No.1064321

紫閃の軌跡

kelvinさん

外伝~問われる人としての覚悟~

2021-06-13 23:43:56 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2338   閲覧ユーザー数:2070

~リベール王国 ヴァレリア湖畔北西部~

 

 かつて結社『身喰らう蛇』の第三柱『白面』が建造したリベール王国における秘密拠点。戦後は大幅な改造が施されているようだが……その建物の前に来たアスベル達を出迎えたのは、向こうのレクター・アランドールを通じてコンタクトを取ってきた人物―――シオンもといシュトレオン・フォン・アウスレーゼだった。

 

「待っていたぞ、アスベル。シルフィアとレイアも久しぶりだな。セリカはハーケン門での訓練が一段落したようだな」

「久しぶり、シオン。てか、態々アスベルにだけ連絡するとか水臭くない?」

「仕方ないだろう。連中の盗聴レベルがどこまで高いかの見積もりが出せなかったのだから…何にせよ、態々帝国から来てくれて感謝する。話は中に入ってからにしよう」

 

 そう言ってシオンの案内で奥に招かれると、会議室のような場所に案内された。そこでアスベルらを待っていたのは、ある意味アスベルにとっては予想通りの面々だらけであった。

 

「あ、アスベル! シルフィアにレイアも!」

「久しぶりね、リーゼロッテ。貴方も巻き込まれてたんだ…いえ、貴方達も、ですね」

「ああ。正直言いたいことは山ほどあるが、久しぶりだなアスベル」

「お久しぶりですね」

「ええ、ラグナさんとリノアさんもお久しぶりです」

 

 リーゼロッテ・ハーティリー、ラグナ・シルベスティーレ、そしてリノア・リーヴェルト。アスベルらの世界では元『鉄血の子供達(アイアンブリード)』の一員だった面々。彼らとシオンの存在だけでも凄いのだが、更に拍車を掛けたのは彼らの存在だった。

 

「ハッハッハ、久しぶりだねアスベル君にシルフィア君、レイア君も。ああ、今のボクは『オリビエ・レンハイム』だから、それでお願いするよ。このことは“この世界のオリビエ”とも折り合いは付けている」

「ええ、分かりました……詰まるところ、皇子殿下は生きていらっしゃるという訳ですか」

 

 そう、アスベルらの世界のオリヴァルト皇子まで異世界転移に巻き込まれていた。彼の言い分をそのまま受け取るならば、この世界にオリヴァルト・ライゼ・アルノールが二人いることになる。幸い、向こうの世界の彼がオリビエ・レンハイムを名乗る(格好もリベールにいた時の演奏家のもの)ため、さしたる混乱は起きていなかったが。

 

「そうなるね。ああ、ちなみにこの場にはいないアルフィンやエリゼ君はもう一人の僕の看病を手伝っているよ」

「呑気だよね。下手すると内戦が泥沼の様相を呈するかもしれないのに」

「耳が痛い話をしてくれるね。だが、アルノールの血を引く人間として、この事態を無視するのは皇族に連なる身として看過は出来ない」

 

 なお、ここ数日前までベッドから起き上がれなかったらしく、その原因は負傷した右目にあるとのこと。それについてはさておき、オリビエから今の状況について説明を受けることとなった。

 

「目が覚めた時、僕とシオン君、アルフィンにエリゼ君は『アルセイユ』に乗った状態だった。幸いにも飛ばされた場所はミストヴァルトだったので、艦を隠すのはさほど苦労しなかったよ」

「あの場所は地元の人でも用事がなければ近付く人などいませんからね」

「ああ。それで、何とかリベールの人とコンタクトを取れないかダメ元だったのだが、近くを飛んでいたジーク君が僕らに気付いてくれてね。手紙を持たせたところ、アリシア女王陛下に何とか面会できたという訳さ」

 

 アリシア女王となんとかコンタクトを取れたこと自体驚きだが、アルフィンはともかくとしてオリビエの姿は何かと目立ってしまう。その対策として、オリビエは持っているアーティファクトを用いて口頭での連絡を取った形だ。

