No.1064849

刺されたトレーナー

東郷さん

pixiv様で投稿してます。

2021-06-20 22:22:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1456   閲覧ユーザー数:1447

 

夜が明ける頃、手術室のランプが消えた。

 手術室の扉が開くと、疲れ果てた様子の執刀医と共に酸素マスクをつけられたトレーナー君が出てくる。

 それを見て、私と桐生院トレーナーと後から来てくれた駿川たづな理事長秘書が駆け寄る。

 そして、代表してたづなさんが執刀医に声を掛ける。

 

 「彼の上司です。彼は…トレーナーさんは」

 「……何とか一命は取り留めました。ですが、刺された場所が肝臓付近でしたので、危険な状況には変わりありません。それにしても、彼もですが、止血処置をした方が居なければ彼は失血でここに来る前に亡くなっていたでしょうね」

 

 執刀医曰く、トレーナー君は自分の傷口を強く抑える圧迫止血を行い、出血を抑えていたと言う。

 そして、搬送されるとき、彼の患部には女性もののパーカー、そしてそれを抑えるようにベルトが巻かれていたと言う。

 それを言うと、執刀医はトレーナー君を乗せたストレッチャーと共にICUに入って行った。

 

 「警察への対応は私と桐生院さんで行いますので、ルドルフさんはトレーナーさんを見守ってあげてください」

 

 そう言って、たづなさんは私の背を押した。

 

 「絶対に許さない。私たちはトレーナさんを傷つけた犯人を絶対に許さない」

 「桐生院家の力を使ってでも犯人を捜し出します。そして、法の下で報いを受けさせます」

 

 二人の声が私の背に届く。

 二人の声には怒りが籠っていた。

 頼もしい二人に私は心の中で頭を下げると、私は彼の姿が見える位置に立った。

 

 「トレーナー君。早く目を覚まして、元気になってくれ。私は待っているよ」

 

 

 

 「ひ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」

 

 暗い部屋の中で女が哄笑をあげる。

 

 「やったやったやった!私はやった!あの御方に相応しくない男を消した!私は私は私は私はぁぁぁぁぁぁぁぁ。アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

 女は壁に貼られたシンボリルドルフの写真をうっとりと眺める。

 

 「褒めて下さいますか、私の皇帝サマ」

 

 再び、部屋に狂った笑い声が響き渡る。

 

 

 

 翌日、シンボリルドルフのトレーナーが重傷を負ったと言うニュースが日本中を揺るがした。

 各メディアはこぞってこれを報道した。

 

 『犯人はトレーナーに恨みのある人物の犯行!?』

 『未だ犯人の足取りはつかめず』

 『“皇帝”シンボリルドルフ、しばらくレースへの出走を取りやめることに』

 

 連日流れるニュースは憶測を含めて多くの人間の眼に触れた。

 内容的に際どいものや、トレーナーやウマ娘たちのプライバシーにかかわる事はトレセン学園や桐生院家の力で報道を阻止することが出来た。

 もちろん、トレセン学園内でも動揺が広がり、トレーニングにならないウマ娘やトレーナーもいた。

 それはそうだろう。

 『いずれは』と皇帝とその杖たるトレーナーを破る事を目指し、切磋琢磨してきた者たちだった。

 逆にトレーナーが刺された事を喜ぶものもいた。

 『なんであいつが』と僻むトレーナーたちだった。

 自分の力の無さ、自分のウマ娘たちに対する扱いなどが悪いもの達はこれ幸いと「刺されたのは自業自得」と騒ぎ立て、いつの間にか消えていた。

 

 「犯人は絞り込めましたか?」

 「ええ。トレーナーさんが刺された日の監視カメラを全部確認したところ、二人を追う女性の姿がありました」

 

 ハッピーミークと桐生院葵が使用しているトレーナー室でたづなと葵の二人が真剣な表情で話し合っていた(ハッピーミークはお休みの日)。

 

