No.1044285

司馬日記57(本編最終回)

hujisaiさん

その後の、とある文官の日記の最終回です。
外伝やスピンオフはまだ色々(えっちぃのとか)書きたいものがあるのですが、本編としましてはひとまず最終回となります。
感想等戴けましたら、後日あと書き等で御返事御礼申し上げたく御座います。
三次創作戴いたくらげ様、イラストを戴いた飯坂裕一様、そして今まで長きに渡り御笑覧頂いた皆様、有難う御座いました!

2020-10-25 18:25:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3643   閲覧ユーザー数:3085

12月28日

仕事納めとして一刀様が各部署へ慰労の御挨拶に赴かれた。

しかも夜は各国の忘年会に顔を出される他、明日も年末年始に勤務する軍の治安維持担当や緊急時対応・施設保守担当らの慰労に廻られるとの事だ。

例年のことながら一刀様の臣下への御慈愛に深く感動し、この御恩に報いるべく皆にはまた一年一刀様の御為に尽くして頂きたいものですと詠様に申し上げると、

「顔出しくらいはきっちりやってお茶濁しておかないとね。華琳と桃香と蓮華で年末年始の当番もう決めてんのに『私と年越しだ、姫始めだ』とかほざいて乱入してくる馬鹿共の相手させられるのはもう懲り懲りだからね」

と半眼でため息を吐かれた。

 

12月31日

今年は本日から一刀様は各国王様と過ごされる事とされたので、朝の内から月様、曹操様らと年末年始に御使用になる備品類、食材や燃料等の管理についての引継ぎを行った。

引継ぎが終わる頃に一刀様もお見えになり、『今年も最後の最後まで御世話有難う』と労いの御言葉を賜った。

臣下として当然の事をしたまでであるにもかかわらず御優しい言葉をかけて下さる御心に思わず涙しそうになったがなんとか堪え、月様と共に御挨拶して退出しようとした所、月様が一刀様に呼び止められ

「月、月は本当に正月ぐらいゆっくり休んでね!桃香達もいてくれるんで大丈夫だから、何も気にしなくていいからね!?」

とお声掛けされるのに対し

「はい。御主人様も華琳さん達も、何か足りないものがあったら事務室にいますからすぐに言って下さいね」

と月様が御返事をされると一刀様は苦笑いと共に絶句され、曹操様らは一斉にぷっと噴き出された。

月は本当にそういう病気なのねと微笑まれ、各国王様らで相談され三が日の洗い物、お洗濯の一部を月様に依頼されていた。

 

1月1日

今年度は新年の年賀も仕事始めと合わせる事となり、珍しく家族そろって正月を過ごした。

士季と士載は帰省している。士季はかなり渋っていたが、鐘繇殿が都にお住まいであるにも関わらず碌に帰っていなかったので強引に帰らせた。

今年も一刀様にとって良い年であるよう粉骨砕身努めていきたい。

 

 

1月7日

帰宅すると辞典のような書物が宅配にて届いているのを見かけ、宛名を見ると叔達の注文品のようだった。

夕食時に何であるのかと叔達に聞いたところ天の国語録の再編版であると言う。天の国語録が十数巻を数えているのは知っていたが、遂に二十巻を数え膨大になったのを機に用途毎に再編されたものらしく、政治・経済・人文・芸術等に巻が分けられていた。

感心な事であると褒めると、姉様はやや疎すぎるのではないでしょうかと逆に咎められた。一刀様のお近くに仕える身としてそんな事は無い筈だと反駁すると、

叔達、季達、士季らから

「そうでしょうか?では、私は先日長文様より文書管理のアジェンダについてコンセンサスを取るスケジュールのマイルストーンを提示するよう指示を頂いたのですがレジュメを作成したのでチェックをお願いしても宜しいでしょうか?」

