「いらっしゃいませ。」
私は世間で言うメイド服に身を包み接客をしている。ただメイド服といってもドレスを基調としたものなので、かなり可愛く仕上がっている。
けど、別にそういったお店でアルバイトを始めたわけではなく私達のクラスの出し物が喫茶店なのだ。衣装に予算をつぎ込んだため内装は教室のまんまだけど、テーブルクロスとか机のちょっとした小物なんかは衣装に合わせておいてある。
何故メイド風ドレス服かと言うと、可愛い服が着たいという女の子の意見と、メイドさんでという一部の男の子の意見を融合して出来たものだ。
当初、私はフロアー担当予定ではなく、キッチン担当予定だったのだけど、ちょっとした裏工作があり、こうしてフロアーに立っている。
でも服はすごく可愛いくて、しかも自分で縫い上げているので結構気に入っていたりする。それに服装だけそうだというだけで特別なしゃべりかたは一切してない。
もしそうなら恥ずかしくフロアー担当なんてできない。それが私が引き受けるための条件だった。その時の事を思い出す。
「ねぇ、亜由美のクラスってさ。メイド喫茶なんだよね。」
親友がとっても楽しそうに話しだす。ついさっき決まったばかりの情報をどうして知っているんだろうか。情報網の広さは校内一かもしれないな。そんなことを思いつつお弁当を食べる。
「どうだろう。喫茶店てのはほぼ決まりだけど。」
問題は接客時の対応でもめている。普通の接客をするか、メイドさん口調でするかで意見が割れている。主に服を着る女の子を中心にメイドさん口調は反対。男の子達を中心に賛成といった割合だ。
「ふ〜ん、そうなんだ。でぇ、亜由美はそれ着るの?」
「着ない。私は中で作る方かな。当日手伝うだけでいいから。」
授業後残って準備の作業するのはほとんど無理なので当日負担でよい役割を選ぶ予定だ。お菓子の準備と飲み物を作る仕事なら学校祭前の数日にみんなで買い込み等をすれば良いから。
「それは残念。ねぇー真一。」
親友はそう言って私の横に居る彼に話を振る。すると彼はなにやら咽せはじめた。私は背中を摩る。食べていたものが変な所に入ったのかな。
「大丈夫。お茶飲む?」
「だ、大丈夫。優子、変な事言うなよ。」
彼は何回か咽せりがならも親友に文句を言っている。大丈夫と入っていたけど心配なのでとりあえずお茶をと思って鞄をあけると忘れているものがあった。
「そうだ。デザート持ってきたから。食べて。」
私はお弁当とは別でもってきた保冷バックから柿を取り出す。もちろんただの柿じゃない。この間、家で作った柿プリンをもってきていた。使い捨てのスプーンを添えて彼に渡す。
「はい、柿プリン。」
「美味しいそう。真一、いいな。一口ちょうだい。」
「大丈夫よ。優子達のもあるから。」
「いいの。ありがとう。」
私は親友と親友の彼にも柿プリンを渡す。二人ともマジマジと見つめている。確かに物珍しいけどそこまでのものかな。
「もしかして、この間持っていった柿?」
「そうだよ。真一がくれたのだよ。お祖父さんとお祖母さんにありがとうって伝えておいて。」
「ん、わかった。でもプリンを作ってくれた話したら食べたがるだろうな。食べたいからまた変な事考えなきゃいいけど。」
そう言う彼の表情は、それでも嬉しそうだった。
「そうだね。今度はゆっくりお邪魔したいな。」
私達がそんな事を話している間に親友達は黙々と食べていた。
「さっぱりしていて美味しい。柿て切って食べる意外にもあるだな。」
「そうだね。美味しい。亜由美、後で作り方教えて私も作ってみるよ。でもその前に、亜由美が真一のお祖父さん達と面識あるのってどうして?」
親友が面白いものを見つけたみたいな感じで、そんな事を聞いてくる。そう言えば彼の田舎に行った事は話してなかったけな。そんなやりとりをしていると後ろから声をかけられる。誰だろうと思って振り返るとクラスメイトの中村さんが立っていた。
「やっぱりここにいた。お邪魔するね。」
「中村さん。どうしたの。」
「あのね。」
中村さんが教室の入り口を指差す、そこをみると男の子達が数人こちらの様子をうかがっている。どうしたんだろうか、男の子達も同じクラスの子達だ。
「アイツらがね。榊さんが服を着てくれるなら。服装だけメイド服の喫茶店に寝返ってくれるっていうだ。どうかな。矢野君もいいよね。すごく可愛い服を作るからさ。ねぇ。」
