魔女を倒して、一週間後。
ジュウげむによれば、あの殺人事件は、無かった事になった。
大澤ひかりは生きているし、溝渕容疑者からも記憶が消えている。
「あれは本当だったのか……?」
だが、恭一はあれが本当にあった事かどうか、自信がなかった。
ジュウげむは、魔女を倒した後、「魔法少女を生み出す者」と言っていた。
それはつまり、誰かと契約し、魔法少女にしようとしている、という事……。
「おにぃ、つまんないね」
「ああ……だが今は世界が大変な事になっている。俺達でできる事をしなきゃいけない」
高校が疫病蔓延で休校になっている中、恭一は自室でゲームをしていた。
内容は、魔物を捕まえてペットにするRPGだ。
「よし、捕まえた!」
「やあ」
恭一が魔物を捕まえたその時、恭一の前にオッドアイの生き物……ジュウげむの姿が現れた。
「わっ!」
恭一は驚いてゲーム機を手放しかけるが、何とか持ち直す。
その後、恭一は警戒し、ゲーム機を置いた後、バットを持ってジュウげむと話した。
「またお前か……。何しに来た」
「何って、この疫病を鎮めるための方法を実行した、と報告しただけだよ」
「……奈穂子はどうした」
まさか、奈穂子を魔法少女にしただろうな、という感情が、恭一の中にはあった。
ジュウげむは表情一つ変えずに言った。
「奈穂子は魔法少女にはしてないよ。というよりも、奈穂子がまた断ったからね。流石のボクも、諦めたよ」
よかった、と恭一は安心し、バットを元の場所に戻した。
いくら何でも、それだけで攻撃するのは良くない、と恭一も判断したからだ。
「さて、ボクはそろそろ行くよ。災いに沈む世界は、救わなくちゃね」
そう言って、ジュウげむは姿を消した。
「災いに沈む世界を救う……か。信用ならねぇが、その目的は評価しよう」
正直、ジュウげむは信用できなかったが、世界を救おうとしている姿勢は評価した。
その頃、町では、一人の少女が異形の魔物と戦っていた。
間違いなく、魔女の使い魔だ。
少女の手には巨大なハンマーが握られており、衣装も制服ではない、ファンシーなものだった。
「でぇいやぁぁぁぁぁっ!」
少女は勢い良く、ハンマーを振り下ろす。
その衝撃波が使い魔に命中すると、使い魔は鳴き声と共に弾け飛んだ。
ばしゃん、という音と共に、水が降りかかる。
少女とジュウげむの身体は、何故か濡れなかった。
「はぁ、はぁ……。使い魔ばかりが襲ってくるわね」
「まだまだ、油断は禁物だよ」
「ええ……」
少女はもう一度、ハンマーを振り回した。
「頑張ってね。ボクは少し、用があるからね」
そう言って、ジュウげむはどこかに飛び去った。
その頃、恭一は……。
「やった! レッドドラゴンを捕まえた! ……よし、これくらいかな」
伝説の魔物を捕獲し、セーブしてゲームを終わらせていた。
「うわぁっ!?」
その時、窓から光が飛んできた。
ジュウげむだ。
「ちょっとキミに、倒してほしい敵がいるんだ」
「なんだと? 外出はするなと言ったはずだろ?」
「大丈夫だよ、キミは理を外れた存在だから、どんな病気にもかからない」
「……?」
訳の分からないジュウげむの発言に、恭一は頭を捻った。
しかし、敵がいるのならば、放っておくわけにはいかない。
「……分かった、行くからな。悪いが、母さんや妹に見つからないようにしてくれ」
「それはちゃんと保証するよ」
そう言って、ジュウげむは恭一を連れて、瞬間移動するのだった。
「わっとと!」
恭一は何とか地面に着地する。
そこは、真字駆市内を流れる川の河川敷だった。
すると、ハンマーを持った魔法少女が、魔物と戦っている光景が見えた。
「な、なんだあれは……? しかも、女の子が戦ってる……」
「そう。彼女が魔法少女、安養寺まり恵だよ」
「まり恵……」
既に、一人の少女が魔法少女になっていた。