 「でも、監視カメラがあるのはこのショッピングモール内だけなのでこの後の女の足取りは分からないんです」

 「コンビニエンスストアの監視カメラも確認してみます」

 「映像が残っているかどうか、それが心配ですね」

 「でも、当たってみましょう」

 

 警察の捜査が遅々として進まないことに業を煮やした二人は理事長からの許可を得て、サスペンスドラマよろしく二人で捜査に乗り出していた。

 まず初めに被害者のトレーナーと最後まで長く一緒にいたルドルフに話を聞き、当日逝った場所を聞きだし、その足取りを追いかける。

 次に二人が歩いた道沿いにある監視カメラの数を確認し、当日の映像を見せてもらうようにお願いをする。

 それを手分けして行っていたのだった。

 彼女たちは通常の業務に加えてそう言った捜査を続けていた。

 二人の顔には疲れの色が強く出ていたが、強くうなずくと部屋を出て行く。

 

 

 

 夢を見ていた。

 俺が彼女と出会った頃の話だ。

 彼女、シンボリルドルフの走りに魅せられた俺は彼女の語る『すべてのウマ娘の幸せ』と言う夢を叶える為には何をしたらいいのか考え、思いつかないままに彼女のスカウトをした。

 俺の他にも幾人ものウマ娘に栄光を掴ませたベテラントレーナーたちがいた。

 場違いにもほどがあるが、俺はその時の自分の気持ちを彼女にぶつけた。

 それを聞いた彼女は一瞬きょとんとして、次の瞬間笑い始めた。

 

 『面白い御仁だな。…“私の夢を叶える方法を共に探したい”か』

 

 俺の眼をジッと見つめるルドルフ。

 ジンワリと汗を掻く。

 だが、ここで眼をそらしてはいけないと本能が叫んでいた。

 その叫びに従って俺は彼女の眼を逆に見返す。

 綺麗な瞳に引き込まれそうになる。

 

 『よし、決めた。君と契約したい』

 

 そう言って、彼女は俺に手を差し出した。

 その日から、俺とルドルフの切磋琢磨する日々が始まった。

 彼女は紛れもなく天才であった。

 俺の考えたメニューで彼女は日々成長を続けて行った。

 そして迎えたデビューレースで彼女は他のウマ娘を10バ身以上の差をつけてゴール。

 弥生賞(GⅢ)において、一番人気のウマ娘を打ち破る。

 続いて迎えた皐月賞。

 このレースにおいては弥生賞で一番人気だったウマ娘を抑えて一番人気に躍り出たルドルフは彼女との競り合いに勝利、クラシック一冠を獲る。

 

 『やったよ。クラシック一冠目だ』

 

 ウイニングライブの後、控室に戻って来たルドルフはライブのダンスと歌、そして勝利の余韻に浸り紅潮した顔でそう言った。

 

 『次は日本ダービーだ。次のレース、私にいい考えがあるからやらせてほしい。必ず勝利するから』

 

 そう言った彼女の瞳はスカウトした時の瞳と同じだった。

 だから俺は彼女を信じた。

 そして、迎えた日本ダービー。

 皐月賞以上の強敵を相手に彼女は苦戦した。

 それでも彼女は勝利を掴んだ。

 栄光の二冠目だと喜ぶと、彼女は渋い顔をしてこう言った。

 

 『自分で戦略を立ててみて、トレーナーの凄さが分かったよ。出走するウマ娘とそのウマ娘の得意な戦略、それに対する対抗戦略。……一瞬でも自分でもトレーナー君の様に出来ると思った自分が恥ずかしい』

 

 俺から目をそらす様にそう言ったルドルフは『すまなかった』と頭を下げた。

 俺自身はと言うと、別に怒っていた訳ではないし、実際に走るのは彼女たちだから一度そう言う事も必要かな程度に思っていたので、ここで彼女が何かを掴んでくれたことに喜びを覚えていた。

 

 『改めて、トレーナーとウマ娘の関係が大切か、それを理解したよ』

 