私が入り口をみると男の子達と目があった。目があった数人はすぐに下を向いてしまった。
「でも、私、衣装作りとかで授業後に残るのできないよ。」
「それは大丈夫。デザインが決まったら各自で作るって方法をとるから。持ち帰ってもらっていいよ。作り方とかは私がわかりやすく作るから。」
「そういえば、アンタそう言うの得意だったけ。」
親友がそう言って中村さんをみる。中村さんと親友は同じ中学だったけな。
「ええ、メイド服とは思えないぐらい可愛いの作るよ。」
「良いけど、普通の接客じゃなきゃしないからね。」
フロアー担当はいいが、さっき教室で聞いた、セリフはとてもじゃないけど言えない。恥ずかし過ぎる。それに知らない人に、そんな言葉使いをして接するのは好きじゃない。
「まかせておいてよ。上手くまとめる。もしダメな時は榊さんキッチン担当でいいよ。」
「うん、わかったよ。それならいいよ。」
「よかった。ねぇ、今食べてるのって何。プリンみたいだけど。手作り。」
「そうだよ。柿のプリン。食べる。」
私はスプーンにとってスプーンを中村さんに渡そうと差し出す。すると中村さんはそのまま口を近づけて食べた。私が驚いているのにもおかまいなく、幸せそうな顔をして口を動かしていた。
「おいしい。これメニューにあると面白いよね。レシピ書いてもらってもいい?」
「いいよ、意外と簡単だし、時期も丁度いいからいいかもね。」
「じゃ、また後でね。お邪魔しました。」
そう言って中村さんは教室をでていった。教室の外が一瞬騒がしくなり、歓喜があがっていた。フロアー担当になることを承諾して、食べかけのプリンを口に運ぶ。どんな服なんだろか。
ちょっと楽しみ。そう思っていると前に座っている二人が何やらニヤニヤしている。どうしたのかな。
「ねぇ、二人ともどうしたの。ニヤニヤして。」
「亜由美ちゃん。となり見てみなよ。面白いから。」
「見といた方が良いよ。本当に面白いから。写メとっていい?」
二人に促されて隣をみると彼はなんだか変な顔をしていた。どうしたんだろうか、何か悩んでいるようにも見えるけど。難しい顔をしたり緩んだりと豊かに表情が変わっていく。
「どうしたの。プリン美味しくなかった?」
「あっ、いや、うん。美味しいよ。」
「真一。お前が今何考えてたか当ててやろうか。」
「もしかして、わかるの?」
あんだけコロコロと変わっていた彼の表情から考えてた事を当てるのは難しいと思うんだけどな。そんな風に考えていたら親友の彼は思いもよらぬ事を言った。
「あのね、亜由美ちゃん。コイツはたぶん、亜由美ちゃんのメイド服姿を想像してたんだよ。それで、それも良いなとか思いつつも。他の人に見られるのは嫌だと格闘していたという事。」
「そんなことあるか。」
親友の彼の弁を彼は一蹴した。ちょっと迫力があってビックリした。何もそこまでムキになって否定しなくても良いのに。それはそうだと言っているようなものなんだけどな。何だか可笑しくなり頬が緩む。
「じゃ、何考えてたんだよ。亜由美ちゃんに告白するかしないかで悩んでいたときと同じ顔していたぞ。」
そう言われて、彼は真っ赤になる。それはいつの話なんだろうか。私が彼を見ていると親友が教えてくれた。
「実はね、亜由美から相談されてた時期位に真一からも相談されてね……。」
そんな事を思い返していると次々とお客さんが教室に入ってくる。どちらかと言うと女生徒の方が多いかな。一般公開もしているので家族連れもちょこちょこ入ってきている。生徒の親や、卒業生かな。メニューの中心をスイーツにしたのがよかったのかな。
メニューは基本飲み物とスイーツが中心。あの柿のプリンもはいっている。冷たい飲み物も用意はしてあるけど。寒くなってきているので温かいものがよくでている。
何組かのお客さんを席にあんなしてメニューを出したりしていると親友の姿が入り口に見えた。
「亜由美、遊びにきたよ。それ、すごく可愛いね。終わったら私にも着させて?」
そういって親友が教室に入ってきた。その後ろから、彼と親友の彼がつづいてはいってきた。
「へぇ、可愛いね。すごい似合ってる。一緒に写真とっていい?」
親友の彼がそう言って携帯を取り出し私の横にならび、彼に携帯を投げて渡す。彼が携帯を持ち構えようとしていると、親友が彼氏の頭を叩く。
「痛いな。何すんだよ。」
「これ見えないの。『撮影禁止。見つけしだい退出させます。』ってかいてあるでしょう。」
