第二十二章~それは天に昇る龍が如く・後編~
「な、何やねん・・・、ありゃあ!!」
二人は思わず足を止めてしまう。彼女達の目に入ったのは、変わり果てた馬騰の城であった・・・。
植物の様な濃緑の丸太並みの根が城の内側から外へと飛び出す形で張り巡らされ、窓の硝子は根によって
破壊され、壁はいとも容易く根によって貫かれ、絡みついている。そしてその触手状の根達を辿っていく
と城の中央へと伸びて行きそこで互いに上へ上へと絡み合いながら、一本の大樹に変貌していた。更にその
絡み合った根と根との合間から、白い煙、霧が噴出していた・・・。そう、城に根を張ったこの大樹こそ、
この街を覆い尽くす霧の発生源だったのだ・・・。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
想像以上の光景に言葉を失う二人。だが、いつまで突っ立っている訳にいかないと、凪は周囲を確認する。
「我々以外に人はいないようだな・・・。」
凪は注意深く前へと歩んでいく。真桜は城に張っている丸太並みの根に恐る恐る近づくと、つんつんと
人差し指で突き、危険がない事を確認すると、手の平で擦って調べる。
「不思議な感触やな・・・。ぱっと見、植物の類に見えんけど・・・、直に見て触ってみるとなんや
この無機質感、生きもんというにはちぃと判断しにくいで・・・。」
真桜は大樹の方を見上げる。大樹の所々にある合間から機械的に霧が吹き出し続けている。
「せやけど、こいつが霧の原因なのは間違い無さそうやな・・・。」
「真桜。」
「なんや、凪?」
凪に呼ばれ、真桜はしゃがんでいる何かを手に取っている凪に近づく。すると、凪は手に取ったものを
真桜に見せる。それは翠が髪を後ろで束ねるのに使っていた鉢巻だった。
「それは、翠にもんや・・・。ちゅう事はこの先に・・・?」
真桜と凪は前方の城の入口に目を向ける。暗いせいで奥は見ないが、入口から根が複数本飛び出しており、
二人の足元まで及んでいた・・・。恐らく城の中もこの異様な根が縦横無尽に張り巡らされている事だろう。
「うち正直この中に入るんは、ちと気が引けるで・・・。」
真桜は純に嫌な顔をする。だがそんな事を言った所で何も変わるわけでは無い・・・。
「だが、行かない訳にもいかない。」
「・・・せやねぇ。」
凪に言われ、真桜はため息一つ着いて覚悟を決めると、二人は城の入口へと足を進めて行った。
ブゥオンッ!!!
「ぐぅッ!!」
ガッゴォオオオッ!!!
あの槍から放たれた重い一撃を咄嗟に右腕に装着していた篭手で受け止める。
「うあああっ!!」
だが、それも空しく俺は軽々と後ろに吹き飛ばされてしまう。地面にぶつかる際、受け身を取って
素早く立ち上がると、右腕の篭手を確認する。篭手は肘側から半分が壊され、短くなってしまった・・・。
「これが無かったら、間違いなく折れていたな・・・。」
俺は目の前で堂々と立ち、霧の合間から俺の様子をうかがうケンタウロスを見る。俺の周りをパカラ、
パカラと四本の足で音を立てながら歩く。
「・・・・・・。」
俺は奴に背中を見せない様に刃を両手で構えながら、右足を軸にして体を回す。先程から俺は奴に攻撃が
出来ていない。この周囲に掛かっている霧のせいもあるが、それ以上に以前戦った時に比べ、向こうが強く
なっている様な気がする・・・。さっきからこっちの苦手な攻撃ばかりを仕掛けて来る。前の戦いで俺の癖
を把握したと言うのか・・・?何にしても、この霧のせいで俺は向こうの動きが上手く把握出来ていない。
だから、向こうが仕掛けて来るのタイミングに合わせて反撃をするのが精一杯になっている。
ブオオオゥッ!!!
俺の右横からケンタウロスが霧の中から襲い掛かってくる。
「・・・ッ!」
ブゥオンッ!!!
奴が放った戟の横薙ぎの下を潜り抜け、その際に俺は刃で反撃する。
ブゥオンッ!!!
ガギィイイッ!!!
だが俺の放った横薙ぎの一撃はあの白銀の鎧の前では無効化されてしまう。俺は向こうの反撃を受けまい
とすぐさまそこから瞬時に加速して離脱する。ケンタウロスは俺に見向きをせず、再び霧の中へと消えていく。
「くそ・・・ッ!」
俺は思わず舌打ちをしてしまう。今度は完全に奴の姿を見失ってしまった。次はどこから襲いかかって来る
のんだ?
「・・・何とか、奴に一撃を叩き込まないと・・・!」
前に戦った時は奴の背中に乗って、そこから鎧と鎧の結合部を狙って突き刺したが・・・。果たして今回も
上手く出来るか・・・?
「でも、やるしかない・・・!」
俺は聴覚を研ぎ澄まし、奴の足音を探す。視覚が当てにならない以上、耳で探すしかない。
「・・・・・・・・。」
何処だ・・・。何処に、いる・・・?
