No.1035085

黒鉄の野牛

vivitaさん

主への信仰から、信徒は主の教えを破る。

大破したコケコ卿とミルコレオ。
切り札をうしなった2機のために、ルシアとトロスは新たなアセンを話し合う。

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2020-07-10 12:43:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:638   閲覧ユーザー数:638

 大量の兵器がならぶ格納庫を、2人のガバナーが歩いている。

漆黒のドレスをまとった武器商人ノーチェと、イグナイトをまとうVFの楽師オルフェ。

 

「竜撃戦によって、主力となった第三世代ヘキサギアの数は激減しました。

この機会に、過去の遺物を運用してはいかがですか?」

 

 ノーチェが蠱惑的な声で、ならぶ兵器について語った。

 第一・第二世代ヘキサギアとともに運用された数々の武具。第三世代ヘキサギアが主力となるなか、ガバナーの役割が変化したことによって捨てられたもの。高出力であることを重視して作られた数々の装備には、ヘキサギアを破壊するだけの威力がある。

 しかし、オルフェは興味をしめさなさい。横目で確認だけして、すぐに先に行ってしまう。

 

「つれないですね、楽師様。すべて見せろと求めてくださったのは、あなたがたのほうなのに。」

 

「絡みつくな、魔女。商談がただの建前であることはわかっているはず。

我が主からうけた命は、貴様らの戦力を確認すること…それだけだ。」

 

「つまらない。命じられた以上のことをしようとは思わないの?

うまく商談をまとめあげれば、大好きなSANAT様が喜んでくれるかもしれないのに。

あなたにならば、捨て値でさしあげますよ?」

 

「無駄な誘惑だ。貴様からは何も買うなと命じられている。」

 

 オルフェは、迷うそぶりなく甘言を切って捨てた。

 困ったようなため息をつきながら、心の中でノーチェが笑う。敬虔な者ほど、堕ちる姿はうつくしい。

 ノーチェが端末を操作する。床がひらいて、地下へとつづく階段があらわれた。

 

「…隠し部屋があるとは、聞いていないが?」

 

「そうですか?記載漏れですね。」

 

 ノーチェが階段をおりていく。ためらいながら、オルフェがついていく。

 地下室には、巨大な残骸が置かれていた。摩耗した一部だけだったが、オルフェにはそれがなにかわかった。赤い鎧、蝙蝠のような両翼、長い首の先にある多重の牙。

 オルフェは兜をとり、涙をながしながらそれを崇めた。

 

「ぉ…おお…おお…!!この、神々しい姿は…!!」

 

「竜撃戦のあと、赤竜はLAが回収した。これはその一部をちょっとした詐術で手にいれたもの。

SANATの、VFの、そしてあなたの手元にあるべき機体だと思うけれど?」

 

 わざとらしく、蠱惑的に。とりつくろうのをやめて、ノーチェが本性をあらわに語る。

あきらかな罠だと、相手にわかるように。罠とわかっているから出し抜けると、相手が思いこめるように。

 

「なにが望みだ…?」

 

 オルフェは敬愛する主のために、主との約束をやぶった。

 ノーチェは笑いだしそうになるのをこらえて、交換条件を語る。

 

「だいじょうぶ、簡単なことよ。首1つ落としてくるだけだもの。」

 

***

 

 LA基地では、大破したコケコ卿とミルコレオの修理が行われていた。プラズマキャノンは中枢まで達しており、メインフレームをほぼ入れ替えることとなった。

 レイブレードインパルスのパーツは希少で替えがなく、ロードインパルスの骨格によって代用された。ロードインパルスの骨格や人工筋肉は優秀で、2機はこれまで以上の立体機動能力を手に入れることができたが・・・代償としてレイブレードと共振励起をうしなった。

 切り札をうしなった2機は戦略の見直しを求められた。

 

「やはり剣だな。騎士には絶対に必要だ。」

 