「あ、私はこないだの御伽で一刀様にイレギュラーストライプのキャミとデニムのマイクロミニにTバックがセクシーだねって褒めて頂いたんですが仲達姉様はどう思います?」

「私も一刀様にバキュームで御奉仕した御褒美にボンデージでスパンキングされながらバックで激しくピストンして頂いたんですけど仲達様もそういうのお好きですよね?」

等と言われ、全く意味が分からず言葉に窮してしまった。

しかし士季のドヤ顔が余りにも腹立たしく、士季の言うそういった御奉仕は当然私も望むところだと苦し紛れに答えると

「「…そうですよねぇ~!」」

と季達、士季は耳まで裂けるかと言うほど口を歪めて不気味な笑みを浮かべ、叔達は失笑を浮かべながら姉様は少なくともこの巻だけでも読んで下さい、と天の国語録から閨房編を渡された。

 

…「すかーと」「ぶら」位なら私だって知っているのだが足りないのだろうか…

 

1月12日

詠様らに休憩時間に天の国の言葉についてどの程度御理解されているか伺ったところ、詠様は政務に関わる単語なら大体は分かるが敢えて自分から使う事は無いと言われた。月様は生活関係の用語は大体分かり、一刀様がよく使われる言葉については一刀様の利便性の為ある程度使うようにし、周囲にもなるべく広める様にされているとの事だ。

一方逢紀は生協での商品宣伝の都合上よく使っていると思うと言う。

我が身を振り返ってみるに、月様の用法は一刀様の御利便性を鑑みるに適切なものだろう。尚一層月様を御手本とし、一刀様の御言葉一語一句を大切にして一刀様の御常識を世間の常識とするべく、己の用いる言葉にも気を配らねばなるまい。

 

1月15日

一刀様の御出張からの帰庁に随行していたところ、昼の休憩時間に姜維、士載に士季が武術の鍛練をしている所に通りがかった。

一刀様が足を御止めになり熱心だねと感心されながらしばらくご覧になっていたが、姜維が高く跳躍し渾身の一閃を士季に放ったのを見られるや珍しく少年のような笑みを浮かべられ藍(姜維)ちゃんちょっといい?と御声をかけられた。

姜維が手を止め御用か御指導でしょうかと伺うと、今の斬撃をもう一度見せて欲しいとの御指示であった。姜維は目を丸くしつつも御指示通りに高く跳躍すると、一刀様が

「必殺ぅー!」

と御声を掛けられ、斬撃と共に

「開明王烈斬ーっ!」

と叫ばれた。姜維がぽかんとして今の御言葉はどういった意味でしょうかと伺うと、

「いや、男の子ってそういうの…うおぉーとか言って技の名前叫んでどかーんみたいなのが好きで、技名は適と…今何となくで言ってみただけ。邪魔してごめんね」

と笑いながら仰った。

姜維がはい、と今一つ要を得ない返事をすると、隣にいた士季が

「藍(姜維)、一刀様は藍の斬撃に名前を付けて下さったのです。お礼を申し上げるべきです」

と口添えをした。すると姜維はぱっと花のような笑顔になり、

「『開明王烈斬』…『開明王烈斬』ですね!御命名、有難う御座います!」

と深く頭を下げると、うんまぁ余り気にしないで他の技も大事にしてねと言われた。

後進の者へも懇切御丁寧に御指導下さる一刀様には真に以って畏敬の念を禁じ得ない。

 

1月19日

一刀様の御執務室で給仕を行っていると、笑顔の元譲様がどたどたと御入室されて来た。曰く、

「おい一刀一刀!私も新しい技を考えたから今から見て名前を付けろ!」

との事で、一刀様は各種書類を御決裁中である旨をお話ししたが一刀様が構わないので見てくると御一緒に演習場に出ていかれたので随行させて戴いた。

元譲様はいいかよく見ておけ、と言いながら大刀を振りかぶると裂帛の気合と共に袈裟十字に二度剛剣を振り下ろし、その十字の衝撃波は数十米も演習場の土を抉りとり、遥か遠方の樹木の枝を折った。得意満面の元譲様が、