「それはわかったけど。口で言えばいいだろう。何もグーで叩かなくても」
「ふん。」
「何怒ってんだよ。待てって。」
親友は何やら怒っているようだ。一人でさっさと奥に進んでいく。それを追いかけて親友の彼氏がついていく。一応私が、案内役なんだけどな。困ったなと思い彼をみると彼は笑っていた。
「いらっしゃい。席はあちらだよ。」
「圭司もわかってやってるのかな。さっきの。」
「どうだろうね。」
私もつられて笑う。先に行く二人を捕まえて、三人を席に案内する。
「おすすめは?」
「一番人気はチョコシフォンケーキかな。後は珍しさで柿プリン。」
「じゃ、おいしかった。柿プリンとコーヒー。ホットで。」
「俺も柿プリン、あとアイスコーヒー。」
二人の注文を書き留めていく。彼を見ると彼はメニューと睨めっこをしている。そんなに迷うほどメニューはないけど。何を迷ってるのかな。
「俺はクッキーと紅茶で。」
「はい、ではチケットを貰います。」
三人からそれぞれチケットをもらう。飲み物とスーツはどれを選んでも同じ値段。現金での取扱は危ないので学校中の模擬店や出し物は全てチケットになっている。チケットは職員室で先生が販売しているので一般参加者も購入出来る。
三人の注文をキッチン担当に伝えに戻る。間違えがないように注文を受けた人間が、届ける事になっている。お菓子は作り置きがほとんどなので、飲み物が出来上がるのをまっていると、中村さんが声をかけてきた。
「旦那さんがきたんだ。どうだった。服、似合ってるっていってくれた。」
「そういえば言われなかったな。恥ずかしがりやだからね。」
そう言って注文伝票を壁に貼っておく。ふと振り返ると中村さんが立ち尽くしていた。
「どうしたの。」
「いやさ、旦那さんって言って、からかったつもりだったのに見事にスルーされたから。」
「もう慣れたよ。そう言われるのは。」
「もう、詰まんないの。」
そんな風に自分たちの事を言われるのは何だか慣れてしまった。最初は恥ずかしかったりしたんだけど、自分たちの中でそうなるんだと決めてからは何とも思わなくなっていた。そんな無駄話をしていると声をかけられる。
「はい、5番のアイスとホット、それと紅茶できたよ。柿プリン二つに、クッキーもね。」
キッチンを担当している男の子がトレイに乗せて渡してくれのを受け取り三人が待つテーブルに向かう。
「お待たせしました。コーヒーと柿プリンになります。あと紅茶とクッキーです。」
そう言ってそれぞれに品物を渡す。最後に「ごゆっくりどうぞ」と言おうとしたら彼が話しかけてきた。
「亜由美、ここいつまで担当?後で一緒に回ろう」
「お昼までだよ。どこで待ち合わせしようか。」
「いいよ。俺がここに迎えにいくから。」
「わかった。優子達はどうするの。」
「私達は校内デートを楽しむからいいよ。お二人でごゆっくり。」
親友はそう言ってコーヒーを口にした。隣に座っていた親友の彼もウンウンと頷いていた。ではそうさせてもらおうかな。やっぱり家で一緒にいるのも楽しいけど二人で何かをしているってのも大事だしね。
「じゃ、真一。待ってるね。時間は12時過ぎ位だから。」
「わかった。じゃ頑張ってな。」
三人の所から戻り次のお客さんをテーブルに案内して、注文を貰う。彼達が教室を出た後も、それなりにお客さんが入っていたが、お昼が近くになるに連れて一足は緩くなってきた。たぶんお腹がふくれるようなものを出すお店に客足が移動したみたいだ。
午前中の当番の子達と彼が迎えに来るまでおしゃべりをしているとクラスメイトの一人がソワソワしながら聞いてきた。
「ねぇ、榊さんは後夜祭に参加するの?」
「するに決まってるじゃない。相手がいるんだしね。」
中村さんが何をバカな事聞いているダかという感じで聞いた子にいっている。するとその子は納得したかのように話しを続ける
「いいな。矢野くんカッコいいもんね。それに二人はお似合いだしね。」
「ありがとう。参加するよ。ちょっと恥ずかしいけど。」
後夜祭に参加するのは二人で決めてる。でも大勢がいる前ではやっぱり恥ずかしいしな。でも広い所でできるのは今日しかないし。
「良く言うわよ。去年あんな大胆な告白しといてさ。まぁでもやっとって感じはしたけど。」
「ねぇ、その話ってやっぱり本当なの。教室でみんながいる前でしたっての」
