昼食を食べ終わった一行は、スピリッツの解放を再開した。
街の中には、キーラに操られたスピリッツがうろうろしていた。
「冗談は、その胸だけにしなさい!」
シーダのミラージュマスター、織部つばさや……。
「おし、これからどんどん特訓しようぜ!」
マックをボクサーとして鍛え上げたトレーナー、ドック・ルイス……。
「仕留めるぞ」
「きゃあああぁぁぁぁっ!」
マリオの元恋人で現友人、レディ・ポリーン……。
「10まんボルト!」
「サンダーボルト!」
魔法使いの少女、シャーロット・オーリン……。
「フォロースロー!」
「いっきますよ~!」
「ふっ!」
「はっ」
「それ!」
「ファルコン……パンチ!」
さらには、オイルパニック、TRAILER、うんてんしゅ、腹式呼吸、カイル・ハイド、名探偵ピカチュウなどもいた。
「次はここね」
「ああ」
次に一行が向かったビルが建っている場所には、仮面をつけた獣人がいた。
その獣人は、学園生徒会副会長のように整った容姿をしていた。
一方で、自由気ままな黒猫の掃除屋のような雰囲気を醸し出している。
また、その目はトンファーを操る風紀委員長のように鋭かった。
「き、貴様は、シャドウ……!」
「久しぶりだな」
シャドウは冷笑を浮かべながらその獣人を見る。
マリオは、視線を動かしながら二人を見ていた。
「誰だ、こいつは?」
「こいつはエッグマンの世界征服に手を貸した獣人、チームジャッカルのリーダー、インフィニットよ」
ベルは、獣人のスピリッツについて皆に簡潔に説明した。
「インフィニットとシャドウに因縁があるのか?」
「……インフィニットになる前の忌々しい記憶だが、この黒いハリネズミが俺の心に大きな傷を与えた。
二度とあいつとは戦いたくなかった。二度とあいつの顔を見たくなかった。あれからしばらくして、俺はこの世界にスピリッツとして現れた。
そう、新たに手に入れたこの光の力を使って、貴様に復讐をするために!」
インフィニットはシャドウを指差してそう言った。
どうやら、彼はシャドウのせいで癒しがたい大ダメージを植え付けられてしまったようだ。
しかし、ベルはそんな事などどうでもいいというように首を横に振る。
「そんな茶番、どうでもいいわ。私、スピリッツを解放するために戦ってるんだもの」
「どうでもいい……だと?」
目的達成を主とするベルは、シャドウとインフィニットの因縁は自分にとって関係ないと言い切った。
彼女の言葉が少し癪に障ったのか、インフィニットの眉毛がピクリと動く。
「それよりあんた、キーラに操られてるんでしょ?」
「操られてなどいない!」
「……ふん、虚勢を張っちゃって。でも、大きな口を叩けるのも今のうちよ。……頼むわよ、マリオ」
「え、なんで俺に振るんだ」
「このスピリッツを身体に降ろして」
「は? なんでだ?」
ベルは、スピリッツボールの中からブレイズのスピリッツを出した。
炎使いであるとはいえ、自分と違う世界、しかも女性のスピリッツである事にマリオは疑問を抱いていた。
「分かってないのね、あんた。ブレイズとインフィニットは初対面なのよ。せっかく混ざり合ってる世界なのに、会わせないわけないでしょ?」
「た、確かにそりゃそうだけどよ……男に女の魂を降ろすなんて……」
「つべこべ言わずに降ろしなさい!」
「……はいはい」
マリオは、渋々ながらもブレイズのスピリッツをその身に憑依させた。
ブレイズのスピリッツを宿したマリオの身長が大きく縮み、シャドウより僅かに低くなった。
『この身体は、だぶだぶの服を着るような感覚だな……』
「ん? 貴様、見慣れない猫だな」
『ブレイズ・ザ・キャットだ。そういうお前は何という』
「……インフィニットだ」