「どうだ!見たか!?なあ凄いだろう!?凄いだろう!?この必殺技に名前をつけさせてやるから感謝しろ!」

と一刀様に詰め寄られると、一刀様も笑顔を浮かべられながら、

「命名。『にゃんにゃかぽーん』」

と御答えになられると元譲様はずっこけられた。

「な、なんだその可愛い感じの名前はっ!?もっとこうかっこいいやつ、暗黒無尽槍とか、轟波狂乱矢とかあるだろう!?」

「お前の得物は刀じゃねーか!つか先週も演習場に大穴開けて怒られてるのにまたやるか普通!?流石にちょっと来い!」

等と侃々諤々話されていたが、一刀様が決裁事務は後で行う、今は元譲様の御部屋で説教をされると仰りお二人で魏の居室方面へ向かわれていった。

 

1月26日

本日は珍しく全体朝礼を行った。一刀様の御意向との事だ。

訓示で仰ることには最近派手な技に走り、競って一刀様へ命名を強請る武官が増えているとの事だ。

「蜀の姜維さんには俺が不用意に余計な事を口走ってしまったけれど、実戦ではそんな技の名前とか叫んでる暇とか無いと思うんで余り気にせず軍務に取り組んで下さい。過去に『我が剛斧の錆になりたい者は居るか!?受けてみよ、金剛っ、大・爆・斧ーっ!』って言おうとして半分も言えずにやられてる人もいましたんで」

と訓示されると、華雄殿が

「そ、それは大分昔の事だろう!?今はそんな事は言ってないだろうが!」

と満面を主にして弁解されていた。

ともあれ、己が栄誉を満たさしめんが為に一刀様に御迷惑をかけてはならぬ事は言うまでも無い。

 

1月27日

公達様の御機嫌がすこぶる悪い。

子丹御嬢様曰く先日の一刀様の元譲様への御叱責御指導が性的なものに及び、その内容が被虐性癖で夙に有名な公達様にとって途方もなく羨ましいものであった為らしい。

張郃も語るには、なんで毎度毎度あの馬鹿ばっかり虐めて戴いてとイラついた声で呟いていたのでまず間違いないという。

正直その性癖には微塵も共感出来ませんけれど、その為にわざわざ一刀様を怒らせるような事はしないところだけは評価出来ますけれどねという御嬢様の御言葉には同意出来る。

 

2月1日

一刀様が出張中で御不在の執務室で、休憩中に元直からあんたたち一刀様が本気で笑ってるとこ見た事ある?と聞かれた。

膨らみかけの蕾さえも花開かせる春の太陽の如き笑顔は幾度となく拝見しているがと答えると、元直が言うのはげらげら笑っている姿を見た事があるかと言う事らしい。

子敬がそういえば無いかもしれないわねと相槌を打つと、あの年で馬鹿笑いをめったにしないなんてちょっとおかしいわよね、女の扱いで営業スマイルをさせられ過ぎたからかしらと元直は腕を組んだ。

一刀様は殿方の中の殿方であられるから不必要に下品な笑いは見せぬようになさっているのだろう、奥ゆかしい事であると意見すると、子敬がにやりと笑いながら

「笑おうがクシャミしようが欠伸しようが褒めるネタにしかならないあんたの意見はもういいんだけどさ、じゃ逆にさ、一刀様がガチ切れしたの見た事ある?」

と問うてきた。私も元直も見た事がない、あの近親☆上等姉妹に叱責される際でさえも我を失われるような御様子は無かった筈と言うと

「私はあるわよ?怒られた娘の名誉の為にいつだったとは言えないけど。結構迫力あったな、普段優しい人だから」

とどや顔をし、教えなさいよと食い下がる元直に対しじゃあヒントだけ、一刀様が怒る理由ってほぼ一つだけじゃない?と思わせぶりな事を示唆して休憩時間が終わってしまった。

 

