No.1064360

異世界雑貨店ルドベキア

テムテフさん

異世界の品物をテーマにした商品を扱う我が異世界雑貨店へようこそ!
異世界にあるらしい和服の仕立てや置物の制作。
食べ物は異世界人の故郷の味だって人気なんですよ。
羊羹にアンパン、塩ラーメンにカツ丼などなど。

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2021-06-14 18:59:55 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:400   閲覧ユーザー数:400

(少女)「ルドさ〜ん。・・・ルドベキアさんいますか〜?」

 

召喚都市サモナンの郊外。

緑ばかりが茂る街並みから外れたところにあるアンティークな雰囲気のお店。

カランカランと扉のベルを鳴らしながら洋服の少女が一人入っていく。

 

呼びかけに応じて、店の奥から和装の銀髪エルフの女性が顔を見せる。

 

(ルドベキア)「はいは〜い。あ、アリスちゃんいらっしゃい」

(アリス)「よかった・・・ルドさん、私のスマホどうでしたか?」

(ルド)「うん・・・、一応見てみてけど、電源着くか試してみてくれる?」

 

スマホをアリスに渡すと、真剣な目つきで異世界の機械をいじり始めた。

異世界のものをそれなりに扱うウチの店によく持ち込まれる壊れた”スマホ”。

異世界から来た人間にとってものすごく大切なものみたいだけど、直せた試しはない。

 

(アリ)「・・・だめみたいです」

(ルド)「あ〜・・・、ごめんね。それらしい部品をこっちの世界の部品に変えてみたんだけど。」

 

何台か見てきたスマホは微弱な電気を流して動く機械らしいことはわかった。

このスマホが動かない原因は、部品の中で微弱な電気を流す部分。

この世界の微弱な流せる素材、サンダークォーツに組み替えてみたんだけど、電気が足りなかったのか、強すぎたのかわからないけど動かせない。

 

(アリ)「いえ、ダメ元で無理にお願いしてしまったので気にしないでください。お手間をかけてしまったお詫びに、今度隣町のお茶っ葉持ってきますね」

(ルド)「あはは、私は気にしなくていいのに。でも、アリスちゃんの持ってくるお茶っ葉は楽しみだからお願いしちゃおうかな」

 

その薄っぺらい機械は、この世界では本来の機能は使えないけど、たくさんの思い出が詰まってるんだって。

 

(ルド)「それ、本当に大切なものなんだね」

(アリ)「はい・・・。この世界に来た時、赤ちゃんだった私にとって、他には何もなくて、手に持っていたこのスマホだけが私の手がかりなんです」

 

アリスは異世界人。

気がついたときには赤ん坊一人きりで、この世界での母親はわからない。

前の世界の記憶は朧げだったり断片的だったり、このスマホに記録されたものが唯一の手がかりなんだって。

 

(ルド)「あとは、前世のアリスちゃんのことを知っている異世界人が見つかればいいんだけどね」

(アリ)「そうですね・・・。まだ前の名前は思い出せないですけど、きっと・・・」

 

多くはないけど、アリス以外にも異世界人はいる。

異世界から直接召喚されたり、アリスみたいに異世界で亡くなって生まれ変わる場合もある。

今のところ私が知る事例は少ないけど、アリスみたいに記憶をなくしている子は他にいない。

 

(ルド)「スマホは記録が入ってる部分は見当がついたから、それを取り出す方法がないか探した方がいいかもしれないね・・・。」

(アリ)「できるでしょうか・・・。」

(ルド)「この世界には魔法があるからね。きっとなんとかできるよ!私に任せておいて」

 

魔法も無尽蔵な万能夢技術ではないんだけどね。

なんだかいつもより沈んでいくアリスを励ましたかった。

 

(ルド)「そういえば、今日は勇者様一行と魔物の討伐にいくんじゃなかった?時間大丈夫?」

(アリ)「クビになりました・・・。私弱くて役に立たないって」

 

(ルド)「あら・・・」

 

 

うな垂れるアリスを気分転換に買い出しに連れ出すことにした。

 

