「……で、それが原因で浮かぬ顔になっておられると」
「……そうだよ」
狙っていたのかと疑いたくなるタイミングで炊事場では星が飯を食べていたのだ。最初は飯だけもらってさっさと戻ろうとしたのだが、顔色の事を指摘されてしまいあれよあれよと……
「ふむ、正直、玄輝殿がまたやらかしたかと心配したのですが……」
「ああ、そうだよ鈍い俺がわるぅ……ん?」
今の話の繋がり方は?
「……もしかして今回俺は悪くないのか?」
「いいえ、心の機微に疎いのは恋愛においては悪でしょう」
「そう来ると思ったよっ!」
期待した俺が悪かったっ! やはり何かやらかしてたか!
「ただ、やらかしたかどうかで言えば今回はしておりません」
「へっ?」
「まぁ、機微に疎いという事を含めればやらかしているとも言えませぬが」
「ワザとだな? お前ワザとやってんなっ!?」
「むっ、心外ですな。これでもできる限り言葉を包んでお伝えしているというに」
「それで包んでんのかよ……」
思わずため息を吐き出す。
「おや、幸せがふよふよと。いらぬのであれば私が欲しいところですな」
「拾えるもんなら拾ってくれ」
「ふむ、拾えるならそうしたいところですな」
たく、こいつの軽口はほんとにとどまることを知らんな。つーかよくそんなに出てくるもんだな、と感心していると彼女は話しながら少しずつ口にしていた食事を一気にかき込んで平らげると、立ち上がった。
「さて、先程の愛紗の事についてですが私から言えることは一つ」
「……なんだよ」
「さして気になさるな」
「へ?」
「先ほども言いましたが、機微に疎いのは悪だが、今回の件はさして気にしなくてもよい。しいて言うなら愛紗の方が悪いでしょう」
「だが」
「これ以上は私の口から言う事でもありますまい。これにて」
それだけ言い残して彼女は去ってしまった。
「……で、結局どういう意味だったんだ?」
そう呟いた俺は給仕係が呂布の分ができたと言って持ってくるまで呆然としているしかなかった。
(愛紗の方が悪いけど俺は気にしなくてもいい……)
受け取った料理を運びながら俺は考えに耽っていた。
(話を整理して考えるに、愛紗の態度は俺が原因だけど、悪いのは愛紗ってことだよな?)
だが、それではいそうですか、などと納得するには情報が足りなさすぎる。
(当人に直接聞くわけにもいかんしなぁ)
“さっきの愛紗の態度が悪かったの、俺のせいか?”なんて聞いて何の意味があろうか。
「はぁ~、分からん。なんであんな態度を……?」
呂布との一騎打ちは事情を話したら納得してくれたはず。天幕で会うまでは普通に接してたし……
「分からん……」
というか、何だって俺は呂布に手を出したなどと勘違いされたんだ?
(まぁ、確かに呂布が美人なのは認めるが)
しかし、美人と思うのと手を出すのは同義ではない。そもそもだ。
「愛紗だって美人だろうに……」
目を閉じながらつぶやいた一言。
「はぇ!?」
だが、なぜか返事が返ってきた
「へ?」
驚いて目を開けると、誰もいない。
「……聞き間違えか」
愛紗の声に聞こえたが、聞き間違えたらしい。
(……思わず口に出ちまったが、聞かれなくてよかった)
俺は本人に聞かれてないことに安堵する。
(まぁ、嘘じゃないしな。そう思ってるのは)
うむ、聞かれたところで恥ずかしいだけで問題はない。そう思って目と鼻の先になった天幕へと再び足を進めた。
中に入ると愛紗の姿はなく、呂布が上半身だけ上げておとなしく待っていた。
「……っ!」
しかし、俺の手に握られている食事を見た途端、目が獣のそれになる。
「……待て、今持って行ってやるからちょっと待て」
手で制しながら料理を膝元に置いた瞬間、掻っ攫われて瞬く間に空になる。
「……(じーっ)」
「……はっ!? いつの間に!?」
あまりの速さに一瞬呆然としてしまった。
「どんだけ腹減ってたんだよ……」
とりあえず空いた食器を持って天幕を出ようとしたのだが、目線がさっきから俺を捉えて離さない。
「……(じーっ)」
「わかったわかった、今持ってきてやっから」
「(コクッコクッ!)」
勢いよく頷いてそれを了承したことを伝える。俺は天幕を後にした。
「あっ」
「愛紗」
と、出たところでまた愛紗と出会ったのだが、さっきと違うところが二つ。一つは彼女が料理を持ってること、二つ目はその顔が赤いという事だ。
「それ、もしかして呂布の分か?」
「え、ええ」
あ、三つ目があった。目を合わせようとしない。
「……あ~」
何となくはそんな気がしていたが、どうやらその通りだったらしい。
「……愛紗」
「な、なんです?」
「さっきのは本心だからな」
「っ!?!?!?!?!」
それだけ言って俺はそう言って料理を愛紗から受け取る。
「ほれ、持ってくぞ」
「は、はい……」
顔を真っ赤にしている愛紗を“かわいいな”なんて思いつつ、俺は天幕に戻る。
「呂布、関羽がお前の分を持ってきてくれたぞ」
「……?」
かわいらしく首をかしげる呂布。どうやら愛紗が持ってきてくれた理由がわからないようだ。
「お前さんの事を気遣って持ってきてくれたんだろ?」
「???」
……なんか俺の考えが違う気がする。
「どうした?」
「関羽、さっきより顔、赤い」
「はへっ!?」
そんな言葉に素っ頓狂な返事を返す愛紗。
「ああ、俺がびじ」
「玄輝殿っ!」
慌てて口を塞がれる。
(なんで急にそんな軟派になられているのですかっ!!!)
