No.105453

アリセミ プロローグ

修養館高校 女子剣道部では男女交際が禁止されている。
その是非を巡って、部長・山県有栖と新入生・今川ゆーなが衝突を始めた…。

2009-11-06 00:07:30 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2617   閲覧ユーザー数:2431

 

 

 修養館女子剣道部、鉄の掟。

 

 

 

 

『部在籍中の異性交遊を禁止する』

 

 

 

 

 その意は、男をつくってはいけない、ということ。

 女子剣道の名門、修養館高校。インターハイや玉竜旗でも上位入賞を果たす実力校だ。

 だが上位に入るには入るなりの代償があるということで、修養館剣道部の女子たちは、学校が共学であるにもかかわらず、男子と接することを全面禁止としていた。

 

 恋愛は、練習の妨げになる、という考えによる。

 

 このオメルタ(血の掟)を破った者には、同じ女子剣道部員から厳しい追及を受ける、制裁が加えられる。

 それはもう何十年も前から変わらずに続く女子剣道部の伝統。

 

 

 

 そして今日、その掟の犠牲者が、また一人…………。

 

 

 

           *

 

 

 

 一人の女子が、道場で取り囲まれている。

 場の空気は、部外者でも一目見てわかるほどの最悪。まるで取り囲まれた彼女を被告とする裁判所のような雰囲気だった。

 被告の位置に追いやられている一年生は、崩れ落ちるように板敷きの床に膝を突いている。目はいっぱいに涙を浮かべている。しかし包囲する多くの部員たちは、彼女に同情する素振りすら見せない。

 

有栖「……報告は受けている」

 

 と女子剣道部主将・山県有栖(やまがた ありす)は言った。

 その佇まいには、少女ながら既に主将の威厳が備わっており、この裁判の裁判長役を見事にこなしている。

 

有栖「一年、朝比奈美加。…先日、テニス部男子と連れ立ち下校しているところを目撃される。その雰囲気があまりに藹々としているため追求したところ、相手と恋愛関係にあることを自白。………間違いないな?」

 

 一年生は、泣くばかりで返事もできない。

 

有栖「…お前も、規則は入部の際に教えられたはずだな。部在籍中の異性交遊は原則として禁止だ、それを破った者には二つの選択肢が残されている」

 

 一つ、即時退部。

 一つ、相手男子との絶縁、後に反省を示すため一週間の特別練習メニューを受けること。

 

有栖「どちらを取るかは お前の自由だ。だが、今すぐ選べ、猶予はなしだ」

 

 一片の情もない死刑執行人のような有栖。

 しかし当の一年生は、どちらを選ぶこともできず泣き続けるしかない。

 交渉不可能。

 そう判断した有栖は、表情を一つ変えずに宣告した。

 

有栖「答える意志がないなら、お前は退部ということになる。…誰か、コイツの木札を外しておけ」

 

 主将の指示に従って、何人かの女子部員が剣道場の位置口付近へ向かう。そこには誰それという名前の書かれた表札が何枚も掛け並べてあり、その中から一枚の木札が取り外される。

 その札には、部則を破った一年部員の名が刻まれてあった。

 違反者の名を書かれた札を取り、両手でもって、ミシミシと力をこめる、細い木の板が弓なりに たわみ、微細な木繊維が一本一本と断裂していく。

 罪人の名札を折り、罪人の名を部から永久に抹消しようというのだ。

 

 ベキリ、と ひときわ大きな音が鳴った。

 次に、カランと乾いた音が鳴る、木札が床に落ちた音だった。

 

ゆーな「やめなさいよ!」

 

 と怒りに任せた声。

 

有栖「……今川?」

 

 皆の注目を浴びるのは、他の剣道部員と同じように胴着に身を包んだ うら若き少女。茶色いクセッ毛を二つに分け結び、剣道部員というには どこかギャル風な装いをした彼女が、折られようとする木札を叩いて、床に落としたのだった。

 

ゆーな「どうしてこんなヒドいことするのッ?」

 

 彼女は みずから叩き落した木札を大事そうに拾い上げる。まだ完璧には折れていなかった。

 