中村さんは去年も同じクラスだったので、当然あの日を知っている。忘れられない思い出の一つだけどできればあまり思い出したくなかったりする。冷静に考えるとすごい事をしたもんだ。
「本当だよ。私、目撃者だもん。教室中すごかったんだから。ねぇ」
私は曖昧に笑ってやり過ごす事にする。そう言えばつき合いはじめてそろそろ一年になるんだな。もっと長い間一緒にいたような気がする。そんな話に花を咲かせているとお昼からの当番の子が呼びにきた。
「榊さん。外で男の子が呼んでる。一年生みたいなんだけど。」
誰だろう。下級生に知り合いはいない。あったとしても委員会とか位しか思い当たらない。入り口を見てみる、男の子達が数人こちらを伺うように覗いていた。どの子もどこかであった記憶がない子ばかりだった。
「誰だろう。知らない子ばっかりだ。」
「もしかして、アレかな。ついていっていい?」
「別にいいけど。アレって何?」
私がそう言っても、いいからいいからと背中をおされる。そんな感じで中村さんと一緒に入り口にいく。すると一人を残して他の男の子達はどこかに消えて一人モジモジしている子だけが残っていた。
「えっと、何か用かな。」
取合えずどんな用事なのかと聞いてみる。すると男の子はスイッチが入ったみたいに背筋を伸ばし私を見る。
「突然すみません。後夜祭、僕と……。」
そこまで言うと、男の子は真っ赤になりながら下向いてしまった。
「おお、勇気あるね。先輩を口説くつもり。でもダメだよ。この人は。」
私がどうしようかと考えていると後ろから声をかけられた。
「亜由美。迎えにきたよ。」
彼がひょっこりと現れると、男の子は彼を見て泣きそうな顔になって走っていってしまった。
「何だ、どうしたんだ。」
「榊さんが口説かれてたの。」
「告白されてたって事?」
そう言われた彼は心配そうな顔をして私を見る。時おり彼が私に見せる表情の一つだ。私の事を心配してくれている。でももう少し私を信用して欲しいと思うものの、彼の思いが嬉しい。
「違うと思うよ。後夜祭って言ってたから。」
「そうなんだ。で、どうしたの。」
「矢野君をみて逃げちゃったよ。」
「そうなんだ。じゃ、行こうか。」
彼は私の手を握るとちょっとだけ強引にその場を立ち去ろうとする。そんなに慌てなくても私はどこにも行かないんだけどな。それにこのままはちょっと目立つから待ってもらわないと。
「まって、服着替えるから。」
「いいよ。そのままで、後夜祭はそれでいくんでしょう?ついでに宣伝もしてきて」
「あっ、うん。」
「じゃ、楽しんできてね。」
中村さんはニヤニヤしながら手を振って見送ってくれた。しばらく無言のまま手を引かれて廊下を歩いていく。階段当たりまで来ると彼は止まり、一言謝った。
「ごめん。」
「えっ、何?」
「無理矢理引っ叩こと。」
「いいよ。何か理由があるんでしょう。」
私がそう言うと彼はばつが悪そうな顔をしてこう言ってくれた。
「やっぱり、亜由美を捕まえておかないと、誰かに持ってかれる気がしてさ。」
「もう、そんな心配してるの。」
「心配になるよ。亜由美の名前を色んな所で聞くから。」
「私は真一の名前をよく聞くよ。」
女の子達の話で、後夜祭に誘えるなら誰がいいという話題になると、彼の名前はたいていあがってくる。彼は男女問わず優しいし、親切に接するのでかなり人気があった。そんな彼だからこそ、私は去年、なかなか告白出来ないでいた。
「だから、私もその度に誰かにとられそうな気がした怖かった。」
お互い顔を見合わせて笑う。同じような心配をしていたみたいだ。親友に言わせるともっと自分に自信を持ちなさいってことらしい。そうすると二人とも自分に自信がないのかもしれない。
「ねぇ、真一達のハロウィン祭りみてみたいな。」
「いいけど。所狭しとヌイグルミやらハリボテが置いてあるだけだぞ。」
「いいの。優子が作ってたの見てみたい。あと真一が作ったヌリカベも。」
「それは見なくて良いよ。どう考えても場違いだった。」
「デジカメ持ってきたからバッチリおさめるよ。」
親友がラフをおこしていた、とっても可愛いカボチャのオバケと小悪魔。ヌイグルミにすると言って試作品は見せてもらったが完成版はお楽しみと言われていたのですごく楽しみだ。
彼の教室の入り口は見事なオバケカボチャが口をあけて待っていた。中に入ると魔女の格好や悪魔の格好をした女子達がいた。こちらの衣装もみんな可愛い。大きな着ぐるみもあり一般入場者の子ども達が抱きついたりしていた。二人が一緒に来てたら同じような事をしてたんだろうな。