「桂花、春蘭達は!?」
「現在、春蘭と季衣が西方面、秋蘭、流琉が東方面から来る軍勢に備えて準備を進めさせております。
霞達には遊撃隊として状況に応じて動いてもらうつもりです。」
「結構。私自らが指揮を取るわ。稟は春蘭達に、風は秋蘭達に付け、逐一状況報告をさせるように
しなさい。桂花は私の元で二人の報告を整理して頂戴。」
「御意。」
華琳に一礼すると、早々にその場から離れる桂花。まだ接敵にはまだ時間があるが、それも決して長くは
無い。一刻も早く、戦闘態勢を整え、出陣する必要がある。しかも二方向からの同時攻撃となり、二面作戦
を展開せざる負えなくなり、戦力を分断しなくてはいけない。凪、真桜、沙和、馬超、馬岱といった主将達
を欠いている事もあり、戦況の混乱は必至なるだろう・・・。
「だけど、一刀達が街に入って間もなくしての五胡の進撃・・・、偶然にしては出来過ぎね。・・・一刀
が本陣を離れるのを待っていたと言う事?」
華琳は思考を張り巡らせる・・・。そして一つの結論に至る。
「・・・まずいわね。私達はすでに向こうの罠に掛かっていたようね。」
五胡と外史喰らいは繋がっている。五胡が撤退し、街には外史喰らいがいると判断した華琳は彼を行かせた。
だが、それは向こうにとって願っても無い機会だったのだ。一刀不在の本陣を五胡と、恐らくその中に外史
喰らいの兵士も紛れ込んでいるはず・・・。一刀がいなければ、華琳達を叩き潰せる可能性は高くなる。
向こうにとって一刀が障害である以上、やはり一刀を行かせるべきでは無かったのかもしれない。そして
一刀自身も・・・。
「一刀・・・。」
霧の中を見ながら彼の安否を気遣う華琳。とはいえ、今自分がここを離れるわけにはいかない。彼を信じる
事しか華琳には出来なかった・・・。
城の中に入った凪と真桜。予想した通り、中は酷い有り様だった・・・。 横の壁も、床も、天井も、至る
所からあの触手の様な根が太さ関係なく、縦横無尽に張り巡っていた。二人は根に足を引っ掛けない様に足元
を確認しながら、根をかき分けていく。
「全く・・・、ほんまにひどいなこれぇ。穴と言う穴から色んな太さの根が出てきておるわ・・・。」
通すまいと目の前の横に伸びた根の下をくぐりながら、真桜は一人ぶつぶつと喋る。
「だが、幸いと言うべきか・・・。敵の姿が無い。」
天井から垂れ下がっている根を横に払いながら、凪は真桜に話しかける。
「当然やろう・・・。こんな所で襲われたんなら敵わんてぇ・・・。」
「だが、翠がこの中に連れ去られたのは間違いないはず。となれば、彼女を連れ去った者がここにはいる
はずだ。」
シュルシュルシュル・・・。
「ん・・・?」
「どうした、真桜?」
「いんや、何でもあらへん。気のせいや。」
一瞬、今自分達がいる通路の隣の通路を何かが通ったような気がした真桜。すぐに確認したがそこには
根、根、根・・・。それ以外に見当たるものは無かった。なので、そのまま気にせず先を進む・・・。
シュルシュル・・・、シュルッ。
「・・・っ!」
真桜は咄嗟にもう一度隣の通路の死角になっている角を見る。すると、一瞬ではあったが黒い何かが死角
に隠れるのが見えた・・・。
「・・・・・・凪。悪いんやけど訂正させてもらうで。」
「何を・・・だ?」
「気のせいやなかった・・・。ここには翠を連れ行きおった誰か以外に別のなにかがおるようや・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
視線を合わせ、お互いの顔をうかがう二人。そして・・・。
「・・・走るぞ。」
「・・・せやな。」
短い言葉で意思を合わせる。
「「っ!!」」
二人同時に走り始める。目の前の障害物となっている根達を掻い潜って進む二人。
シュルシュルシュル・・・。
そしてその二人を後ろから音を立てて追跡する影が、一つ・・・、二つ・・・、三つ・・・。
次第にその数も増えていく・・・。二人もちょくちょく後ろを振り返るが、根が邪魔で上手く確認
出来なかったが、自分達の後を何かが付いて来るのは分かっていた・・・。
「・・・っ!?なぁ、凪・・・。」
再び後ろ振り返った真桜が凪に喋りかける。
「何だ。」
凪は前を向いたまま話をする。
「・・・たこって、何処にすんどるやっけ?」
「・・・?何を言い出すんだ?」
「うちの記憶やと・・・、確か海の生き物なはずやけど・・・。」
「それがどうしたんだ?」
真桜が言おうとする事が理解出来ない凪。蛸が一体どうしたというんだ?と思いながらも真桜の話を聞く。
「なら・・・、今うちらの後ろから来とるんは、何やねん?」
「・・・?」
凪は真桜の言った事を確かめるため、後ろを振り返る。するとそこにはしゅるしゅると音を立てながら、
根が張った通路をその触手を使って進む、全身黒の蛸の様な姿をした物体、影篭(かげろう)が、しかも
通路を覆い尽くす程の数がそこにいた・・・。
「・・・っ!?」
そのあまりに異様な光景に心臓が高鳴る凪。
「すごい気持ち悪いやろ?」
あの異様な光景を見た感想を聞く真桜。凪はそれに答えなかった。
二人は後ろからついて来る影篭に追いつかれまいと必死に走る。だが、そんな二人の努力を無駄にするように
進むペースをどんどんと上げていく影篭達・・・。
「何やねん!蛸のくせして何であんなに早いねん!?このままやと、追いつかれてまう!」
「こうなれば!」
前を走っていた凪が急転換して後ろを振り向く。
「どないするんねん!」
「はぁぁああああああ・・・っ!!」
凪は右足に氣を集めていく。すると、凪の右足に赤い炎状の気が具現化されていく。
「っ!・・・でやあぁあああっ!!」
ブゥオオオッ!!!
