No.1034352

山岳基地人質救出作戦

vivitaさん

LAの1部隊が突如離反。街の住人をさらって山岳基地へと閉じ籠った。
事態に対処すべく、LA上層部は騎士ルシアと研究者トロスに出撃を命じる。
第三世代ヘキサギア部隊による、山岳基地の攻略が始まった。


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2020-07-02 13:11:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:565   閲覧ユーザー数:565

LA部隊は、枯れた山岳地帯を進んでいた。

そこにかつてあったであろう自然は、汚染によって消えている。

兵士はだれもが無機質な鎧―アーマータイプを身にまとい、香る瘴気から身を守っていた。

その傍らには、機械の獣たち―第三世代ヘキサギアが歩いている。

 

「見えてきたな。」

 

騎士ルシアがつぶやいた。

眼下にひろがるのは、野盗たちの集落。

放棄された基地をもとに作られ、各所にセントリーガンが配備されている。

見えているものは、威嚇のためわざと晒してあるのだろう。実際はもっとあるはずだ。

 

「対空火器が充実している。空から攻めるのは無理だな。

野盗とは思えない、すばらしい設備だ。おお、開発されたばかりの新型まであるじゃないか。」

 

トロスが技術屋らしい見識を見せた。

みなの顔が曇る。

先日、LAの1部隊が突如反逆し、LA基地を襲撃。近くの集落から住人をさらっていった。

ルシアたちは、住民の救出―そして裏切り者を始末する命をうけ、ここにきた。

しかし、思いのほか任務は困難なものになりそうだった。

 

「このぶんだと、報告にあったボルトレックス2機以外も揃えているかもしれんな。

彼らは寄る辺のない野盗ではない。強力な支援者がいる。」

 

「元はLAの正規兵。ただの野盗と思わないほうがいいか…。」

 

「攻略するだけでも難しいだろう。もはや人質は諦めるべきだな。

射程外からの砲撃で、廃墟ごと焼き払おう。」

 

「いや、人質の救出はせねばなるまい。それが騎士のつとめというものだ。

…それに、裏切り者ごと住民を焼いたとあっては、LAから人心がはなれる。」

 

ルシアの言葉をきき、トロスが考えこむ。

トロスにとって人心などどうでもいいが、彼が所属するLAはそうではない。

人類支配をもくろむ悪のSANATに対抗する正義の組織・・・そういう建前を大切にしている。

事が露見すれば、研究者としての地位をとりあげられるかもしれない。

 

「科学の発達には犠牲がつきもの。それを理解する者が少なすぎるな…。

まあいい。ならば陽動作戦しかあるまい。敵と人質を切り離す。

全員、ヘキサギアを換装しろ。」

 

輸送用の顎無しモーターパニッシャーから武装が降ろされる。

ロードインパルス3機がスナイパーキャノンを装備した。

ルシアの<コケコ卿>とトロスの<ミルコレオ>には電子戦装備が搭載された。

輸送用モーターパニッシャーは、連絡のためLAへと帰っていく。

 

「ロードインパルス部隊がここから狙撃を行う。

当て所はよく考えろ、人質をまきこむ可能性がある。

建物からはなれたヘキサギアや、僻地のセントリーガンだけねらえ。

 

敵勢力が応戦してきたら私とルシアで潜入。人質を救出し、基地を焼く。」

 

作戦が始まった。

ロードインパルス3機が、崖上から基地へとスナイパーキャノンを見舞う。

銃弾は、建物をかすめるようにとんでいった。

数機のセントリーガンが沈黙するが、見えているものすべてではない。

射程がひらきすぎてギリギリ当てきれない、そう思われるようによそおう。

 

基地から、モーターパニッシャー3機が飛びだしてきた。

ボルトレックスも3機いる。やはり、報告以上のヘキサギアがいるようだった。

ボルトレックスは、モーターパニッシャーの多脚にがっしり固定されていた。

エアフローターによって、一気に崖上へと昇ってくる。

 