 

「こちらの『アルセイユ』の誘導もあって、ここに艦を隠すことに成功した。いやあ、にしても少人数で艦を動かせるシステムなんて画期的すぎるが……帝国がこれを知ったら、否応なしにもリベールに攻め込みそうだね」

「バラしたら女神の元に行かせますから」

「流石にそんなことは出来ないよ。ボクとしても命が惜しいからね」

 

 オリビエとの会話を終えたところで、会議室に入ってきた人物がいた。それは紛れもなくこの世界のオリヴァルト皇子に他ならなかった。

 

「もう一人の僕から話は聞いていると思うけど改めて……エレボニア帝国が第一皇子、オリヴァルト・ライゼ・アルノールだ。君たちからオリビエと呼んでくれないのは悲しい限りだが」

「戯れもそこまでにしろ。帝国軍中佐、ミュラー・ヴァンダールだ」

「リベール王国所属遊撃士、<銀閃>シェラザード・ハーヴェイよ。短い間だけれど、よろしく頼むわね」

 

 オリヴァルト皇子とミュラー中佐、そしてシェラザードの三人をメインとして本校卒業生の面々も紹介してくれた。お互いの自己紹介が済んだところで、今後の動きについて軽く打ち合わせることとなった。

 

「成程、リィン君たちは仲間を取り戻すために……大丈夫なのかい?」

「裏の面々の大半が何らかの準備をしているのは掴めたからな。『アルセイユ』の人員については……あいつらに頼むか」

 

 幸い、クロスベル方面の人員をどう振り分けようか迷っていたので、このまま『アルセイユ』に合流してもらう方向で話を付けた。ルドガー達も早々に合流することで合意している。

 

「オリヴァルト殿下。一つ言っておきますが、俺らはあくまでも“別の世界の人間”でしかありません。なので、この大事の後処理は間違いなく殿下が担うことになることをお忘れなく」

「……やはり、そうなってしまうのか」

「オリビエ……」

 

 この事態の片棒をセドリックが担いでいる以上、彼は間違いなく戦争犯罪人としての責を免れない。この戦争へ強制している『黄昏』の支配が行き過ぎた場合、今度はエレボニア帝国の内戦が再発する。人間の生存本能を無視したリミッターを強制的に解放しているため、軍人ならばまだしも一般人あがりの新兵には長期戦が到底耐えられない。

 

「それともう一つ。俺らは一切の感慨や情けを掛けるつもりはありません。例えこの手で『鉄血宰相』ギリアス・オズボーンをはじめ、彼らの身内を討つことになろうとも」

 

 こちらも元の世界への帰還が懸かっている以上、中途半端な情けや躊躇いなど持つつもりなどない。誰かに頼まれれば話は別だが、変な同情を掛けてこちらの状況を悪化させるのは好ましくないからだ。

 アスベルはそう言い切って部屋の外に出た。それを見たオリビエは一息吐いた。

 

「やれやれ……済まないね。彼はリベールでの異変の際に大切な人を失いかけたんだ。結果的には彼一人で執行者の一人を殺している」

「あの歳でか……しかし、調子が狂うな」

「それは言わないでくれ。親友が二人いなくて正直助かるよ」

「ほう? 今すぐヴァレリア湖で遠泳でもするか? リハビリには丁度いいと思うぞ」

「ヤメテクダサイ」

「ふふっ……」

 

 オリビエとオリヴァルト……この出会いが一体齎すのかは、それこそ女神のみぞが知る。

 

  ◆  ◆  ◆

 

 帰りはアクエリオスを呼び出し、アスベル、シルフィアとレイアは『精霊の道』でエリンの里に帰還した。本来だと精霊信仰に縁の深いところでなければ安定しないだけに、これも“黄昏”の影響なのだろう。

 アクエリオスから降り立ったところでアスベルのARCUSⅡの着信音が鳴る。このタイミングで連絡を取ってくる相手は限られているが……その相手はリィンであった。

 

