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艦隊 真・恋姫無双 146話目 《北郷 回想編 その11》

いたさん

半年以上ご無沙汰しておりました、申し訳ない。リハビリ程度に何時もより半分程度、しかも内容も進展がないまま。
こんな小説ですが、良ければ見て下さい。

9/19にちょっぴり追加。 次回作の時まで掲載します。

2020-08-16 11:42:34 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:664   閲覧ユーザー数:642

【 前兆の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊 後方 にて 〗

 

 

あれから立ち直った華琳は話を続ける。

 

 

『まあ、いいわ。 だけど………稟、それと風』

 

『は、は──ぃっ!?』

 

『なんでしょうー?』

 

 

だが、華琳の不機嫌な表情は変わらないまま、冷ややかな視線で稟、稟より一歩退き何食わぬ顔している風を射ぬいた。

 

まるで、その心根を見透かすが如く。

 

 

『私に話した事柄、その詳細の説明を求めるわ。 今度はしかと伝わるよう、何もかも余すことなく……ね』

 

『───は、ははぁ……い、いえ! 承知……致しまし……た』

 

『わかりましたー』 

 

 

まるで、どこかの女装の鬼が宣う【頭を垂れて蹲え、平伏せよ】と言わんばかりの迫力に、思わず下げn……じゃなく、稟は急ぎ頭を下げるしかない。

 

だが、同じように圧を受けた筈の風は、何時もと変わらずの表情で受け入れるだけ。

 

そんな各々の態度を横目にし、華琳は目を一度だけ長めに閉じる。 そして、再びゆっくりと瞼を開けば、殺伐とした雰囲気が収まり、元の穏やかさを身に纏いつつ口を開いた。

 

 

『…………それで、先ほど報告にあった秋刀魚の動きとは?』

 

『はい、秋刀魚なる魚の群れ、言わば魚群の動きが往復を繰り返しているそうです。 この戦場と……他の何処か、と』

 

『命の危機を感じ逃走するは、生きとし生ける物の当然なる行動よ。 しかも、あのような派手で途方もない兵器の交戦となれば、魚群が狂乱するのも無理はないわ』

 

 

稟からの報告を、そう結論付けて話を終わらせようとした華琳だが、不意に稟と風へ顔を向け、目を光らせながら問う。

 

 

『しかし、その事象を私に報告するということは、何か重大な意味があるというのね? ならば、心して耳を傾けさせてもらうから、その件を話してみなさい』

 

『…………よろしいのですか?』

 

『当たり前よ。 知識で導きだした私の考えが、経験を積んだ本職の者より上回っていたら、意味など無いわ………そうでしょう?』 

 

『は、はい! その通りです!』

 

『寧ろ、本職の者だからこそ、何かしら見つけることが出来た。 かの者には賛辞を贈ればこそ妥当であり、捨て置き状況が不利にでもなれば、覇王の威厳は地に落ちるでしょう』 

『……………』

 

『稟、心配しなくてもいいわよ。 一緒に居る華佗は当然だけど私達の味方………そして、そこに居る胡乱な者も、ね』

 

 

そう言って視線で示した人物は、船のへりに背を預けつつ腕を組み、何やら考え事をしているかの様に顔を下に向けていた赤き艤装の艦娘………ただ一人。

 

一緒に待っている筈だった華佗の姿は影も形も無く、何処かに消えた状態であった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 艦◯ の件 】

 

 

 

『あら、居ないわね?』

 

『か、華琳様が待たせていたのに……ですか。 あの御仁は全くもって、その姿勢は変わりませんね………』

 

『ムニャムニャムニャ………風も……負けては……いられません…………ぐぅ~~~~』

 

『───寝るなぁっ!!』

 

『風への対応も、確かに変わらないわね』

 

 

以上が、華佗が居ないと理解してから、華琳達が口にした内容である。

 

この内容を聞いて分かると思うが、華佗が居なくなった事を華琳達は心配どころか、疑念さえも抱いていない。

 

 

患者の為に、千里を越え

患者の為に、辛苦を共にし

患者の為に、難敵にも立ち向かう

 