「そう言えば、二人は来てないんだ。」
「よう君達も文化祭。作品展だって、お母さんが見に行ってる。」
そんな話をしながら、順番に教室の中を見て回ると、お土産コーナーが一角にあり、一番賑わっていた。黒猫、オバケカボチャ、小悪魔、ミイラ男などの手のひらサイズの可愛いヌイグルミが販売されていた。小悪魔は親友がデザインしていたものだ。絵に書いてあったのが上手い事再現されている。試作品でつくったのを妹が貰い喜んでいたかな。
「あっ、矢野君。彼女に買ってあげたら。この大きなカボチャはどう。500円だよ。」
「どうする。」
「買うけどいいよ。あの子達のお土産だから自分で出すよ。」
「洋一と稜子のお土産ね。それもいいよ。」
「もしかして子どもがいるの。いつのまに。」
すごく楽しそうな感じでお土産売り場の女の子が聞いてくる。これはからかわれているんだろうな。でもこう言ったの感じのは初めてで新鮮な気がする。
「バカ、違うって。亜由美の弟妹だって。」
「そんな慌てなくても良いのに。矢野君はともかく亜由美さんはガード固そうだもん。」
あれ、私この子と面識はないんだけどな。なんで名前しってるんだろうか。私が不思議そうにしているのを感じたのか、販売ブースにいた女の子が説明した。
「ごめん、二人とも有名人だから。つい、アンケートやってる教室は覗いた?二年生のベストカップルと夫婦部門堂々の第一位なんだから。ちなみに第二位は杉山夫妻ね。」
それを聞いて二人とも固まる。どこのクラスがそんな企画をしたんだろうか。それにしても学校中公認って私達そんなに学校ではイチャイチャしてないよ。二位にいる親友達より私達は慎ましくしているつもりだけど。
「うそだろ。圭司たちの方が上じゃないのか?」
「嘘じゃないから見て来なよ。何か商品貰えるみたいだから。まぁポッキー話の噂が一人歩きしたのもあるんじゃない。あと普段の行いとかね。」
そう言って私達の手を指差す。しっかりと握られている。でもつき合っている子達はみんなこんなものなんじゃないのかな。そう思いながらお財布からチケットを取り出し渡す。
それからいくつかの展示室をまわる。ドミノ倒しやら、不思議の国を再現した展示場、茶道部のお茶屋、吹奏楽部の音楽室でのミニコンサート。
どれもこれも色々な工夫がしてあって、見ていて楽しかった。お抹茶のお菓子が少しだけ甘過ぎたのもお抹茶の苦みで丁度いい位だた。アンケートの教室はお互い何だか恥ずかしかったので二人とも何も言わずに行かなかった。
廊下には西日が綺麗に入り込んでいる。外をみると夕焼けと夜の中間と言った感じがしている。こんな時間まで学校にいる事はほとんどない。部活をしてないので特にそうだろう。外の景色に目を奪われていると彼が軽く手を引っ張る。
「なぁ、屋上いかないか。」
「いいよ。でも開いてるの?」
「開いてるはず。天文部が天体観測するって言ってたから。」
屋上に上がると少し冷たい風が体を包む。熱気に包まれた校内から出たからではなく、秋が深まり冬の顔がでてきたからかな。そんな事を思いつつ彼の腕に手を絡ませそっと引っ付く。
天体観測用なのかわからないけど、シートと椅子が置いてあった。天文部の人達が色々と準備をしていた。その準備の邪魔にならないように私達は反対側に周り、学校をかこっている木々を見る。
「その服、すごく似合ってるよ。」
夕焼けに照らせれている木々をみていると彼がそんな事を呟いた。そう言えば服については何も言われてなかったけな。
「遅いよ。期待して待ってたんだから。」
「圭司にさきこされて、言いそびれた。あと亜由美が恥ずかしそうだったから。」
何だかとっても彼らしかった。でもそういった所も大好きだ。確かに親友の彼にそう言われて、ちょっぴり恥ずかしかった。
「ありがとう。でもこれからは一番に言って欲しいな。」
「頑張ってみるよ。二人だけなら平気なんだけどな。アイツらがいるとつい。」
屋上から学校を囲んでいる木々をみる。所々赤く色づいている。今年は変な気候が続いたため紅葉が遅れていると聞いていたけど、しっかりと色づいていた。紅葉している場所をみていると何やら見知った場所を見つけた。
「あっ、ねぇ、あそこだよね。お花見したところ。」
「たぶんそうかな。ここから丸見えだったんだな。」