 これからもよろしく、とルドルフはそう言った。

 『トレーナーとウマ娘の関係』と言う単語にピンと閃いた俺は次のトレーニングメニューに彼女の所見を求めることにした。

 実際にトレーニングをするのはルドルフ自身で身になっているかと言うのを実感するのも彼女自身だ。

 俺自身は彼女が出すタイムで成長を実感するのみなので、彼女の率直な意見が聞けるのはトレーナーとしてはありがたい。

 聡明な彼女は自分の感覚を俺に分かりやすい様に言語化する事が出来たのも相まって、彼女のトレーニングは彼女に合わせて最適化されていった。

 そして迎えた、セントライト記念。

 他を寄せ付けない圧倒的な勝利をつかみ取る。

 この勝利で、俺たちはこのトレーニング方法で間違いないと確信した。

 

 『トレーナー君と私の集大成、次の菊花賞で多くの人に見せてあげようじゃあないか』

 

 その調子だと、俺は彼女に答えた。

 菊花賞は圧勝とはいいがたいものの、並みいる難敵をねじ伏せ、三冠目をとった。

 その日の晩、俺はルドルフの祝勝会を二人だけで行った。

 突発的に執り行ったものの、彼女は喜んでくれた。

 そして、祝勝会を終え、寮に送っていく際、彼女はふと口を開いた。

 

 『トレーナー君。生徒会長に推薦されたのは知っているだろう?』

 

 二冠目を獲った翌日、理事長が直々に俺を呼び、ルドルフを次期生徒会長に推薦したことを告げられた。

 同じころ、ルドルフも生徒会長からルドルフの実力を高く買って、生徒会長になってほしいと打診があったと言う。

 

 『ずっと考えてきたんだ。私に務まるんだろうかって。…でも、私の夢を叶えるためにはこの学園から変えていかないといけない。そう思ったんだ』

 

 だから、と彼女は言葉を続けた。

 

 『私は生徒会長になる。生徒会長になって、トレセン学園を改革していく!』

 

 そう彼女は俺に手を差し出しながら告げた。

 

 『トレーナー君。これまでと同様に私と共に歩んでほしい』

 

 勿論、そう答えて俺は差し出された彼女の手を握る。

 その日から、俺は彼女のトレーニングと並行しながら、彼女の夢を叶えるための手伝いをした。

 

 

 そこで俺は何かに引っ張られる感覚で後ろを振り向いた。

 

 「っ!?」

 

 振り向いた先には黒い何かが立っていた。

 その黒いものは俺に手を伸ばす。

 本能的にこれに触れたら、俺は戻れなくなる、そう感じた。

 

 (俺は、まだ、そっちには…いけないんだ)

 

 もがき、黒いものから離れようと身体を動かす。

 水中歩行をした時と同じような身体の重さで動きが鈍重な俺に対し、そちらは素早い動きで俺に詰め寄って来る。

 

 (来るな!来るな!来るな!!!!!!)

 

 必死に俺はそれから逃げる。

 だが、黒いモノの触手が俺にたどり着こうとしていた。

 

 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 「んぅ…、夢?」

 

 トレーナー君と歩んだ過去を夢で見ていた気がする。

 多分、トレーナー君と。

 何となくではあるけれど、隣に彼がいた気がしたんだ。

 気が付けば、彼の気配は消えていたけれども。

 

 『患者の容体が急変しています!』

 

 看護師の切羽詰まった声が私の耳に届く。

 

 『○○さん!』

 

 トレー……ナー君?

 トレーナー君!!!

 彼の名前を聞いた瞬間、一瞬で眠気が覚めた。

 看護師が貸してくれたタオルケットを弾き飛ばすと私は彼の見える場所にすぐに移動する。

 

 『心拍数が下がっている!心臓マッサージを行う!!』

 

 心電図の波線が段々とフラットになっていくのを見た。

 ピーと言う音が私の耳を通り抜けていく。

 彼にまたがって、医師が心臓マッサージを行う。

 

 『電気ショックを行う』

 

 看護師が機械を持ってくると医師がチャージをするように指示を出す。

 

 『離れて!』

 

 ドンッと言う音と共にトレーナー君の身体が跳ね上がる。

 

 『チャージ早く!』

 

 再び、トレーナー君の身体が跳ね上がる。

 

 (お願いします!三女神様、私のトレーナーさんを連れて行かせないでください!!)