御優しく激される事の無い一刀様がそのように御心を乱される事を出来る限り少なくするのが我々臣下の務めであり、私は日々それにまい進するのみだ。

 

2月3日

黄忠殿から依頼されていた璃々嬢(と恵達(司馬進、六女))の鍛錬を行った。私の休暇に合わせてである為不定期であるが、璃々嬢も恵達も良く取り組んでいる。

璃々嬢は短戟の習熟もさることながら会う度に心身の著しい成長が目に付く。学業も優秀で三国塾では高等部に飛び級したとも聞いているが、飛び級抜きでも高等部生だと聞いても信じてしまうだろう。

 

2月6日

魏庁内報によると曹操様の私財で建設された銅雀台に「水道」というものが装備されたという。

かねてから最新式の井戸により水の調達には事欠かなかったと言うが、曼成殿の下で開発に従事する馬均の発明した足踏式揚水機なるもので水を高くまでくみ上げ、それを竹管を組み合わせたもので炊事場等まで導水し、水栓なるものの操作で容易に水を出し止め出来る物らしい。

『天の国の技術を現代の技術力で再現した素晴らしいものであり一般臣民への普及の第一歩とされたい』という一刀様の御褒めの言葉と共に、今後更に銅板上に流した水が乾く際に銅板を冷やす仕組みを応用して「冷房室」なるものの開発に取り組むと掲載されていた。

馬鈞らの技術力もさることながら、一刀様の民草への深き思いやりには改めて感じ入るばかりである。

 

 

 

 

 

某月某日

曹操様が御懐妊なさった。

終業時間前に緊急で部長級が全員大会議室に集められ、曹操様御自身から御報告された。

安定期に入ったら一旦戻るが今後暫くは政務から離れるため、軍事関連は妙才様と子丹御嬢様、各行政事務は文若様、仲徳様、稟様、公達様らを中心に支えていくようにとのお言葉であった。

遂に一刀様にお子がお生まれになる。この御世を益々安寧たらしめるものであり、何より一刀様、曹操様の御幸せを思えば感無量である。

 

総務室に戻り、詠様にこの度は御目出度い事ですと申し上げると

「…ま、ひとまず計画通りで良かったわ」

と頷かれ、予め予見されていたかのようなお言葉であった。既に御存じだったのでしょうかと伺うと、

「ようやく世の中が落ち着いてきたからね。順番決めて、政治に穴が開かないようにしながらそろそろ子供作りましょって事よ」

との事だ。しかし子は授かり物であるのでそう上手くいくのでしょうかと問うと、

「まあタネ明かししてもいいんだけどね…ま、あんたの大好きな一刀様は『いし』の力で子供を授けたりまだ仕事させる為に止めたりしてたんだって考えときなさいよ」

と微笑まれた。

 

翌日以降、憶測や噂の流布を防止する為御伽当番表は非公開となった。

 

某月某日

曹操様御懐妊以降、約三か月の間を明けて蜀王の劉備様、呉王孫権様が御懐妊なさった。その後はたて続けに元譲様、文若様、呉は黄蓋殿、張昭殿、蜀は厳顔殿等、各国の重職らが懐妊された。一刀様の御子を授かる喜びがこの大陸に広く与えられ、とても喜ばしい事だ。

黄忠殿は璃々嬢に続き第二子の御懐妊となり、やや年の離れた姉妹となる。またその間璃々嬢は御母堂の政務をそのまま引き継がれるとの事だ。

 

某月某日

後宮に建設中であった保育所が竣工した。妊娠中から幼年期までの保育を想定し、段差の解消や手すりの充実、出隅の処理や柔らかい床等母子の安全性、夜泣き対応のための防音性、授乳やおむつ替え等の利便性等が十分考慮された浴室等水回り設備等を備え、装飾等こそ質素なものの『後宮よりも住み心地が良い』等と言われる程の施設となった。