「槍はどうだ?前々から思っていたが、特攻癖のあるおまえにはこちらのほうがピッタリだぞ。」

 

「ふむ。悪くはないが・・・コケコ卿の軽さだと衝撃に耐えきれるか。逆にふきとぶかもしれん。」

 

「となると、レーザーブレードか。代わり映えしないな・・・。」

 

 コケコ卿にはブースターとレーザーブレードの複合兵装であるエグゼニスウイングが、ミルコレオにはバイティングシザースが装甲のように増設された。コケコ卿は追加ブースター、ミルコレオは装甲によってうしなった共振励起を補う形だ。

 トロスが端末を操作し、パーツの手配をすませた。

 

「ブースターは高価で需要も高い。まわってくるまでだいぶ時間がかかる。

しばらくはお休みだな、ルシア。」

 

「しかたあるまい。あの状況ですべてを失わなかっただけ幸運だった。」

 

「たしかにな。それで・・・どうする?」

 

 トロスがちらりと物陰をみる。ルシアたちを隠れて見ていた少年―リトルがあわてて顔をひっこめた。

 

「懸想されているようだぞ。まぁ、いまのおまえは客観的に見て美女だからな。それに助けられたとあっては多少気になるのはしかたあるまい。」

 

「そうなのか?だれかを思い慕う心というのものは、よくわからないな…。」

 

 トロスの言葉をうけて、ルシアが困惑したように自分をみやった。

 ルシアの身体は、不自然なほどに均衡がとれている。病的なまでに白い肌も、黄金の髪に彩られると美しい。青い目はすんでいて、見ているだけで吸いこまれそうだ。

 

「おまえの騎士道とおなじようなものだ。万人が納得するような理屈はない。」

 

「気にするものにとっては、騎士道ほど大切なものということか。」

 

 そんなに大切なものでないから、気にしなくていい。トロスはそう言ったつもりだったが、ルシアは逆の意味でうけとったようだった。

 ルシアがリトルのほうへと、つかつかと歩いていく。

 面倒なことになるかもしれない・・・トロスは心の中でため息をついた。

 

***

 

 LA輸送部隊は、山岳を進んでいた。

 制圧した野盗の基地から、ヘキサグラムを本部へ運んでいたのである。

 輸送隊の中心となっているのは、スケアクロウたちだ。作業腕フレキシブルアームやチェーンソーをつかい、荒れ果てた野に道をひらいていく。満杯になったヘキサグラムストレージが幸せそうに揺れる。

 スケアクロウたちのおかげで、旅は快適そのものだ。

 随行する歩兵たちの雰囲気も明るい。なかには、山岳からの景色を楽しむものもいる。

 

「おいおい、これはゆるみすぎじゃないか?」

 

『問題ありません。先行偵察しているモーター・パニッシャーも安全だと言っています。』

 

 護衛であるロード・インパルスのガバナーが笑う。言葉こそ咎めるものだが、手に酒をもっていた。彼の相棒であるKARUMAが、落ち着いた声で分析をくだす。

 

「みんな育てば人っぽくなるもんだが、おまえはずっと堅物だな、ロボ。」

 

『KARUMAは主人を補うように育ちます。この思考パターンはあなたのせいですよ、ブランカ。』

 

「おお?もしかして責められてる?それとも事実を言ってるだけか?」

 

『両方です。』

 

 ロボのセンサーが異変をかぎとった。すぐにブランカが手をあげて、部隊の歩みを止める。

 岩陰から、焦げついたなにかが見えている。

 ぬき足さし足でしのびより、ロボがそれを確かめた。

 

 それは先行しているはずの、モーターパニッシャーの残骸だった。

 

「ッ撃てぇぇーー!!!」

 

 怒号とともに、ミサイルの射出音がいくつも響きわたる。

 スケアクロウたちが四方八方へと逃げ惑うが、ミサイルは驚異的な追尾力で彼らにぶつかっていった。

 爆発音と悲鳴。スケアクロウの残骸が炎とともにふきとんでいく。

 