「そうだね。見られてたらどうしようね。」
「でも大丈夫だろう。普段はここに来れないから。」
今年の春、二人でしたお花見の場所。桜の木の下で彼の求めに応じた。誰もいないという安心感と春の陽気に誘われて唇を重ねていた。
「それにしても、もう秋なんだよね。お花見したのがついこの間みたい。」
一日一日がとっても早く感じる。たぶん毎日が楽しいからだと思う。時には悩んだり悲しかったりもするけど概ね私の毎日は充実している。もちろん彼が一緒にいてくれる事も時間が早く過ぎていく要因の一つだと思う。
彼は部活を止めて以来、週の半分は放課後を私とあと弟妹と過ごしてくれている。残りの半分は授業後に先生と勉強をしている。
「俺もだよ。今年はっていうより。亜由美とつき合いだしてからは一日が早く感じる。」
「ねぇ、勉強は進んでる?」
「ボチボチかな。でも第一希望は何とか見えてきた。」
「そっか。お互い頑張ろうね。」
彼が目指している学校と私が希望している学校は同じ地域にある。なので行き来はしやすい。今とそんなに変わりなく平日も過ごす事ができそうだ。
「俺さ、一人暮らしするつもりなんだ。通学に時間をとられたくないから。」
「私は家から通うつもり。少し遠いけど。」
「そっか、あのさ、いや、やっぱり、なんでない。」
何となく彼が言いたい事はわかった。けど彼はそれを口にしなかった。言うと私が悩むと思ったんだろうな。そんな事を思いつつ空を見上げると、薄らと星が輝きはじめていた。
天文部の人達の解説を聞きながら星空を眺める。完全に日が暮れるとなんだか寒さを覚える。この服、少し薄い。そんなわけで隣にいる彼に自然と引っ付いていく。触れている部分から温かさが体中に伝わってくるみたいだ。
「どうした。」
「ちょっと寒いから。引っ付いてるだけだよ。」
私はそう言って頭を彼の肩に傾げる。彼の温かさが伝わってくる。引っ付いている部分はとっても温かい。
「我慢するなよ。寒いなら体育館に行こうか。ここよりは温かいはず。」
彼に手を繋がれて、体育館に移動する。私は途中、教室によって手荷物を置く、その時に彼は何やら袋を持っていた。後夜祭のメイン会場になっている。
そこでは毎年ダンス会が行われている。初めて参加するダンス会。去年は彼を誘おうかどうか迷いに迷い、恥ずかしくて誘えなくて帰ったのだ。家に帰った時、お母さんが呆れていたのを今も覚えている。
体育館の中央を大きくあけて、周りには校内の飲食模擬店からの食べ物が机に置かれている。ようは簡単なバイキング方式になっている。
昔はフォークダンスで校庭で文化祭のゴミを燃やしていたが、近年の環境問題や大騒ぎをする生徒の声や奇声などで近隣への迷惑を考えてワルツを主体としたダンス会になっている。
別段服装は制服のままでいい。中には何かの仮装をしている人や、生徒会の役員の人達はきちんとした服をしていた。
始まるまでのひと時を参加者は体育館の隅で過ごす。文化祭の余韻で話し込むグループ。ステップの確認をしている人達。学生服を脱ぎ、カッターシャツのみになり踊る準備を始める男子生徒。ダンスの相手を捜して、うろついている人達。相手が見つかり喜ぶ人。それぞれ思い思いに始まるときを待っている。
「あれ、真一は?」
「うん、トイレっていって出ていったよ。」
親友は私を見つけるなり開口一番にそういった。彼は屋上から教室、そしてここに来たときは一緒だったのだけど。体育館の入り口でトイレに行くから先に行っていて別れて以来まだ会ってない。
「もしかして逃げた?」
「大丈夫だよ。去年私は逃げたけど。」
「違うって亜由美。逃げたのは二人ともだよ。」
親友達はお互いに顔を見合わせて笑う。二人とも逃げたってどういう事だろう。彼は確か去年も参加していたはずだけど。
「亜由美ちゃんに告白するチャンス通算3回目を無駄にね。それでその後、四回目のチャンスは亜由美ちゃんにされちゃったんだけどね。」
「二人とも恥ずかしがり屋だから。引っ付けるまで大変だったよ。」
二人して頷きあう。あの告白は本当に恥ずかしかったし、自信もなかったからしかたない。でも二人がいなかったらずっとあのままだったのかな。
「ありがとう。二人のおかげで幸せだよ。」
「バカ、何言いだすのよ。」
そんな話を親友としていると後ろから声をかけられる。
「私と踊っていただけませんか。?」
