No.1056483

艦隊 真・恋姫無双 155話目 《北郷 回想編 その20》

いたさん

そろそろ終わりが見えた……かも。

2021-03-10 15:07:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:652   閲覧ユーザー数:631

【 衝撃 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊側 にて 〗

 

 

 

『フフフフ……………今度コソ…… 絶望ヲ抱キナガラ……冷タキ水底ヘ…… 落チテイクガイイ!!』

 

 

南方棲戦姫は凄絶な笑みを浮かべつつ、16inch三連装砲を発射。 こちらの艦隊の目前にて水柱が数本上がった。

 

攻撃を受け慌てて退く艦娘達だが、それを見たネルソンが大声を上げ警告する。

 

 

『気をつけろ! 敵は前方ばかりじゃない!』 

 

『───えっ!?』

 

 

南方棲戦姫に当てるつもりはなく、ただの牽制。 

 

しかし、無駄弾にする気などなく、味方の前方が上がった数本の水柱の為に視界が遮られる。

 

唐突な現象に思わず唖然とする艦娘達の上空から、高速で飛来した物より洗礼を受けることになった。

 

 

『ひゃああああああッ!!!』

 

『────潮ッ!?』

 

『やはり、前方の視界遮蔽と艦戦の動きを隠す陽動か! 全艦、上空の艦戦にも必ず目を放すな!! 瑞鶴と潮は余の後方に退け!』 

 

 

先に起こした砲弾の爆発により、高く上がった水柱で相手の気を引くと同時に、前方の視界を見えにくくする。 そうすれば、相手の目標は一時的だが消える。

 

そして、先程まで南方棲戦姫の上空を旋回していた艦戦……《深海棲艦戦 Mark.II》は、此方の制空権を容易く掌握し、攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

勿論、艦戦ゆえに艦爆や艦攻ほどの威力は無い。 敵艦載機を攻撃して制空権を支配するのが役目。 

 

艦娘を轟沈をさせるほどの火力が足りないのは、南方棲戦姫も承知の上。 そのお陰で、被弾した艦娘達に損傷は殆んど出ていない。 被弾した潮も瑞鶴と共に無事退いた。

 

 

だが、そんな艦戦にも───使い道はある。

 

 

『────いったぁ~い! このっ! あ、外れたっ!!』

 

『雷ちゃん、そっちに………はにゃあーっ!?』

 

 

機動力あり、機体も小さく、対艦載機だから回避能力も高い。 故に、撹乱工作に都合がいい。

 

実際、周辺を飛び回られるのは非常に鬱陶しいので、気が散る、目標が定まらない、連携が難しい、単純に邪魔。

 

まるで、夏の夜に飛ぶ蚊の如く、機動的には蝿に近い。 生物学的に言えば、蝿のスピードはジェット機並みとのことゆえ、満更間違えでもないかもしれないが。

 

その隙に、南方棲戦姫が持つ16inch三連装砲を放ち、戦力を削ろうと密かに目論んでいたのだが────

 

 

『潮! 大丈夫ッ!?』

 

『瑞鶴さん…………は、はい! だ、大丈夫です! 何か、よく分からないのですが……きょ、胸部に当たって……跳ね飛ばしてしまい……』

 

『─────グハッ!!』

 

『え、えぇッ!? ず、瑞鶴さん!? 瑞鶴さんッ!!』

 

 

だが、この作戦で……まさか最大の邪魔になるであろう正規空母を大破させるという、とんでもない大金星を上げる事になるとは、当の南方棲戦姫も予想外の戦果であった。

 

 

 

【 作戦 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊側 にて 〗

 

 

 

『……………南方棲戦姫の奴め! 許さん!!』

 

『ひゅ、日向さん………私は……大丈……』

 

『此れ見よがしに艦戦を飛ばすのは、航空戦艦になれない私への、私への当て付けなのかぁぁあああぁぁぁ!!』

 

『………も~う、やぁだ! ふてくされてや~るッ!!』

 

 

瑞鶴が大破?して、皆の士気?が高揚する中、南方棲戦姫は艤装の砲を疎らに放ち、一定の距離を保ち続ける。

 

これは南方棲戦姫だけではなく、連合艦隊も同じ戦法である。 連合艦隊の艦娘達は損傷が激しく、一度でも被弾すれば轟沈して、南方棲戦姫の言う通りになってしまうからだ。

 

だから、被弾を避けるべく距離を開けているのである。

 

だが、当然それだけではなく、反撃する作戦を準備するために、艦娘達に隠れるように集まり相談していた。

 