一刀様の御子息、御息女がお育ちになる施設であれば当然ではあるが、いずれは自分以外の父母にも広く使用してもらいたい、また民間向けの保育所建設の参考にしてもらいたいとの一刀様の御言葉には感動した。

 

某月某日

一刀様の起居が保育所に移られた。妊娠中で何かと不安定となられやすい各寵姫の慰撫に努められたいとの御希望によるもので、業務の便宜上総務室も保育所内に引っ越すこととなった。

 

 

某月某日

相次ぐ魏の重臣の方々の御懐妊による休職の為、総務室付きのままで魏総務部付きを外れ録尚書事に任命された。

子丹御嬢様や張郃・郭淮らも昇進しており、この一時的な人材不足の状況を力を合わせて乗り切らねばならない。

 

某月某日

曹操様が御出産なさった。

元気な御息女で、名を丕と御付けになった。

一刀様にとっての長子でもあるが、曹操様の御負担を考慮し一刀様の他は呉王・蜀王と魏の譜代の方々十数名以外は当面面会謝絶となり、曹操様の御体調次第で徐々に面会範囲を広げていくとの事であった。

一刀様の御子様の御尊顔は是非拝したい所ではあるが、他日を楽しみにしよう。

 

某月某日

詠様も御懐妊なさった。

詠様御自身は素っ気ない御様子であったが月様の御喜びは一方ならず、涙と共に言葉に詰まられ、詠様と抱き合っておられた。

詠様の御休職に伴い、総務室長代行の大任を拝命する事となった。

一刀様の御為に働ける事はこの上ない栄誉ではあるが、魏の業務に三国総務室にと余りにも荷が重い為魏では姉妹、総務室では士載の助力を恃む事となった。

 

某月某日

各寵姫の御懐妊による休職、御出産と復帰が目まぐるしい。

特に軍務は御出産後もすぐには復帰はできない為人材のやりくりが苦しい中、士季がよく頑張ってくれている。

 

某月某日

二週間ほど前に連絡が入り、久しぶりの御伽番となった。

 

通常の夜番と異なって比較的早い時間から入室するよう指示があり、一刀様の元へ伺うと今日は仲達さんに大事な話があるという。

曰く、今までは政情が安定するまで各国王らの妊娠を控えてもらう為、また重臣らは国王よりも先に妊娠させてしまうと角が立つ為に華陀殿の薬により一刀様御自身が避妊をしていたが、漸く状況も落ち着いた為各国王から順次希望する寵姫とは避妊をやめ子を為されているとの事だ。ついては仲達さんがもしよければ俺との子を産んで一緒に育ててくれないだろうかとの御言葉であった。

曹操様の御懐妊後より、一刀様が今まで御避妊なさっていたようだと言う事は薄々耳に入っていたが、私に一刀様の御子を為して欲しいというお言葉に感極まり、滂沱の涙が流れ止まらなくなってしまった。

幼児のように泣きじゃくる私を泣き止むまで一刀様は御優しく抱きしめてお待ち下さり、どうにか是非一刀様の御子を私にお授け下さいませ、と申し上げると、有難う、いつも一緒には居られないけれど俺の子でもあるから協力して育てていこうね、と仰り口づけて下さった。

 

その夜の一刀様の深き御愛情は生涯忘れ得ぬ。

今までも、この夜も、一刀様は愛しているよと仰って下さった。

今までも、この夜も、お慕いしておりますと申し上げた。

すると愛されてる自信があるから、愛していると言ってくれるかと御言葉を賜った。

愛しております、一刀様。

愛させて下さいませ。

 

某月某日

華陀殿より妊娠三か月と診断された。

自身、もっと取り乱すかと思っていたが落ち着いて聞く事が出来、その後温かな気持ちがじわじわとこみ上げてきた。

急ぎ詠様や月様に御報告すると、御祝福の御言葉と共に直ぐに一刀様へ御報告するよう指示を受けた。

一刀様は各国王他と御会議中であった為室外で待っていると、廊下を通りかかられた稟様に用務を聞かれたのでこれこれ斯様で御報告の為にお待ちしておりますと申し上げた。すると稟様は祝いの言葉と共に笑顔を浮かべられ、会議室へ入って行き仲達より緊急報告があるので暫時中断願いたいと具申された。