「リィン。その様子だと、まずは一つ乗り越えられたようだな」

『何とかね。それで、形が違うとはいえⅦ組であるアスベルにも確認したいことがあってね』

 

 リィンから述べられたこと―――それは、まず行方が分かっていないリィンと縁の深い人間を探すこと。とりわけ『黒の工房』で霊脈を通じて感じられたこの世界のトワ・ハーシェル、アルフィン・ライゼ・アルノール、そしてエリゼ・シュバルツァーの三人をまずは探すことに重点を置くという。

 最終的には、奪われた大切なものを取り戻し、そこから戦いに進みゆく世界を変えるための一手とする。甘い考え方だが、これも主人公気質というものだろう。

 

「『七の相剋』にせよこれから起こる戦争にせよ、俺らも無視できる要素じゃなさそうだな。それで、俺に確認したいことは何だ? 必要ならばここからそっちに合流するが」

『そうだな……こちらで合流できる場所を指定する方向でいいか?』

「構わない。それに、俺の方が年上でも同じⅦ組である以上、言葉遣いに遠慮はいらない。名字で呼ぶほうも大変だろ? ランディともその方向でまとまってるし」

『分かった、そうさせてもらうよ』

 

 流石に只でさえメルカバにはヴァリマールとユウナ達の機甲兵、そしてクロウのオルディーネまで同行している。エリンの里から長距離転移するのが一番効率的だし、積まれている動力源の出力差を考えれば多少の出費がかさむ程度で済む。それに、メルカバのステルスフィールド効力がこの世界と向こうの世界で異なる以上、リィンたちの行動に支障を出すわけにもいかない。

 通信を終えた後、アスベルは会話を聞いていたシルフィアとレイアにも改めて説明をした。

 

「ねえ、アスベル。どうしてⅦ組も含めた第Ⅱ分校の面々を拘束しないのかな?」

「“黄昏”の拘束力なら出来なくもないが……そこが向こうの甘さなのだろうな」

 

 帝国政府の中枢にいる人間は約2年前の内戦を経験している面々が多い。トールズ士官学院の結束力と底力を身にしていても尚、分校の生徒に関しては監視程度に止めている部分が多い。一部の隙も無い完璧な作戦を立てそうなルーファス・アルバレアにしては杜撰が過ぎるかもしれない。

 

「……いや、もしかしたらルーファスは狙ってるのかもな」

「狙う、ですか?」

「彼はユーシスの実兄―――いや、アルバレア公の実の息子じゃない」

 

 エレボニア帝国ではあまり表立って活動こそしていなかったが、それはギリアス・オズボーンを含めた主要人物の背景を秘密裏に調べ上げるためだった。別に今抱えている秘密ではなく、過去の事情を調べるぐらいならばいくらでも調べようはあった。

 ルーファスがアルバレアにそこまで思い入れがないのは、彼はギリアス・オズボーンを実の父親のように思っているからこそなのだろう。ただ、同じようにアルバレア公に振り回されているユーシスを弟のように思っているのは、彼なりの少なくない“優しさ”かもしれない。

 

「彼はギリアス・オズボーンを実の父親のように思っているだろう。だが、その当人は強大な力を有している。黒の騎神『イシュメルガ』も含めて」

「アスベルの騎神にすら歯が立たなかったもんね……まさか、リィンの『相剋』に横槍を?」

「可能性はある」

 

 ルーファスのエル=プラドー、セドリックのテスタ=ロッサはまだしも、アリアンロードのアルグレオンとエトガーのゼクトールは『相剋』で吸収すれば起動者である二人も消滅してしまう。リィンが消えることを許容できる性格ではないし、クロウのように抑え込むことも考えられるだろう。

 それに、ローゼリアから聞いた限りではイシュメルガの次に高い実力を有するのがアルグレオンとエル=プラドー。ルーファスがギリアス・オズボーンに勝つため、『相剋』で横槍を入れる可能性は十二分に考えられる。