「ロボ、スケアクロウを守れ!」

 

『ガバナー、離脱を推奨します。この武装がこれだけの数となると、相手はおそらく・・・。

もはや勝ち目はありません!』

 

「うるせえ!俺たちは護衛なんだ、死んでもあいつらを逃がす!」

 

 ロボは地面を蹴って、スケアクロウたちのもとへ駆けもどった。

 ロボのチェーンガンとブランカのマシンガン。2つの銃口が、スケアクロウを襲うミサイルを撃墜する。

 

「スケアクロウ隊!一列になって離脱しろ!

相手は牛だ、突撃を意識しろ!横に避けて囲いこめ!脚をぶったぎって殺せ!

安心しろ、敵は弾切れだ。もうミサイルはこない!」

 

 ブランカの号令によって、ちらばっていた輸送部隊が列をなした。

 

 漆黒の巨躯が駆ける。デモリッション・ブルート。野牛を模した重戦闘用ヘキサギア。

 鉄塊のような四肢で斜面を踏み荒らし、群れをなしてスケアクロウ部隊へと突撃する。

 

 逃げのびようとするスケアクロウとは逆に、ロボとブランカはブルートたちへとせまった。

 チェーンガンで掃射するが、重装甲におおわれたブルートの巨躯はそれを意に介さない。傷を負いながらも、獲物にむかって突撃しつづける。

 

「全射撃武器をパージ!刀を抜け、ロボ!」

 

 2人は、ロボの胴におさまっていた大剣を引き抜いた。

 サムライマスターソード、高出力のレーザーと鋭い刀身をあわせもつ名刀。

 生まれ持った腕とアーマーから延びるサブアーム、2つの腕でブランカが刀をふるう。ブルートたちの間をすりぬけ、関節を斬って足をくじく。

 ブルートはバランスを崩して転がった。乗っていたガバナーが下敷きになる。

 

「いける!これなら・・・!」

 

 しかし、ロボとブランカの快進撃はそこまでだった。

 美しい賛美歌とともに、刃と化した空気がロボへと突き刺さる。衝撃をうけたロボはブルートへとぶつかり、群れの外へと弾き飛ばされた。

 

 音のもとは、赤いスズムシのようなヘキサギア…アンプァーだった。ライブアックスをもったガバナー・・・オルフェが2機をにらんでいる。ライブアックスによって発せられた音がアンプァーによって増幅されロボのもとへと飛んできたのだった。

 

(そうか、こいつがモーターパニッシャーをやったガバナー!

電子戦用の機体、そのせいでここまで襲撃に気づけなかった…!不意討ちを許しちまった…!)

 

 視界をおおいつくす、鋼鉄の野牛。せまってくるそれは、恐怖のせいか山よりも大きく見えた。

 スケアクロウのガバナーが、ふるえる手で操縦棍を握りしめる。まだ、まだ早い。

 野牛が目前へとせまったところで、操縦棍を横に切った。スケアクロウが横へとたおれこみ、さきほどまでいた場所をブルートがぬけていく。

 しかし、それでもなお、かわすのが早すぎた。恐怖にふるえたガバナーが見ていた以上に、ブルートは遠くにいた。

 ブルートは軌道を修正し、スケアクロウへとぶつかった。大角がストレージをつらぬき、破壊する。

 

「ぉ、おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 チェーンソーが吼える。身体へと突き刺さったそれがブルートの動きをにぶらせた。

 いたるところで、おなじようなことが起きた。

 突撃をかわしたスケアクロウが、デモリッションブルートへと次々とむらがっていく。

 

「…不意討ちをうけて、なお先陣を崩さない。忌まわしいが、見事な用兵だった。」

 

 アンプァーがロードインパルスをつらぬき、中からKARUMAをひきぬいた。

 オルフェは、ブランカとロボの2つをかかえて戦場から離脱した。


 
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