恭一は悔しさで歯を食いしばる。
「そんなに悔しがる必要はないよ。キミが好きな奈穂子は魔法少女になってないんだから」
「でもよ……!」
「さあ、君も戦うんだ。魔女を倒し、災いを退けよう!」
「……ああ」
恭一は一瞬躊躇ったが、すぐにまり恵がいる場所に向かった。
「助太刀するぞ!」
「あ! あんたは……?」
「そんな事はどうでもいい! 使い魔を倒すぞ! 世界よ、俺に力を貸してくれ!」
驚くまり恵をよそに、恭一は剣を呼び出し構える。
そして、使い魔の群れに突っ込んでいった。
「ピギャアアアアアアアアアアア!!」
使い魔は叫び声を上げて、襲い掛かってくる。
恭一は使い魔の動きを見切り、剣で反撃した。
まり恵は使い魔が集まったところにハンマーを振り下ろし、まとめて攻撃した。
その一撃で、使い魔は大ダメージを受けたが、まだ消滅していなかった。
「まだなの!?」
「後は俺がやる! 食らえ!!」
恭一は剣を薙ぎ払い、使い魔をまとめて倒した。
これにより、使い魔は全滅した。
「よし、使い魔はみんないなくなったな」
「後は、災いの元凶である魔女だけね」
いつ、魔女が来てもいいように、恭一とまり恵が武器を構え直す。
すると、地面の中から、黒衣を纏った美しい女性が現れた。
女性はすすり泣きながら、河川敷を徘徊している。
恐らく、これこそが「魔女」なのだろう。
「来るわよ!」
「ああ!」
すすり泣いている魔女に向かって、まり恵はハンマーを振り下ろした。
だが、攻撃は跳ね返され、魔女は平然としていた。
「あたしの攻撃が効かない!?」
「こいつは頑丈なようだ。だが、弱点はあるはずだ。そこを突けば、大ダメージになる!」
「そうね!」
恭一とまり恵は、魔女の弱点を突くために魔女から逃げ回っていた。
だが、どこが弱点なのか、分からない。
そうこうしている間に、魔女が叫び声を上げる。
「くっ……!」
「きゃぁぁ!」
叫び声を聞いた恭一とまり恵が転倒する。
魔女は徐々に、二人に迫っていく。
そして、その大きな足が二人を捉え、押し潰そうとした時――ジュウげむが何かに気づいた。
「二人とも! あそこの足に、小さな傷があるよ」
「そこか! でも、届くか?」
恭一の剣とまり恵のハンマーは、あの足には届かなさそうだ。
だが、この場にいる者で戦えるのは、恭一とまり恵だけだ。
「あたしがハンマーであなたを吹っ飛ばすわ。上手く、弱点を突き刺してね!」
「ああ!」
恭一とまり恵は魔女と距離を取って、あの叫び声を食らわないようにする。
魔女は再び叫び声を上げるが、二人には届かない。
「よし! いくわよ! それっ!!」
まり恵は勢いよく、恭一の足元にハンマーを振り下ろした。
すると、恭一は衝撃で魔女目掛けて吹っ飛び、弱点目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。
「うおりゃあああああああああああ!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
そして、恭一が足の傷を剣で貫くと、魔女は一際大きな叫び声を上げる。
恭一とまり恵は、慌てて魔女から逃げた。
「どうだ!?」
恭一が飛び退き、魔女の様子を見る。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
すると、魔女が今までとは比べ物にならないほどの凄まじい叫び声を上げた。
その叫び声は徐々に強さを増し、物理的な破壊力を持つ音波となった。
恭一とまり恵は、押し潰されないように必死で耐え抜いた。
すると、魔女が女性の姿から20mほどの毛むくじゃらの巨人に変化した。
赤く虚ろな赤い瞳を持ち、その口からは絶えず絶叫を発している。
「これが魔女の本当の姿……!」
恭一とまり恵は、ごくりと唾を飲む。
