわからなかった。

それからエルフの里の実家から取り寄せた本で魔法陣のことを学んで、テンマ様にエルフの知恵でみて欲しいと頼まれて見たことがある魔法陣。

 

(ルド)「これ、異世界召喚の魔法陣・・・だね。今のものは補助が書き加えられてる感じで、核になる部分がほとんど同じだ」

(アリス)「ここで異世界召喚がされていたってことですか?」

(ルド)「多分・・・」

 

大昔にこの遺跡で行われた魔法の失敗で滅んだと言われるナダラ国の魔法陣遺跡。

失敗した魔法は、異世界召喚だった・・・?

一体何を召喚したんだろう。

 

(ルド)「カメラが完成したらまたこよう。これは、実際の見た目をテンマ様にも見てもらった方がいいかもしれない」

 

周りを見渡せば、どんなことが起きたのか想像できるかもしれないと思ったけど、流石に1000年も前だと風化も酷くて、素人にはとてもそんな痕跡はわからない。

もっとちゃんと調べないと。

 

 

(ルド)「さて・・・、何はともあれ帰ろうか。まだ2時くらいだけど、今から帰らないと夜になっちゃう」

 

いざとなったら森の狼に乗せてもらおうかな。

流石に夜の森は足元も暗くなって危ない。

魔物がいないから、そのくらいの危険なんだけど。

 

 

・・・・?

なんだろう、少し離れたところから何か崩落する音がする。

 

(アリス)「・・・なんでしょう。何か近づいてきませんか?」

(ルド)「うん・・・、何かいくつかいるね。なんだろう、四足歩行の足音だ。動物?」

 

次の瞬間、体調5メートル大の黒い虎が二体が躍り出た。

彩色を失った体に白と黒の眼光が一際光って見える。

 

私は慌てて剣を抜いた。

 

(ルド)「・・・!!魔物がどうしてここに!?みんな!武器を構え・・・」

 

二体の虎が立ち止まったのも一瞬。

一直線にマージに向かって牙を剥く。

 

(ルド)「マージ!逃げて!」

 

迎撃する間もなく、虎の魔物がマージの首に食らいついた。

魔法を構えるマージに感づいて一直線に向かっていった。

 

(マージ)「・・・・!?」

(ルド)「喉を噛み切られてる。早く治療をしないと!」

(エレク)「な、なんだこの魔物。強いぞ!?」

 

エレクの攻撃も剣筋を読んでいるのか、全て避けられている。

エレクが思わず雷魔法を撃っても避けられ、充満したマナに引火してさらに魔法が暴発する。

私たちが爆風に怯んでいる隙にしっかりと着地した二体が次の爪や牙を飛ばす。

 

狙われたエレクもセンが見る見る生傷だらけになっていく。

噛み付いたマージを投げ捨てて、二人を集中して狙っている。

 

私が加勢することも、マージを助けにいく間もなく二体はギロリと私に目を向けてくる。

 

(アリス)「ルドさん!酸素濃度とか、そういうのは」

(ルド)「魔物にはどっちもきかない。戦って倒すしかない!アリス!防護幕の魔法でアル君と身を守ってて!いい?手を出してはだめだからね!」

 

アリスは力はある。

でも、この二体の相手をするには経験も技量も足りなすぎる。

 

虎の魔物たちはエレクとセンの武器を弾き落とすと、二人を体当たりで突き飛ばしてトドメを刺さずにすかさず私の元へ向かってくる。

この魔物、状況を判断してる。

 

(エレク)「くそぉお!なんなんだこいつら!オレは勇者だぞ・・・!なんで倒せないんだ!おい!マージ!死ぬな!!」

(マージ)「・・・・・・。」

 

喉笛に大きな穴が空いたマージは見る見る力が抜けていく。

ものの数秒の出来事なのに、状況はすでに危機に瀕している。

 

詠唱時間を与えれば致命傷になる魔法を打ちかねないマージをまず潰し。

アリスがマージの回復に向かおうとすればアリスに威嚇。

戦えないアルは完全に無視。

接近戦のエレクとセンを無力化して、私に二体まとめて向かってくる。

 

今まで、動物の姿の魔物は動物らしかった。

この二体は違う。

明らかに知性を持って活動している。

 

私たちを、狙ってここまできた・・・?

なんのために?