 

それが、神医と呼ばれる──華佗。

 

 

その彼が手持無沙汰となれば、治療途中の患者の様子を見に行ったのだと、直ぐ予測が出来た。 

 

それに、彼の目的も……自分達と同じ志。

 

だから、華琳は勿論、稟や風さえも、華佗に対して心配も疑念も持たず、逆に信頼さえもしている。 

 

 

『あ、あの華琳様………』

 

『言いたい事は理解しているわ。 だけど、心配しなくても大丈夫よ。 あの者は───』

 

『…………もしかして、お兄さんの新しい女ですかー? 相変わらず、種馬の二つ名に恥じない活躍のようですねぇー』

 

『か、かか、一刀殿は……あ、あのような妖艶な女性と……夜な夜な、夜な夜なぁぁぁ──────プハッ!!』

 

『稟ちゃん、とんとんしますねぇ、とんとーん』

 

『この対応も………ね』

 

 

しかし、一人だけ此処に残る、この者は………不明。

 

稟とほぼ同じ背の高さを有し、一見すると少女としか思えない身体構造。 長い黒髪が被る兜より流れ出て腰元まで達し、希に吹き荒ぶ海風に妖しく揺れる。

 

だが、身に纏うは艦娘と呼ばれる将が着ける、艤装と呼ばれし天の国の武装。 長き筒、短き筒が左右対象に突き出し、己の活躍する機会を静かに待ちながら鎮座している。

 

装着する艤装は、数々の見知らぬ美しき衣服と履き物を召し、その艶姿を闇夜へと浮かばせ、男の視線があれば、傾国や美姫と、美女の代名詞を唱えられても不思議ではない。

 

 

だが、しかし───

 

 

何故か、朱一色で、艤装も衣服も全てを染め上げ、この戦場に立った、配属不明の艦娘。 

 

しかも、目立つのが顔に装着される、赤き彩りのベネチアンマスク。

 

余りにも奇抜、余りにも異風、余りにも異彩を放つ、この艦娘なのだが………その成し遂げた功績もまた、規格外だった。

 

 

『詳しくは、まだ言えないけど……かの者は少なくとも、敵ではないわ』

 

『稟ちゃん、大変でぇーす! 華琳様がお兄さんの愛人を認めてしまいましたー! これでは種馬の歯止めがぁー!?』

 

『─────ブハァッッッ!!!』

 

 

 

ある時は、劣勢の艦隊を助け

またある時は、命懸けで単独での殿を務め

そして遂には……轟沈した金剛達の生命さえ救い上げた。

 

 

 

ここまで記して……………あらゆる艦娘を網羅された提督諸兄ならば、容易に存じていよう。

 

 

─────【 お前のような艦娘が居るかッ!! 】と。

 

 

 

『いい加減、稟で遊ぶのは止めなさい!』

 

『すいませぇーん。 余りにも唐突過ぎてぇ、つい~』

 

『フ、フガフガ、フガフガァァァ……』

 

 

結局、華琳の説明?により、この艦娘を仲間として認識させることが出来たのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 予測 の件 】

 

 

『────光源?』

 

『はい、孫呉の兵士が、何度も魚群が往復する様子に疑念を抱き、その方向を確認したところ、その方面上にて何らかの光源を発見したと、報告がありました』

 

 

稟からの進言。

 

それは、【 未知なる光源 】の確認。

 

 

『一刀の話に依れば、この周辺にある軍事拠点は一ヶ所のみ。 しかも、敵により占拠されていると聞いたけど、その光源の元になる所とは、その場所ではないの?』

 

『恐れながら、それでは魚群が向かう理由になりません。 何故なら、秋刀魚とは海中を渡り巡る海の魚。 陸の灯火に反応するほど、浅瀬へ近寄るのは無理があるかと………』

 

『お兄さんの話ではぁ、軍勢を見つけて攻撃するのではなく、人その物も狙いを定めている節があるのですよーぉ。 ならば、建物も残った者も壊滅されている可能性がー』

 

 

 

『では、拠点ではない人の営みがあり、その者達が戦場の音や明かりで警戒して、此方に向かったという状況は?』

 

『華琳様ー、この近辺には島が幾つか有るようなんですがぁ、殆どが人が居ない無人島だそうですよー』

 

『それに、闇夜の大海を灯火を掲げ移動など、逆に標的になるような物に。 別の件に思案した方が建設的かと』

 

 

 

華琳達の話し合いで、幾つかの可能性が挙がり、否定されて消える。

 

一刀達を助ける援軍の可能性?

