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「はっ!?」
俺は目を開けると同時に体を起こした。
周囲を見渡すと、戦っていた中庭ではなく部屋の中だった。
「俺は……」
思い出そうとしたところで部屋の扉が勢いよく開いた。
「とっ、もう起きてたのか」
そこにいたのは馬超だった。手には桶と手拭いが見える。
「大丈夫か? 良いのが一発入ったから心配してたんだよ」
「良いのが一発……」
馬超の言葉でだんだんと気を失う前の情景を思い出してきた。
(そうだ、始終同迅を放った後……)
馬騰に放った始終同迅はまさしく会心の出来だった。間違いなく始めと終わりの斬撃が同時に放たれた一撃だった。だが、馬騰はそれを何の迷いもなく槍の一回転で両方とも弾いたのだ。
そしてそのまま俺の額へと叩きつけられて俺は気を失ったのだ。
「いっつ!」
そして思い出したと同時に額に鈍い痛みが走る。
「おいおい、大丈夫かよ?」
そう言って彼女は部屋にあった机に桶を置き、手拭いを出すと絞ってこちらに放り投げる。
「ほれ」
「すまない」
俺はそれを受け取って痛む額に当てる。水の冷たさが最初は沁みたが、次第に痛みが引いていった。
「どのくらい気を失ってた?」
「半刻ぐらいだよ。正直、その三倍は目を覚まさないんじゃないかって思ってたんだけどな」
「……確かに、それぐらいになってもおかしくはなかったな」
あれはかなりの衝撃だった。師匠とてあそこまでは……
(……いや、茶飯事だったな)
危ない。危うく美化しかけるところだった。あの師匠が手ぬるいことをするはずがない。むしろ気絶しようものなら気絶した体をお手玉のようにして遊ぶのが目に見える。ていうか実際されたしな。
「……大丈夫か? 顔色悪いぞ?」
「いや、少し師匠の事を思い出してな」
「へぇ、やっぱりいたんだな」
「ん? やっぱり?」
「ああ、いや。あれだけの強さを持ってて己だけで強くなったなんて言われたら立つ瀬ない気がしてさ」
そう言って彼女は頬を掻いた。
「……別に俺が強かったところで馬超殿の強さは変わらないだろう」
「おいおい、母上とあそこまでやり合っててそれ言うのかよ?」
「ん? ああ、そう言う意味じゃない」
俺は言葉の真意を口にした。
「馬超殿が積み上げてきた物は変わらないってことを言いたかったんだ。他人が強かったところで馬超殿が積み上げてきた物が崩されることは無いだろうに。それを立つ瀬がないなんて言うのはどうなんだと思ってな」
「……そっか」
そう言って馬超は恥ずかしそうに顔を背けてまた頬を掻いた。
「にしても、最後は何をしたんだ? あたしにはよくわかんなかったんだけどさ」
「ああ」
とは言っても、奥義だからな……
(あんまりぺらぺら話すわけにもいかんな)
「まぁ、秘伝ってやつだ」
「なんだよそれ」
そう言って彼女は笑顔を見せる。
「まぁ、秘伝だってなら根掘り葉掘りは聞かないけど」
「そうしてくれると助かる」
しかし、そう言った馬超の顔は少し浮かないような気がする。
「……なんか言いにくいことでもあるのか?」
「へっ!?」
俺の一言に心底驚いた表情をした後、両手で自分の頬を押さえる。
「そ、そんな顔してたか!?」
「まぁ、そうだな」
反応からして、やはり何か言いたいことがあったのだろう。
「俺に出来ることなら手伝うが?」
「………………」
しばらく押し黙ってしまう馬超だが、やがてその重い口を開いた。
「その、来たばっかりの相手に頼むのはどうかと思うんだけどさ……」
「そこは気にするな。共に戦う仲間だしな」
「じゃ、じゃあ、いいか? 言うぞ?」
やけに溜めるな、とは思うがそれだけ言い辛いという事なのだろう。俺は次の一言を待った。
「あ、あたしを鍛えてくれないかっ!?」
「……いやいや、その強さで何を言ってるのです?」
「なんで敬語なんだよっ!」
いや、だってそうだろう。
「鍛えるも何も、馬超殿は十分な強さをお持ちでしょう。それに、俺が鍛えるよりも炎鶯殿に鍛えてもらった方が……」
「それじゃダメなんだっ!」
突然の大声に思わず体が跳ねる。しかし、馬超はそのまま俯いてしまう。
「……あたしさ、長女なんだよ」
そして、さっきの大声の理由を語り始めた。
「だから、いつかは馬家の当主にならなきゃいけないんだけどさ、いつまでたっても母様に追いつけないんだ」
「…………」
「幼いころは鍛錬を続ければ、なんて思ってたけど、今では鍛錬を続けたところで母様に追いつけないって心の底でそう思ってたんだ」
そう言って拳を握る。
「でも、そこであんたが来た。母様と、本気の母様とやり合ったあんたをみて、あたしは自分が勝手に限界を決めてただけなんだって思い知らされたんだ」