(いやぁ、なんか聞かれてたみたいだからもうどうでもいいかぁ、と)
(投げ槍に何をおっしゃってるんですか!)
(投げ槍に聞こえるかもしれんが本心だしなぁ……)
「はぃい!?」
そんな俺たちを見て呂布は小さく笑った。
「お前たち変」
「そうか?」
「へ、変とはなんだ!」
互いにちぐはぐな反応を返した俺たちに呂布は優しげな笑顔でまた笑った。
「やっぱり変」
「むぅ……」
まぁ、あんな笑顔で答えられたら黙るしかないよな。
「さて、一段落したところで、ほい」
呂布に料理を差し出す。
「冷めない内に食べちまいな」
「ん」
頷いた彼女はさっきよりはゆっくりとしたペースで食べていく。まぁ、それでも十分早いのだが。さっき俺が持ってきた物より量が多いのもあり、さっきより少し長めの食事を終えた呂布は一息溜息を吐いた。
「……おいしかった」
「そりゃよかった」
俺は彼女から食器を受け取ってから話を始めた。
「さて、もう動けるか?」
「……ん」
「じゃあ、早速で悪いが話がある。俺と一緒に来てくれるか?」
「分かった」
彼女は寝台から立ち上がり、それを確認した俺は彼女と愛紗を連れて天幕を出て桃香と北郷が待つひと際大きな天幕へと移動する。
「北郷、桃香。連れてきたぞ」
「あ、目が覚めたんだ」
桃香や朱里と話していた北郷がこちらを向いて、呂布を席に着くように促す。
「…………」
最初は少し警戒した呂布だが、思っていたよりはすんなりと席に座った。
「さてと、初めまして。俺は北郷一刀。この劉備軍の代表をさせてもらってる」
「北郷……」
その言葉に少し思い出そうとしているのか、呂布の眉根が寄る。
「……天の御遣い?」
「うん、一応俺がその片割れ」
「白の御遣い?」
「そう」
その言葉を聞いた呂布は周りを見渡す。
「……ちんきゅーは?」
「彼女なら今、寝ているよ。あの子も気を張ってたんだろうね」
「……ちんきゅーは、やさしい。だから、いつも元気にしようとしてた」
「そっか」
「……取引」
「ん?」
「……私を、好きにしていい。でも、ちんきゅーは逃がして」
呂布からの申し出に少し驚く北郷だが、それをやさしく否定する。
「……どうして?」
「だって、俺たちはそもそも君たちをどうにかしようなんて気はない」
「…………???」
北郷の言葉にまるで豆鉄砲を喰らった鳩のような顔で首をかしげる呂布。まぁ、彼女からすればそれは当たり前だろう。だけど、俺は彼女たちの事情を知っている。そして、そこから先は俺が話すべきことだ。
「俺たちはお前たちが白装束のせいで戦わざるを得なかったことを知っている」
「っ!?!?!?」
先程の顔から一転、今度は心底驚いた顔になったかと思うと、一騎当千の戦神の顔へ変わっていく。
「勘違いするな。俺にとっても白装束は敵だ」
「……どうして?」
「……あいつらに、世界を奪われたのさ」
「………………」
我ながら言葉足らずのような気がしたが、似たような境遇だったからだろうか、彼女はすんなりと頷いて落ち着いてくれたようだ。
「……あいつらの事を覚えてる?」
「ああ。俺はやつらの記憶を消す術にかからないらしくてな。全部覚えてるよ」
「……そう」
その言葉に、悔しそうな表情を見せる呂布。
「……私は、あんまり覚えてない」
「……仕方ないさ」
「“シン”て言葉しか、覚えてない」
「っ!?」
その返答に思わずその両肩を掴んだ。
「“シン”について覚えているのか!?!?!」
「っ!」
いきなり掴みかかられて驚いたのか、一瞬だけ体が強張る呂布だがすぐにその肩さは解け質問に頷いた。
「あいつらの、目的」
「“シン”ってのはなんなんだ!」
「私も、わからない。でも、ちんきゅーがこの文字を“シン”だって言ってた」
そう言って彼女が指を筆に机の上に書いた文字は……
「これは、“申す”の“申(しん)”か……?」
予想もしていなかった文字に驚きが隠せなかった。
「お前、分かる?」
「……言葉の意味は知っているが、なんでこれが目的なのかがわからない」
朱里を横目で見てから話しかける。
「朱里、申の字の意味から大規模な行動を起こす奴らの目的に繋がりそうなものってあるか?」
しばらく考え込む朱里だが、長い沈黙の末に口を開いた。
「…………もしかして、なのですが」
そう前置きをした上で彼女は考えを伝える。
「申には“天の神”という意味があるそうです」
「……天の神?」
「はい。申の文字は落ちる雷から作られた、と言われています。雷は天の神が落とした物、そこから天の神という意味があったそうです」
そこまで聞いて、俺は北郷を見た。
「…………まさか、白装束の目的は」
「玄輝?」
俺は北郷を見つつ、話すかどうか迷ったが意を決し、思いついた推測を口にした。
はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。
前回のメッセージで書いてあった横浜シンフォニーの話なのですが、いやぁ、よかったですね。
前回は完全にオーケストラのみだったのですが、今回は映像や歌が加わってきました。オーケストラの演奏をバックにミクさんが歌うのはなかなか良かったです。
ただ、個人的には映像と演奏が微妙にずれていたのはいただけなかったですね。
しかし、それだけが欠点で他はやはり良かった……
来年も行けるのであれば行きたいところですね。
さて、本編についての話ですが、いよいよ判明した「シン」そこから導き出した玄輝の推測とは?
そんなこんなで待て次回!
あ、何か誤字脱字がありましたらコメントの方にお願いいたします。
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白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話
オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。
大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
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