有栖「今川夕菜、…一年だったな、何のつもりだ?」

 

 部長である有栖が、咎めるように言う。

 下級生は上級生に絶対服従、という恐らく全国一律の運動部の常識は、ここでも例外ではない。

 

 しかしそんな不文律にも真っ向から噛み付くように、茶髪の一年生、今川ゆーなは吠える。

 

ゆーな「ちょっと!チョー信じられないんですけど!こんなのイジメじゃない!」

 

有栖「いじめではない、規則違反を犯したことへの罰則だ」

 

 有栖は冷淡に反論する。

 

有栖「今川夕菜。たしか特待生だったな、才能や実力は それだけのものがあるようだが、いい気になるな。ただ強いというだけで好き勝手に振舞えるほど部活動は甘いものではない。その茶髪も、黒に染めろと何度も言っているはずだ」

 

ゆーな「ミカちゃんは何も悪いことしてない!ただカレシができただけじゃない!それなのになんで吊し上げられなきゃいけないのよ!」

 

有栖「規則に違反したからだ。異性交遊の禁止は、我が部に古くから受け継がれてきた鉄則。先輩たちも、それを遵守してきたことで雑念に惑わされず、大会でよい成績を残すことができたのだ」

 

ゆーな「チョーわけわかんない!ミカちゃんにカレシができたんなら、皆でお祝いしてあげるべきじゃない!しかも相手の男の子はテニス部なんだよ、王子さまだよ!」

 

有栖「王子?」

 

 異性交遊を犯した友達を庇う ゆーなは、部長である有栖を前にしても頑として引き下がろうとしない。

 

ゆーな「恋をするってステキなことなんだよ?女の子にとってサイコーなイベントなんだよ?それを禁止するなんてバカじゃないの!そんな規則のせいで恋する女の子をいじめるんなら、そんなキモい規則の方をなくしちゃえばいいんだよ!」

 

 規則をなくせだと?

 この女子剣道部に、数十年も続いてきた鉄則を?

 

有栖「特待生ということで調子に乗りすぎているようだな」

 

 有栖が、竹刀を握る。

 

有栖「その腐った性根を叩き直してやろう。竹刀をもて、コテンパンに叩き潰した後、そこの違反者と一緒に特別練習メニューを受けてもらうぞ」

 

ゆーな「いいよ!そのかわり ゆーなが勝ったら、あのキモ規則はなくしたもらうからね!」

 

 三年生の有栖と、一年生のゆーな、二人が竹刀を構え、道場の中央で睨み合う。

 一見結果がわかりきっているかに見える この勝負も、実際に仕合うとなれば どう転ぶかわからなかった。

 今川ゆーなは一年生ながら、中学時代に素晴らしい成績を残し、五校による激戦の末に修養館がゲットしたという期待のルーキー。対して三年生・山県有栖は、入部以来の弛まぬ努力によって同年の特待生を抑え、主将の座に着いたという典型的な努力型だった。

 規則と自由、天才と努力家が ぶつかり合う この勝負。

 

 

 それがすべての始まりとなった。

 

 

                    to be continued

 

 

 

~あとがき~

 

 お久しぶりです、はじめまして、のぼり銚子と申します。

 前回までは恋姫無双の二次創作をメインに色々やらせていただきましたが、今回からは少し趣向を変えてというか、思うところあって、オリジナルモノに挑戦させていただこうと思います。

 自分自身ちょっと、今までとは違うモノを書いてスキルを上げていきたいというか、それでも、まず読者様に楽しんでもらうことを第一にして、粉骨砕身励む所存です。

 

 で、ケータイならともかくネットでオリジナル小説なんて、挿絵がないとどうにもならん!と思い、とりあえずキャラ設定画など書いてみました。

5,6年ぶりにペンを執りました。絵を描くなんてもう二度とないと思ってたんだけども、ヘタクソな絵ですが、イメージを作る手助けにしてもらえると幸いです。

 

 それでは、次回で、もっと読者様に楽しんでいただけるように。


 
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