 

(ルド)「きなさい。私が相手だ!」

 

心臓がいつになく激しく鼓動する。

ゴーレムのような機械的な相手とは訳が違う。

エレクやセンのような戦いに長けた二人が敵わないなら、今の私が刀で二体の相手をするのは不可能だ。

 

だから、戦ってはダメ。

作戦で勝たなくてはいけない。

二体の虎が私の目前まで一気に間を詰めてきている。

 

もう少し、もう少し、適切な間合いに入った一瞬が勝負。

 

(ルド)「ファイア!」

(エレク)「お、おい!そんな小さな炎じゃ・・・」

 

小さな炎。

それが一気に大爆発に変化して、二体の虎を包み込む。

 

虎の周りだけ超高濃度の酸素とマナで満たし、そこに魔力の炎で引火する。

これでは倒せないけど、隙を作るには十分な威力だ。

 

(ルド)「エレク!!」

(エレク)「お・・・・おう!!おい、セン動け!!」

 

爆発で足をすくわれて、後ろにのけぞった二体の虎は。

エレクとセンの二人に一刀両断にされ身体を真っ二つにされた。

 

(エレク)「や・・・やったぜルドぉ!見てたか!?」

(ルド)「エレク!まだ終わってない!」

(エレク)「へ?」

 

4つに分断された魔物の虎は、分断された大きさで4体の虎へ形を変え始めてる。

魔物は、ある程度の大きさまで小さくしないとどんどん分裂していく。

 

そのうち二つを私がさらに半分にしたところで、ようやく魔物は黒い煙となって消えていった。

残る二つがすでに虎の形を完成させている。

一体を、エレクが慌てて切り刻んで倒し、最後の一体がエレクに飛びかかった。

 

(エレク)「・・・・・・・!る、ルドぉ。た、助かったぜ・・・」

(ルド)「何泣きそうな顔してるの。勇者なんでしょ?ほら、しっかり。」

 

最後の一体に私の剣が届いた。

よかった・・・。

 

(ルド)「アリスちゃん。マージの回復をお願い。急いで!」

(アリス)「は、はい!」

 

アリスの回復魔法を受けてマージの傷口が塞がった。

肺に流れた血を吐き出させるのに、私がマージの背中に手を回してゆっくりと体勢を起こしていく。

 

(マージ)「げ、ッゲホ・・・!ゲホ・・・ゲホ!!」

(ルド)「もう大丈夫。血がだいぶ流れてるから静かにしてて。魔法ですぐに息を楽にするからね」

(マージ)「ルド・・・さん。痛いよう・・・。死にたくない・・・。」

(アリス)「マージ、すぐに治すからね!」

 

真っ白になったマージは弱々しい力で一杯に私にしがみついた。

大丈夫、もう命に別状はない。

この世界にきた力のある異世界人のほとんどは、痛みや不幸にとにかく弱いから。

あとは私が安心させてあげられれば・・・。

 

本当はしばらく安静にさせて、魔法でちゃんと治療してあげたい。

でも、魔物の脅威があの二体だけなのか、襲ってこないか、あるいは待ち伏せしてないか。

・・・見えない脅威に迷って判断が遅れれば、みんなが危険になるかもしれない。

 

細心の注意を払いつつ、急いで森に入ろう。

森に入れば行きにお世話になった狼たちにお願いして守ってもらえる。

森は私のホームグラウンド、木や地面に転がる石や川の流れだって味方になってくれる。

 

(ルド)「アリスちゃん。エレクたちにも回復魔法をお願い。マージは後は私がみるから」

(エレク)「っへ!オレたちはいいぜ。この傷は勲章だからな!あ痛っっ!!やっぱ治してくれえ・・・」

 

なに格好つけてるんだか・・・。

 

(ルド)「急いでここを離れよう。いい?みんな私から離れないで」

 

 

ピクニック気分だったナダラ遺跡の探索は、魔物の出現で一変した。

魔物はただでさえ手こずる相手だというのに、明らかな知性。

『魔王の卵』周辺で確認されている人型の魔物ならともかく、動物型でそんな話は聞いたことがない。

 

そもそもサモナンの南側には魔物は生息していなかったはずなのに・・・。

わざわざここまできたということ・・・?

 

・・・・・・。

みんな消耗している。

わからないことをじっくり考えるのは帰ってからにしよう。

 

(ルド)「リーダー。申し訳ないんだけど、この子、背中に乗せてあげてもいい?」

 

行きの道中お世話になった狼のリーダーに消耗しきったマージと支えるアリスを乗せてもらって、森の帰り道を進んでいく。

 

来週末、テンマ様がウチの店に来る。

今日のことを話そう。

 

 

サモナンに帰る道。

誰も口を開く気にならない静かな帰路になった。

一緒にいる狼たちと一緒にいれば、もし魔物が近くにいればすぐに気づいてくれる。

 

それでも、緊張を解くことはどうしてもできなかった。


 
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