気が溜まった右足を後ろに振り上げ、まるでサッカーボールを蹴り飛ばす様に前に伸ばした。
すると、右足の先端から炎状の気弾が影篭達に向かって飛んでいく。
ドゴオオオオオオオオオオオッ!!!
影篭達の手前で気弾が爆音を上げながら爆発する。爆発は周囲の根も巻き込み、根は黒い煙を上げながら
燃えていた。そして肝心の影篭達は言葉通り粉々に粉砕し壁、床、天井、根にその粉々になった
体の一部が付着する。
「ふぅ・・・。」
呼吸を整える凪。
「やったで、凪!あのたこ共が粉微塵になったで!」
「・・・・・・。」
喜ぶ真桜、警戒を解かない凪。
粉々に飛び散った影篭の破片達・・・。ピクッと一つの破片が動くと他の破片も呼応するようにピクッと
動きだす・・・。その動きは次第に活発になり、そしてひとりでに動き始める。破片達はある一点に次々と
集まっていき、一つの塊になっていく・・・。
「うぇええっ!今度は何やねん!?」
散らばった破片達が集まり、次第に通路を隠してしまう程に肥大化した黒い塊。その塊から触手が数本飛び
出し、さらには目が二個現れる。倒すどころか、より巨大な影篭が生まれてしまった。
「な・・・っ!!」
「ちょ、巨大だこの誕生かいなぁ~!!」
事態がさらに悪い方向へと展開した事を二人は瞬時に理解した。そして巨大影篭は二人に近づいていく。
「こっちに来るなや~~~!!」
二人は再び影篭から逃げる。そんな二人を巨大影篭は追いかける。その巨体のせいで通路の根が障害になる
かと思いきや、巨大影篭は根を自身の体に取り込んでいきながら進んでいくため、逃げる二人との距離を縮め
続けた。
「ああああかん、凪ぃ!!このままやと追いつかれてまうで!」
追いつかれた時、どうなるかまでは分からなかったが、間違いなく嫌な目に会う事は容易に想像出来た
・・・。
「・・・・・・っ!」
この危機から打破するために凪は苦い顔をしながら、前方を見るとはっと思いついた。
「真桜!このまま真っ直ぐ走り抜けるんだ!!」
そう言って凪は走る速度を上げる。
「わわ、待ってや凪ぃ!!」
先を行く凪に追いつこうと必死に走る真桜。目の前の道の障害となる根を掻い潜ってひたすら前を進む。
すると、通路の先は行き止まりになっており、その行き止まりとなっている壁に長方形の穴がある。
どうやら、そこはもともと扉があったようで、根のせいで扉が破壊されてしまったようだ・・・。凪は後ろを
振り返る。
「真桜!走れ!!速く!!」
自分の後ろを行く真桜の背後に巨大影篭が近づきつつある事を知った凪は真桜を急かす。真桜は息を荒くし
ながら死にもの狂いで走っている。
「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・!」
そしてその元々扉があったはずの長方形の穴に凪が先に入ると、真桜を急かす。
「真桜!!」
叫ぶ凪。真桜の背中に巨大影篭の触手が触れるか触れないかという所で・・・。
「う、うぅぉぉおおおおお・・・っ!!!」
真桜は凪に向かって飛びこんでいった。
ガシィイイイイイイッ!!!
「うわぁあああっ!!」
「だぁああああっ!!」
自分の胸の中に飛び込んできた真桜を受け止め切れず、そのまま真桜と一緒に後ろに転んでしまう凪。
二人仲良く床をごろごろと転がりながら壁にぶつかってようやく勢いが止まった・・・。
「いたたたた・・・。」
「うぅ~・・・。」
凪は自分の頭をさすりながら前を見上げる。そこには長方形の穴に入れず、そこで立ち往生している
巨大影篭の体の一部が見えた。その一部分から触手が数本凪達に向かって伸びていくが数m分足りず、
届く事は無かった。
「真桜、立てるか?」
凪は立ち上がると、壁に逆さにもたれ掛かっている真桜に手を差し伸べる。
「おおきに・・・。」
真桜はその手を取ってようやく立ち上がる。二人はすぐにその場を離れることにした・・・。
「はぁぁぁ・・・、一時はどうなるかと思ったで・・・。」
今頃になってぶわっと全身から大量の汗が流れ、掌で額の汗を拭う真桜。
「あのような類のものがまだいるかもしれない。気を付けて進もう。」
何処となく歩いていると凪は扉を見つける。不思議とその扉周囲にはまだ根が張り巡っていなかった。
「何だ・・・。この扉だけ根が行き渡っていない・・・。」
不審に思った凪は細心の注意を払いながら扉の横に張り付くと真桜も反対側に張り付いた。
「行くぞ。」
「応さ。」
凪は扉を一気に開けると凪、真桜の順に中に入り、周囲を警戒する。
「誰もいないようだ・・・。」
「ふぅ・・・、驚かせんなや、凪・・・。」
「・・・それよりもこの部屋は・・・、寝室の様だな。」
凪の言うとおり、部屋は個室の様で寝台と執務用の机、丸型のテーブル、箪笥、鏡といったものが
設置されていたが、何者かに荒らされたような痕跡があった。
「・・・ん。これは・・・。」
何かを見つけたのか、真桜は部屋に設置されていた執務用の机から飛び出した引き出しに歩み寄る。
「何か見つけたのか?」
「あぁ、これなんやけど・・・。」
そう言って、飛び出た引き出しからそれを取り出し、凪の前に出す。
・・カラ、・カラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ!ダゴォオッ!!