買い出しはいつも、ウチの店から少し歩いたところにある商店街。

異世界人がいうには、ファンタジーによくあるらしいレンガの街並み。

あちこちの出店からルドベキアを呼び止める声が飛んでくる。

 

目的のお店からは、ちょっぴりしょげた顔のお店のオジサンが手を振っている。

 

「おうルドちゃん。今日はアリス嬢ちゃんも一緒かい」

(ルド)「おじさん、今日に果物は何があるの?」

「今日はてんで品揃えがダメだねえ。魔物が増えて仕入れの足が遅れてんだ。ま、その原因の魔物も今日勇者様が討伐してくれるんだけどな」

(ルド)「そうですか・・・。また日を改めて来ますね」

 

買いたかった錬金術や魔術の材料になる鉱物、魔物も好きそうな食べ物の一部はだいぶ影響をうけてしまっていた。

魔物は鉱山の方からくるから増えればすぐに影響がでるんだよね・・・。

 

トボトボと歩きまわっていると、流通を妨げる魔物を討伐してくれる勇者の話をよく耳にする。

 

(ルド)「勇者様ねえ。」

 

その勇者は少年で、私の店に時々くる異世界人の一人なんだけど。

アリスと違ってサモナンの神殿で行われる異世界召喚によって召喚された異世界人だ。

 

(ルド)「ん〜。アリスちゃん、追い出されたことあまり気にしちゃだめだよ?あの子、友達いないんだから」

(アリス)「ッブ!は、はっきりいいますね・・・。」

 

アリスは思わず吹き出した。

 

(ルド)「強いのはいいんだけど、ちょっとおテングなのがねえ。」

(アリ)「根は・・・きっと悪い人じゃないんですよ。きっと」

 

異世界の『コトワザ』。

『天狗』はこちらにはいない生き物だけど、得意になりすぎる例えに使われるみたい。

周りを巻き込まなきゃ別に気にしないんだけど・・・。

 

(ルド)「まあ・・・、天狗になりすぎて、『魔王の卵』に行かなきゃいいんだけど」

(アリ)「この前も討伐隊が全滅したって新聞にありましたよね・・・。召喚獣もかなり投入してたらしいのに」

 

魔王の卵。

サモナンの北にあるブリザ山脈をさらに北に越えた先に発見された、魔物の発生源。

卵型で恐ろしい見た目をしているんだとか。

いままでも何度か討伐隊が出されていたけど、ことごとく全滅してしまっていて最近は討伐隊の招集がかかることは少なくなった。

それでも日に日に増す魔物の脅威に、放って置くわけにもいかないらしい。

 

(ルド)「流石に行かない・・・かな。この前全滅した討伐隊にも異世界勇者が何人もいたし。自分たちだけで敵うなんて思わないよね」

 

もちろん許可なく近づけば罰せられる。

不用意に近づくだけで膨大な人数に犠牲が出かねないから。

到底一般人の私たちには任せるしかないもの。

 

 

買い物を済ませながら、最後に向かったのは生地のお店。

ウチのお店に並べる和風の服やポーチを作るための生地をお願いしてたんだ。

 

(アリ)「あ、この生地。ルドさんがきてる服と同じ柄、また作ってくれたみたいですよ」

(ルド)「ホントだ。その柄も結構人気あるみたいだね。お願いしてた柄もできてるかな?」

(アリ)「新しい和服作るんですか?今度は私も手伝いたいなあ」

 

この店に並んでる和の模様は、アリスちゃんの記憶をもとに作ってもらったものがたくさん並んでいる。

私が気に入っていてよく身につけている波模様や、カラカサ模様、鏃模様などなど。

意外と他のお客さんにも好評みたいでよく売れるものだから、その売り上げの一部はアリスちゃんに回してくれてるんだって。

 

開けた店先から生地を見ていると、奥からお婆さんがのそっとでてきた。

 

「あらいらっしゃい」

(ルド)「こんにちはノヌアさん。膝の調子はどうですか」

(ノヌア)「ルドちゃんのお薬は本当によく効くわ。ありがとね。今、お願いされてた生地と、ちょっとお菓子を出してきましょうか。二人ともゆっくりしていってね」

(アリ)「あ、ありがとうございます!」

 