 

 三女神様に強く願った。

 

 (お願いします!何でもします!)

 

 その時、脳裏にトレーナー君の姿が見えた。

 黒い靄のようなものにつかまり、どこかへ連れて行かれそうになっていた。

 

 (私のトレーナーさんに何をする!!!!!)

 

 怒りで頭が沸騰する。

 脳内に映った映像なのに、私は彼に近づいていた。

 彼が伸ばした手を握る。

 

 「しっかり握って!!」

 

 トレーナーさんの手をしっかりと握る。

 そして、力の限り引っ張る。

 だが、黒い靄は中々離れない。

 

 「私のトレーナーさんを離せ!!!!」

 

 絶対に離さないと力を籠める。

 段々とレーナーさんの身体が靄から抜けてくる。

 

 「頑張って!もう少しだから!」

 

 残りは右足だけだった。

 その右足が問題だった。

 靄が絶対に離れないのだ。

 

 (ふざけるな!!!!)

 

 怒りが頂点へと達し、いや、頂点を突破していた。

 

 “汝、皇帝の神威を見よ”

 

 瞬間、トレーナーさんに纏わりついていた靄が散り散りに消え失せる。

 

 「トレーナーさん!!」

 

 トレーナーさんを抱きしめると、彼は私の顔を見て、安心した表情で笑った。

 私も彼を見て、笑った。

 

 『戻って来た!』

 『奇跡だ』

 

 二人で笑った瞬間、私はその声で我に返った。

 

 (あれは、夢?いや、夢にしてはリアルだった)

 

 いつの間にか垂れていた汗を拭い、心拍数が安定したトレーナーさんを見守る。

 心なしか、表情が和らいでいる。

 

 (良かった)

 

 トレーナーさんの和らいだ顔を見て、私は安堵した。

 

 

 

 

 トレーナーが生死の境をルドルフの助けで抜け出していた頃、葵とたづなの捜査は核心にたどり着こうとしていた。

 

 「たまたま、窓の外を見ていた人がいたとは…」

 「理由は褒められたものではないですけれども…」

 

 そう、たまたま、向かいの家の女の人を覗いていた男性が怪しい風貌の人物が急ぎ足で歩き去って行くのを見たらしいのだ。

 彼はその人物が彼の家から三つくらい先の路地を曲がって行ったのを双眼鏡を使ってみていたのだと言う。

 

 「目撃情報があったのは助かりますね」

 「ええ」

 

 二人は彼が最後に見かけたと言う三つ先の路地へと足を向けた。

 再び、彼女たちは手あたり次第に聞き込み調査を行う。

 そうやって、僅かな情報を手に入れて、二人は犯人に近づいていく。

 

 「怪しい人がこのアパートに入っていくのを見たって言ってましたね」

 「それにしても…」

 

 そう、二人が驚いていたのはルドルフのトレーナーが刺された場所とこのアパートの距離は直線距離にして1キロにも満たない場所だったのだ。

 二人はこの情報を信頼できる筋から警察に流し、その人物を確保しようと計画した。

 他にも現場に残された靴の跡と犯人と思われる靴の跡が一致した事、周辺住民や友人、職場の同僚等への聞き込みにより、犯人は二人が見つけたアパートに住む20代の女性会社員だと言う事が判明した。

 

 数日後、張り込みをしていた警官から犯人が家にいると聞いた葵とたづなは逮捕状を持った警官と合流し、アパートへと向かった。

 

 「本当なら、一般人を同行させるわけにはいかないんですけれどもねぇ…」

 

 上から言われては仕方ない、とぼやく刑事に軽く会釈をするとたづなはドアの前に立つ刑事の隣に立った。

 その後ろにハッピーミークと葵が立っていた。

 