何かの作戦の一部?

まだ聞かされていない後方支援の地が別にある?

 

勿論、自分達だけの意見では偏りが出る。 だから、治療より戻って来た華佗に頼み一筆書いてもらい、とある艦娘からの艦娘側の情報も聞き出した。

 

 

 

『───ん、君は確か、提督と居た……何っ! 瑞雲の神からの啓示だと!? 何と羨まし………い、いや! 私が知っていることなら何でも話すぞ! 何が聞きたいっ!?』

 

 

 

そして得た結論で、全ての可能性が──潰れた。

 

光源の主が………味方、もしくは中立の者である、という可能性が、だ。

 

 

全体的に知る者としては、当然な話。

 

そもそも、この行為は………レベルの低い艦娘を犠牲にし、三本木達の戦力向上を図る為に行った秘密裏の行動。

 

だから、この行動を知る者も、知らされる者も限られている。 当然、周辺への配慮も完全になされ、当事者達以外、誰も目撃者など居ない。

 

そして、そんな中を一刀が率いる艦隊は逃走するが、更なる敵の襲撃に遭い、既に満身創痍。 それでも………信頼する仲間達の献身的犠牲で、此処まで逃げて来たのだ。

 

 

よって、光源の相手は───【 新手の敵 】と判断。

 

 

 

『────ならば、桂花に一報を』 

 

『はい、それでは何と……伝えましょう?』

 

 

結論が出た華琳の行動は、早かった。

 

 

『ふっ、そうね………今のあの子なら、こう言えば奮起してくれるでしょう』

 

『────確かに。 桂花殿の活躍が期待できますね』

 

 

 

───《 喜びなさい、貴女の活躍が一刀に魅せれるわよ 》

 

 

 

そんなやり取りを聞き、風が独りごちる。

 

 

『おおっー、桂花ちゃんだけでなく、皆が張り切り過ぎちゃて、敵が可哀想に思えてきますねー』

 

『やれやれ、そんな考えなんか微塵も思っていないだろう。 愛しい男があんな目に遭ったんだ。 徹底的に葬り、魚の餌にでもしたいんだろう? ん?』

 

 

そんな風に合いの手を入れるのは、頭の上に乗っかる宝譿。

 

人形の筈なのに目を細めつつ、下に居る主へ見透かしたよう茶々を入れるが、風はニッコリと嗤いながら見返す。

 

 

『いえいえ、風はそんな生易しい考えなんかしませんよー』

 

『そんな訳ないだろ………はぁ?』

 

『お兄さんに敵対し、アレだけの事を仕出かしたのなら、そんな生易しいことをしてどうするのですか。 ちゃんと、肉片一欠片さえ残さず、完全に殲滅して貰わないとー』

 

 

暗き笑顔で宝譿を上目遣いで睨むと、宝譿は一度身震いすると、呆れたように呟く。

 

 

『はっ、恋した乙女は恐いねぇ………うぐっ!?』

 

『あまり乙女の秘密を暴くのは、宝譿と言えど容赦などしませんよ。 取り敢えず、飴ちゃんでも舐めていて下さいー』

 

 

宝譿が風を茶化す言葉は……最後まで言えなかった。

 

何故ならば、暗き目をした風の神速の早業で、宝譿の口一杯に飴玉を捩じ込み、言動を封じていたのだから。

 

 

 

【 撃沈 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊 前方 にて 〗

 

 

大海に似合わない華やかな色彩、耳に不快感を起こさせる轟音の戦場で、一刀の耳に柔らかな声色を届かせた。

 