スナイパーキャノンがモーターパニッシャー1機をつらぬく。

つるさがっていたボルトレックスといっしょに、崖下へと墜落していく。

ふらふらと小回りをきかせるモーターパニッシャーに当てることは、難しい。

撃墜できたのは1機だけだった。

切り離されたボルトレックス2機が崖上へと降り立つ。

 

『GAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

2機の白竜が吼える。呼応するように、獅子たちも咆哮した。

ロードインパルスのガバナーが、あわててスナイパーキャノンを切り落とした。

獣性を解放した機械たちが、しなやかな動きで跳ね、絡み、互いの武器をぶつけ合う。

 

一方、ルシアとトロスは基地内部へと潜入していた。

幸い、ここは元LAの基地。トロスの手元には地図データが残っている。

それらしい場所に当たりをつけることは簡単だった。

 

人質たちは、屋内訓練用の大部屋へと集められていた。

警備はふたり。ルシアがスタニングレイピアをふるい、気絶させた。

しかし、助けられたというのに、人質たちはルシアへと怯えた視線をむける。

 

「我々はLAの騎士だ。さらわれた貴公らを助けにきた。

どうか安心してほしい。」

 

ルシアの説明をうけても、人質たちは怯えている。

困惑するルシアをよそに、トロスはなにか納得したようだった。

 

「ふうむ、なるほどな。こいつらは反逆者だぞ、ルシア。

さらわれたのではなく、自分から望んでここにきたのだ。」

 

「なに…?」

 

「しかし妙だな。おまえたちD-16の住人は比較的優遇されていた。

わざわざ離反する必要はないと思うが…?」

 

トロスが人質たちに問いかける。

彼らは怯えて答えなかったが、代わりに蠱惑的な声が響いた。

 

「それはもう、LAの非道な人体実験から逃げるためでしょう。」

 

漆黒のドレスをまとった魔女、武器商人ノーチェだった。

ルシアは、反射的にノーチェへと剣をかまえた。怒気にふるえながら、ノーチェをにらむ。

 

「また貴様の仕業か、ノーチェ…!なぜそこまで人を弄べる?」

 

すぐにでも飛び掛からんとするルシアを、トロスが止めた。

怯えた人質たちを指し示す。ルシアは、恥じるように剣をおさめた。

 

「非道とは誤解だな。たしかにLAは人体実験を行っているが、それは希望した兵士にだけだ。

くわえて、兵士たちには特別手当を支払っている。仮に四肢が動かなくなっても困らないほどな。」

 

トロスの言葉は真実だった。LAは、人材を使い捨てるほど馬鹿ではない。

再生可能なパラポーンを有するVFを相手に、そんなことはしていられないのだった。

しかし、ノーチェは鈴を転がすような声で笑う。

 

「確かにそのとおり。でも仮に、もし悪―SANATを討てるのであれば、話は別。

正義のためならば、LAは非道を犯せる。

D-16の住人は、極めて稀有な特異体質。いくら強化のために薬漬けにしても、壊れない。」

 

「なるほど、そういう虚言で上層部を動かしたわけか。

上層部の一部を非道な実験にはしらせ、その情報を兵士たちにリークにする。

一銭の得にもならないというのに、よくやるものだ。仲間割れを見るのがそんなに楽しいのか?」

 

「ええ。騎士様の戦友が殺し合うのですもの、どんな菓子よりも甘美ね。」

 

人質たちが困惑した表情になる。目の前で語られた真実が、飲み込めないようだった。

人質たちにとってノーチェは、兵士たちとともに自分を救ってくれた存在。

それがいま、こうもあっさりと自分たちを騙し、傷つけたのだと告白している。

 

大顎で建物をつきやぶって、巨大な機械虫<サンダービートル>があらわれた。

背につけられたプラズマキャノンが、深緑に輝く。銃口の先には、住民たち。

 

ルシアがすぐさま駆けた。スタニングレイピアを投げ放つ。

サンダービートルの背に、レイピアが突き刺さった。流れる電流が、機能を一時的に麻痺させる。

 

「全員、私についてこい。ここから脱出するぞ!」

 