 「すみませーん、ちょっといいですかぁ?」

 「はい、なんでしょうか」

 「○○警察署の者ですが、貴方に▲▲さんに対する殺人未遂の疑いで逮捕状が出ていますので、御同行願います」

 「は?なんで」

 「あんた、周囲の人にあの“皇帝”の熱狂的なファンだって言って回ってたみたいだな。そして、同時に皇帝のトレーナーに対して、悪しざまに言っているのを何人も聞いているんだよ」

 「それだけで、犯人扱い?」

 「だから、家宅捜索令状も持ってきてるよ」

 

 そう言うと、警官たちが彼女の家に入っていく。

 それと一緒にたづな達も家の中へと入り込む。

 

 「っ!」

 

 リビングにはシンボリルドルフが載った写真、ブロマイドが所狭しと貼ってあった。

 そして、或る一角にルドルフとトレーナーが仲良さげに映っている写真が貼ってあった。

 だが、トレーナーの顔の部分が削り取られていた。

 他にもトレーナーが映っている写真は同じようにトレーナーがぐちゃぐちゃにされていた。

 

 「ひどい、なんでこんなことを」

 

 葵がそう呟いた。

 

 「酷い?何を言っているの?ルドルフ様にあんなキモチワルイ男がトレーナーとして付いていると言うだけで万死に値するでしょう?」

 

 女は静かにそう答えた。

 

 「ルドルフ様に触れていいのは私だけ!私だけがあの方の覇道を支えられるの!私だけがあの方を理解できる!私だけが!私だけが私だけが私だけ私だけ私だけ私だけ私だけ私だけ!…あの方に目を覚ましてもらうためにあのゴミを消そうとしたの」

 

 何が悪いの?と言わんばかりの表情を見せる女に、葵とたづなは憤りと憐れみを覚えた。

 

 「貴女にシンボリルドルフさんを理解することも、彼女の道を支える事は出来ません。何故なら、貴女は“自分”の事しか考えていないからです。トレーナーとウマ娘の関係は人バ一体でなければいけません。どちらかの想いを一方的に押し付けるものではありません。そうですね、貴女がルドルフさんのトレーナーだったら、彼女は一冠も取れずに故障で引退でしょうか。それとも彼女の方から三くだり半を叩きつけられるでしょうね」

 

 たづなは能面のような表情でそう言い切った。

 それを聞いた女はがっくりとうなだれると、警察に連行されていった。

 

 「まあ、貴女のような人間はそもそもトレーナーになんかなれないですけれどもね」

 

 そのつぶやきは誰にも聞かれず空気に溶けて消えて行った。

 

 

 その後、女は自分の犯行を自白し、全ての罪を認めた。

 

 

 トレーナーが生死の境をさまよい、奇跡的に生還してから一か月。

 トレーナーはたづなと葵付き添いの元、レース場にやってきていた。

 

 「今日、ルドルフさんが走りますね」

 「えぇ、しばらくトレーニングに付き合ってあげられなかったけれども、本人の調子はこれ以上はないくらいに好調なんですよ。だから、俺はルドルフが一着になると思ってますよ」

 

 トレーナーが見守る中、ルドルフはゲートインし、瞑目して出走の時を待つ。

 

 『出走するウマ娘のゲートインが完了しました』

 

 そして、眼を開ける。

 

 『各ウマ娘出走の準備が整いました』

 

 口元に笑みを浮かべる。

 ゲートが開き、一目散に飛び出し、ターフを駆ける。

 

 (気持ちがいい、まるで羽が生えたようだ)

 

 普段のレースの時よりも足が動くとルドルフは思った。

 

 (楽しい。走るのが、レースをするのが、競い合う事が。楽しい!)

 (気持ち良い。地面を蹴る音が、風を切る音が)

 

 ルドルフは駆けた。

 長距離を走っているとは思えない軽やかな足運びで駆け、そのままゴール板を駆け抜けていった。

 一瞬の沈黙の後、大歓声がレース場を揺るがした。

 

 

 

 

 
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