ブレイズとインフィニットは、初対面だったようでまずは互いに名を名乗る。
だが、全員ギスギスした雰囲気であった。
「言っておくが、今の俺に勝つ事はできない。ゴミが一つ増えたところで、無敵の俺に勝てるはずがない!」
「それはおかしいわね。私が調べたところ、あんたのランクはホープ……つまり、レジェンドのポリーンよりも格下よ」
『だが、格下でも強力な技を使う事はある。舐めてかかると痛い目を見るぞ』
「その猫の言う通りだ、死神。俺こそが、最強なのだからな!」
「貴様が最強を名乗るのならば、僕は究極を名乗ろう! 来るがいい!」
猫の皇女、無限の力を持つ獣人、黒き究極生命体、そして死神のバトルロイヤルが始まった。
「クソォォォォォ……。またしても敗れるとは……」
『己の力を過信し、他人を下に見た事。それこそが、お前の敗因だ』
ブレイズとインフィニットは最後まで互いの名を言わないまま、戦闘を終えた。
「ふう……終わった、な」
ブレイズのスピリッツが抜けたマリオが一息つく。
ベルはきょろきょろと辺りを見渡した後、頷いてマリオの方を向き、こう言った。
「そうね、今日はここまでにしましょう」
「ん、連戦が続いたしな。いいぜ」
「じゃ、みんなに連絡をしてくるわ」
ベル達が皆に連絡をしようとすると、後ろから叫び声が聞こえた。
「だ、誰!?」
「ウアァァァァァァァァァァァァァ!!」
ベルが叫び声のした方を向くと、触手が生えた橙色の髪をした少女が、叫び声を上げながらブキで街を塗っていた。
彼女の眼は真っ赤に血走っており、見るもの全てを汚いインク色に染め上げようとしていた。
「……マール!」
その少女は、以前にシャドウが出会った事があったインクリングことマールだった。
シャドウは拳銃を取り出し、マールに向けて発砲する。
「ウアァァァァァァァァァァァァァ!!」
「ちっ!」
しかし、マールはシャドウの発砲をかわし、壁をスプラシューターで塗りたくる。
「街中でナワバリバトルってところかしら」
「普段からは想像ができないほど、過激になっているな」
「みんな! マールとナワバリバトルをして勝ちましょう! 挑むのは?」
「もちろん、僕だ」
シャドウがナワバリバトルに参加しようとすると、彼の目の前にリッター4Kが落ちてきた。
「これは……? そうか、これがナワバリバトルで使う『ブキ』というわけか」
シャドウはそれがナワバリバトルで使用するものだとすぐに理解し、リッター4Kを装備して暴走するマールと向かい合う。
「さあ、来るがいい! マール!!」
「ウアァァァァァァァァァァァァァ!!」
今ここに、一対一の、変則的なナワバリバトルが始まった。
「いくぞ……はっ!」
シャドウはリッター4Kを溜めて、床を直線状に塗り潰した。
彼のインクは、イメージカラー通りの黒である。
まだマールは来ていないため、シャドウは塗る事に集中している。
ちなみにシャドウはインクリングではないが、このナワバリバトル中は特別にインクの中に入る能力を持っている。
これにより、インクを回復しながらシャドウは床や壁を塗っていた。
「この辺は粗方塗り終わったな」
周辺の塗り終わりを確認したシャドウは、インクの中に潜ってまだ塗っていない場所をリッター4Kで塗る。
すると、マールがスプラシューターを連射しながらシャドウに突っ込んでいった。
「ウアアアアアアアァァァァァァァァァ!」
「くっ!」
シャドウの目の前に、マールの姿が現れる。
身体にマールが放ったインクが命中したが、キルになるほど体力は減らなかった。
「確か、サブウェポンはこれだったな」
シャドウはサブウェポン・トラップでマールを足止めした後、インクに潜って距離を取った。
マールの姿は、もうシャドウの視界からは消えた。