「・・・っ!?」
突然足音が変わる。それと同時に足音が消えた・・・。あの最後の音は・・・地面を蹴る音か?
「・・・!」
俺は頭上を見上げ、その場から離れるために横に飛び前転する。そして俺がいた所の真上から
物凄い勢いで黒い影・ケンタウロスが落ちて来る。
ゴォオオオオオッ!!!
ケンタウロスは地面をいとも容易く砕き、地面の破片が宙を舞い、奴の体が少し地面に沈む。
「ふぅっ!」
俺は奴より先に攻撃を仕掛けるために前に出る。それに気づいた奴は俺に槍の一撃を放つ。
ブゥオンッ!!!
ガッゴオオオッ!!!
俺はそれを刃で受け止め、そこからそのまま下に叩き落とす。戟の切っ先は地面に刺さり、そこに俺は
右足を乗せ固定すると今度はその槍の上を綱渡りの感覚で渡って行く。だがケンタウロスはそんな俺に一方
の戟で攻撃を仕掛けて来る。
ブォウンッ!!!
「はぁッ!」
俺はその攻撃を槍の腹の部分のしなりを使って上に飛び上がる事で避ける。
ガギィイイイッ!!!
俺がいなくなった事で、槍と戟の腹の部分がぶつかり金属音が鳴る。そして飛び上がった俺はそのまま奴
の背後へと飛んでいき、あの時の同じように奴の背中に乗ろうとした。
グゥウオオッ!!
だが俺がケンタウロスの頭上に差し掛かった時、突然背中の二本の戟が俺に伸びてきた。空中にいた俺は
逃げ場がなかった・・・。
ザシュウウッ!!!
「ぐぁあああッ!?!?」
寸前で体を横にずらし戟の串刺しだけは避けるが、左脇を鎧ごと切り裂かれる。
ドサァッ!!!
「ぐぅ・・・っ!」
受け身を取れず地面に叩き付けられ、さらにその衝撃が左脇に伝わり激痛が走る。そんな俺に
ケンタウロスは槍による追い撃ちを掛ける。
ブゥオオンッ!!!
ガゴォオオオッ!!!
横倒れになっていた俺は横に転がってそれをかわすと、地面に槍の切っ先が地面を砕いた。
「く・・・!」
俺は左脇を左手で押さえながら立ち上がろうとした。
グァアアアッ!!!
ドガァアッ!!!
「うわぁああっ!!」
だが、そこにケンタウロスの右前足の膝が俺の額に叩きこまれ、頭がかち割られてた様な痛みに俺は
後ずさりしてしまう。
「ぐ、ぐぅ・・・。」
俺の目の前には四本の腕を持ったケンタウロスが俺を見下ろしていた・・・。
「はぁああああああっ!!!」
ブゥオンッ!!!
ザシュッ!!!
「グゥアッ!!」
「ちょりゃぁああああああっ!!!」
ブゥウオオオッ!!!
ドガァアアッ!!!
「グブゥッ!!」
部隊を率いて西方面から進軍して来た五胡の軍勢と応戦する春蘭と季衣。だがその異常なまでの数の暴力
に苦戦を強いられていた・・・。
「はぁ・・・、はぁ・・・、これじゃきりがないですよぉ、春蘭さま!」
「弱音を吐くな、季衣!こんなもの二年前の乱世程のものではない!」
倒しても倒しても次から次へと襲いかかって来る五胡の兵士に弱音を吐く季衣に一喝する春蘭。
「ブアァアアアアッ!!」
そして二人に襲いかかる五胡の兵。
「ふぅっ!」
ガッゴォオオオッ!!!
春蘭は襲いかかって来た五胡の兵の振り下ろしを受け止め、弾き返すとすかさず反撃する。
ガギィイイイッ!!!
だが、五胡の兵は春蘭の一撃を左腕の篭手で受け止め、再び大剣で攻撃を繰り出す。
ガッギィイイイッ!!!
「甘いっ!」
春蘭は五胡の兵の放った横薙ぎを受け止めると体を横に一回転させて横薙ぎを放つ。
「はぁあああっ!!!」
ブゥオンッ!!!
しかし、五胡の兵に春蘭の一撃は当たらず、春蘭の斬撃は空を切った。比較的に大きい体格に似つかわしく
なくその体は宙に高く舞い上がりバック宙、春蘭から距離を取る。するとその五胡の兵の周りに他の兵達が
集まってくる。
「・・・?」
「・・・?」
一ヵ所に集まった五胡の兵士達の体が一瞬にして黒く変色する。そして一瞬にして五胡の兵士達は全くの
別の姿形へと変貌した。
「ひゃぁあああっ!・・・何ですか、あれ!!」
「あ、あれは・・・!?」
突然、五胡の兵達が別の姿形になってしまった事に驚きを隠せない二人。その現象は他の所でも起き、
兵士達は混乱に陥ってしまう・・・。更に変貌した五胡の兵達の姿には見覚えがあった。以前、洛陽を
襲撃した謎の黒尽くめの武装集団、そう外史喰らいの兵士達だったからだ。
「こいつ等・・・!洛陽の時の・・・!はぁああああああっ!!!」
春蘭は一人で外史喰らいの兵士に突っ込んでいく。
ブゥオンッ!!!