その言葉と共に振り返るとタキシードに身を包んだ彼が立っていた。ちょっとだけサイズがあってない気がするけど、格好良かった。
「何その格好。」
親友は笑いを堪えながら彼を指差していた。親友の彼は、何だか感心しきっていた。
「だって締まらないだろう。亜由美がそれなりの格好しているのに。学生服って。」
「確かに、そうだけど。アンタにしては思いきった事したね。」
「まぁ、そう言うときもあるさ。」
彼は私の前に来て、もう一度。丁寧に挨拶をする。
「私と一緒に踊っていただけませんか。?」
そう言って頭を下げる。かすかに見える顔はやっぱり赤かった。でも一つ一つの仕草からは真剣さがよく伝わってきた。だから私もちゃんと答えないと。
「私でよければよろこんで。」
私はそう言って彼の手を取る。そのタイミングを計っていたみたいに開始の合図が鳴る。彼は私の手をとって体育館の中央に移動する。あれ、隅の方で踊るんじゃないの。嘘、一番真ん中で踊るの。私が一人パニックになっている中、彼は体育館の中央に私を導いていた。
私達はお互いに向き合い、手を取り準備をする。曲が始まると私達はとっても自然に踊りはじめた。
このワルツは何と体育の授業で練習がある。基本的にこの後夜祭のダンスは自由参加だけど、練習しなくては踊る事はできないため。授業に組み込まれている。
ただ授業だけでは誰とでも踊れるまでになるには時間が足らない。それに、踊りたい相手が別のクラスだと一緒に練習は出来ない。なので家で練習していた。
初めのうちはお互いぎこちなく、遠慮しながら踊っていたのに、練習が進むたびに私は彼に体を預けれるように。彼は私をしっかりと引寄せれるようになっていた。
まぁ名コーチが我が家にいたのも影響しているけど。
そんな私達をみて真似て遊んでいた弟妹も可愛かったりしたのだけどそれはまた、別のお話。一回目の曲が終わり、私達は荷物が置いてある場所に戻る。
「二人とも楽しそうに踊るよね。私達も次いこう。」
親友が焼きそばを食べている彼氏を催促する。そういえばお腹空いたな。後で軽いものパンかお菓子をなにかを取ってこようかな。
「いいけど。お前達注目の的だな。」
「何で?」
「気づいてなかった。ほとんどがお前達見たたよな。」
「うん、とっても綺麗に踊るんだもん。さては隠れて練習してたな?」
私達は顔を見合わせお互いに笑う。苦手だと嘆いていた彼に、練習すれば良いとアドバイスしたのは私のお母さん。昔お父さんと一緒にやっていたらしく、その指導はちょっぴり怖かった。
「いい。圭司、ちゃんと私をリードしてね。行ってくるね。」
「はいはい、わかりましたよ。では行きますか。」
親友はそう言いって、彼氏の手を引っ張り私達がいた場所に向かおうとしていたが、親友の彼氏は強引に引寄せて少し端っこに移動した。親友は何やら怒っていたみたいだったけど、頬にキスをされて大人しくなっていた。
「おいおい、あんな所でするか。大胆だよなアイツは。」
「でもすごいな。優子が大人しいよ。扱い方を心得てる。」
「俺もあそこでキスしていい?。」
「えっ。ダメだよ。」
彼の顔を見ると笑っていた。もう、冗談か。そう言うのは少しだけ遠慮したい。できればそう言うのは二人だけの時が良い。周りに誰もいないのがいいな。そう思い、ドリンクが置いてある机まで移動して、お茶の入った紙コップを取り彼に渡して、自分も喉を潤す。
曲が流れる。親友達もすごく自然に踊っていた。そう言えば去年、クラスで一番上手かったけ。確か去年も二人で授業中に練習していたの思い出した。今年も同じクラスだしね。私達を見て楽しそうに踊るねと言っていたが、親友もすごく楽しそうに踊っている。
「この次でもう一度、踊らないか。疲れてない?」
「ううん、大丈夫。ラストまで続けて踊れるよ。最後まで踊ろう」
そんな二人に影響されたわけじゃないが、何だかこうやって見ているよりは踊っている方がいい。そんな気分だった。
「わかった。けど、相手を替えて踊ってる人少ないな。」
「そうだね。やっぱり誘うのって勇気がいるんだよ。」
彼がそう言ったので、踊っている人達をみる。確かに相手を変えて踊っている人達はいない。いたとしてもそれは先生達や生徒会の子達だけだった。ダンスをコミュニケーションに使うなんて事は大人の限られて世界なのかもしれない。
「すみません。」