最早その姿は、魔女というよりも、化け物そのものだった。
「魔女は本気を出したようだ。でも、諦めちゃダメだ。倒すんだ!」
「ああ、分かってる……!」
「それが魔法少女の使命ならば、やるしかないわ!」
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」
魔女は絶叫と共に豪腕を振り下ろす。
二人は何とか攻撃をかわしたが、あれを食らえば一たまりではない。
恭一は衝撃波を飛ばし、まり恵は勢いよくハンマーを振り下ろす。
だが、魔女にとってはかすり傷にしかならない。
「くそっ! なんて馬鹿力だ!」
「でも、諦めないで!」
魔女がその腕を薙ぎ払うと、水が一斉に襲い掛かってくる。
まともに食らった二人の身体がずぶ濡れになる。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」
「うああああああああああ!!」
「きゃあああああああああ!!」
すると、魔女は絶叫と共に全身から黒い雷撃を放った。
二人の身体は濡れているため、今、電気を通しやすくなっており、大ダメージを受けてしまった。
疲労も蓄積し、最早限界に近付いていた。
「どうするのよ……!」
「諦めるなって言っただろ……!」
恭一は力を振り絞って、もう一度剣を持ち直す。
「ギャアアアアアアアアアア!!」
魔女が絶叫しながら腕を振り回し、駄々っ子のように転げ回る。
恭一は見境なく暴れ回る魔女に、たった一人で立ち向かっていった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「子供みたいに暴れ回り、災いを撒き散らす……そんな奴は、この俺が許さない!!」
恭一は両手で剣を持ち、魔女の心臓目掛けて、剣を勢いよく突き刺した。
十字の光が現れ、魔女の身体が白く染まっていく。
魔女の身体は完全に真っ白になり、そして消えた。
まり恵の変身は解けて元の姿に戻り、恭一の剣も白い光となって消えた。
「よくやった!」
戦いを終えた二人の前にジュウげむがやってくる。
「これで、疫病蔓延はなかった事になった。やるじゃないか、二人とも」
「待ってくれ! 疫病って、一体何なんだ?」
「キミ達も知っているはずだよ。――新型コロナウイルス。世界中に恐怖と不安を撒き散らした病気。でも、もうそれはこの世界には存在しない。
今から時間は巻き戻り、その後に高速で進み、世界は正しい道に修正される」
つまり、高校が休校になった事はなかった事になり……日常を取り戻すのだ。
次の瞬間、周りの風景が歪む。
まるで、大きな渦の中に吸い込まれるようだった。
「……ここ、は?」
気が付くと、恭一は自室にいた。
ゲーム画面を見ると、何も映っていなかった。
起動してみると、レッドドラゴンを捕まえる前の状態に戻っていた。
「うあぁぁぁぁぁぁ~! くっそぉ~! レッドドラゴンを捕まえた事まで、なかった事にしやがって~!!」
せっかく伝説の魔物を捕獲したというのに、魔女を倒したせいで無かった事になった。
悔しがる恭一に、コン、コン、と誰かがドアをノックする音が聞こえてくる。
「誰だ?」
そう言って恭一がドアを開けると、そこにいたのは、母親だった。
「か、母さん……!?」
「恭一! もうすぐ遅刻しちゃうわよ! 早く準備をしなさい!」
「は、はぁ~~~~~い!!」
「災いに苦しむ地球を、ボクは見たくないからね。しっかり頑張ってもらうよ、魔法少女」
そう言って、ジュウげむは姿を消した。
ジュウげむは、箪笥の上に立っていた。
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世の中を苦しめている問題が、魔法の力であっさりと解決したらどうなると思いますか?
それをこの小説で描写しました。