春蘭が放った斬撃を左右上下に散らばって回避する外史喰らいの兵士達。そしてそのうちの二人の兵士が
左右から挟み込む形で春蘭に襲いかかる。
「春蘭さま、危なぁい!!」
季衣は左から春蘭に襲いかかろうとする兵士に目掛けて岩打武反魔を投げ飛ばすも、それは二人の外史
喰らいの兵士が前に飛び出し、代わりにその一撃を受ける。
「そんな!」
季衣はそんな兵士の行動に驚く。そんな中、季衣が狙った兵士は春蘭に手甲から伸びる二枚の刃を春蘭に
向けながらその距離を縮めつつあった。
「く・・・、舐めるなぁ!!」
ブゥオンッ!!!
ブゥオンッ!!!
左右から襲いかかる兵士の攻撃を一度に受け止める春蘭。
ブゥオンッ!!!
ガゴォオオッ!!!
ブゥオンッ!!!
ガッギィイイッ!!!
ブゥオンッ!!!
ガゴォオオッ!!!
ブゥオンッ!!!
ガッギィイイッ!!!
間髪も入れない攻撃の流れに防戦一方となる春蘭。
「でやぁああああああっ!!!」
そこに騎馬にまたがり、霞がそこに横から割って入って来る。
ブゥオンッ!!!
ザシュウウッ!!!
騎馬の速度を落とす事無くすれ違い様に偃月刀で春蘭に攻撃をしていた一人の兵士を横に切り捨てる。
「霞!っはぁあああっ!!!」
ブゥオンッ!!!
ザシュウウウウウウッ!!!
それに負けまいと春蘭は七星餓狼を持つ両手に力を込め、残りの一人を叩き斬る。
「春蘭!まだ敵はおるで!後ろに乗りぃ!一気に片付けるで!!」
霞は騎馬にまたがったまま春蘭の所に戻ってくると後ろに乗る様催促する。
「ほう・・・、神速に乗って戦場を駆け抜けるのも一興だな!」
春蘭は霞の騎馬の後ろに乗る。
「行くで春蘭!落とされんよう、気ぃつけや!!」
「応!!」
そして二人は戦場を駆け抜けて行くのであった・・・。
「随分奥まで来てもうたなぁ・・・。」
「そうだな・・・。大体この城の真中辺りまで来ているはずだ・・・。」
「真ん中いうと・・・、あのでっかい樹が立っとる場所になるやないか?」
「ああ、きっとそのせいだろう。周囲の根の数が・・・さっきよりも明らかに増えている。」
「せやねぇ、さっきから前に進むんがしんどくてしゃーないわ・・・。近くにあの木の根元があるん
かいな?」
「かもしれない。もしそうなら、早々に燃やした方がいいだろう。」
「燃やす・・・か。そうなっとこの城も一緒に燃やす事になるでぇ?」
「・・・・・・。翠には後で謝る。」
「せやな・・・。」
そんな事を話しながら、二人は通路を塞ぐ根をかき分けながら進んでいくと、開けた場所に出て来る。
「・・・どうやら、その根っこさんが登場のようやで。」
「あぁ・・・。」
そして目の前に現れたのは中央一ヵ所に集まり縦横関係なく絡み付き、大樹の幹並の太い束となって
天井、床を突き破って上へと登る丸太並みの太さの触手状の根の束だった。さらにその場所は床、天井、
壁、柱の全てが隠れて見えなくなってしまう程に根が縦横無尽に張り巡っていた。
「恐らく、ここは元々王宮となっていた場所なのだろうな・・・。」
根の束に近づきながらそう呟く凪。
「ここだけ見ると別世界やな、ほんまぁ・・・。」
真桜は辺りをきょろきょろと見渡しながらそう呟いていると、何かを見つけ足を止める。
「翠・・・!」
真桜は一人、一本の柱に走り寄って行く。その柱に根と一緒に絡みつく翠の姿があった。
翠の傍まで来た真桜は彼女の体に纏わりつく根をはぎ取ろうとするが、その異様な硬さと柔軟性に
素手で引きちぎる事が出来ない。そこで真桜は自分の腰に装備していた工具箱から素材を削るための
小刀を取り出し、それで根を切って行く。
「いけるか?」
凪は真桜の後ろからその様子をうかがう。
「根がそれ程太くないからぁ何とかなるで・・・。」
作業を進めながら、真桜はそう凪に答える。
そして翠に纏わりついていた根をある程度切ると、後は力任せに翠を引っ張り出した。
「翠・・・!しっかりせい!」
横たわらせた翠の肩を掴んで揺らす真桜。だが、それでも翠は起きなかった。凪は翠の口元に手を
かざすと、息が当たるのを感じた。
「呼吸はしているようだから命に別状はない。気を失っているだけだろう。」
「そかぁ・・・。なら翠も見つけた事やし、さっさとここから出ようや。」
「そうだな。」
凪は真桜達から少し離れた場所へと行くと、両手に氣を集中させていく。
「気弾で燃やすんかい?」
「さっき、あの黒いものを氣弾で吹き飛ばした際、周りの根は火を上げて燃えていた。
・・・この植物の事はよく知らないが、氣で燃やす事が出来るようだからな。」
凪は簡単に説明しながら、氣を溜めていく。だが・・・。
シュルルルッ!!!
「っ!?凪!」
「え・・・っ?」
突然、声を荒げて自分の真名を叫ぶ真桜にビクっと反応する凪。
バチィイイイッ!!!