一刀様にのみ耳打ち程度で御報告するつもりであったが稟様に促され会議室に入ると、各国王様や重臣の方々はどうやら察知されていたようで既に好奇とも思いやりともつかぬ笑みを浮かべて待ち構えられており、羞恥にしどろもどろになりながらも妊娠を御報告するとその場の皆様より拍手と共に、各国王様から

「きっと司馬懿さんに似て美人になるんじゃないかしら」

「娘には泣き虫がうつらないといいわね」

「物凄いパパっ子に育ちそうだね」

等と御言葉を戴いた。一刀様はいつもの御優しい笑顔と共に有難う、と仰って下さりながら席を立って優しく抱きしめて下さった。

思わず涙がこぼれそうになり、詳細はまた後程御報告申し上げます、と申し上げて会議室を辞させて戴いた。

 

某月某日

他の寵姫達もそうであったので当然ではあるのだろうが、後宮新聞の一面を自分が飾ってしまうのは面映ゆいものがある。

 

某月某日

華陀殿の診断によると双子の娘であるらしい。

一刀様に御報告すると、やっぱりそうだったんだねと微笑まれた。

他の寵姫に女児率が高いので娘であった事は驚かれないと思ったが、双子である事までどうやら御予想なされていたようだった。

母体に負担がかかると思うので一層体を大事にして欲しいと温かい言葉を賜った。

 

某月某日

娘達が動くのが日々感じられる。

天の国では胎教と言い胎児のうちから子に良い影響を与える行動があるらしい。

元々余り怒りや憎悪で感情を激する事がない方だと思うが、休職中の暇に任せて腹越しに娘達を撫でながら偉大かつ聡明で慈愛海の如き一刀様の素晴らしさを語って聞かせるようにしよう。

 

某月某日

遂に娘達が無事生まれてくれた。

華陀殿指揮下の産科医、助産師らの助力もさることながら、産気づいた報を受けられ急遽出張先から御戻り下さった一刀様が手を握っていて下さった為、何ら苦しむ事無く生まれてきてくれた。

大きな泣き声をあげる娘達を抱き、元気に生まれてきてくれて有難う、元気に生んでくれて、仲達さん自身が無事でいてくれて有難う、と微笑まれる一刀様と嬰児たる我が娘達の顔を見て、一刀様に傅く愛妾の一人としてに加えこの子らの母としてしっかり育てねばならぬと決意を新たにした。

 

某月某日

娘らの名について一刀様に御命名賜るようお願いしたが、名を一刀様がつけるので字は私がつけるよう御提案下さり、真名は司馬家の慣わしに従い字と同一で良いのではとの御言葉であった。

長女を師、次女を昭と御命名下さり、字を子元、子尚とした。

是非御父上に似た賢く優しい娘になって欲しいものだ。いや、なるよう私が育てるのだ。

 

某月某日

嬰児を二人も抱える身となってしまったが、保育所は保育士に加え先輩・新米母仲間が多く勝手を教えて貰えるので有難い。

 

某月某日

一刀様がお見えになった。

娘達は今だ喋れぬものの、一刀様がお見えになるととみに機嫌が良いように見える。

一刀様は現在は御政務は殆どなさらず未産の者を含む寵姫とその子らの世話にほぼ専念されているとの事で、おむつ替えやげっぷのさせ方等に非常に慣れていらっしゃった。

 

某月某日

娘達が三国幼稚園に入園した。

姉妹共に頗る活発な為、園友らと諍いを起こさないか多少心配ではある。

 

某月某日

娘らによると園では曹丕様と懇意にして頂いているらしい。

流石に弁えているとは思うが、王女様であらせられるので言葉態度等失礼の無い様接させて頂きなさいと指導した。

 