 

『今のままだとIt will only worsen over time!(時間経つにつれ、悪くなるだけだ!) 頼むぞ、ナガート!!』

 

『私達が迂回し、側面から攻撃を仕掛ける……か。 皆の損傷を考えれば、仕方が無いな』

 

『上手く立ち回ってくれれば、余がNelson Touch(ネルソンタッチ)で片付けてくれる!!』

 

 

謎の回復で心身ともに正常に戻った長門達に、とある作戦をネルソンが提案、危険を承知の上で、この迂回作戦に参加してくれるように頼んだ。

 

南方棲戦姫が巻き起こす水柱を逆に利用し、起きた水柱を隠れ蓑に飛び出し、側面より砲撃して欲しいとの事。

 

そうすれば、南方棲戦姫が反応し長門達に反撃、その時にネルソン達が前に出て、Nelson Touchを発動、轟沈させようという計算である。 

 

これは、別動隊に横槍を突かせ、混乱した折に挟撃して打倒する古今東西において有名な作戦であり、孫子兵法九地篇の『常山蛇勢』にも通じる策でもあった。

 

 

余談だが、成功例も多く……

 

 

・アレキサンダーの『ヒュダスペス河畔の戦い』

 (川を挟んで対峙、その間に別動隊で仕掛ける)

 

・ハンニバルの『トラシメヌス湖畔の戦い』

 ( 十面埋伏の元? 複数の伏兵を配置 )

 

・韓信の『井陘(せいけい)の戦い』

 (《背水の陣》の語源 籠城する敵を囮で誘導 )

 

・織田徳川連合の『姉川の戦い』

 (榊原隊の迂回攻撃。 その前に本多が朝倉勢に単騎駆け)

 

 

………と枚挙に暇がない程である。

 

勿論、Nelson Touchが失敗、もしくは南方棲戦姫がネルソン側、長門側へ一方へ攻撃しても、その時は損傷した艦娘達も投入し、数と挟撃で翻弄させる二段構えとなっていた。

 

 

『………考えはいいと思うぜ。 でもよぉ、俺達も向かわなきゃいけねぇのか? コイツらのお守りや提督とか……』 

 

『それに、私達も含めると、別動側に火力が傾くから、守備する側が苦しくなちゃうけど大丈夫~?』 

 

『そこは既に考えている。 余と、雷や電が守備側へ回ろう。 ついでにポーラとザラ、そして……グラーフもな。 これなら、戦力的には間に合うだろう』

 

 

更に、天龍、龍田からも意見が挙がり、色々と擦り合わせた結果、このような主力の配置が決まった

 

 

★☆★          ★☆★

 

 

長門、天龍、龍田、ウォースパイト……別動隊として迂回。

 

ネルソン、雷、電、ザラ、ポーラ、グラーフ……他の艦娘達への支援及び主力扱い。

 

金剛……一刀の護衛。

 

★☆★          ★☆★

 

 

一刀の護衛は金剛一隻となっているが、あくまで主力が一隻ということで、他の艦娘で相談し合い、状況を見て誰かが応援で駆け付けてくれる予定となっている。

 

こうして、手短に作戦と配置を決めると、あとは南方棲戦姫に仕掛けるタイミングを図るだけであった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 突撃 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊側 にて 〗

 

 

 

何度目かの攻撃で水柱が大きく天に昇ると、ネルソンのハンドサインが示され、長門達が素早く動き出した。

 

海上を走りながら標準を定め、艤装の主砲を南方棲戦姫へと合わせる。 有効射程距離に入れば、すぐさま攻撃が出来るようにと、準備を冷静に整え相手を確認した。

 

自分達の役目は、この最初の一撃で勝負が決まると言っても過言では無いため、自ずと胸が熱くなる。 勝負は一瞬、慎重に、されど大胆に、相手へ攻撃を叩き込むつもりだった。

 

 

だが、その前提が……大きく崩れる。

 

 

『………なん……だと!?』

 

『おいっ! 情報と違うじゃ──グッ!!』

 

『天龍ッ!! ……………You're kidding! ?(嘘でしょ!?)』

 

 

迂回しようとした先に現れたのは、南方棲戦姫とは別の深海棲艦。 防御寄りに力を寄せた重巡ネ級、かの者を旗艦にした艦隊が、長門達の行方を阻むかの如く出現した。

 

そして、重巡ネ級の艤装、双頭の主砲から白煙が棚引くのが見え、その砲弾が天龍の肩に被弾し、中破に近いダメージを与えられたのがハッキリと分かる。

 