「うわっ!?!?」
気が付いた時には凪は右頬に平手打ちされた様な衝撃を受け、横に倒れる。両手に溜めていたはずの氣は
瞬く間に拡散してしまった。
「な、何だ・・・今のは?」
今、自分の身に何があったのか良く分からない凪は辺りを警戒しながら見渡すと、自分のいた場所に
ボタッと不自然に横たわる一本の自分の腕程の太さの根を見つけた。
「・・・・・・まさか。」
この根の仕業か・・・?そう思いながらもそんな馬鹿なと自分で自分の考えを否定する。
シュルルルッ!!!
「・・・っ!?」
否定した途端、前触れもなく動き出し、自分に襲いかかって来る根。凪は咄嗟に横にかわすものの根は
それに合わせて軌道を変え、彼女の右足に巻きつくとそのまま凪の体を引っ張り始める。
「ぐぅう、ぁあああっ・・・、ああああっ・・・!」
しゅるしゅると床の上を滑って行く凪。そして今度は宙に高く持ち上げられると、そのまま床に叩き
付けられる。
ドゴォオオオッ!!!
「がはっ・・・!」
凪の瞳孔が開く。動かなくなった凪に、右足に巻きついていた根はそれを解くと同時に床に張っていた
根もゆらゆらとくねりながら動き出す。そしてその先端を横たわる凪に向け、一斉に襲いかかった。
「凪ぃっ!!このぉ・・・、根っこの分際に、凪を慰みものにしてたまるかいなぁぁあああーーー!!!」
真桜は螺旋槍の螺旋部をキュルキュルと音を立て回転させながら、凪に群がる根に突っ込んでいく。
ブワゥアアアアアアアアアッ!!!
根達は螺旋槍によって次々と抉られ、切り刻まれていく。切り刻まれた根の一部が凪の上にぼたぼたと
落ち、凪はその中に埋もれてしまう。
「凪、しっかりせぃや!」
真桜は埋もれた凪を持ち上げると凪は頭を横に振って気を取り戻すそうとする。
「助かった、真桜。これは・・・一体何だというんだ?」
「さぁてな・・・。ただ、翠を連れて行きおったのがこの根っこ共やっちゅう事ははっきりしたで。
大方、凪が自分を焼こうとしたもんやから・・・。」
そんな時、音もたてず奥の暗闇の方から近づいて来る・・・。
「・・・誰だ!」
凪はその近づいて来るものの気配を感じ取り牽制する。だが、それでもあの歩みを止めず、凪達の前に
その姿を露わにした。
「気配は消していたつもりでしたが・・・、やはり伏義や女渦の様にはいきませんでしたか。」
凪と真桜は立ち上がると、その人物に向けて構える。
「・・・お初にお目にかかります。自分、分身の身である故名前は持たず、仲間内からは祝融と呼ばれて
いました・・・。」
その外見とは裏腹に丁寧な言葉遣いで喋る祝融。とはいえ、彼女からただならぬ悪意が発している事は
二人には容易に理解出来た。
「この一件は貴様の仕業なのか!?」
凪は祝融に聞く。
「・・・私だけの仕業と言うわけではありませんが、まぁ・・・私もこの件に一枚噛んでいます。」
「なら、この植物は・・・!?」
「これは私の所有物・・・、いや・・・、私の一部と言った方が正しいでしょうか?」
「この植物を使って何を企んでいる!?」
「・・・少なくともあなた方にとってよろしくない事をしようとしています。」
「せやろうな~。でもうちらとしてはもうちっと詳しく聞きたいやけど・・・。」
「・・・聞いた所で、あなた方に理解出来る事ではありません。」
「何やとっ!!」
「まぁ・・・、強いて言うとするならば『恐怖』を・・・、『負の感情』を集めるため。とでも言って
おきましょう。」
「それはどういう意味だ!」
「先程私は言いましたよ。あなた方に理解出来る事ではない・・と。これ以上、話した所で意味は無い
でしょう。」
「「・・・・・・。」」
凪と真桜、祝融の間で行われていた質疑応答はそこで止む。
「一応、あなた方の答えを聞かせていただけますか?」
祝融は二人に問いただす。
「少なくとも、あんたがうちらの敵やっちゅう事は分かったで。せやから・・・。」
「我々は・・・、貴公を倒す。」
二人はそう答えると、祝融はふっと軽く笑った。
「分かりました。では、あなた達はここで死んで下さい。」
そう言うと祝融は二人に背を向け、横眼に二人を見る。
「もっとも、あなた方の相手をするのは私ではありませんが・・・。」
「「?」」
祝融の言った意味が分からない二人。しかし、それはすぐに理解する事となった。
チャキッ・・・。
「はっ!!」
ブゥオンッ!!!
「おわっ!!」
自分達の背後に気配を感じた二人は咄嗟に後ろを振り返ると、自分達に襲いかかる影に気付き、寸前で
その攻撃を回避する。そして攻撃して来た人物を確認すると二人は驚愕した。
「「翠っ!!」」
そこには銀閃の切っ先を二人に向けながら、虚ろな目で二人を見る翠がそこにいた・・・。
「ちなみに、今ここに干禁と馬岱が向かっているようです。後、北郷一刀は今、街中で麒麟と
応戦しているようですね。死ぬ前に、仲間が駆けつけてくれるといいですね・・・。」
くくく・・・と喉を鳴らして笑うのは、祝融だった・・・。
「・・・はぁ、・・・はぁ、・・・はぁ。」
俺は呼吸を整えながら、家と家の間に隠れている・・・。ケンタウロスは俺の姿を求め、周囲を歩き
まわっている・・・。だが、今見つかるわけにはいかない・・・、俺は左脇の出血はある程度治まった
ようだが、まだ完全に止まった訳でもないし、体力が戻った訳でもない・・・。正直、今立っているのが
つらい・・・。このまま座ったら、もう立てなくなってしまうだろう。(一刀は気付いていないようだが、
無双玉の力によって、一刀の自然治癒力は高まっているため、通常よりも数倍早く出血が治まっている上
に体力の回復も早くなっている。)・・・くそ、無双玉っていう力を得たって言うのに!力があってもそれ
を使う奴が駄目じゃ意味がないって言うのかよ・・・!