和服、和装も元々アリスちゃんの記憶を頼りに作ったものなんだよね。

他の異世界人も和服だ! っていってたから間違いないと思う。

ただ、この世界で元のままだと歩幅が小さいと不便だからアレンジはしてるんだ。

結果として、『タイショウロマン』っぽくなったらしい。

 

(ルド)「ね、今度はアリスちゃんの分も新しく作ってあげようか」

(アリ)「本当!?やったー!!」

 

アリスちゃんには長いスカートが似合いそう。

今着ているスカートみたいに、大きく広がったスカートにエプロンをかけて、やっぱり上着は合わせにした方がそれっぽくなるよね。

・・・でも、アリスちゃんは合わせあんまり好きじゃないんだよね。

 

少しすると、ノヌアさんが奥から手作りのアンパンをだしてきてくれた。

元々はこの世界の食べ物じゃないみたいで、これも異世界人が持ち込んだ食べ物。

 

(ルド)「今度私のお店で作ったお菓子も持ってきますね。『ヨウカン』っていうんですけど。とても甘くて美味しいんです。」

(ノヌア)「あらあら、楽しみにしているわね」

(アリ)o0(羊羹を作るなら今度ルドさんに栗を持って行ってあげよう)

 

 

帰路についてもう夕方、私のお店が見えてくる。

 

(ルド)「あれ・・・?お店に人影が」

(アリ)「ルドさん戸締りしてましたよね。まさか・・・ドロボウ・・・!」

 

顔を見合わせて、ゆっくり近づきながら改めて店の中で動く人影を観察していると、急に肩の力が抜けた。

 

(ルド)「あ〜・・・私たちがよく知ってるドロボウだわ」

 

店の扉に手をかけようとしたところで、中から勢いよくドロボウが飛び出してきた。

 

(少年)「よー!ルド!まだこんな貧相な店開いてんのか。ま、懐かしいもんがいっぱいあって悪い気はしないけどさ」

(ルド)「おだまりっ」

(アリ)「あ〜・・・エレクだったんだ」

 

少年はエレク。アリスを追い出した勇者サマ。クソガキ。

手に店の保冷庫から勝手に持ち出した飲み物を持っている。

 

(エレク)「なールド。ウチのメンツ一人欠けたから補充に入ってくれよ」

(ルド)「そのフルーツ牛乳。一本220円ね」

 

この国の通貨は円ではなく『ルン』。

異世界人には『ルン』だろうが『ルビ』だろうが『円』にした方がよく通じる。

 

(エレ)「っちぇ・・・。ルドだけは俺には冷たいんだよなあ。みんな勇者の俺をみるだけでさ、こう、ゆーっしゃさまだー!って」

 

勝手に人のお店の鍵を開けて居座っていながらこの態度。

 

(ルド)「勇者だって敬って欲しいなら相応に振る舞いなさいっっ」

 

店の前で踊るエレクを無視して店の中に入ると、他のメンバー二人も店のあちこちを眺めていた。

女魔法使いのマージ。

マッチョ戦士のセン。

二人とも異世界からエレクと一緒に召喚された異世界人。

 

(マージ)「ねーエレク。あまりルドさんに嫌われることしないでよ〜。私この店気に入ってるんだから」

(セン)「そうだぞ。ルドさんの美貌をみられなくなったらと想像すると身の毛もよだつぞう。」

(ルド)「はぁ・・・。エレクと一緒になって店に入っていたら嫌われるも何もないと思うけど・・・。」

 

(アリ)「あ・・・」

 

私の影に隠れていたアリスは二人からの視線を感じて慌てて私にヒシと掴まった。

 

 

(マージ)「別にあんたが嫌いで追い出したんじゃないんだから。ただ足手纏いでアタシらまで危ない目に会うからなの。正当な理由でしょ?」

 

マージが私をチラチラ見ながら説明する。

イライライラ。

 

(ルド)「私を気にして弁明するならもっとマトモな言い訳があるでしょう。」

 

