No.105419

ハルカカナタ

イツミンさん

こーゆーの好きだよね、この人。
よくわかんねぇ?まぁ僕もですよ。
わかる必要がそもそもなくねぇ?
っていうね。

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2009-11-05 21:53:46 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:553   閲覧ユーザー数:534

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                      人様に迷惑とコーヒーはかけちゃいけない

                             The Yellow Monkey:Four Seasons

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 手の中で缶コーヒーが温くなっていく

 未開封のままの180ml缶

 ミルクもシュガーも入っていない ブラックがいい

 口の中に広がる苦味と酸味

 人生の味に 似ていると思う

 

 ガタンゴトン

 ガタンゴトン

 

 電車は振動しながら走る

 平日の真昼間の 閑散とした車内

 窓際に一列ずつ設えられたシート

 一人と一人が向かい合って座っていた

「どこまで行くつもり?」

 人影は僕と彼女以外この車両になく

 僕は彼女の発した声を無視し

 車窓から 外の景色を眺めていた

 

 四両編成の電車は 鉄橋に入る

 足元からは地面が消えうせ 川面が光っていた

「どこまでいくつもり?」

 太陽の光が 僕の目を突き刺す

 雲のない 晴れた空

「遥か彼方」

 ぼんやりと 僕は答える

 本当は いく当てなどどこにもない

 本当は どこに行ったっていい

 どちらの答えも本当で 間違いで

「それ飲まないの?」

 手の中で缶コーヒーは温くなっていた

「うん、いらない」

「何で買ったの?」

「なんでだろう」

「変な人」

 この電車に 他に何人の人が乗っているだろう?

 少なくともこの車両には二人しかおらず

 世界が小さな箱に切り取られたかのようだ

「どこまで行くつもり?」

「遥か彼方」

「それって結局どこなの?」

 彼女はさっきから疑問ばかり口にする

 きっと知りたがり症候群だ

「どこだっていいんだ」

 僕は答える

 

「だって週末の場所なんだから」

 

 そう

 終わりに僕は行く

 人生なんて 終止符を打ったあとに 評価が下るんだ

 僕の人生はきっと ひどく悪い評価を得る

「死んで花実が咲くものか」

 小さな声

 意味はなんだっただろう?

 彼女は国語の成績がいい

 僕は国語の成績が悪い

 だから 僕は彼女の言うことが わからない

「死んだって意味はないよ」

「生きてれば意味はある?」

 禅問答

 答えを誰が知るだろう?

 僕にはわからない

 ガタンゴトン

 ガタンゴトン

 電車は振動しながら走る

「ネガティブな死はよくないけど」

 真っ青な空

 小さな雲が 一つ浮かんでいた

 雲のない空なんて 本当は存在しない

「向こう側に行きたい僕は、ポジティブだよ」

 地平線の向こう

 もしかしたら水平線の向こう

 ともかく この世界の向こう

 

 どこかの誰かがあると言った別世界

 

 二つの世界は影響しあい 繋がって回る

 こちらで死すれば 向こうで生まれる

 

 独り善がりの夢想

 

「一緒に行く」

「君はだめだよ」

 僕は目を閉じた

 まぶたの裏側

 向こうの世界が広がる

 僕だけの世界が広がる

 僕は目を開いた

 向かい合って座る一人と一人

 二人組み ではない

 一人組みが ふたつ

 交わらない ふたつ

 

 僕は僕を壊す

 

 世界は不条理でいっぱいで

 僕は弱いから

 今のままでは弱いから

 僕は僕を壊す

 

 一人組みが ふたつ

 交わらない ふたつ

 

 ここから先は 僕でなければいけない

 

「きっと戻るよ」

 彼女に 声をかける

 僕は終末を迎える

 別世界に旅立つため 僕は終末を迎える

「きっとね?」

「そうさ」

 僕はうなずいた

 電車は駅に止まる

 誰も降りず 誰も乗らない

「一度は死ぬかもしれない」

 発射ベルが 鳴る

「でもこれはやり直しなんだ」

 終点に行きついた電車は 折り返してまた走る

 毎日毎日 往復を電車は繰り返す

 

 行ったならば 戻る

 

 それは確定事項で 戻らないことは 滅多にない

 

「だから僕は戻る」

「戻らないこともあるのでしょう?」

「僕は戻るさ」

「単身での時間遡行なんて例がないわ」

「それでも僕は戻るよ」

 電車は速度を増していく

 ガタゴトと 振動が返ってきた

「不安なら約束を交わそうか」

 僕は提案をする

「次の駅で待ってるから、缶コーヒーを買ってよ」

 なるべく装った平静で 僕は言う

 彼女は

「うん、約束」

 こくりと 小さくうなずく

 

 可愛いな と 僕は思う

 だから 好きなんだろう

 

 だから 護りたいのだろう

 

「それじゃ待ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                      全ての事象を

                             

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                           越える                               

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の姿が消えた

 私の目の前で 忽然と消えた

 仮初の終末を 彼は迎えたのだ

 

 戻らないかもしれず

 

 本当に終わったかもしれず

 

 ゴトンと音を立て 缶コーヒーが床に落ちた

 彼の残したそれを 私は拾うことが出来ない

 頬を濡らすのは 涙

 

 次の駅

 

 彼が約束した場所

 

 たどり着くのに もう五分

 約束どおり 彼はいるだろうか?

 私の頬は乾くだろうか?

 それよりもっと濡れるだろうか?

 

 幸せが待っているだろうか?

 

 ゆれながら走る電車は 永遠を走っているみたいに 遅く感じた

 神様が意地悪をして 時間のネジを狂わせたに決まっている

 

 やがて

 

 

 電車は減速をして ゆっくり駅に止まる

 

 

 私はきつく目を閉じて

 目を閉じて……

 目を閉じて………

 

 そっと目を開けて

 

 開かれたドアを 見た

 

 平日昼間の無人駅

 人影なんかないのが常で

 

 

 今日この日は……

 

 

 私は電車を降りる

 

 平日昼間の無人駅

 人影が 目の前にあった

 

「ただいま」

 

 彼は笑った

 手が差し伸べられ 私たちは握手を交わす

「やり直してきたよ」

「あまり変わらないわ」

 身長が少し高いだろうか?

 声はちょっと低い気がする

 何も変わらないとも思う

 

 私は濡れた頬をぬぐう

 

 

「缶コーヒー買うわ」

「約束してたっけね」

 改札をくぐって 駅を出る

 小さな無人駅には 自動販売機もない

 電車を降りて 二人組み

 一つになった一人と一人

 

 コンビニエンスストアに入る

 

「微糖のヤツがいいな」

 変化点を一つ みつけた

 

「ちょっぴりの甘みが人生の味に似てるよね」

 

 彼の言葉に 私は笑った

 以前の彼は言った

 コーヒーの苦味と酸味が 人生の味に似てると

 

 今の彼は言った

 コーヒーのちょっぴりの甘さが 人生の味に似てると

 

 やり直した意味は 確かにあった

 

 

 私と彼は手を繋ぐ

 

 

 ハルカカナタ

 私たちは 遠く未来へと歩を進める

 今度は終末に 時間をかけて 一緒に行くんだ

 

 彼が缶コーヒーを開けて

 

 

 苦いけれどちょっぴり甘いコーヒーを 二人で分け合う

 

 

 

 

 

 

                         


 
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