 

『……クソがっ! 開幕早々……このオレが……!!』

 

『一体……イツカラ─────』

 

『皆、一度退くぞ!! このままではッ!!』

 

 

長門達の行動は有利か不利にと形勢が傾き、南方棲戦姫の追い詰められた苦渋の表情から、ドヤが………勝利を確信した笑みを湛え、自慢げに何かを告げようと近付いた。

 

だが、今の長門に聞く耳は無し。

 

被弾した天龍を肩で支えながら、戦線を離脱する決意し味方へ声高らかに叫び知らせる。 不測な件が起これば、即座に撤退を指示する長門は、やはり優秀とい言えよう。

 

だが、その叫びと同時に、南方棲戦姫の冷たく低い声が長門の耳へ入る。 それは聞きたくもない、絶望的言葉。 

 

その南方棲戦姫の言葉に追随するが如く、後方の龍田から哀しげな報告も伝えられる。

 

 

『相手ガ……目ノ前シカ……居ナイナドト……錯覚シテイタ?』

 

『長門さん………残念だけど、もう遅かったみたい……』

 

 

退却しようと方向変換した龍田の目前には、軽母ヌ級や軽巡ホ級を混ぜた艦隊が、帰還を邪魔するように遮っていた。

 

 

★☆★

 

 

『何だとッ!? まだ、残存の深海棲艦が居たのか!!』 

 

『えぇぇ、敵ですかぁ~?  ヒック! どこ? どこ? 』

 

『あそこだ! ナガート達が囲まれているッ!!』

 

 

長門達の様子を気に掛けていたネルソンは、いち早く異常を察知し、他の艦娘達に確認させる。 そんな艦娘の一隻であるポーラは酔眼を擦りつつ、一緒懸命に探す。

 

姉であるザラから、この世の恐怖を味わされたのだ。 流石に、また受ける気は無いらしい。 次は無いと言われているのだ、その分頑張っているのをアピールしているらしい。

 

 

『あっ、ほんとだ。 たいへーん、砲撃戦~準備ですぅ~』

 

『敵艦発見、砲戦用意! ほら、ポーラも早くっ!!』

 

『は、はぁ──いぃっ!? あわわわ、お酒のび──』

 

 

敵艦の攻撃が予定より早くなった為、ネルソン達の隊列の動きに齟齬が生じ、攻撃が遅くなってしまう。 だが、ネルソンは、戦場で予測不能の出来事はよくある事と動じない。

 

 

『いいか! 狙いは、南方棲戦姫……ただ一隻! 他には目もくれずfire away!!(どんどん射ちまくれぇ!!)』

 

『あ、あれぇ~? 長門さん達を助けるんじゃ………』

 

『大元を撃破すれば自ずと崩れる! 例え撃破できなくても、守りを固める動きがあれば、ナガート達も逃れよう!』

 

 

ポーラに言い含めた後、ネルソンは必殺とも言えるNelson Touchの準備を整えようと動作を起こす。

 

かの名将ホレーショ・ネルソンが、トラファルガー海戦で敵連合艦隊を圧勝した必勝とも言える戦法。 この戦法が成功すれば、間違いなくネルソン側へ勝利が傾く。

 

だが、ネルソンは……侮っていた。

 

南方棲戦姫の放った攻撃は、既にネルソンを標的と狙い、虎視眈々と最大の機会を窺っていたという事を。

 

 

『態勢を直した後、余のNelson Touchを喰らわせて───ウワァッ!?』

 

『─────ネルソンさんッ!?』

 

 

ネルソンの艤装目掛け、飛び込む飛行物体が大爆発!

 

南方棲戦姫の放った刺客の刃が、態勢を整えたネルソンへ激しい爆発と衝撃を伴い、その作戦と合わせ大打撃を与えた。

 

その爆発で海上を二転、三転し、うつ伏せで浮かぶネルソンへ近くに居たザラが大声を上げて駆け寄る。 

 

 

『──────!!』

 

『…………うぅぅ………』

 

 

近くに寄れば、着衣も艤装もボロボロ。 着ていた軍服は所々が破け、自慢の艤装も使い物にならない。 それに、ネルソン自身も完全な大破の姿で苦し気に唸っている。

 

先程まで余裕綽々だったネルソンの大破した姿に驚き、ここが戦場だというのも忘れて、ザラは唖然としてしまう。

 

 

『何で………まだ南方棲戦姫は……砲撃なんて………』

 