“だから”と彼女は話を続ける。
「頼むっ! あたしを鍛えてくれっ!」
そう言って頭を下げる彼女を見て俺は頭を軽く掻く。
「……生憎だが」
「…………そうか」
悲しげな声でそう言った馬超の間違いを正す。
「勘違いしないでくれ。俺は教えられるほど大した人間じゃないがあんたの練習相手になるぐらいだったらできるって言いたかったんだよ」
「……ッ! ああ、ああっ! それでいいっ! ぜひ頼むよっ!」
さっきまでの声色はどこへやら。彼女は心底うれしそうな笑顔で俺の手を握って勢いよく上下に振る。
「…………あっ」
と、我に返ったのか、彼女は顔を赤くしてパッと手を離した。
「わ、悪い」
「いや、別に構わない」
とは言ったものの、彼女は気恥ずかしそうに頬を掻いている。
「ところで馬超殿」
「ちょいまち」
俺の言葉を遮って馬超殿が話し始める。
「その、馬超殿って言われるのどうにもくすぐったいから真名でいいよ」
「いいので?」
「あんたならいいさ。それに鍛えてもらうんだからそれくらいはしないとさ」
俺にも益があるし、別にいいのだが、とは思うが彼女がそう望んでいるならばそうするか。
「では、謹んでお受けする」
「あと、敬語もやめにしようぜ」
「……じゃあ、そうしよう」
「うしっ! じゃあ、改めて。姓は馬、名は超、字は猛起っ! 真名は翠だ」
「では、俺も。御剣玄輝だ。玄輝って呼んでくれ」
「おうっ! よろしくな玄輝!」
そう言って快活な笑顔を見せてくれる翠。
「あ~! お姉様抜け駆けだぁ!」
「っ!」
と、元気な声が俺の部屋に飛び込んできた。
「たんぽぽっ! 抜け駆けなんて変なこと言うな!」
「えっ~! 私より早く来てるんだから抜け駆けで正解でしょ!」
声の主は馬岱だった。彼女も桶を持っていたので、目的は翠と同じだろう。
「もぉ、お姉様も意外と手が早いんだからぁ♪」
「手が早いってなんだっ! 手が早いって!」
「分かってるくせにぃ」
そう言って翠の肩を肘で軽く押す馬岱だが、その頭に翠の拳骨が落ちる。
「いったぁあああ!」
「この馬鹿ッ! ちっとは慎みを持てっ!」
「口で勝てないからって叩かなくてもいいでしょ~!」
「なにおう!?」
突如として始まった姉妹喧嘩。ただ、声の色からしてそこまで心配するようなものではないだろう。しばらくおとなしくしていたら、一段落した。
「で、結局何しに来たんだよたんぽぽ」
「ちょっと怪我の様子を見に来たんだよ。お姉様と同じで」
そう言って彼女は桶の中から薬を取り出した。どうやら水は入ってなかったようだ。
「でも、これ、要らなそうだね」
「すまないな馬岱殿。まぁ、俺自身もこれくらいは慣れてるのでな」
「いいよ。あ、でも、私も敬語はやめてほしいかも」
ん、私も?
「お前さん、どこから聞いてたんだ?」
「う~ん、お姉様が手を握ってブンブンしてたとこから?」
「な、なぁあああああああああ!?」
赤面してまた拳骨を落とそうとする翠を躱して馬岱は舌を出す。
「べーっだ! 気配を察知できない方が悪いんだもん!」
「言うに事欠いてお前なぁ!」
「おいおい、話がこじれるから後にしてくれ」
と、なだめてから俺に隠れた馬岱と話を続ける。
「敬語の事はそうさせてもらうよ」
「うん♪ あ、あと私も真名でいいよ~」
「……いいのか?」
「うん♪」
翠とは違った少しいたずらっぽい笑顔を見せる馬岱。そんな彼女に今度は俺から改めて名乗った。
「じゃあ改めて。俺は御剣玄輝だ」
「姓は馬、名は岱、字は仲華! 真名は蒲公英だよ!」
「……じゃ、よろしくな。蒲公英」
「よろしくねっ♪」
こうして俺は一時ではあるが、馬一族と共に戦うことになった。
はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。
本日、めでたくマジカルミライ2020のDVD&Blu-rayが発売しましたっ!
そして手元には届いているので特典を見ましたっ!
特典の内容が最高ですっ!
以上歓喜のレポートでした! ちなみに本編は土曜日にじっくり見ますっ!
え? あとがきが寂しい? ソンナコトナイデスヨー
てなわけで、また次回っ!
誤字脱字はコメントにお願いしますっ!
ではではっ!
ミクさん最高っ!
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オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。
大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
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