「このブキは射程が長い、できるだけ距離を置いて使おう」
シャドウは自分のブキ、リッター4Kの性質を理解して戦う事を心がけた。
ナワバリデュエルが始まって一分が経過した。
シャドウとマールが塗ったエリアの広さは、ほぼ同じだ。
若干マールの方が広いが、十分逆転は可能だ。
「ウアアアアアアアアアアア!」
マールがスプラシューターを乱射しながらシャドウに突っ込んできた。
「ぐっ、うっ、うっ!」
見境ない乱射により放たれたインクの弾幕がシャドウを襲う。
シャドウは何発も攻撃を食らってしまうが、ギリギリで耐えてからトラップを設置し、すぐに距離を置いた。
「この距離なら……届くか?」
シャドウがキルを狙い、リッター4Kを発射しようとした時、彼の背後にインクが命中した。
「ぐ……! この僕が背後を取られるとはな……油断したか……」
その一撃が決め手となり、シャドウは倒れた。
マールは赤い瞳を爛々と光らせて、スプラシューターを構え直した。
「……もう、こんなに塗っているとは!」
シャドウはリスポーン地点から街を眺めていた。
気がつくと、既にエリアの半分以上をマールのインクが塗り潰していた。
残り時間は1分30秒、シャドウは反撃するべくリッター4Kを構え直した。
「ウアアアアアアアアアアアア!!」
マールはスペシャルウェポン「スーパーチャクチ」を使い、シャドウ目掛けて突っ込んできた。
「ぐうっ!」
シャドウは直撃せずに済んだが、衝撃波でダメージを食らった。
それでも体勢を整えたシャドウは、トラップを設置してマールを足止めし、彼女の背後に回り最大まで溜めたリッター4Kを撃つ。
「アアアアアアアアアアアアア!!」
マールは致命傷を負い、リスポーン地点に飛んでいった。
シャドウは今がチャンスと街を塗り返す。
リッター4Kは一撃の威力が大きく、一発放つだけでどんどん塗り返していく。
さらにスペシャルウェポン「アメフラシ」の効果もあって、マールの行動を制限してさらにエリアも広がった。
そして、残り時間は5秒となり、シャドウは最後のチャージを放つ体勢に入る。
「これで……最後だ!!」
そして、シャドウのリッター4Kが炸裂した瞬間、タイムアップを迎え、試合は終了した。
結果は、もちろん――
「僕の勝ちだ!」
シャドウの勝利で終わった。
「……う……ここは……?」
シャドウがナワバリデュエルに勝利した事で、キーラに操られたマールは正気に戻った。
マールは何が起こったのか覚えていない様子でぱちぱちと瞬きした。
街のインクは、すっかり消えて元に戻っている。
「僕がナワバリバトルに勝ったところだ」
「あの、なんで私がここにいるんですか?」
「キーラって奴に操られていたのよ。シャドウが元に戻したから大丈夫」
「え……あや……つ……られ……きゃあああああああああ!」
自分が操られていた事を知ったマールはショックを受けてシャドウに駆け寄る。
しかし、マールの方が体格は大きかったため逆にシャドウを潰しかけた。
「……や、やめろ……」
「あ、ごめんなさい」
マールは慌ててシャドウから離れ、謝る。
「えっと……シャドウ」
「ああ、僕だ。シャドウ・ザ・ヘッジホッグだ」
「また会ったね、シャドウ! マールだよ! ……あれ? あなた、どうしてファイターになってるの?」
マールは、シャドウがこの大乱闘に参戦している事に疑問を抱く。
すると、シャドウはそれに答えるように黒いファイターパスをマールに見せた。
「これがあるからだ」
「これは?」
「テンポラリーファイターパスというものだ。まぁ、所謂……非公認ファイターの証だな」
このテンポラリーファイターパスは、ファイターでない者もそれと同じ力と権利を得る事ができるものであり、