『ザラ姉さまッ!! 危ないッ!!』

 

『─────ッ!!?』

 

 

そんな彼女にも、ネルソンの時と同じ《何か》が飛び込んできたが、逆に横からも阻む物が飛び込み、双方が激突し爆発四散した。

 

普通ならば、援護で砲弾が発射された、それとも誰かが身代りとして飛び出したか……と考えるのが普通。

 

だが、実際は違う。

 

それは…………

 

 

『───意外! それは酒の空瓶ッ! なんちゃてぇ~』

 

『………………………ポーラ!?』

 

『あっ! 良かった、ザラ姉さまッ!! ご無事で~!!』

 

 

……………謎のポーズで投擲した物を答えた後、ザラの言葉に振り向き、嬉しそうな笑顔で抱き付く。

 

これは、ザラの危機と見たポーラが手持ちの空瓶を投擲し、

飛来して来た《何か》と衝突させ、物の見事に爆発四散させた結果である。

 

結局、ザラが受けたのは……衝撃より生じた強風のみ、ザラの横を慌ただしく通り抜けただけで済んだ。

 

 

『えっ? ええッ!? Chi diavolo ci ha teso un'imboscata!?(一体どうなってるの!?)』

 

『ふ、不覚! ビッグセブンと言われた余が、こ、この程度で。 だが、責務も終わらないうちは………沈まんぞ!!』

 

『ね、ネルソンさん! Va bene(大丈夫ですか)!?』

 

 

今になり状況を思い出したザラは、立ち上がろうとするネルソンに駆け寄り肩を貸し、ポーラも渋々ながら手伝う。

 

 

『ザラと……イタリアの小娘か。 すまん、心配を掛けたな。 大丈夫……だ。 まだ、戦える………』

 

『ふふ~ん、これで貸し一つで~す。 御礼はラム酒で──痛ぁぁぁッ!! ひ、酷いですよ~、ザラ姉さま!』

 

 

仲間を助けて御礼を強要するポーラに、拳骨という教育的指導を行った後、息が荒いネルソンに改めて尋ねた。

 

回りを見渡して、あの攻撃を受けた者は他に居ないことを確認、安堵したネルソン。 

 

 

『────ネルソンさん! 一体、どんな攻撃を受けたんですか!?』

 

『その前に、今この場に居る艦娘へWarning( 警告 )を頼む! 《敵の艦載機を最大限において注意せよ!》と!』

 

『分かりました! ポーラ、お願いッ!!』

 

『D'accordo!(了解で~す!)』

 

 

ザラは、ネルソンの言葉を聞いていただろうポーラに伝令を頼むと、ニッコリと笑い他の艦娘達が居る場所に向かう。

 

艦載機と言っていたので、警戒して一回りして見ると、この近辺では約十機程。 効かないと思われる攻撃、艦娘の周辺を飛び交う鬱陶しさは、先程と比べても変わらない。

 

それなのに、何故警告するのかと思っていると、急に引っ張られ、思わずネルソンの顔当たりに接近する。

 

思わず叫び声が出そうだったが、ネルソンから辿々(たどたど)しい話が聞こえてきた。

 

 

─────それは、ネルソンを襲った攻撃の正体。

 

 

『お前達も……気を付けろ! 余の受けた攻撃したモノ……そして、ポーラがザラの代わりに阻止したモノは………』

 

 

『敵艦載機の………Kamikaze Attack(神風攻撃)……だ!』

 

 

 

◆◇◆

 

【 陰謀 の件 】

 

〖 南方海域 深海棲艦側 にて 〗

 

 

 

『ククク………上手ク……動揺ガ……誘エタ………』

 

 

南方棲戦姫は全体を見渡して、聞こえないぐらいの小声で言葉を漏らす。 これで、ようやく………かの男に雪辱を果たす事が出来ると、口角が無意識に上がるのが分かる。

 

今まで何度も挑み撃退され、この度に悔し涙を呑んでいた南方棲戦姫は、ようやく勝利を掴める道筋を得たのだ。

 

 

『コレデ……ヤット……溜飲ヲ下ゲレル………』

 

 

自分の所持していた艦載機を、こんな無駄使い的な使用をするなど、正に常軌を逸脱するやり方。 幾ら深海棲艦といえど、あまりにも非常識な行動である。

 

だが、南方棲戦姫は微塵も後悔などしていなかった。 

 

 

 

