もしも、地球が完全に人間のものになったら。
あなたはどうしますか?
「……まったく、笑えないね」
ビルの上で、二つに分かれた大きな触覚と、丸い耳、白い翼、長い脚、そして赤と青のオッドアイを持つ謎の生き物が、はぁ、と溜息をついていた。
「今度こそ今年も災いのない年になると思ったのに、このざまだよ。自然災害に、疫病に、腐敗した政治……不可避の災いばかりが起きる」
生き物は天からビルを見下ろしている。
その目は、地上を見限ったかのようだった。
「でも、その年も終わる。世界から災いは完全になくなるんだよ」
生き物は、くすくすと笑った。
何を企んでいるのかは、分からない。
「さあ、ボクと契約して、魔法少女になってくれ!」
ある都道府県のどこかにある、
そこでは、一人の少年が、慌てて走り出していた。
「うわぁぁぁぁぁぁ~! 遅刻する~~~~!!」
少年の名は
どこにでもいそうな、ごく普通の男子高校生だ。
時間は既に8時45分を回っている。
急がなければ、彼は学校に遅れてしまう。
恭一は全力で、自身が通う学校、真字駆高校に向かって走り出した。
「はあ、はあ、はあ……」
「おはよう、恭一君! ギリギリだったね」
何とか、恭一は1年A組の教室にギリギリで滑り込んだ。
恭一が座る席の後ろには、茶色い髪の少女が既に座っていた。
彼女の名は
「なんで遅れちゃうのかなあ……」
「もうちょっと早起きした方がいいんじゃない?」
成績優秀な奈穂子は、登校が遅れやすい恭一に苦言を呈した。
恭一は謝罪するように頭を掻く。
「はっはっは! 恭一は相変わらずだなあ」
「おい、太志~! 俺をからかうな~!」
彼の隣の席に座っている男子高校生の
―キーン、コーン、カーン、コーン
「やべっ、先生が来る!」
その時、授業開始を示すチャイムが鳴った。
恭一は急いで、自分の席に座った。
奈穂子はそんな恭一を見て、ほっとけないな、と心の中で思ったとか。
「皆さん、席につきましたか?」
やがて、眼鏡をかけた黒髪の女教師がやってくる。
1年A組の担任教師、
あまり笑わないため「鉄仮面」と呼ばれているが、今日の宮園先生は、いつにもまして神妙な面持ちをしていた。
「えー、皆さんにお知らせがあります。本日からこの高校は、しばらくの間、休校とさせていただきます」
「……ええっ!?」
「休校だと!? なんでだよ!」
突然の休校宣言に、驚きを隠せない生徒達。
その理由を恭一が宮園先生に言うと、宮園先生は静かにこう言った。
「知っての通り、今の世界は未知のウイルスの脅威にさらされています。
現状、それに対する特効薬が存在しない以上、下手に外に出てはいけないと政府が命じているからです。
よって、本日の授業は午前中までとさせていただきます。よろしいですね?」
「は、はぁ~い……」
宮園先生の休校宣言によって、恭一達はいつもより早い下校となった。
ウイルスに感染しないために、手を繋ぐ事も控えてほしいとの事なので、三人は少し距離を離していた。
「残念だったね、恭一君。もっと、先生の授業を受けたかったな」
「しゃーないだろ、俺にとっちゃラッキーでも、世間にとっちゃアンラッキーだからな」
「こうして歩いているどこかでも、また誰かが死んでいるのか……」
愚痴を吐く奈穂子と、どこか残念そうな恭一と、現状を悲しんでいる太志。
疫病にさらされるこの世の中で、下手に外出はできないのだ。
「それにしても、未知のウイルス、か」
「この病気を魔法でパッパッと解決してくれる、魔法少女がいたらなぁ……」
「おいおい、奈穂子がそんな夢物語を考えてるのか? まあ確かに俺も、ヒーローになりたい、とは思ってるんだけどな」
「良い意味でも悪い意味でも平等な世の中、ハッピーエンドは努力無しには掴み取れない。だから、オレはそろそろ帰るぜ」
恭一、奈穂子、太志がそれぞれの自宅に帰ろうとした時、どこかから声が聞こえてきた。
―助けて……! 助けて、奈穂子!
「え……? え?」
「どうしたんだ、二人とも!」
太志は恭一と奈穂子の異変に気付くが、その原因には全く気付いていない。
何故なら、その声は――恭一と奈穂子にしか聞こえていないからだ。
「行かなきゃ!」
「おい、奈穂子! 待て!」
いてもたってもいられなくなった奈穂子は、声がした方に向かっていった。
恭一は幼馴染を見捨てられず、彼女と共に走っていった。
一人残された太志は、ぽかーんとしていた。
「……どこに行っちゃったんだ? まあ、いい。そろそろ、帰るとするか……」
太志はそう言って、自宅に帰った。
しかし、「彼」との出会いによって、恭一と奈穂子の歯車は、狂い出そうとしているのだった――
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魔法少女を題材にした現代ファンタジーです。
この世の中に対する、私なりの考えを小説に詰め込みました。
もしも、地球を自由自在に操る存在がいたら……?