トロスが号令をかける。人質たちが懸命に建物の外へと走っていく。

追おうとするサンダービートルに、駆けつけたコケコ卿とミルコレオがとびかかる。

 

鶏の騎士と虫混じりの獅子が、巨大な機械虫を叩き、うち崩していく。

コケコ卿は尻尾の物理ブレードで、ミルコレオは鬣の大角で。

2機の動きはすばやく、巨躯を誇るサンダービートルはうまく対応してきれていない。

 

『おいトロス!こいつデカいくせに弱ェぞ!このままレイブレードで終わるぜ!』

 

「ミルコレオ。そんな一瞬で終わらせていいのか?いたぶってお前の強さを示してやれ。」

 

『たしかにそれもいいな!オラァ、いくぜェ!』

 

聖剣レイブレードは使用できない。汚染レベルを上昇させれば、住民たちに被害がでてしまう。

火器を使おうにも、下手に弾をだせば人質に当たりかねない。

サンダービートルの重装甲は堅牢で、なかなか突破できない。

必殺の武器がつかえないなか、軽装甲の2機は少しずつ追い詰められていった。

 

一方、ルシアとノーチェは斬り合っていた。

剣技で勝るルシアを、ノーチェが仕込んだ罠の数々で翻弄する。

VICに侵され、ルシアのアーマータイプは半ば機能を停止していた。

 

(サンダービートルの重火器を使わせるわけにはいかない。

スタニングレイピアで麻痺している間に終わらせねば…!)

 

ルシアがノーチェへと剣をなげつけた。

予備の2本目を失い、徒手空拳。

踊るように剣を避けたノーチェへと、愚直に突進していく。

 

ノーチェの顔が愉悦に歪む。碑晶質の短剣がアーマーを貫通し、ルシアの肉を穿った。

 

「焦ったわね、騎士様。今回はこれでお終い?」

 

短剣を胸に刺したまま、ルシアがノーチェの腕をつかむ。

 

「終わりだ。貴公の悪行は、ここで終わる!」

 

ルシアのアーマーから、カチカチと耳障りなタイマーの音がする。

それに気づいたノーチェが必死にルシアからはなれようとするが、かなわない。

アーマーが爆発し、ルシアとノーチェは炎へと飲みこまれた。

 

宙に浮くモーターパニッシャーを、ロードインパルスが蹴る。

突然の方向転換に対応しきれず、ボルトレックスが切り裂かれた。

つづけざまにチェーンガンが掃射され、モーター・パニッシャーが沈黙する。

 

崖上の戦場に残ったのは、ロードインパルス2機。

五分五分といった戦力比だったが、なんとか勝利をおさめることができた。

ガバナーたちは、生き残ったことを実感するようにため息をついた。

 

眼下の基地が爆発する。

人質たちを引き連れて、トロスとミルコレオがやってきた。

コケコ卿が、焼け焦げたルシアを乗せている。なんとか生きているようだった。

 

「諸君、ご苦労だった。敵勢力は全滅、人質も無事だ。見事な戦果だな。」

「貴公らが…生き残って…よかった。」

「喋るな、傷にさわるぞ。」

 

部隊はLAへと戻っていった。

 

「熱い抱擁だったわね、文字通り、半身が溶けるような。」

 

『腕を掴まれただけです。義体の損傷は80%、半身どころではありませんね。』

 

コックピットへと乗ったノーチェの身体は、右上半身しか残っていない。

トドメを刺されれば終わり。絶体絶命の状況。

仮死状態となり、死んだと見せかけることでなんとか逃れたのだった。

 

「ただ事実を語るだけなんて。あなたは本当につまらないわね、ビートル。」

 

『真の戦いに、詐術は必要ありませんので。あなたがやっているのはお遊びです。』

 

「お遊びでいいじゃない?人生、幸せに生きていかないとね。

それに、嘘ばかりじゃない。D-16のうちひとりは、本物だもの。」

 

ノーチェが虚空へと手をのばす。愛しい人を想って、あまくささやく。

 

「くすぶる火種にあなたがどう焼かれるのか。楽しみね、ルシア。」


 
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