────最初は、遊び感覚で面白そうな人間を捕まえ、その人間に欺かれた哀れな贄どもを、暇潰しに阿鼻叫喚溢れる地獄を見せてやるつもりだった。

 

だが、《 窮鼠猫を噛む 》の諺通り、その贄から手痛い反撃を喰らい、流石に侮れなくなったのだ。

 

しかも、自分達や艦娘達とは違う、摩訶不思議な強者が多数出現、此方の予備戦力を全て削られる、実に手痛い反撃を受けてしまう失態まで演じる事態に陥ってしまう。

 

そして、再三再四………あらゆる手を使い襲うのだが、決定的なダメージが加えられないままだった。

 

 

『ソレニ比ベ……贄ヲ……襲ッテイタ……味方殺シ……ドモハ……実ニ……嗜虐心(しぎゃくしん)ヲ……高ブラセル……性根ノ腐ッタ……輩……ダッタワ。 オ陰デ……手駒ガ……増エタ……』

 

 

味方殺しと蔑むのは、練度を上げる為に三本橋に協力していた艦娘達。 三本橋の腰巾着であった司令官に媚び、練度の割には実戦経験が少ない者達でもある。

 

そんな輩ゆえ、南方棲戦姫が贄と言う、練度の低い艦娘達を襲撃した時、彼女達へ敵を押し付け逃亡を図った。

 

だが、頼みの綱である司令官を頼ろうとして拠点へ逃走すれば、既に三本橋を配下にした南方棲戦姫と戦艦レ級が待ち受けていて、彼女達の餌食となるのは当然の結末。

 

散々命乞いをするが、戦艦レ級、南方棲戦姫からの執拗な地獄の責め苦を受けて轟沈。 しかも、深海棲艦化したので、仲間だった長門達と対峙している真っ最中である。

 

ただ、無駄に練度が高かっただけあり、上級の深海棲艦化になれたのは、実に皮肉な話であったが。

 

 

『………邪魔ナ……庇護者ガ……消エ……指揮スル者モ……倒レタ。 後ハ……精神的支柱ヲ……滅スレバ………』 

 

 

そう言うと、艤装より一機の艦載機を召喚する。 

 

それは、本来、南方棲戦姫が装備する筈の無い──深海棲艦爆 Mark.II。

 

連合艦隊の提督とはいえ、とどのつまり、ただの人。 当初は自分の砲撃で一瞬の内に一刀を屠る予定だった。

 

 

『憎キ…………北郷………一刀…………』

 

 

しかし、南方棲戦姫の増大した恨みは、そんな生易しいことでは晴れない。 戯れのつもり手を出したのに、大火傷を負わされたのだ。 余りにも手緩い仕返しではないか、と。

 

そのため、砲撃は取り止めた。 

 

姫級深海棲艦たる自分が行う高尚な遊戯に、たかが人間という矮小な種族が抗った、浅ましき行動を咎める為に。

 

自分に《恐怖》という不愉快な感情を芽生えさせ、何度も刃向かう愚者共の罪を裁き、徹底的に戒める為に。

 

 

『頃合イハ……良シ。 出撃……セヨ! アノ男ニ……心胆ヲ……寒カラシメル……攻撃ヲ……実行シナサイ!!』

 

 

瞬時に撃破しても相手に痛みも、苦しみも、恐怖さえも感じさせず屠る《慈悲》など、誰が掛けてやるものかと!

 

寧ろ、艦爆より爆弾が投下され、僅かに見えるであろう光景を目に焼き付け、様々な感情の渦に苛まれよと!

 

その後に、北郷一刀だった《物》へ問いかけるのだ。 

 

 

愉悦にしたりながら───

 

 

手助けも出来ず、無念に轟沈していく艦娘の有り様は?

 

逃げ道の限られた船内で、急速に迫る爆弾の恐怖は?

 

翻弄された艦娘達が仰ぎ見たであろう、水柱で出来た墓標の感想は?