 

『────て、提督』

 

『………ん?』

 

 

誰か自分に報告か指示を仰ぎにきたかと思い、急いで振り返れば、一刀の視線より少し下で、目に涙を浮かばせ、身体をブルブルと震えながらも、心配そうに見つめる艦娘が一人。

 

 

『うっ、うう、ううぅぅぅ…………』

 

『───ちょ、ちょっと、待てぇー!!』

 

 

慌ててペタペタと自分の顔を触ると、今まで戦場の推移を一目たりとも見逃さないと言わんはがりに、集中して睨んでいたので、些か目元が険しいままで固まっていた。

 

一刀は慌てて、軽く二度だけ目元を揉み、険しい目付きを緩和するように努力をし、ようやく彼女から泣き顔が消える。

 

 

「───ほらっ! 大丈夫だ! あの医者が診てくれたお陰で、この通りだよ!」

 

「………よ、良かったです。 でも、無理は……なされないで下さい……ね?」

 

「は、はははは…………」

 

 

今の戦場に沿わない内容を話掛けてきたのは、天竜達と共に行動し付き従った【 綾波型 10番艦 駆逐艦 潮 】である。

 

そんな安心して笑っていた顔から、急に影が差したと思えば、潮の顔が下に向いていく。 そして、その口からは、悔恨の言葉が小さな声で流れ、一刀の耳へと届く。

 

 

『これで………良かったんでしょうか?』

 

『何が……だい?』

 

『練度の少ない……ダブりの私達は……提督や長門さん達に救われ、こうして……皆さんの足枷となっています。 もし、私達に……私に力があれば……もっと、お役に立てる筈なのに』

 

 

本当ならば、三本木の率いる艦娘達のレベリングとして、その身を破壊され、大海の深淵へと沈む筈であったのだ。

 

だが、一刀達の好意で……今の場所に居る。 

 

ただ、護られるだけの存在。

 

 

『提督は……私達の扱いを反対した為に……負わなくていい怪我を……されました。 長門さん達だって……自分達を犠牲にして……』

 

『───いや、それは違うぞ』

 

『………て、提と………ひゃっ!?』

 

 

一刀の声に反応して、思わず顔を上げれば……笑顔で潮を見つめているので、思わず顔を仰け反り、奇声が出た。

 

 

『す、すまん!』

 

『て、提督は悪くありません! わ、わわ、私が………』

 

『お、おい! 潮こそ大丈夫かっ!?』

 

 

急いで謝る一刀へ謝罪するが、よく考えれば、今まで笑顔で真っ正面から提督に見つめられる事など初めてのこと。 しかも、提督より謝罪の言葉を掛けられたのも初だ。

 

初めてずくめで頭が沸騰しなほど熱く、未だに顔が熱を持ったままのが分かる。 前の鎮守府では逆の扱いを何度も受けたが、まさかまさかの展開ばかり。

 

出来れば早く立ち去りたいと願うばかりだが、一刀の話は今だに続いているので、勝手に去ることも出来ない。

 

そう考えていたら、唐突にある言葉を一刀より掛けられた。 

 

『潮、君が……俺には必要だからだ! 無事に戻れた時は、俺の鎮守府へ来てくれ!!』

 

『───────!?!?』

 

 

まるで、男らしく求婚する言葉が、まさか命を助けてくれた提督から、こんな至近距離より放たれるとは、夢にも思わなかった。

 

だからこそ、その言葉は甘い毒牙の如く、潮の身体へ巡り回り、ふっと意識が遠のく。

 

だが、お約束だが、一刀の話には続きがある。

 

 

『実に恥ずかしい話だが、うちの鎮守府は人材不足なんだよ。 だから来てもらえば嬉し───おい! 潮! どうしたっ!?』

 

『………………………』

 

 

遠のく意識の中で、潮は一緒懸命に口にしよう言葉があったが、結局自由に動かせないまま、卒倒してしまった。

 

 

その言葉は───

 

『不束者ですが、此方こそ宜しくお願いします』

 

──と。

 

 

 

 

 

 


 
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