 流石に試しの間へ空間転移するのは騎神であっても制限が掛かるらしいが、リィンとアリアンロードの『相剋』が行われる場所次第では可能と考えていいだろう。

 

「その一方で考えることは多い。俺のアクエリオス、シルフィのシルヴァーレ、レイアのヴェスペリオン……この時点で3体の騎神が更に生まれた」

 

 既に原作で亡くなったレーヴェ、アリエル・レンハイム、そしてバルデル・オルランドを“(ケルン)”として形を成した騎神。敢えて名付けるならば“外の理の騎神(オーバーワールド・エクセリオン)”と呼称することにする。

 アスベルはハーメルで、シルフィアはオスギリアス盆地、レイアはクロイツェンで騎神を入手した。リィンを探すために利用した“特異点”がキーとなるならば、残る特異点で騎神を手に入れることは可能の筈だ。

 ただ、それには何かしらのキーとなりうるもの―――核となる人物所縁の品が必須と考えられる。

 

「そのいずれもが特異点から生じたものだが、残る特異点で得られるとしても、何が必要なのかすらも分からない始末だ……ノルドは一応心当たりがあるが」

「元第八位のバルクホルン卿か……クロスベルはロイドのお兄さんあたりかな?」

「有り得なくもないな」

 

 副長であるこの世界のトマス・ライサンダーにガイウスへの《聖痕》継承の報告書を読んだのだが、バルクホルンに関しては明確に死んだという記述が存在しなかったのだ。アスベルらの世界でも武術に長けた人間であり、彼の修める東方武術《崑崙流》を護身術の一環で学んでいた。

 銃撃でも死にそうにない彼がガイウスを庇ったことで亡くなった可能性も捨てきれないが、生前に《聖痕》の譲渡が行われた場合、元の所持者が力を失った反動で亡くなったという報告は死に至る致命的なものが無ければ起こり得ない。

 

 残る4体―――いや、シオンのイクスヴェリアも含めれば残るは3体という見方もできる。ともあれ、残りの特異点から騎神を生み出すことが元の世界に帰還するためのキーとなる―――そんな気がしてならなかった。

 

「帝都、ノルティア州、クロスベル、それとノルド高原……誰が適合するか分からない上、少なからず所縁のある人間でないと厳しいことに加え、該当する所縁のキーアイテムも分からずじまい……アクエリオスたちにダメもとで聞いてみるか」

 

 ここで考えても埒が明かないため、アスベルらはアクエリオスも含めた3機の騎神に尋ねた。すると、アクエリオスが先陣を切る形で答えた。

 

『残る特異点の結節か。明確には分からないが、心当たりはある』

「本当なの?」

『ああ。俺も含めて“人ならざる力”によって命を落としてしまったのがキーとなるようでな』

『成程……それだと理屈が通りますね』

『確かに、俺も連中の企みで命を落としたからな』

 

 その上で、アクエリオスの核となっているレーヴェは帝都だと皇族かそれに近しい身分の人間、ノルド高原はその地に関わりを持つ者、ノルティア州は帝国貴族の血筋を引く者だと述べた。ただ、クロスベルに関してはその詳細が掴めなかったと話す。

 アクエリオスが他の騎神と比べて知識が豊富なのは、恐らく《天壌の劫火》の影響を強く受けた結果だとみられる。

 

「……シオンの『アルセイユ』ならステルスフィールドの超高高度飛行で警戒網を突破できるな。騎神の回収は任せるか……リィンからの連絡を待つ意味でも一息入れよう」

 

 アスベルは今の情報を超高圧縮した暗号データでシオンの端末に送信した。この機能は機密性を重視してアスベルとシオンの端末にしか搭載されておらず、内戦後に主要メンバーの持っている端末にも搭載するつもりでいた。

 リィンからの連絡を待つため、アスベルらはエリンの里で一息入れることにしたのだった。

 

 

 本来だと有り得ない邂逅。

 アスベルらの世界から来たオリビエは空(閃Ⅲ)での旅装かつオリビエ・レンハイムという形で動きます。とはいえ、次の出番は少し先になりますが。


 
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