 

 

───艦娘達が轟沈する直前、その目の前で。

 

 

『………北郷一刀……………絶望セヨ!!!』

 

『貴様ヲ……護ル者ガ……如何ニ無力……ダト……知リ……無駄ナ……足掻キヲ……繰リ返セ!』

 

 

深海棲艦爆 Mark.IIを発艦させた後、恨み辛みで濁る赤き目を一刀の乗船する方向へと睨みながら、声高らかに呪詛の言葉を叫ぶ、南方棲戦姫であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★  ★☆★  ★☆★

 

最後まで読んで頂き、有り難うございます。

 

下記の話は、没ネタをオマケとして再編成した物です。 同じ文書部分は省略してあります。

 

とある有名な漫画で使用されていた名言を参考に、色々とアレンジをさせて頂きました。

 

楽しんで頂ければ、幸いです。

 

 

 

 

◆◇◆

 

【 突撃(オマケ) の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊側 にて 〗

 

 

 

『あっ、ほんとだ。 たいへーん、砲撃戦~準備ですぅ~』

 

 

『こら、待てぇ!! 何で余に砲を向ける!?』

 

『ザ~ラ姉ぇさまぁ、心配しないで~も大丈夫ぅ! ほらぁ、ポーラは、このとお~り────ヒッ!?』

 

 

だが、ポーラは最後まで言えなかった。 

 

横から伸びてきた片手がポーラの顔を掴み、にこやかに嗤う姉が徐々に距離を詰めて来る。

 

 

『……………ポーラ! 貴女、呑んでいるわねッ!』

 

『───ブンブン(首を必死に横へ振る)』

 

 

顔を掴まられているため、申し開きが出来ないポーラは必死に《否定》のジェスチャーを繰り返す。

 

しかし、そんなポーラの顔周辺をザラはクンクンと犬のように嗅ぎ、表情を曇らせる。

 

 

『この臭いは! ………ウソをついてる『臭い』ね……』

 

『そ、そんな筈は……! お酒の臭いを消すため、香水を沢山振り撒いたのにぃぃぃ………ハッ!?』

 

『やはり……ですか。 さて、お仕置きの時間かしらポーラ』

 

 

ポーラの発言により、黒と断定したザラの表情は笑顔。 だが、ポーラが映し出される目の奥には、怒りの炎が見える。

 

 

『ざ、ザラ姉さま! 落ちつきましょう!! 《素数》を数えて落ちつきましょう! だ、だって……ほ、ほら! 今は戦場だし~! 敵が長門さん達を襲っているしぃ~!!』

 

『…………確かに、今の状況なら……そうでしょう』 

 

『………ふう~~~』

 

 

必死の説得により、一時的ながら回避できたと安堵するポーラ。 その後の事は、その時の自分に任せると、華麗にザラからの小言を反らした。

 

だが、既に……遅い。

 

 

『───だけど、断りますッ!』

 

『えぇぇぇッ!? な、ななな、何でぇぇぇッ!?』 

 

『貴女は……ザラを怒らせたのよ!! あれほど、言ったのに……お酒を呑むなと………!!』

 

 

ポーラが涙ながらネルソンを見るが、ネルソンは諦めろとばかりに首を横に振る。 下手に援護すれば、その禁酒の命令が自分に降りかかるのは自明の理だからだ。

 

こうなればと、敵である南方棲戦姫に視線を送ると、自分は関係無いと言わんばかりに、吹けない口笛を吹いて誤魔化している。 

 

何でもザラの視線は……養豚場の豚でも見るかの如く冷たい残酷な目をしており、《可哀想だけど明日の朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね》という感じだったと、後に語る。

 

勿論、他の深海棲艦、長門達も交戦を中止し、どうなるか興味深く様子を窺っていた。

 

 

『え、えぇーと、それじゃ………禁酒しますぅ! は、反省してぇ、明日から一週間!!』

 

『No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No』

 

『────ッ! じゃあ、1ヶ月ですかぁ!?』

 

『No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No、No』

 

 

ポーラの答えに対し、まるで壊れた機械のように否定の言葉を並べるザラ。 因みに、イタリア語で《いいえ》を意味する否定の言葉だ。

 

更に期間を伸ばして許しを請うのだが、ザラから肯定の言葉は未だに聞けない。

 

そして、ついには────

 

 

『も、もしかしてぇ………生涯……禁酒ですかぁぁぁ!?』

 

『Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si、Si』

 

 

ポーラが悲壮な言葉を絶叫すると、今まで見たことのない満面な笑みを浮かべたザラが、肯定の言葉を繰り返す。

 

言わずと知れず、Siは《はい》で肯定の言葉だ。

 

その言葉を受け、そのまま崩れ落ちるポーラ。 何時もは眠そうな目がカッと開かれていたが、みるみる内に涙が溜まり、それが一筋流れて頬を伝わる。

 

 

『う~ううう、あんまりですぅ………あァァァんまりですよオオオオ~~!! ごめんなさい! ごめんなさいッ!!』

 

 

広大な大海原に、ポーラが姉に対し謝罪する声が、何処までも何処までも響いていくのであった。

 

 

 


 
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