最初、マスターハンドは出し渋っていたが、従者の思いに折れてついに取り出したのだ。
「やったぁ! 正式じゃないとはいえ、シャドウと一緒に戦えるなんて嬉しいよ!」
マールは満面の笑みを浮かべて万歳をした。
以前に二人きりで話した事があり、その時は緊張しまくっていたが、現在はこのように打ち解けているのだ。
「これにて一件落着、だな」
「そうね。じゃ、マール、あんたはこれから私達の仲間になって、この世界を救うのよ」
「世界を救うのか……。ちょっと怖いけど、やってみるよ! みんな、よろしくね!」
「ああ、よろしく!」
こうして、新たなる仲間、インクリングのマールを加えた一行は、キーラから解放した街を後にするのだった。
~ベルのスピリッツ名鑑~
出身世界:地球
性別:女性
ある事件がきっかけで、樹と共にミラージュマスターに覚醒する。
努力家で、思い立ったら一直線な性格。
パートナーミラージュはマルスの婚約者シーダ。
身長160cm、Fカップ。
ドック・ルイス
出身世界:地球
性別:男性
リトルマックのトレーナーで元ヘビー級ボクサー。
引退後は酒浸りの毎日を送っていたが、マックと出会って禁酒、彼をボクサーとして鍛え上げた。
レディ・ポリーン
出身世界:キノコワールド
性別:女性
マリオの元恋人で、スタイル抜群な美女。
初代ドンキーコングに攫われるが、マリオの手によって助けられる。
だが、ピーチ姫が現れた事でマリオから身を引く。
ちなみに、別れた後はマリオの友人となっており、恋人の頭の悪さに愛想を尽かして振った女性バンディクーとは大違いだ。
シャーロット・オーリン
出身世界:こことは異なる世界
性別:女性
ジョナサンの幼馴染で、魔法使いの少女。
まだまだ未熟なジョナサンをサポートするため、彼と共に、悪魔城に乗り込む。
オイルパニック
出身世界:平面世界
性別:なし
まずい! 天井のパイプからオイルが漏れ出した!
火事にならないように、漏れ出したオイルをバケツで受け止め、下の人にわたしてください。
でも、バケツはすぐにいっぱいになるし、下の人は動いているしで、もうタイヘン!
TRAILER
出身世界:とある小世界
性別:なし
SPEED TRAXのボーナスステージに登場する車。
トラックのようなボディ形状をしており、パワーがあるが加速が悪く、ステアリングも重い。
うんてんしゅ
出身世界:どうぶつの森
性別:男性
村と街を繋ぐバスの運転手。
実はかっぺいが転職した姿であり、たびたび仕事を変えるが、人を運ぶ仕事にこだわりがあるようだ。
腹式呼吸
出身世界:地球
性別:なし
胸郭をなるべく動かさずに行う呼吸。
また、声を良く出すために呼吸を工夫する事を、「腹式呼吸」という言葉で示す事もある。
――以上、「うきぺであ」より。
カイル・ハイド
出身世界:地球
性別:男性
215号室に泊まる、元ニューヨーク市警の刑事。
仕事の傍らで、友人のブラッドリーを捜している。
無愛想だが、お節介で落ち込みやすい性格。
名探偵ピカチュウ
出身世界:ゲフリアース
性別:♂
ティムの相棒のピカチュウで探偵帽を被っている。
ある世界のニャース同様、人語を話す事ができる。
好物はコーヒーとお菓子。
インフィニット
出身世界:こことは異なる世界
性別:男性
仮想現実兵器ファントムルビーを使う、仮面をつけた謎の獣人。
元々は「チームジャッカル」のリーダーだった。
ある時、シャドウから屈辱を受けたため、貪欲に力のみを求めるようになった。
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シャドウは銃を持っていた方がいいと思っている私。
そんなわけでこの小説では彼がメインです。