某月某日

月日の経つのは早いもので娘らが初等部に入学した。

一刀様に似て中々に聡明な娘に育ちつつあるが、最近母に対する態度と一刀様に対する態度の差に多少腹立たしく感じることもある。まあそれも成長の一面だろう。

 

某月某日

娘らは既に高学年になっているというのに、一刀様がお見えの日に一緒に風呂に入るのを一向に止めない。

いい加減にしなさいと叱っても、『我等は所詮庶子、日頃逢えぬ父様とのわずかな触れ合いさえも私達には許されないのでしょうか』と一刀様を泣き落としてしまうのは一体誰に似てしまったのか。

 

某月某日

子元らも中等部になり、所謂反抗期という物なのか母を母とも思わぬ口の利き方をする事があり尻叩きに代わって鉄拳指導が増えてきた。最近の娘達はと言う台詞が出るのは年を取った証拠と言うが、自分がこの年の頃にはこのような態度だっただろうか。

 

某月某日

中等部になって初めての保護者面談に行ったところ、水鏡先生から娘姉妹が学業では優秀であると共に塾で頭目的存在になっていると伺った。多少やんちゃなところもあるようですがという先生の言葉になんとはなしに嫌な予感がする。

一般にはこの後高等部に進学するが優秀さを買われており、一部官庁部署から二年次を修了したところで就職しないかとの勧誘も来ているとの事だ。

一刻も早く就職し一刀様を御支え出来る事は望ましいが、一刀様よりなるべく学生生活を楽しんで欲しいとの御意向も頂いている上、人格形成やより深い知識を習得してからの方が良いようにも思われ悩ましいところだ。

 

某月某日

遂にこの日を迎えた。

長くもあり短くもある御在位を経て、善政を遍く地の上に齎された一刀様が本日御退位なさった。

御就位されて間もなくから、全知全能とも云うべき一刀様個人の御統率力による政権構造を将来的に危険と考えた各国首脳や詠様らが、法整備を中心として安定維持出来る「政治しすてむ」及び「行政しすてむ」を確立させてきた。

御退位に伴い各国首脳の退任・交代予定も発表され、譜代の方々のうち年長の方を中心に半数程度が近年中に退任する事となる。

今後一刀様は原則として政治に介入せず、現役を退かない亞莎や凪らを私生活から支援する他は御引退される寵姫やその娘との生活に御時間に充てられるとの事だ。

 

御退位にあたり各国の各部署を御挨拶に回られ、総務室では親しく謝意のお言葉を賜った。

既に子を授かっている者の中で私のように在職を希望した者は少数派らしく、『これからも頑張ってくれるのは凄く心強いけれど、今までも沢山頑張ってくれたんだからいつでも休んでも辞めてもいいんだからね』

との御言葉を賜った。

 

天の国よりこの地に降り立たれてから一刀様がこれまで潜り抜けてこられた戦乱や治政の艱難御辛苦を思い、にも関わらず私のような塵芥の如き女をも遍く照らす一刀様の御慈愛の深さに感極まり、御礼の言葉を述べられず滂沱の涙と嗚咽に咽んでしまっていると、正しく天の御遣いの如き微笑みと共に抱きしめて下さった。

 

こんなに想って貰えて俺は幸せだよ、有難う、と耳元で囁いて頂いた御言葉。

私は一生忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子元も子尚も倉庫の片付けに一体何時間かける心算ですか、そんな事で総務室の業務が……何を見ているんですか?…それは鍵が掛かっていた箱に仕舞っていた筈ですが。…親娘であっても他人の私的な隠匿物を見てはいけないと母は教えたと思っておりましたが私の躾が至っていなかったようですね、二人ともこちらへ来なさい。…ほう?多少は構えもましになって来たようですがこの母に敵うとでも?良いでしょうかかって来なさい、二人まとめてまた水鏡先生の指導室へ突き出してやりましょう!

 


 
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