そんな事を考えながら、彼と話をしていたら、後ろから声をかけられた。声をかけられた方を振り返るとお昼に会った男の子が立っていた。
「えっとお昼の。」
「はい、えっと、お二人の事は知ってます。でも僕と踊ってもらえませんか。」
突然の事で上手く返事ができないでいると男の子は、何やらスッキリした表情をしていた。
「やっぱりダメですよね。でもいいんですちゃんと気持ちは伝えれたから。失礼します。」
「待って。」
そう言って立ち去ろうとする男の子に私は無意識のうちに声をかけていた。お母さんが私達に教えてくれる時に言っていた事が頭に鳴り響く。
「いいかな。」
私が彼にそう言うと彼は頷き同意してくれた。たぶん彼も私と同じ事を考えていると思う。
「いいよ。二人でずっと踊ってるのもいいけど、色んな人と楽しむのもいいって言ってたしな。亜由美がよければ良いよ。」
「途中からになるから、ここでいいよね?」
私は男の子にそういってOKの意思表示をする。
「いいんですか。」
男の子はビックリした顔をして私と彼を見ている。そんなに意外だったのかな。私は男の子と手を取り、男の子はぎこちなく私を引寄せる。
「ほら、ちゃんと引寄せないと。あと両足ついてると、始めにくいよ。」
「あっ、はい。」
彼がそう言って男の子の後ろから手を掴み私を引寄せさせる。男の子は顔を真っ赤にしながら私を引寄せる。準備が整ったので私がリズムをとる。
「じゃ、いくよ。はい。」
曲にゆっくりあわせてステップを踏む。何度も練習した彼とのダンスとは違い、ギコチナさはあるけどこれはこれで楽しいかもしれない。
男の子は一生懸命についてくる。ターンを含み数回ステップをかさねるとぎこちなさがとれる。そこからは曲が終わるまで無難に踊る。踊っていた人達に対して周りから拍手が一回目と同じようになる。私と男の子は互いにお辞儀をして踊り終わる。
「ありがとうございました。楽しかったです。あと、お二人ともいつまでもお幸せに。」
男の子は頭お下げて小走りで体育館から出ていく。それにしてもすごく勇気のある子だ。そう思っていると目の前にドリンクが現れる。
「連続になるけど、大丈夫か?」
彼がドリンクを持ってきてくれた。踊っている最中はずっと私達をみていた。何度か視線を送り、目があうたびに彼は笑っていた。
「平気だよ。ゆっくりで踊ったからね。で、また、真ん中にいくの?」
「嫌かな。?」
「嫌じゃないけど。何か目立って恥ずかしいな。」
「せっかくなんだからさ広く使って踊ろう。楽しもうよ。」
そんなわけで私達はまた体育館の中央へ進む。最初踊ったときよりも、人だまりがなく広々とした感じがした。確かに広い方が踊りやすいかも。開始の合図がなり、私達は互いの手を取り合い用意をする。そして、曲がかかり踊りはじめる。
今までステップを重ねてきた中で一番滑らかにそしてよどみなく、二人の息があいながら踊っていく。曲も中盤近くになる、ステップを踏みターンをした所で彼が話しかけてきた。
「亜由美。キスしていい。」
「えっ。」
さて、何でそんな事になるんだろうか。曲に身を任せながらステップを踏見ながら考えていたが、考える事に意味がない事を知り、私は目を閉じて彼に任せる事にした。してもいいし、しなくてもいい、全てを彼に委ねる。
でも目を瞑りながら踊るのは何だか怖いが体は自然とステップを踏み進む方向は彼が上手く導いてくれる。不安な気持ちと、いつかなという期待の気持ちとで踊っていると、唇を軽く塞がれ、すっと解放される。
いつもと違いあっさりしたキスは、とっても新鮮だった。目を開けて見ると、彼はすごく嬉しそうな顔していた。私も笑顔で返す、あとは曲が鳴り止むまで踊るだけだ。曲が終わり踊り終えると、拍手が鳴り響く。踊っていた人達は拍手に応えお辞儀をしていく。私達も同じように答える。
—こうして文化祭は幕を閉じる。宴の後は少しだけ寂しい気もするが、何でもない日常を目一杯楽しんで過ごしていくのも悪くはない。—
fin
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イベントが多数存在する10月。皆様はどのようなイベント参加したのでしょうか。地域の秋まつり、運動会、フリーマーケット、そして本日のハロウィンと数えだしたら切りがありません。
さて彼女達はと言うと学生の特権である文化祭を満喫していたみたいです。どんな学校祭だったのやら少しばかり覗いてみましょう。