「くっ・・・。」
俺は悔しさから、閉じた口から声が漏れる。
―――お前の心次第・・・。
「・・・・・・・・・。」
熱くなった俺の頭の中に、南華老仙の言葉が響き渡る・・・。こんな時にでも、あの爺さんの言葉を
思い出すなんて・・・。俺の心の中に生き続けるなんて、誰かが言っていたけど。あいつ・・・俺の中で
本当に生きているんじゃないのか?そんな事を考えいると、俺は南華・・・、露仁と繰り広げた珍道中を
思いだす・・・。
「ぷぷ・・・っ。」
そんな事を思い出してると俺は思わず吹き出してしまった。今思い出しても本当に面倒な爺さんだったな。
・・・まぁ、だからこそ俺は最後まで一緒に旅が出来たのかもしれない・・・。
「不思議だな・・・。」
ほんの数週間の付き合いだったって言うのに、まるで長年付き添って来たような親友みたいに思えて
仕方がない・・・。まるでずっと昔に会った事がある様な・・・、何か懐かしいこの感覚・・・。
「ぁ・・・。」
気が付くと、俺の頭にとどまっていたはずの熱が消え、冷静さを取り戻していた。傷の痛みも消え、体力
も大分回復できていた・・・。
「・・・とはいえ、一体どうしたものか・・・。」
同じ手はもう使えない・・・。奴の懐に入る事事態は、加速して一気に距離を詰める事は出来る。
でも問題はその後だ・・・。何か決定的な一撃を叩き込まないと反撃を食らって・・・その繰り返し。
あの白銀の鎧の前では、刃の斬撃は無意味だ・・・。俺は何かいい方法は無いか考える・・・。
―――あれと戦っている時・・・、何か・・・恋と戦っている時の事を思い出して・・・。何か懐かしい
っちゅうのか?・・・そんな感じがしたんや。
そう言えば、霞はケンタウロスを呂布みたいな事を言っていた・・・。もしそうだとしたら、彼女は
・・・外史喰らいに操られている・・・、撫子さんみたいに?だとしたら・・・。
―――伏義との戦いを思い出すのよ、一刀ちゃん!あの時、あなたはどうやって倒したの?
―――あれをやれって言うのか!?彼女を殺せってそう言いたいのか!!
―――殺す殺さないかは、あなた次第・・・、でしょ~?あなたが曹洪ちゃんを助けたいと思っている
ならば、強く願いなさいなぁっ!そうすれば力があなたの想いに呼応してくれるは・ず・ッ!
・・・伏義の時と同じ要領でやって、俺は撫子さんを助ける事が出来た・・・いや、まだ完全に助けた
わけじゃないけど・・・。でも、もしかしたらそれと同じ様にすれば・・・。そうすれば、ケンタウロス
を倒せる上に呂布も助ける事が出来るかもしれない・・・。
「一か八か・・・、賭けになるがやるしかない。」
俺は覚悟を決めた・・・。
ドガァアアアッ!!!
「うぉわっ!!」
突然、横の壁が壊れ、そこから一本の槍が飛び出してきた。俺はそこから離れると、そこからゆっくりと
ケンタウロスが姿を現す。俺は納刀していた刃を鞘から取り出し、構える。
「さて・・・、最終ラウンドといこうか!!」
ビュンッ!!!
ビュンッ!!!
ザシュッ!!!
「グフゥッ!!」
ザシュッ!!!
「ウグゥッ!!!」
「五胡と外史喰らいの混合軍・・・、まさかここまで手強いとは・・・。」
「秋蘭様、風さんから伝令が来ました!右翼の部隊が押されつつあるようです。」
「分かった!では流琉、ここは任せるぞ!」
「はい!」
「皆の者、行くぞ!」
「「「応っ!!!」」」
自分の部隊を引き連れ、秋蘭は右翼へと移動していく。
流琉はそれを見送った後、自分の持ち場に戻ろうとした。
「おーーーい、流琉ーーーっ!!!」
「え、季衣?」
後ろを振り向くとこっちに走って来る季衣の姿が見えた。
「季衣!どうしてあなたがここにいるの!?季衣の持ち場は反対側のはずでしょ!」
「う、うん・・・それは、分かっているんだけど・・・。流琉、春蘭さま見かけなかった?」
「えぇ・・・?春蘭様がどうかしたの・・・。」
「春蘭さま、霞ちゃんと一緒に馬に乗って戦っていたんだけど・・・。」
「だけど?」
「秋蘭さまがあぶない!って霞ちゃんに無理を言ってそのまま何処かに行っちゃったままなんだよ~。」
「・・・・・・。ごめん、私・・・春蘭様と霞さんは見ていない。秋蘭様は今、右翼の方に行ったけど
・・・。」
「あっちの方、大変なの?」
「大分押されているみたい。」
「なら、ぼく秋蘭さまのとこにいくよ!!」
そう言うと、季衣は右翼の方へと走っていった。
「ちょっと季衣、あなたの持ち場はそっちじゃないでしょーーー!!」
「右翼部隊との連絡はまだ取れないのか?」
「はっ!未だに・・・!」
「風の元にも届いていないとなると・・・。それ程までに苦戦しているというのか・・・?」
「如何なさいますか?」
「行ってみれば分かる事だ。急ぎ右翼の部隊と合流する!!」
「御意っ!!」
右翼部隊に急ぎ合流するため、秋蘭は進軍速度を上げようとした・・・。
「ぎゃあああっ!!!」
ブォオオオッ!!!
