No.1045477

深海の天秤〈第一章 ファースト・インパクト⑨〉

神嘗 歪さん

 その女性は、入ってきた二人に背を向けている状態で座っていた。
 女性の前にはテーブルを挟んで、白衣姿の医者と年配の看護婦が一人づついる。
 女性は落谷たちが入って来たことに気づいているようだが、振り向く様子は無い。代わりに医者が阿妻の顔を見るなり軽く頷く。
たぶんその意図は、健康上問題無いという意味だろう。
 阿妻は隣の落谷に、子声で「引ったくりに襲われたさいに頭を打ったようなので、念のため細かく検査を受けてもらいました」と説明する。そしてすぐに、医者と看護婦に向かって「すみません。彼女と話がしたいので、少し席を外していただきますか?」と言った。

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