センが慌てて立ち上がった。

 

(セン)「言い出したのは私だぞ。エレクもマージもこんなだからな、私一人では守れるかわからないからな」

(ルド)「う〜ん」

 

アリスも決して弱くないんだけどなあ。

ま、どっちにしても背中を預けるにはあまりにも心許ないよね。

 

(エレ)「超絶万能だけど排他的な種族で、メンツに入れるのは絶望的なエルフ!そのエルフのお前を仲間にできたらと思ったんだけどな〜。な〜」

(ルド)「あーはいはい」

(エレ)「ま、俺は強いからな!他にそれなりに強いやつを探して仲間にして、最後は魔王の卵を破壊する!で、ルドベキア!お前にけ・・・け・・・ケッコンを申し込・・・」

(ルド)「はいはいつよいつよい。結婚宣言して戦いに挑むと死ぬらしいからやめときなさいねマセガキ」

(アリ)「ッブ!マセガキ・・・!」

 

(エレ)「あ!テメ・・・笑いやがったな!」

 

アリスはサッと私の後ろに隠れた。

 

(ルド)「全く・・・器の小さい勇者サマだわ・・・」

 

騒ぐだけ騒いで、勇者一行三名様お帰りなり。

あまり繁盛する店ではないウチとしては、買うだけ買って行ってくれるからいいお客様なんだけどね。

イイお客様とキレイなお客様がイコールだったらいいのに。

 

 

静かになった店の中で、ソファーにポツンと座るアリスの横に私も座る。

アリスにとって、勇者一行に一緒にいたのはある意味で挑戦だった。

他にも目星はあったけど、最初に誘ってくれた勇者一行に最後まで力になりたいって頑張ってたんだよね。

 

それも、アリスは前世の記憶が不完全でもあって、完全に子供ではなかったから。

そうでなきゃ、10歳になったばかりの子が、いつまでもお世話になれないなんて言って私の元から出て行こうとしない。

 

(アリ)「ルドさん、いつも迷惑かけてごめんなさい・・・。私をエルフの里で拾って育ててくれて、名前もつけてくれて・・・。でも、だから追い出されちゃったんですよね」

(ルド)「気にしないで。どっちみち退屈な生活をやめたくて出ていくつもりだったし」

 

私がアリスをそっと抱き寄せると、アリスが抱き返しながらそんなことをいう。

私は全然迷惑じゃないんだけどな。

 

(ルド)「ね、この前も一度誘ったけど、また一緒に暮らさない?一緒にお店やってこうよ」

(アリ)「私なんかがいいんでしょうか。今度も足手まといになっちゃうんじゃ」

(ルド)「あはは、そういうの全然ないから。ここを新しいお家だと思ってさ。なんなら、ここで暮らしながら他でやりたいことやってもいいよ」

 

とにかくアリスが心配だったから、そばに置いておきたいだけなんだよね・・・。

この国も豊かではないから、他にも孤児なんていっぱいいるけど。

この子が赤ちゃんだった頃から面倒をみてるから、妹みたいに感じてた。

 

(ルド)「昔みたいに『ママ〜』って呼んでもいいんだよ?」

(アリ)「〜〜〜〜!は、恥ずかしいですよ・・・。ね、姉さん・・・なら」

 

0歳のこの子を拾ったのは18年前。

父母の協力も得られて、3年間はエルフの里で暮らせていた。

それからサモナンに来て、勇者一行に一緒になるまで私のことは『ママ』って呼んでたんだけどな・・・。

ちょっとだけ寂しい。

 

真っ赤になったアリスは、ゆっくりと顔をあげた。

 

(アリ)「迷惑をかけたくないって出ていって、また一緒に住みたいなんてワガママ・・・・。本当にごめんなさい・・・。」

(ルド)「おかえり、アリスちゃん」

(アリ)「私、がんばります!」

 

頑張らなくてもいいよ、って言おうか迷ったけど。

頑張るアリスも好きだから。

 

(ルド)「頑張る時は一緒に頑張ろう。アリスちゃん」

(アリ)「・・・!はい!」


 
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