ドガァアアッ!!!
「うぉわっ!!!」
目の前からいきなり、一人の兵士が文字通り飛び込んで来て、秋蘭の横にいた兵にぶつかり、二人一緒に
吹き飛ばされる。
「何・・・っ!?」
吹き飛んでいった二人を見て、秋蘭は前を見る。そこには、一人の大男・・・。秋蘭は息を飲む。
それは以前、洛陽を襲った外史喰らいの兵の中にいた総指揮官と思しき者と全く同じ風貌の大男(名前は
鷹鷲(たかわし))であった。
「・・・・・・こ奴は。まさかあの時の・・・。」
鷹鷲の視界に秋蘭達が入ると、鷹鷲の右手が秋蘭達に向く。そしてその後方から外史喰らいの兵達が
跳ね跳びながら秋蘭達に襲いかかって来た。
ブゥオンッ!!!
ザシュッ!!!
「ぎゃあああっ!!!」
ブゥオンッ!!!
ザシュッ!!!
「ぶうえええっ!!!」
外史喰らいの兵と交戦する秋蘭の部隊。
「くっ!」
ザシュッ!!!
「ッ!?!?」
秋蘭は手に持っていた矢を弓にかけずに、そのまま敵の胸元を刺し貫く。その背後から襲いかかって来た
敵をそのまま横にかわし、その喉を矢で刺し貫いた。
ブゥオンッ!!!
「っ!」
襲いかかって来た鷹鷲の振り下ろし斬撃を横に避ける秋蘭。手に持っていた矢はその振り下ろしによって
叩き折られてしまう。
ダッゴォオオオッ!!!
鷹鷲の放った斬撃はそのまま大地を砕く。そこから間を置く事無く秋蘭に追撃を加える。
ブゥオンッ!!!
ステップを踏んで後ろに下がる事で秋蘭はその追撃を避ける。
「はぁっ!!」
ビュンッ!!!ビュンッ!!!
二本の矢を弓で放つ。
ザシュッ!!!ザシュッ!!!
二本とも鷹鷲に命中する。だが当の鷹鷲は動じる様子が無く、自分に刺さった二本の矢を順番に引き抜き
秋蘭に投げ返した。
「あの分厚い筋の層を私の一撃では貫けないと言うか・・・。」
自分の足もとに転がる二本の矢を見ろしながら秋蘭は呟く。何も言わない鷹鷲だったが、その行動で何を
伝えようとしているのかは明白であった。
「秋らぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!!」
「姉者っ!?」
「?」
そこに春蘭の叫び声が響き渡る。姉の姿を何処かと探す秋蘭。
ブォォオオオッ!!!
「うわ・・・っ!」
秋蘭の左横を物凄い勢いで通り過ぎていく一頭の騎馬。その上には騎馬を操る霞と、その後ろにまたがり
七星餓狼を右手に持つ春蘭がいた。騎馬は速度を落とす事無く鷹鷲に突っ込んでいく。
「はああっ!!」
春蘭はまたがっていた騎馬から飛び出すとそのまま鷹鷲に向かって飛び込んでいく。その勢いを乗せ、
春蘭は鷹鷲に渾身の一撃をお見舞いした。
ガッギィィイイイイイイッ!!!
それを大剣で受け止める鷹鷲。そして鷹鷲はそこから春蘭を体ごと弾き返した。弾き返された春蘭は
宙で一回転して秋蘭の前に降りる。
「姉者・・・。」
「待たせたな、秋蘭。」
剣を構え直しながら、春蘭はそう言う。
「どうしてここに・・・!」
何故、反対側の陣にいるはずの姉がここにいるのか・・・、秋蘭は姉に問いだたす。
「五胡の兵士の中に洛陽の襲った奴等が紛れていたからな。きっとまたお前を狙って来るのではないかと、
思ってな。」
「だから霞と相乗りして私を探しに来たと言うのか?」
「あぁ、何かまずかったか・・・。」
「自分の持ち場はどうするんだ?」
「・・・・・・・・・あ。」
「姉者・・・。」
「すまん・・・。」
「・・・まぁいいさ。ならば、あ奴をすぐに倒せばいいだけの事だ。」
「・・・だな!行くぞ、秋蘭!!」
「うむっ!」
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こんばんわ・・・いや、おはようござますアンドレカンドレです。
必死こいて書いていたら、こんな時間まで掛かってしました。
今回はまたしても大容量の内容・・・、死ぬかと思いました。
さらに今回は魏・外史伝第壱章の閲覧ユーザー数が5000人を突破したので、その記念に今回は挿絵を計7枚描きました・・・。おかげで寝不足気味です・・・。
さて、今回は3つ視点に分けて同時に進行でお話が進みます。華琳さん達は!一刀君は!凪と真桜は!
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